今期はコスト増に苦慮する声が製造業を中心に目立つ。来期は人手不足のなかで政府の「年収の壁」対策に期待する業種も

ビジネス・レーバー・モニター定例調査

JILPTが四半期ごとに実施している「ビジネス・レーバー・モニター調査」によると、2023年第3四半期(7~9月期)の業況実績は前期から悪化し、「雨」「本曇り」の割合が増加した。各モニターから寄せられた判断理由をみると、製造業を中心に原材料費・人件費・エネルギーコストの増加に苦慮する声が目立った。猛暑の小売業への影響は、業種によって明暗が分かれた格好。請負が社会保険料の会社負担分の増加を、水産が中国の輸入制限を業績悪化の要因にするなど、国内外の政策も業況判断の理由にあがっている。次期(2023年10~12月期)は、「晴れ」「うす曇り」の割合が上昇するなど今期よりも好転する見通し。売上増と価格改定で好調を維持する業種や、人手不足のなかで政府の「年収の壁」パッケージへの期待感や人件費の価格転嫁に悩む声が聞かれた。

調査の趣旨

JILPTでは、企業および業界団体のモニターに対し、四半期ごとに業況の実績と次期の見通しを「快晴」「晴れ」「うす曇り」「本曇り」「雨」の5段階で聞き、企業モニターの回答の平均と業界団体の回答をさらに平均する(端数は四捨五入)ことで各業種の最終的な判断を算出している。そのため、個々の企業、業界団体の業況評価と必ずしも一致しない。

今回は2023年第3四半期(7~9月期)の業況実績と2023年第4四半期(10~12月期)の業況見通しについて調査した。回答は企業と業界団体の計54組織、44業種から得た。

各企業・団体モニターの現在の業況

「雨」「本曇り」の回答が増加

第3四半期の業況は、回答があった44業種中、「快晴」がゼロ、「晴れ」が9(業種全体に占める割合は20.5%)、「うす曇り」が19(同43.2%)、「本曇り」が13(同29.5%)、「雨」が3(同6.8%)()。前回調査の2023年第2四半期と比較すると、「本曇り」が約7ポイント増加し、「雨」も約2ポイント増加するなど、全体的に悪化している。「快晴」の業種がゼロとなるのは2年ぶり。

製造業・非製造業別の傾向をみると、「晴れ」は製造業が3業種で非製造業が6業種、「うす曇り」は製造業が10業種で非製造業は9業種となっている。これに対し「本曇り」と「雨」の合計は製造業が6業種、非製造業が10業種となっている。

表:前期及び今期の業況実績と業況見通しの概要
画像:表
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図:調査開始以来の業況調査結果の推移
画像:図
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現在の業況の判断理由

コンビニは猛暑が売り上げに寄与

今回、「晴れ」と評価した業界は【食品】【紙パルプ】【自動車】【情報サービス】【鉄道】【商社】【百貨店】【コンビニ】【警備】の9業種。

【コンビニ】は今夏の猛暑がプラスに寄与した。麺類、ドリンク、アイスクリームの売れ行きが好調だったほか、行楽需要でおにぎりや揚げ物などの売れ行きも伸びた結果、売上高は全店・既存店ともに前年同期を上回った。

【百貨店】はインバウンドだけでなくアフターコロナの国内需要の喚起・取り込みにも成功し、上期累計の営業利益は前年比プラス125.7%、経常利益は同プラス140.1%となり、いずれも過去最高を更新した。

【鉄道】では企業モニターが、新型コロナの5類移行等により各事業の利用者数が回復したことに加え、鉄道の運賃改定やインバウンド需要の取り込みにより、交通事業やホテル・リゾート事業を中心に好調に推移したことから「快晴」と判断。他方、業界団体モニターは、インバウンド需要の回復や運賃引き上げなどの効果があり、運輸収入は大手の鉄道会社を中心にコロナ前の9割ほどに回復しているものの、物価上昇などの影響を理由に「うす曇り」とした。

食品は全規模で改善続く

【食品】の業界団体モニターは、8月のチェーンストアの食料品販売総額、百貨店の食料品販売総額、コンビニエンスストアの食料品販売金額(いずれも既存店ベース)が前年比プラスであることから、「売り上げの伸びは継続している」とみて「晴れ」とした。「日銀短観」(9月調査)での食品製造業の景況判断DIも、大企業が16(前回調査比プラス1)、中堅企業が6(同プラス7)、中小企業が3(同プラス1)と、すべての規模で改善が続いている。企業モニターも、乳製品で原材料高の影響を一部受けたものの、「引き続き乳製品の高付加価値型商品が売上拡大に貢献した」ことで売上総利益は前年同期を上回り、「晴れ」と判断した。

ほかには、【自動車】が「仕入先、製造現場、物流、販売店の皆様の地道な改善活動の積み上げにより、収益構造は着実に改善した」ことや、商品力に応じた価格設定による販売により前年同期比で増益となったことを報告。【紙パルプ】は原燃料価格高騰によるコストアップが抑えられつつあるほか、昨年来の製品価格修正が業績向上に寄与しているとする。

また、【商社】は、資源・エネルギー・金属セグメントで市況が落ち着いたことを主な要因にあげたうえで、7~9月期を含む2023年度の連結中間決算で総合商社7社のうち6社が前年同期比で減益となったものの、それ以外の非資源を中心としたセグメントが堅調に推移していることを指摘する。

製造業は原材料費や人件費、エネルギーコストの高騰がマイナス要因に

「うす曇り」と判断した19業種については、製造業では原材料費等の高騰を判断理由にあげる業種が目立った。非製造業は今夏の猛暑による売り上げの伸び悩みをあげる業種がみられた。

【電機】の業界団体モニターは、重電機器について、「一般産業向け汎用機器は、電子部品や半導体などの設備投資減少の影響が現れはじめ、輸出、国内出荷ともに下回った」としたほか、「受注生産品は、電力・産業向け電気設備の変圧器、開閉制御装置等は前年同期を上回ったが、発電用原動機のボイラー、蒸気タービン、ガスタービンが前年同期を大幅に下回った」としている。また、白物家電機器は、「コロナ禍以降高止まりが続く原材料価格により製品価格が上昇し、出荷金額を押し上げた」ものの、「物価高による消費者の節約志向が大型家電を中心とした耐久消費財にも影響」したほか、「外出機会の増加により、耐久消費財から旅行や外食などのサービス消費へのシフトがあり、前年同期を下回った」とする。こうしたことから、全体では「うす曇り」とした。

企業モニターは、A社がシステム事業での大口案件の進展等から前年比で増収増益となり「晴れ」と判断。B社も売上増を理由に「晴れ」とした。C社は価格改定や自動車・航空機の市場回復がプラス要因となったものの、原料費や人件費の高騰がマイナス要因となったことから「うす曇り」とした。

【パン・菓子】の業界団体モニターは、小麦粉・卵・油脂・包材等の原材料価格やエネルギーコストの高止まり、物流費の上昇で、厳しい経営環境が続いていると報告。ただしコンビニやフレッシュベーカリー部門では、人流やインバウンド需要の回復にともない、サンドイッチ、焼き立てパンなどの需要が徐々に持ち直してきていることから「うす曇り」とした。企業モニターも、売上は回復基調だが、原材料費や水道光熱費の上昇が収益を圧迫しているとして「うす曇り」としている。

【繊維】は、価格転嫁を実施しているがコスト上昇に追いついていないことを報告した。

自動車販売は約3年ぶりに「うす曇り」に転落

コロナ禍での半導体不足を背景とした新車の供給不足のなかで、中古車販売の好調が続いていた【自動車販売】の企業モニターは、2020年7~9期以降、「快晴」または「晴れ」と判断してきた。だが、今回調査では当期は整備事業が計画通りに推移したものの、新車・中古車販売台数が計画の80%弱に落ち込み、売上高・経常利益ともに計画を下回ったことから、13四半期ぶりに「うす曇り」とした。

ホームセンターは猛暑の影響で屋外関連用品や秋冬物が不調

【ホームセンター】の月別の動きをみると、7月は全国的に夏物用品を中心に好調となったが、マスク、雨具、高価格帯商品などが伸び悩んだ。8月は猛暑の影響で屋外関連用品が不調。9月は暑さに加えて物価上昇等の影響もあり、屋外関連商品、秋冬物商品、高価格帯商品を中心に不調となった。

【ホテル】は宿泊・宴会ともに予算比110%超えとなったが、レストランは予算比100%を下回り、レストランの客足が戻り切っていない状況。【職業紹介】では、求人需要全体はコロナ前を大きく上回っているものの、「概して求人者の採用選考姿勢は慎重である」ことに加え、「求職者確保の難度が高まっている」という。

求人情報の業界団体の【その他】は、求人広告件数はコロナ明けの回復基調から鈍化がみられるとしている。

このほかに「うす曇り」と判断した業種は、【建設】【石油精製】【硝子】【石膏】【非鉄金属】【金属製品】【工作機械】【金型】【電力】【港湾運輸】【外食】だった。

ゴムの中小や道路貨物は価格転嫁の難しさに悩む

「本曇り」と判断した13業種は【化繊】【木材】【印刷】【ゴム】【造船・重機】【道路貨物】【水産】【ガソリンスタンド】【事業所給食】【葬祭】【シルバー産業】【請負】【中小企業団体】。

判断理由についてみていくと、【ゴム】の業界団体モニターは、今期の自動車の生産・輸出・販売がプラスで推移したほか、一部製品で価格改定が進んでいるとした。しかし中小企業に目を向けると、モニターが中小企業会員に実施した景況調査では、当期の業況判断は若干プラスではあるものの前期から大幅に低下している。項目別では、売上が大幅に低下し資金繰りが前期に続いてマイナス。中小企業からの具体的な声でも、円安や人件費高騰分の価格転嫁が困難であることや、製造現場や高卒社員等の人員確保が厳しくなっているといった意見が聞かれるという。

【道路貨物】では一般貨物の輸送数量は増加傾向にあるものの、高止まりした燃料などの輸送原価を適切に価格転嫁できていない状況。モニターが実施した当期の景況感調査はマイナス33.5で、前期から1.4ポイント悪化した。

【中小企業団体】はモニターが実施した業況調査の結果を報告した。それによると、製造業の前年同期比生産額業況指数はマイナス20で前期比10ポイント低下。採算状況も同6ポイント低下のマイナス32で、「円安による燃料費等の高騰が負担」といった声が多いという。

水産は不漁と中国の輸入制限が影響

【水産】では、天然魚はイワシ以外の漁況が相変わらず悪く、養殖もブリが安定しているが全体を押し上げるほどではない。輸出は中国の輸入制限で北海道のホタテを中心に行き場を失いかけている。

【木材】は木造住宅の新築住宅着工戸数が伸び悩んでいるため、合板の受注が長期に停滞しており、在庫減少の兆しがみられない。

請負は社会保険料の会社負担分増とコロナ特需の減少で減益

【請負】は主力サービスである紹介事業、BPO事業を伸ばせたことで売上高は前年同期比で増収となったものの、社会保険の適用拡大に伴い社会保険料の会社負担分が増加したことや、高粗利のコロナ禍特需が想定以上に減少したことから、営業利益は前年同期比で減益となった。

【シルバー産業】では、外国人の介護人材の受け入れが進んでいるものの、円安が続くなかで他国へ流れたり、入国しても生活環境の整った都市部に向かう傾向があり、地方の人材不足が解消されていないという。

セメントは製造コストの高止まりが続く

「雨」と判断した業界は【セメント】【出版】【専修学校等】の3業種。

【セメント】は当期のセメント国内需要が前年同期比93.6%で、16四半期連続でマイナスとなった。輸出は同82.6%で6四半期連続のマイナス。ロシアによるウクライナ侵攻を契機に輸入石炭の価格が高騰し、製造コストの高止まりが続いている。生産も同91.7%で6四半期連続のマイナスとなった。

【出版】は売上の減少を、【専修学校等】は学生数の停滞を理由にあげている。

次期(2023年10~12月)の業況見通し

次期(2023年10~12月)の業況見通しについては、44業種のうち「快晴」とする業種はゼロ、「晴れ」が11業種(業種全体に占める割合は25.0%)、「うす曇り」が20業種(同45.5%)、「本曇り」が10業種(同22.7%)、「雨」が3業種(同6.8%)となっている。

パン・菓子は人材確保に苦戦も業績は好調をキープ

今回、業況の好転を予想したのは【パン・菓子】【金型】【造船・重機】【ガソリンスタンド】【請負】の5業種。

【パン・菓子】と【金型】は、今期の「うす曇り」から「晴れ」に引き上げた。【パン・菓子】の企業モニターは「人材の採用が厳しく、要員の確保が難しい」ものの、売上増に加えて価格改定が徐々に効果を示しており、業績は好調に推移しているとした。【金型】は、ハードディスクドライブ関連部品の受注数量が若干上向き傾向にあることを理由にあげた。

【造船・重機】【ガソリンスタンド】【請負】は今期の「本曇り」から「うす曇り」に引き上げた。

コンビニは政府の「年収の壁」対策に期待

今期の判断を継続した業種をみると、【コンビニ】(晴れ→晴れ)は人手不足が深刻な状況だが、いわゆる「年収の壁」による就業調整への対策として政府が10月からスタートした「年収の壁・支援強化パッケージ」の活用に期待している。

【外食】(うす曇り→うす曇り)は人件費や物流費などのコスト高騰を十分に価格転嫁できていないほか、コロナ禍での借入金の返済も重荷となっている。

石膏は住宅着工の減少で需要減の見込み

【石膏】(本曇り→本曇り)では、石膏ボードの需要は住宅着工に4カ月程遅れで連動するが、先行指標である新設住宅着工戸数は7~9月期が前年同期比マイナス7.7%だったことから、10~12期の石膏ボード出荷量に悪影響が出る可能性が高いとみている。