【宮城】8割の企業が賃上げやインフレ手当などを実施

地域シンクタンク・モニター定例調査

宮城県の経済動向について、4~6月期実績は全体では持ち直しているものの、テンポが鈍化しているとして【横ばい】となった。7~9月期の見通しも、仙台七夕まつりで消費増がみられたが、その一因は物価高であるとして【横ばい】が続く見込み。雇用については、4~6月期実績は人手不足感にややバラツキがみられることを理由に【横ばい】、7~9月期見通しも求人数が頭打ちとなっていることから【横ばい】としている。モニター実施の調査によると、賃上げや定期昇給、インフレ手当等の一時金支給を実施した企業は約8割にのぼるが、物価の上昇を上回るほどに賃金が上昇した企業は2割にとどまっている。

<経済動向>

GWに旺盛なレジャー需要がみられる一方、百貨店の高額消費は大都市圏に流出

モニターは4~6月期の地域経済について、「全体としては持ち直しの動きとなっているものの、このところテンポが鈍化している」として【横ばい】と判断した。

判断理由を詳しくみていくと、生産は、自動車が供給制約の緩和により持ち直した一方、海外経済減速にともなう設備投資の先送りや見送り、スマホやパソコン需要の低迷などで、半導体製造装置や電子部品・デバイスなどは低調だった。鉱工業生産指数は冷凍食品の大幅増産などで3四半期ぶりに前期比プラスとなったが、半導体関連のウエイトが高い宮城県では、全体として弱含みの状況が続いている。

個人消費は、ゴールデンウィーク中に旺盛なレジャー需要があったものの、それ以降は生活必需品での節約がみられた。百貨店の高額な消費財については、新型コロナの5類移行などにより消費が大都市圏へ流出する動きもみられ、総じて横ばい圏内だった。

仙台七夕まつりの消費額がコロナ前を上回る

7~9月期の経済動向は、夏祭りが消費回復に貢献している。8月6~8日に開催された仙台七夕まつりには226.9万人が訪れ、コロナ前の2019年を0.9%上回った。今年は、酒類を含めた飲食物の販売を、4年ぶりに制限なしで開催。モニターの推計によると、仙台七夕まつりでの消費額は207億円で、2019年を7.8%上回っている。コロナ前と比較しても消費額が大きく増えている要因について、モニターは、①リベンジ消費の機運②物価高による消費単価の上昇③猛暑による飲料・アルコール消費の増加――の3点を指摘。「今年は日並びや天候も含め条件に恵まれた」としたうえで、来年以降については、①祭りのコスト(山車や飾りの製作費や警備・熱中症対策費等)上昇と企業負担力の低下②リベンジ消費機運の一服③実質賃金低下による節約――などの懸念事項をあげて、「持続可能性には課題も少なくない」とコメントした。

そのうえで7~9月期の見通しについては、「一部に弱さがみられ、全体としては持ち直しの動きとなっているものの、このところテンポが鈍化している」として【横ばい】と判断した。

<雇用動向>

人手不足感は業種でややバラツキ

4~6月期の雇用をみると、有効求人倍率は1.43倍で前期比0.05ポイント低下した。新規求人数は前年同期比1.0%減少。 その動きを産業別にみると、製造業(前年同期比9.4%減)、運輸業(同8.2%減)、宿泊・飲食サービス業(同8.1%減)、建設業(同4.5%減)、医療福祉(同2.8%減)など幅広い業種で減少していることがわかる。

モニター実施の県内企業動向調査(6月実施)の結果をみると、4~6月期の雇用DI(「過剰」-「不足」)は全産業ではマイナス36と大幅な「不足超過」だが、前期(マイナス40)からは不足幅が縮小している。産業別では、製造業のマイナス23に対して非製造業はマイナス43と、依然として差が大きい。非製造業のうち、小売業はマイナス28で前期(マイナス43)から不足幅が大きく縮小している。

こうしたことを総合的にふまえてモニターは、「人手不足感にはややバラツキもみられている」として、4~6月期の雇用を【横ばい】と判断した。

同調査によると、県内企業の7~9月期の雇用DI見通しはマイナス37で、前期比1ポイント低下と小幅な動き。モニターは7~9月期の見通しについて、「基調としては労働市場の需給は引き締まることが見込まれる」ものの、「足元の新規求人数、有効求人数は頭打ちしており、引き続き需給のミスマッチや労務コストの上昇などが労働需要の下押し要因となることも予想される」として【横ばい】と予測した。

1人あたり賃金上昇率が物価の上昇を上回った企業は2割にとどまる。

労働に関連する地域のトピックとして、モニターは6月に県内企業に実施した、賃上げ実績に関する調査の結果を報告している。それによると、2023年度に、①ベースアップ②定期昇給③一時金(インフレ手当等)支給――のいずれかを実施した企業の割合は81.6%だった。ただし従業員1人あたりの賃金上昇率が足元の物価上昇率(4.0%程度)を上回ったのは20.8%にとどまっている。

モニターは昨年12月に実施した調査で、2023年の賃上げ予定を企業に尋ねている。その段階で「賃上げ予定」とした回答は24.2%にとどまっており、今年6月の調査での実際の賃上げ実施割合(81.6%)とは大きな差が生じている。この結果についてモニターは「回答率の違いや賃上げの厳密な定義のなさなどから単純な比較はできない」と断ったうえで、「この間、政府主導の賃上げに対する社会的機運が醸成されたほか、新型コロナの5類移行を見据えた、経済活動正常化に伴う人手不足に対する処遇改善の必要性が一層高まったことなどから、いかなる形であれ賃上げの実施を迫られた状況がうかがえる」とコメントしている。