【近畿】今期は消費が好調も来期は生産が弱い動きに

地域シンクタンク・モニター定例調査

近畿の4~6月期の経済動向は、消費が好調で景況感も改善していることから【やや好転】となった。7~9月期の見通しは、生産が弱い動きとなっており【横ばい】の見込み。なお、モニターの分析によると、プロ野球阪神タイガースのセ・リーグ優勝による経済効果は1,051億円にのぼる。雇用指標は、4~6月期実績については改善に一服感があるとして【横ばい】。7~9月期見通しも製造業や建設業、医療・福祉での求人減をふまえて【横ばい】としている。

<経済動向>

百貨店はインバウンド需要などで好調

4~6月期について、近畿地域の家計部門の動向をみると、大型小売店販売額は9,403億円で前年同期比プラス6.4%となり、7四半期連続で前年を上回った。内訳をみると、百貨店が同プラス12.1%と大幅に増えたほか、コンビニエンスストアは同プラス5.7%、スーパーマーケットも同プラス3.1%となっている。百貨店ではインバウンド需要とともに、国内顧客の外商や、ラグジュアリーブランドなど高額商品の売り上げが好調だった。スーパーは飲食料品の値上がりにより販売額が増加した。

企業部門は、製造業・非製造業ともに底堅く推移している。製造業は、原材料価格の高騰や海外経済の減速などから弱含みではあるが、緩やかに改善。非製造業は、経済活動再開やインバウンド需要の回復で、宿泊・飲食などの対面型サービスを中心に総じて復調している。設備投資計画は製造業・非製造業ともに旺盛で、増勢となった前年度からさらなる加速が見込まれている。

宿泊・飲食サービスの景況感が大幅に上昇

景況感について日銀短観(6月)をみると、業況判断DIは8で前期から3ポイント上昇し、7四半期連続でプラス圏を維持した。

規模別にみると、大企業が13(前回調査比プラス5ポイント)、中堅企業が15(同プラス5ポイント)、中小企業が1(同プラス1ポイント)となっている。業種別では製造業がマイナス1(同プラス2ポイント)、非製造業が16(同プラス3ポイント)。特に宿泊・飲食サービスが31(同プラス31ポイント)と大幅に上昇した。モニターは「新型コロナの5類移行、インバウンドおよび国内旅行需要の増加が影響した」とみている。

輸出の動向をみると、関西の輸出額は5兆1,496億円(前年同期比マイナス4.3%)で、11四半期ぶりに前年を下回った。パソコンやスマートフォンに使用される半導体等の需要減少でアジア向けの半導体電子部品や半導体等製造装置などが減少。輸入額も4兆5,578億円(同マイナス11.0%)で10四半期ぶりに前年を下回った。

以上を勘案し、モニターは「海外部門は中国経済の停滞が影響し、輸出・輸入ともに前年を下回ったが、インバウンド需要はコロナ禍前の水準をほぼ回復した」ことなどから「緩やかな回復が続いている」として、4~6月期の判断を【やや好転】とした。

生産の基調判断は「弱含みで推移」に下方修正

7~9月期の見通しについては、モニターは「消費は百貨店を中心に回復しており、景況感はインバウンド需要の増加もあり改善した」ものの、「生産は2カ月ぶりの減産となり、弱い動きが続く」として【横ばい】と判断した。

7月の大型小売店販売額は3,425億円で前年同月比プラス7.8%と22カ月連続で増加した。百貨店で好調が続いており、日本銀行大阪支店によると百貨店免税売上高指数(2013年4月=100)は1,396.0で、コロナ禍前の最高値(2019年4月:1,419.6)に次ぐ水準となった。

景況感をみると、8月の景気ウォッチャー調査の現状判断DIは54.7で、前月から0.1ポイント上昇。景気判断の分岐点である「50」を8カ月連続で上回っている。台風7号の接近や猛暑の影響で出控えがあったものの、インバウンド需要の増加や行動制限のない夏祭りなどの開催が景況感に好影響となっている。先行き判断DIは52.9で、前月から2.5ポイント低下。円安の進行や原油価格高騰の影響で、コスト上昇を懸念する見方が多い。

生産動向をみると、7月の鉱工業生産指数(速報値)は89.7で、前月比マイナス2.1%の低下。生産用機械、汎用・業務用機械や化学(除く医薬品)等が減産した一方、輸送用機械、電気・情報通信機械、電子部品・デバイスが増産となった。近畿経済産業局は生産の基調判断を「弱含みで推移」とし、前月の「底堅い動き」から下方修正した。

プロ野球チームの優勝が1,000億円超の経済効果に

モニターは、プロ野球阪神タイガースのセ・リーグ優勝による経済効果を分析している。それによると、経済効果は全国で1,051億円となっている。このうち、関西2府8県(福井県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、徳島県)が687億円で65.3%を占めている。モニターは、ファンサービスの高付加価値化による消費単価の引き上げによって、一層の経済効果が期待できるとしている。

<雇用動向>

新規の人材採用を「困難」とする企業が7割超

4~6月期の雇用実績について、モニターは「求人を抑制する動きがみられ、改善に一服感がある」として【横ばい】と判断した。

雇用統計をみると、有効求人倍率は1.20倍で前期から0.01ポイント低下、新規求人倍率は2.30倍で前期から0.04ポイント低下と、いずれも動きは小さい。有効求人数は2四半期連続で減少している。完全失業率(モニターによる季節調整値)は2.7%で前期から0.2ポイント低下している。

日銀短観(6月調査)によると、雇用人員判断指数DI(「過剰」-「不足」)はマイナス27で前回調査から2ポイント上昇した。業種別では製造業がマイナス18、非製造業がマイナス37で、特に非製造業で人手不足感が強い。

大阪商工会議所・関西経済連合会が5月に実施した調査によると、自社における労働者の過不足感について、46.3%の企業が「やや不足」「不足」と回答。「適当」は49.8%だった。「不足」「やや不足」と回答した企業に対して、人手不足が生じている要因を尋ねたところ(複数回答)、「新規の人材採用が困難」(72.9%)が最も割合が高く、「従業員の自発的な離職の増加」(29.9%)、「必要なスキル・知識を持つ人材不足により、配置転換での調整が困難」(20.1%)が続いた。

原材料の高騰をうけて求人を見送る業種も

7~9月期の雇用の見通しについても、「非製造業を中心に改善が継続しており、労働需給の動きが活発になっていることがうかがえる」ものの、「原材料高騰の影響等をうけて求人が見送られた業種もみられる」ことから【横ばい】と判断している。

7月の新規求人数を産業別にみると、宿泊業・飲食サービス業(前年同月比プラス11.9%)や卸売業・小売業(同プラス11.8%)などのサービス業で増加が目立つ一方、製造業(同マイナス8.8%)、建設業(同マイナス7.2%)、医療・福祉(同マイナス4.7%)は減少している。