【北海道】地域経済は好調が続くも、猛暑と処理水放出による水産業への影響を懸念

地域シンクタンク・モニター定例調査

北海道では、4~6月期の地域経済は、個人消費が持ち直しているほか外国人観光客の回復もあり【やや好転】となった。7~9月期の見通しも、企業の景況感が改善していることから【やや好転】としている。ただし、異常気象や福島第一原子力発電所の処理水放出による水産業への影響が懸念されている。4~6月期の雇用動向は、日銀短観の雇用人員判断や雇用統計の動きから【横ばい】と判断。7~9月期の雇用見通しも【横ばい】としている。モニターによると、企業が新規求人に慎重となっている要因として、賃上げによるコスト増があるという。

<経済動向>

個人消費が持ち直し、観光客も大幅増が続く

日本銀行札幌支店が発表した日銀短観(北海道分)によると、6月の業況判断(「良い」-「悪い」)は全産業で8と、前期から1ポイント改善した。製造業はマイナス9で前期から3ポイント悪化したものの、非製造業は13で前期から2ポイント改善した。

分野別の動向をみると、個人消費は持ち直しがみられた。4~6月の販売額は、巣ごもり需要の反動などから家電大型専門店(前年同期比マイナス14.3%)やホームセンター(同マイナス2.8%)が低下したものの、新型コロナの5類移行や物価上昇の影響が幅広い業態にみられ、ドラッグストア(同プラス6.2%)、コンビニエンスストア(同プラス6.0%)、百貨店(同プラス5.6%)、スーパーマーケット(同プラス3.1%)は増加した。サービス消費も人の動きが活発化したことで好調に推移した。

観光関連をみると、国内来道客数は、前年同期比プラス41.4%と大幅な増加が続いている。外国人入国者数も、コロナ禍による制約が緩和して持ち直しの動きがみられる。

公共投資は、当期の公共工事請負金額が前年同期比プラス1.1%と、5四半期ぶりに増加。住宅投資では、新設住宅着工戸数が前年同期比プラス1.1%で6四半期ぶりの増加に転じた。

こうしたことからモニターは、「足元の道内経済は持ち直している」として4~6月期の地域経済を【やや好転】と判断した。

消費回復につながる観光入込客の増加やイベントの再開が

北海道財務局「法人企業景気予測調査」の結果によると、7~9月期の景況判断は13.4の「上昇超」で、前期の1.2から大きく改善した。

個人消費の動向をみると、7月の販売額は乗用車新車販売(前年同月比マイナス2.9%)が11カ月ぶりに前年同月を下回ったものの、コンビニエンスストア(同プラス9.3%)、ドラッグストア(同プラス8.7%)、スーパーマーケット(同プラス5.7%)、家電大型専門店(同プラス5.2%)、百貨店(同プラス3.9%)、ホームセンター(同プラス0.8%)は前年を上回っており、モニターは「道内の個人消費は持ち直している」とみている。

観光では、7月の来道客数は前年同月比プラス22.7%と持ち直しが続いている。インバウンドでは中国人観光客の戻りが遅いものの、韓国・台湾を中心に増加が続いており、好調を維持している。旭山動物園や五稜郭タワーなど道内各地の観光施設の入込も前年から大幅に増加。コロナ禍での開催見合わせから4年ぶりに開催されるスポーツや音楽のイベントも多く、サービス消費の回復につながっている。

こうしたことからモニターは、7~9月期の見通しを【やや好転】とした。

異常気象や処理水放出が不安材料に

モニターはあわせて、異常気象や福島第一原発の処理水放出による水産業への影響を報告している。

今夏の猛暑で北海道近海の海水温は記録的な高さとなり、道北や道南では昆布の出荷量が落ち込んでいる。9月から始まった秋鮭の定置網漁の出足も鈍く、水産関係者は先行きを懸念している。

処理水放出については、中国による日本産水産物の禁輸措置によって、道内の輸出主力品であるホタテ貝の輸出に大きな影響が生じている。ホタテ貝が含まれる「甲殻類及び軟体動物」の8月の輸出額は、前年同月比マイナス41.1%と大幅に落ち込んだ。モニターは「中国による禁輸措置が長引くことになれば、道内輸出が大きく下押しされ、道内経済持ち直しの重石となることが懸念される」としている。なお、8月に解禁された中国人団体旅行客は予約キャンセルも発生しており、観光にも影響がみられる。

<雇用動向>

日銀短観の雇用人員判断は小幅な動き

労働統計をみると、有効求人倍率は4月が1.07倍(前月比マイナス0.03ポイント)、5月が1.04倍(同マイナス0.03ポイント)、6月が1.04倍(同変化なし)で推移している。4~6月の完全失業率(原数値)は3.2%で、前年同期比0.5ポイントの低下となった。

日銀短観によると、6月調査の雇用人員判断(「過剰」-「不足」)はマイナス46で、前期(3月調査)から2ポイント低下。業種別にみると、製造業がマイナス35で前期から横ばい、非製造業がマイナス49で前期から2ポイント低下と、変動は小幅にとどまっている。

これらをふまえモニターは、「全産業では人手不足感が強まり、完全失業率も前年から低下している」ものの、「有効求人倍率の上昇に頭打ち感がみられる」として、4~6月期の雇用について【横ばい】と判断した。

賃上げによるコスト増で企業は新規求人に慎重

7~9月期の見通しについても、「足元の有効求人倍率は悪化しており、道内の雇用情勢は持ち直しの動きに弱さがみられる」ものの、「『短観』では先行きの労働需給は引き締まりの見通しとなっている」として判断は【横ばい】とした。

7月の有効求人倍率は1.02倍で前月から0.02ポイント低下している。日銀短観の6月調査によると、9月先行きの雇用人員判断はマイナス54の「不足超」で、6月の実績から8ポイント低下の見通しとなっている。

モニターは、人手不足感が強まっているにもかかわらず企業が新規求人に慎重になっている状況について、今年度の賃上げや10月からの最低賃金引き上げによるコスト増が要因とみている。