製品検査や保守点検のほか、事務作業、人事労務にもAIなどの活用が進む
 ――企業・業界団体に聞く最新のデジタル技術の活用状況と働き方・採用・育成への影響

ビジネス・レーバー・モニター特別調査

近年、企業の事業活動のさまざまな場面で、AIなどの最新のデジタル技術の活用が進んでいる。JILPTが年4回実施している企業・業界団体モニター調査では、8月調査での特別調査項目として、最新のデジタル技術の活用状況と、それによる働き方、採用、育成等の状況の変化を尋ねた。回答内容をみると、製品検査や保守点検、事務作業にAI等が活用されているほか、人事労務の分野でも、採用活動や人材育成の場面でAI等の新技術を活用する動きがみられた。調査は企業モニター21社、業界団体モニター20組織から回答を得た。

保守点検や設備保全に新技術を活用

製造業や鉄道輸送などでは、製品検査や設備保全にAI・ドローンを利用するなど、新技術を保守点検や設備管理の業務に取り入れる動きがみられる。

【電線】の企業モニターは、製造工程での膨大なデータを分析することで、不良品の大幅な低減につなげている。さらに、従来は目視で行っていた製品検査をAIで自動化して、人件費の削減と検査漏れの防止にも取り組んでいる。

【非鉄金属】の業界団体モニターからの報告によると、設備保全にドローンを活用し、大規模装置や建屋の劣化状況の把握を進めている企業もあるという。

サービスの向上や社員の負荷軽減も

【鉄道】の業界団体モニターは、保守点検の分野で、AIで車両のセンサーデータを解析し、車輪の摩耗や車両の振動などの異常を早期に検知したり、トンネル内の壁面や設備を高精度なカメラで撮影し、AIで画像を解析して異常を検出する仕組みを導入している企業もあることを報告。これらの取り組みでは、運行の信頼性向上、作業の効率化、保守点検のコスト削減などの成果が見込まれている。企業モニターからは、交通事業において、高精細カメラで撮影した映像をAIで解析する仕組みや、外国人の乗客向けの自動翻訳ツール等を活用することで、サービス向上と現場社員の負荷軽減に大きく貢献しているとの報告があった。

製パン工場は稼働データの一元化で生産性向上につなげる仕組みを検討

【パン・菓子】の業界団体モニターによると、大型製パン工場では、製パン関連機械のセンサーやサーボモーター、カメラなどから稼働データを一元的に吸い上げ、故障予知や予防保全に活用し、生産性向上につなげる仕組みを検討する動きがある。

業務工程に新技術を取り入れて自動化を推進

建設施工や養殖魚の育成などでは、業務の工程に新技術を取り入れて自動化を進めている。

【建設】の企業モニターは建設施工の機械化・自動化を進めている。土木事業は、ダム・造成・トンネルなどの工種に自動化施工技術を適用。建築事業でも、資材搬送ロボットの活用などを行っている。

餌やりの自動化で飼育担当者の定期的な休日取得が可能に

【水産】の業界団体モニターによると、養殖のいけすに水中カメラを設置することで、遊泳状況の蓄積や育成状況の把握を行っている。また、自動給餌システムの活用により、効率的かつ環境保全にも効果的な育成の運営ができるようになってきており、これまで問題となっていた飼育担当者の定期的な休日取得も可能となってきている。ただし、「設備投資の可能な大規模事業者に限られた可能性であることは否めない」とコメントしている。

RPAや生成系AIを事務作業などに活用

【百貨店】の企業モニターは、単純な計算や一斉メールにRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を利用している。また、社内で使用できるようにカスタマイズした生成系AIを、下調べなどに活用。【食品】の企業モニターも議事録ツールの導入を推進している。

採用や配置の判断材料にAIを導入

採用や配置、勤怠管理など、従来は「人間が判断」してきた領域でも、AIを一部の業務プロセスで活用したり、判断材料の参考にしている事例が報告された。

【鉄道】の企業モニターは、新卒採用の面接評価にAIを導入。学生の発言内容を文字化したものをAIが分析し、国内共通で客観性の高い評価基準に沿って点数をつけている。【シルバー産業】の企業モニターも、新卒総合職の採用活動の一部でAIを活用し、効率化と公正な審査を図っているという。

【百貨店】の企業モニターは、タレントマネジメントシステムにより従業員の適性をAIで算出。AIの出力した結果と人事担当者の目線をあわせることで、配置や育成の判断材料としている。

RPAで人事業務を効率化して労働時間を削減

【自動車販売】の企業モニターは、クラウド型勤怠管理システムを導入することで、人事担当者の給与計算を効率化した。【鉄道】の企業モニターは、人事発令業務の効率化を目的にRPAを活用することで、作業ミスを抑制するとともに、担当者の業務時間を月20時間程度削減している。

電機はデジタル人材を自社育成と外部採用の両輪で推進

デジタル技術を活用するための人材確保について、電機の企業は自社での育成と外部からの採用をあわせて進めている。

【電機】の企業モニターは、「成長目標の達成のためには、デジタル人財の確保・育成が不可欠」と考えており、中期経営計画でデジタル人財の具体的な人数を目標に掲示。そのうえで、国内では、内部人財の育成を主としつつも、外部からの採用にも取り組んでいる。具体的には、①デジタル分野を希望する学生に特化した個別のイベント等を通じた母集団形成②デジタル分野の研究開発職およびデータサイエンティストの職務を特定し、その職務への配属を確約した採用を行う「デジタル人財採用コース」の新設③競争力の高い報酬での経験者獲得――などに取り組んでいる。一方、海外では、主に外部からの採用とM&Aによる人財強化を進めている。

警備員への教育にVRを活用

【警備】の企業モニターは、警備員への教育にVR(バーチャル・リアリティ)技術を導入している。ヘッドマウントディスプレイの画面に表示される全周囲の実写映像を用いて、「煙が充満するなかでの避難誘導」や「避難器具を使用した避難訓練」を疑似的に体験。これにより、「危険性が高く機会が限られる研修も、安全に行い理解の均一化が可能となった」とする。

このほか、【造船・重機】の企業モニターも、DX人財育成の取り組みとして「AI実践研修」や「社内AI教育」を実施している。

職業紹介へのAI導入は「試行錯誤の段階」

職業紹介や介護のような、「人」がサービスを提供することが当然とされてきた分野でも、新技術の活用を模索している。

【職業紹介】の業界団体モニターによると、大手の人材紹介事業者では、職業紹介業務へのAI導入が始まっている。ただし、職業紹介の「コア」ともいえる助言業務に関しては、人間が介在することへの求人側・求職側双方の期待があるほか、無意識の偏見・思い込みであるアンコンシャス・バイアスの克服や関係者の理解などの課題も多いため、「試行錯誤の段階」にある。

一方、【シルバー産業】の業界団体モニターは、サービス利用者の見守りにセンサー技術を活用する動きが進みつつあることを指摘する。

求人情報を扱う企業の業界団体である【その他】のモニターによると、会員企業のなかには、広告掲載における適正化チェックなどにAIを用いる準備をしている企業もあるという。しかし、広告表現では前後の文脈等に鑑みた判断が求められるため、最終的には人の目による確認が必要となっている。

(調査部)