今期は半導体需給の改善や価格転嫁の進行で前期から改善。来期は物価高騰や猛暑の影響を懸念する業種も

ビジネス・レーバー・モニター定例調査

JILPTが四半期ごとに実施している「ビジネス・レーバー・モニター調査」によると、2023年第2四半期(4~6月期)の業況実績は改善が進み、「雨」「本曇り」の割合は前期から低下した。各モニターから寄せられた判断理由をみると、製造業では半導体需給の改善や円安、それに価格転嫁が進んだことが業績改善につながっている。非製造業でも、価格転嫁の進行やインバウンドの回復などが報告された。次期(2023年7~9月期)は、「快晴」「晴れ」の割合が低下するなど、今期よりも悪化する見通し。原材料やエネルギー価格の上昇を懸念する声があるほか、小売では今夏の猛暑による来店客の減少が危惧されている。

調査の趣旨

JILPTでは、企業および業界団体のモニターに対し、四半期ごとに業況の実績と次期の見通しを「快晴」「晴れ」「うす曇り」「本曇り」「雨」の5段階で聞き、企業モニターの回答の平均と業界団体の回答をさらに平均する(端数は四捨五入)ことで各業種の最終的な判断を算出している。そのため、個々の企業、業界団体の業況評価と必ずしも一致しない。

今回は2023年第2四半期(4~6月期)の業況実績と2023年第3四半期(7~9月期)の業況見通しについて調査した。回答は企業と業界団体の計54組織、44業種から得た。

各企業・団体モニターの現在の業況

前期から「雨」「本曇り」の割合が低下

第2四半期の業況をみると、回答があった44業種中、「快晴」は1(業種全体に占める割合は2.3%)、「晴れ」が10(同22.7%)、「うす曇り」が21(同47.7%)、「本曇り」が10(同22.7%)、「雨」が2(同4.5%)となっている()。

表:前期及び今期の業況実績と業況見通しの概要
画像:表
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図:調査開始以来の業況調査結果の推移
画像:図
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前回調査の2023年第1四半期と比較すると、「雨」が約5ポイント低下し、「本曇り」も約1ポイント低下するなど、改善がみられた。

製造業・非製造業別の傾向をみると、「快晴」は製造業が1業種で非製造業がゼロ、「晴れ」は製造業が2業種で非製造業が8業種、「うす曇り」は製造業が13業種で非製造業は8業種となっている。これに対し「本曇り」と「雨」の合計は製造業が5業種、非製造業が7業種となっている。

現在の業況の判断理由

食品は価格転嫁が進んで景況判断も大幅改善

今回、「快晴」としたのは【食品】のみ。「日銀短観」(6月)での食品製造業の現況判断DIをみると、大企業が6(前回比プラス17)、中堅企業がマイナス1(同プラス14)、中小企業が2(同プラス10)と大幅に改善している。こうしたなか、企業モニターは、乳製品の高付加価値型商品が売上拡大に大きく貢献し、売上総利益は前年同期を大きく上回ったことをあげて「快晴」と判断した。一方、業界団体モニターは「価格転嫁が進むなか、売り上げの低下傾向が続いていたスーパーも底を打ち始め、百貨店とコンビニでは売り上げ増が続いている」ことから「晴れ」とした。

自動車は半導体需給の改善と生産性向上活動で販売台数が増加

「晴れ」と評価した業種は【自動車】【造船・重機】【情報サービス】【鉄道】【商社】【百貨店】【自動車販売】【ホテル】【警備】【その他】の10業種。このうち判断を前期から引き上げたのは、前期は「うす曇り」としていた【自動車】【百貨店】【ホテル】の3業種となっている。

【自動車】は半導体需給の改善に加え、生産性向上活動により全地域で販売台数が前年同期から増加した。商品力に応じた価格設定と営業努力により、資材高騰の影響も吸収して前年同期から増益となった。

【百貨店】は国内需要が堅調であることに加え、インバウンドの回復で増収となった。営業利益は2018年を超える水準で推移しているという。

鉄道は新型コロナの5類移行で需要回復

前期に引き続き「晴れ」と判断した業種について、その判断理由をみていくと、【鉄道】の企業モニターは、新型コロナの5類移行等により各事業の需要が回復した。また、鉄道運賃の改定や不動産物件の販売等により、交通事業やホテル・リゾート事業を中心に回復傾向となり、好調に推移したため「晴れ」と判断。業界団体モニターは、「新型コロナの5類移行等により通勤・外出需要が増加し、大手を中心に定期・定期外ともに輸送人員が前年度比で増加している」ものの、「物価上昇、金融資本市場の変動等の影響に十分注意が必要な状況が続いている」として「うす曇り」とした。

【自動車販売】は、「販売台数・整備台数は計画を下回った」ものの、「単価の上昇により売上はほぼ計画通りで、総経費の圧縮効果で経常利益は計画を大幅に上回った」という。

【情報サービス】は5月の売上高について、主力の「受注ソフトウェア」が前年同月比プラス10.9%と、二桁の伸びとなっている。全体でも同8.3%と、14カ月連続で増加している。

商社は資源価格高騰の反動で利益が減少するも高水準を維持

前期の「快晴」から判断を引き下げた【商社】は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて資源価格が高騰した前年同期の反動で、3年ぶりに総合商社7社中6社で当期利益が減少した。それでも、生活や機械関連など非資源分野が好調なことから、2024年3月期の業績予想に対する各社の進捗率は2~3割以上となるなど、高水準の利益を維持している。

電機は価格転嫁や円安で増収増益となる企業も

「うす曇り」と判断した21業種の判断理由について、製造業では半導体需給の改善や円安がプラス要因にあがった一方、中国経済の回復の遅れがマイナス要因として指摘された。

【電機】の業界団体モニターは、重電機器について、「電力・産業向け電気設備の変圧器や開閉制御装置等は前年同期を上回ったが、発電用原動機のボイラ、蒸気タービン、ガスタービンが前年同期を大幅に下回った」としている。白物家電機器については、「製品価格の上昇や、昨年が上海ロックダウンの影響で低調だったこともあり、前年同期を上回った」ものの、「巣ごもり需要の反動や、サービス消費へのシフト、物価高騰による買い控えがみられ、主要製品の多くで数量ベースでは前年同期比減少となった」ことから、全体では「うす曇り」とした。企業モニターのA社は、部品価格の高騰を価格転嫁で吸収したほか、為替の影響もあり増収増益となったことから「晴れ」と判断。B社も売上増を理由に「晴れ」とした。C社は固定費削減や価格改定がプラス要因となったものの、中国向けの市況悪化や人件費の増加がマイナス要因となったことから「うす曇り」とした。

電線は半導体需給の緩和で自動車向けの需要が増加

【電線】は、自動者関連事業では、半導体供給不足の緩和による自動車生産の回復で需要が増加し、増収増益となった。一方、情報通信・エレクトロニクス・産業素材関連事業では、顧客の投資抑制やエネルギーコスト・人件費上昇の影響もあり、減益となっている。

【建設】のA社では、国内建設事業は施工中工事が順調に進捗したことなどから、売上・利益ともに堅調に推移している。一方で海外事業については、米国事業における流通倉庫の売却件数が減少したことなどから、通期予想に対する進捗は低位となり、全体では「うす曇り」となった。B社も先行きの不透明感を理由に「うす曇り」とした。

非鉄金属は中国の景気回復の遅れから販売が低調

【非鉄金属】は、為替がやや円安に推移したことでドル建て債権の円換算額が増加したものの、銅・鉛・亜鉛などの金属価格が下落したほか、エネルギーコストや資材コストの高騰が続いたことから、上流・中流分野は総体として厳しい環境が継続した。下流分野は、一部素材で旺盛な需要が継続しているものの、電子材料向けの需要は中国の景気回復ペースが遅いため本格的な回復には至っておらず、販売は低調な状況となっている。

【ゴム】は、今期は自動車の生産・輸出ならびに販売がプラスで推移し、工業用品がプラスに転じている状況。また一部製品で価格改定も進んでいる。ただしゴム製品全体でみると、業種、規模によってまだら模様となっている。

このほかに「うす曇り」と判断した業種は、【パン・菓子】【繊維】【化繊】【紙パルプ】【化学】【石膏】【金属製品】【工作機械】【金型】【電力】【港湾運輸】【ガソリンスタンド】【ホームセンター】【シルバー産業】【職業紹介】【請負】だった。

事業所給食では食材価格や人件費の上昇に苦慮する声

「本曇り」と判断した10業種は【木材】【印刷】【石油精製】【硝子】【道路貨物】【水産】【事業所給食】【葬祭】【専修学校等】【中小企業団体】。

判断理由について、【事業所給食】の業界団体モニターは会員企業の具体的な声として、「人手不足が深刻で募集しても応募がない。食材の高騰も続いている」「物価高騰対策として、4月に全社員にインフレ手当を支給し、人件費がコストアップした。また、5月から全社員を対象に賃上げを実施したことから、更にコストアップしている」などと報告している。

このほか、【硝子】は化学品市況悪化の影響により、昨年同期比で減収減益となったことを理由にあげた。【水産】は燃油、電気料等のコスト高の影響から厳しい経営環境にさらされている。

セメントは建設・物流業界の「2024年問題」も影響

「雨」と判断した業界は【セメント】【出版】の2業種。

【セメント】は当期のセメント国内需要が前年同期比93.5%と、15四半期連続でマイナスの状況。引き続きの人手不足のほか、2024年4月からの建設・物流業界への残業規制を控え、すでに建設工期の長期化が発生しているなど、厳しい状況が続いている。

次期(2023年7~9月)の業況見通し

次期(2023年7~9月)の業況見通しについては、44業種のうち「快晴」とする業種はゼロ、「晴れ」が7業種(業種全体に占める割合は15.9%)、「うす曇り」が23業種(同52.3%)、「本曇り」が10業種(同22.7%)、「雨」が4業種(同9.1%)となっている。

ゴムは景況判断が大幅に悪化

今回、業況の好転を予想したのは【石油精製】【硝子】の2業種。いずれも今期の「本曇り」から「うす曇り」に引き上げた。一方、悪化を予想したのは【食品】【化繊】【ゴム】【電力】【水産】【自動車販売】【ガソリンスタンド】【自動車】【ホテル】【造船・重機】の10業種。

それぞれの判断理由をみると、【ゴム】は日銀短観(6月)での自動車の先行き判断DIの結果をもとに、当期の「うす曇り」から次期は「本曇り」に引き下げた。モニターが実施する中小企業会員景況調査によると、次期の業況判断は大幅に悪化する見通し。「円安や原材料等の高騰に加えて電気料金等の高止まりにより、収益の改善は道半ば」という声があるほか、「地政学的リスクも懸念され、不透明感がいまだ続いている」という。

水産は処理水放出の輸出への影響を懸念

【水産】は今期の「本曇り」から次期は「雨」に引き下げた。東京電力福島第一原子力発電所の処理水放出について、輸出への影響を懸念している。また、特に北海道・東北の太平洋側沖合で海水温が上昇している現象について、これから旬を迎えるカツオ・サケ・サンマなどの漁場形成への影響を心配している。

【食品】の企業モニターは引き続きの売上伸長を見込んで「晴れ」とした。業界団体モニターは、日銀短観(6月)での食料品の先行き判断DIの結果をもとに「プラス基調を維持しながらも若干の足踏みを見込んでいる」として「うす曇り」と判断している。

自動車販売は業界イメージの悪化を危惧

【自動車販売】は、「現状では第2四半期と大きな変化は無い」としつつも、「大手中古車ディーラーの不正事案の影響により、中古車価格の低下や整備事業に対する不信感にともない、販売台数や整備台数の減少が懸念され、少なからず売上高や収益に影響がある」と予測し、当期の「晴れ」から次期は「うす曇り」とした。

【電力】は為替レートと資源価格の動きが不透明であることや、競争環境が激化していることを理由に、当期の「うす曇り」から次期は「雨」に2段階引き下げた。

ホームセンターは猛暑による客足の減少を懸念

今期の判断を継続した業種をみていくと、【ホームセンター】(うす曇り→うす曇り)は物価高騰からの買い控えや、猛暑の影響による来店客数の減少を危惧している。

【職業紹介】(うす曇り→うす曇り)は、「求人企業の採用意欲は引き続き高いと予想されるが、求人要件に合致した人材確保の困難度合いはますます高まる」とみており、「紹介成功件数の高い伸びは期待できない」という。

【電線】(うす曇り→うす曇り)は、自動車事業で中国等での販売不振リスクが依然としてあるものの、半導体不足の緩和による受注増を見込んでいる。

(調査部)