労働災害による死傷者数が過去20年で最多。目立つ「転倒」や腰痛など「動作の反動・無理な動作」による事故
 ――厚生労働省の公表資料からみる最新の労働災害の発生状況

労働災害をめぐる最新状況

厚生労働省が公表した最新の労働災害発生状況によると、2022年の労働災害による死亡者数は5年連続での対前年比減となったものの、死傷者数は2002年以降で最多となっている。就業者に占める高齢者の割合が高まり、「転倒」や「動作の反動・無理な動作」による「腰痛」などの被災者が増加していることが背景にある。気温の上昇に伴い、職場における熱中症の死傷者数も大幅に増加するとともに、50歳以上が半数を占め、こちらでも高齢化を踏まえた対策が求められている状況がうかがえる。

<2022年の労働災害の発生状況>

死亡者数は5年連続で減少

厚生労働省が5月23日に公表した2022年「労働災害発生状況」から、最新の労働災害の発生状況をみると、2022年1月~12月の労働災害(新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除く)による死亡者数は774人(前年比4人減)と5年連続で減少し、1974年以降で過去最少となった(図1)。

図1:労働災害による死亡者数(単位:人)
画像:図1

注:新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除く

(公表資料から編集部で作成)

それに対して、休業4日以上の死傷者数は13万2,355人(前年比1,769人増)となり、2002年以降で最多を記録した(図2)。

図2:労働災害による休業4日以上の死傷者数(単位:人)
画像:図2

注:新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除く

(公表資料から編集部で作成)

なお、新型コロナウイルス感染症へのり患による労働災害による死亡者数は17人(前年比72人減)で、死傷者数は15万5,989人(前年比13万6,657人増)となっている。

労働災害による死亡者数を、第13次労働災害防止計画(13次防、期間は2018年度~2022年度)の重点業種である「製造業」「建設業」「林業」の3業種でみると、「製造業」は140人で、起算点である2017年に比べ、20人(12.5%)減。「建設業」は281人で、同42人(13.0%)減。「林業」は28人で、12人(30.0%)減と、それぞれ5年前から減少した。

死亡者数を事故の型別にみると、「墜落・転落」が234人で、2017年に比べ24人(9.3%)減。「交通事故(道路)」が129人で73人(36.1%)減。「はさまれ・巻き込まれ」が115人で25人(17.9%)減。「激突され」が59人で24人(28.9%)減と、いずれも5年前より少なくなっている。ただし、対前年比でみると、「墜落・転落」は17人(7.8%)増加した。

死傷者数が特に「社会福祉施設」で増加

労働災害による休業4日以上の死傷者数を、13次防の重点業種についてみると、いずれの業種も2017年よりも多くなっている。特に、「社会福祉施設」(1万2,780人)では4,042人(46.3%)増と大きく増加し、「小売業」(1万6,414人)は2,533人(18.2%)増、「陸上貨物運送事業」(1万6,580人)は1,874人(12.7%)増、「飲食店」(5,304人)は583人(12.3%)増と、13次防が目標に掲げた「2017年比5%以上の減少」に逆行する結果となっている。

死傷者数を事故の型別にみると、「転倒」が3万5,295人で、2017年に比べ6,985人(24.7%)増と大きく増加した。また、腰痛などの「動作の反動・無理な動作」も2万879人で、同4,702人(29.1%)増と3割近く増加し、初めて、件数の多さで第2位となった。これ以外の型については、「墜落・転落」が2万620人(同246人・1.2%増)、「はさまれ・巻き込まれ」が1万4,099人(同430人・3.0%減)、「切れ・こすれ」が7,500人(同260人・3.4%減)、「激突」が7,047人(同936人・15.3%増)、「交通事故(道路)」が6,773人(同1,112人・14.1%減)と続き、「激突」も増加傾向にある。

製造業では「はさまれ・巻き込まれ」が最多

労働災害発生状況を業種別にみると、製造業では死亡者数は140人と、2017年に比べ20人(12.5%)減となっている。死傷者数は2万6,694人で同20人(0.07%)の増加だった。事故の型別にみると、長期的には減少傾向にあるものの依然として機械などによる「はさまれ・巻き込まれ」が最多で、死亡者数の40.0%、死傷者数の24.0%を占める。

次に、建設業をみると、死亡者数は281人で2017年に比べ42人(13.0%)減少した。死傷者数も減少し、同590人(3.9%)減の1万4,539人となった。事故の型別にみると、依然として死亡者数、死傷者数とも「墜落・転落」が最も多く、それぞれ41.3%、31.6%を占めた。「墜落・転落」による死傷者数は、2017年に比べると減ってはいるものの(569人(11.0%)減)、「転倒」による死傷者数は同161人(10.2%)増となっており、近年、増加傾向にあるのが目に付く。

林業をみると、2017年に比べ、死亡者数(40人)は12人・30.0%減、死傷者数(1,314人)は138人・10.5%減で、ともに減少している。事故の型別には依然として「激突され」が最多で、死亡者数の57.1%、死傷者数の23.3%を占める。死傷者数を年齢別にみると、60歳以上が占める割合が29.1%(全産業では25.7%)と高くなっており、林業従事者の高齢化を反映しているものと考えられる。

陸上貨物の死傷災害の4分の1は荷役作業中等の「墜落・転落」

陸上貨物運送事業は、新型コロナウイルス感染症の影響で、宅配便取扱個数が増加している状況にあるなか、死亡者数は90人と2017年に比べ47人(34.3%)減少した。一方、死傷者数は1万6,580人と、同1,874人(12.7%)増加した。

事故の型別にみると、死亡者数は「交通事故(道路)」が全体の36.7%を占めて最多となっているのに対し、死傷者数は、荷役作業中等の「墜落・転落」が25.9%と最も多くなっている。また、「動作の反動・無理な動作」(2017年比33.5%増)や「転倒」(同30.2%増)が増加傾向にあることがうかがえた。

陸上貨物運輸事業の死傷年千人率は全産業の約3.9倍の高さ

陸上貨物運輸事業の死傷年千人率(1年間の労働者1,000人あたりに発生した死傷者数の割合)は9.110(2017年比0.707ポイント増)で、全産業2.322の約3.9倍となっている。

小売業の死傷者数は1万6,414人で、2017年に比べ2,533人(18.2%)増。社会福祉施設では1万2,780人で同4,042人(46.3%)増。飲食店は5,304人で同583人(12.3%)の増となっており、これらの業種はいずれも5年前より多くなっている。

事故の類型を業種別にみると、小売業や社会福祉施設では、「転倒」や「動作の反動・無理な動作」など、作業行動が原因の労働災害が半数を超えている。調査では、転倒について「これら業種で被災率(転倒の死傷年千人率)が高い50代以上の女性が増加していることが、増加につながっている」と指摘した。一方、飲食店については「若年層の労働者が多く、その被災が目立っている」としている。

死傷災害の4分の1を占める「転倒」のうち、約半数が50代以上の女性

死傷者数の事故類型で「転倒」が、死傷災害全体の26.7%を占め、初めて全体の4分の1を超えることになった。転倒の件数を男女別・年齢別にみると、50代以上の女性が1万6,834人で、全体の47.7%と半数近くを占めており、調査は「労働力の高齢化(特に中高年齢の女性労働者の増加)が転倒災害増加の主要因となっている」と分析している。そのため、中高年齢の女性労働者に多い転倒災害の発生状況の周知や、転倒災害防止のチェックリストの周知指導などに取り組むとしている。また、事業者が自発的な転倒災害防止対策を実施するよう、行動経済学的アプローチの研究も進めるとしている。

6月21日公表の2022年度「石綿による疾病に関する労災保険給付などの請求・決定状況のまとめ(速報値)」によれば、2022年度の石綿による疾病に関する労災保険給付の請求件数は1,361件(石綿肺を除く)で、支給決定件数は1,078件(同)。いずれも前年度に比べ6.5%増加した。

<職場における熱中症による死傷災害の発生状況>

職場の熱中症による死傷災害は約半数が50歳以上

熱中症による死傷災害の発生状況について、5月29日公表の「2022年職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)から確認すると、職場での熱中症による死傷者(死亡・休業4日以上)は827人で、前年に比べ266人・47%増加した。業種別にみると、建設業と製造業で全体の4割を占めている。

死亡者数は30人(前年比10人・50%増)で、業種別にみると、建設業(14人)や警備業(6人)で多く発生している。

死傷者数の発生状況を月別にみると、6月(22.2%)、7月(35.1%)、8月(33.9%)の3カ月で全体の9割以上を占める。時間帯別にみると、14時台が115人と最も多く、15時台(106人)が続くが、9時台以前も100人にのぼり、日中ではなくとも予防意識が必要なことがわかる。

年齢別にみると、50歳以上が死傷者数全体の約5割(48.4%)を占めている。

<2022年労働災害動向調査でみる事業所における災害発生状況>

災害発生の頻度を表す「度数率」はやや低下

6月1日公表の「2022年労働災害動向調査(事業所調査(事業所規模100人以上)および総合工事業調査)」から、2022年の事業所における労働災害状況をみると、災害発生の頻度を表す「度数率」は2.06で、前年(2.09)に比べやや低下した。度数率は、100万延べ実労働時間あたりの労働災害による死傷者数を表している。

災害の重さの程度を表す「強度率」は0.09で、前年(0.09)から横ばい。強度率は、1,000延べ実労働時間あたりの延べ労働損失日数を表す。

死傷者1人平均労働損失日数は44.3日で、前年(41.0日)に比べ増加した。

度数率は「運輸業、郵便業」では上昇

労働災害の状況を主な産業別にみると、度数率は、「製造業」で1.25(前年1.31)とやや低下し、「運輸業、郵便業」で4.06(同3.31)と上昇。一方、「卸売業、小売業」(1.98(同2.31))と「医療、福祉」(一部の業種に限る)(2.17(同2.43))はともに低下した。

強度率は、「製造業」が0.08(前年0.06)、「運輸業、郵便業」が0.21(同0.22)、「卸売業、小売業」が0.05(同0.05)、「医療、福祉」(一部業種に限る)が0.05(同0.06)。

死傷者1人平均労働損失日数は、「製造業」が59.9日(前年47.9日)、「卸売業、小売業」が27.4日(同22.5日)とそれぞれ前年から増加しており、「運輸業、郵便業」は51.5日(同66.6日)、「医療、福祉」(一部の業種に限る)は22.4 日(同23.8日)とそれぞれ減少した。

度数率は事業所規模が小さくなるほど高い

事業所規模別にみると、「1,000人以上」では度数率が0.62、強度率が 0.03、「500~999人」は度数率が1.31、強度率が0.09、「300~499人」で度数率が1.98、強度率が0.07、「100~299人」は度数率2.83、強度率0.12だった。度数率は事業所規模が小さくなるほど高くなり、強度率は「100~299人」で最も高く、「1,000人以上」で最も低くなっている。

次に、総合工事業の2022年の労働災害の状況をみると、度数率は1.47 (前年1.39)、強度率は0.22 (同0.41)、死傷者1人平均労働損失日数は153.2日(同293.4日)だった。

工事の種類別には、「土木工事業」の度数率が1.73(同1.74)、強度率が0.45(同 0.26)、「建築事業」の度数率は1.41(同1.32)、強度率は0.18(同 0.44)となっている。

(調査部)