【茨城】物価高や人手不足を背景に賃上げ実施企業が増加

地域シンクタンク・モニター調査

茨城県の経済動向は、1~3月期実績は、大型の観光支援策により特に非製造業で景況感が大幅に改善しているとして【好転】の判断となった。4~6月期見通しは、物価高や感染再拡大への懸念もあることから【横ばい】。モニター実施の調査によれば、新型コロナの「影響はない」とする企業の割合が高まっている一方、コロナ特需の収束を指摘する声も聞かれる。雇用動向は、1~3月期の実績は雇用統計やモニター実施の調査の結果から【横ばい】とし、4~6月期の見通しは雇用の増加が見込まれることから【好転】となっている。モニター実施の調査によれば、賃上げを実施する企業は例年よりも多く、記録的な物価高と深刻化する人手不足を背景に、業績が好調でない企業でもその動きがみられている。

<経済動向>

非製造業で景況感が大幅に改善

茨城県のモニターが実施する「県内主要企業の経営動向調査(1~3月期)」によれば、県内企業の景況感をあらわす自社業況総合判断DIは、全産業ベースで「悪化」超7.1%と、前期調査の「悪化」超18.1%から11ポイント上昇した。業種別にみると、製造業は「悪化」超9.0%で約4ポイント上昇、非製造業は「悪化」超5.7%で約17ポイント上昇している。

モニターは製造業について、「世界的な部品不足等の影響が著しかった前年に比べ景況感が改善したものの、供給制約解消の遅れや、エネルギー価格を含む諸物価の高騰・高止まりなどが下押し材料となったとみられる」としたほか、非製造業については「製造業と同様に物価高が課題ではあるものの、感染拡大の抑制や行動制約の緩和、全国旅行支援をはじめとする大型の観光振興策などが好影響した企業が多く、景況感が大幅に改善したと考えられる」として、1~3月期の地域経済の実績を【好転】と判断した。

全国旅行支援の延長に期待も物価高や感染再拡大の懸念が

4~6月期見通しについては、「自社業況総合判断DIは全産業で『悪化』超7.6%と今期から横ばいの見通し」であることをあげ、業種別にみても、「製造業は『悪化』超10.0%、非製造業は『悪化』超5.7%といずれも横ばいの見通し」とした。

モニターは「全国旅行支援の延長や新型コロナの5類移行などが追い風になると期待される一方、物価高や感染再拡大の懸念など、景況感の下押し材料も少なくない」とコメントしたうえで、先行きを【横ばい】と判断した。

新型コロナ禍での特需収束の動きも

モニターは3月に、県内企業に対して「新型コロナの影響等に関する企業調査」を実施した。それによると、新型コロナウイルス感染症について、「かなり悪い影響がある」と「どちらかと言えば悪い影響がある」を合わせた「悪い影響がある」企業の割合は52.5%と、依然として過半数を占めるものの、前回2022年9月調査の66.7%から14.2ポイント低下した。また、「悪い影響」だけでなくコロナ特需などの「良い影響」も収束しつつあり、「影響はない」とする企業の割合が32.1%で、前回2022年9月調査から14.5ポイント上昇している。

良い影響を受けていた企業からは「巣ごもり需要の反動で、昨年・今年と売上が減少傾向」(食料品製造業)、「4~6月期は5類移行にともない、需要減少が予想される」(医療機器小売業)といった声が聞かれたという。

<雇用動向>

新規求人倍率は3カ月連続で低下

1~3月期の雇用指標をみると、3月の有効求人倍率は1.46倍で前月から0.06ポイント低下した。低下は2カ月ぶり。新規求人倍率は2.19倍(前月比0.12ポイント低下)で、3カ月連続で低下した。モニターは「求人数が減少した一方で、求職者数が増加したことが求人倍率の低下につながった」と分析している。

雇用保険受給者数は7,160人で前年同月比2.0%減少と、22カ月連続で前年水準を下回ったものの、事業主都合離職者数は517人で同22.5%増加と、3カ月ぶりに前年水準を上回った。

モニターが実施した「県内主要企業の経営動向調査結果(1~3月期)」をみると、雇用判断DIは「減少」超1.3%と、前期(「減少」超4.6%)から約3ポイント上昇した。業種別にみると、製造業が「減少」超4.1%と前期から約7ポイント低下したのに対して、非製造業は「増加」超0.8%で前期から約12ポイント上昇している。

こうした動きからモニターは、1~3月期の雇用の実績を【横ばい】と判断した。

雇用判断の先行きは改善

また、4~6月期の雇用状況の見通しについても、同調査の先行き(4~6月期)の結果をもとに、「雇用判断DIは全産業で『増加』超8.1%と今期から9ポイント上昇している。業種別では、製造業が『増加』超8.2%で約12ポイント上昇、非製造業が『増加』超8.2%で今期から約7ポイント上昇する見通し」として、【好転】と判断した。

2023年に賃上げを実施する企業が65.7%に

県内企業に対して3月に実施した「春季賃上げに関する企業調査」によると、2023年に「賃上げを実施する」企業は65.7%と、例年の約5割から大きく上昇し、比較可能な2015年調査以降で最高値を記録した。賃上げの中身に注目すると、定期昇給・ベアともに前年の実施予定を上回っているが、特にベアを実施する企業の割合が上昇している。

調査に回答した企業からは「世間がこれほど賃上げに動いている以上、賃上げは経営者の責務。実施しなければ社員はついて来ない」(食料品製造業)、「業績好調であり、ベア・定昇とも当然。従業員のモチベーションアップには賃上げが欠かせない」(小売業)、「業績も良く価格転嫁も進んでいるので、当然社員に還元する」(生産用機械製造業)など、ベアを含む賃上げに前向きな声が聞かれた。

業績が堅調でないという企業からも「業績が低迷しており大変厳しいが、物価高騰を受け、社員の生活防衛のために定昇を行うことにした」(卸売業)、「本来は賃上げをする状況にないが、社員のモチベーション維持のためにも、ベアを含む賃上げを実施する」(金属製品製造業)など、何とか賃上げを実施したいとの声も寄せられた。

モニターは県内企業が例年よりも賃上げに前向きとなった要因について、「記録的な物価高と、深刻な人手不足」と指摘している。

(調査部)