今期はエネルギーコストや原材料価格の高騰が影響。来期はインバウンドなどの需要回復を見込む業種も

ビジネス・レーバー・モニター定例調査

JILPTが四半期ごとに実施している「ビジネス・レーバー・モニター調査」によると、2023年第1四半期(1~3月期)の業況実績は、前期から小幅な動きにとどまった。各モニターから寄せられた判断理由をみると、エネルギーコスト・原材料価格の高騰や、半導体不足をマイナス要因にあげる声が多い。ただし、自動車は半導体不足の緩和による生産の上振れを報告している。そのほか、社会保険の適用拡大や自転車ヘルメット着用の努力義務など、国の政策の影響を判断理由とする報告もあった。次期(2023年4~6月期)も、今期からの変動は小さい見通し。社会経済活動が正常化するなかで、サービス業はインバウンドを含む需要の回復を見込んでいる。

<調査の趣旨>

JILPTでは、企業および業界団体のモニターに対し、四半期ごとに業況の実績と次期の見通しを「快晴」「晴れ」「うす曇り」「本曇り」「雨」の5段階で聞き、企業モニターの回答の平均と業界団体の回答をさらに平均する(端数は四捨五入)ことで各業種の最終的な判断を算出している。そのため、個々の企業、業界団体の業況評価と必ずしも一致しない。

今回は2023年第1四半期(1~3月期)の業況実績と2023年第2四半期(4~6月期)の業況見通しについて調査した。回答は企業と業界団体の計52組織、42業種から得た。

<各企業・団体モニターの現在の業況>

前期からの業況の変化は小幅にとどまる

第1四半期の業況をみると、回答があった42業種中、「快晴」は1(業種全体に占める割合は2.4%)、「晴れ」が10(同23.8%)、「うす曇り」が17(同40.5%)、「本曇り」が10(同23.8%)、「雨」が4(同9.5%)となっている()。

表:前期及び今期の業況実績と業況見通しの概要
画像:表
画像クリックで拡大表示

図:調査開始以来の業況調査結果の推移
画像:図
画像クリックで拡大表示

前回調査の2022年第4四半期と比較すると、全体として変化は小さいものの、「晴れ」が約3ポイント上昇している。

製造業・非製造業別の傾向をみると、「快晴」は製造業がゼロで非製造業が1業種、「晴れ」は製造業が4業種で非製造業が6業種、「うす曇り」は製造業が9業種で非製造業は8業種となっている。これに対し「本曇り」と「雨」の合計は製造業が6業種、非製造業が8業種となっている。

現在の業況の判断理由

総合商社7社中4社が純利益の過去最高を更新

今回、「快晴」としたのは【商社】のみ。判断理由については、円安や資源高が追い風になったことに加えて、非資源分野の伸びも好調となったことから「総合商社7社のうち4社が2023年3月期連結決算で純利益が過去最高を更新するなど、好業績をみせた」と報告した。

電機は電子部品・半導体の設備投資が活発

「晴れ」と評価した業界は【食品】【電線】【電機】【造船・重機】【情報サービス】【鉄道】【自動車販売】【遊戯機器】【警備】【その他】の10業種。このうち判断を前期から引き上げたのは、前期は「うす曇り」としていた【電機】【警備】【その他】の3業種となっている。

【電機】は、業界団体モニターが重電機器について「電子部品や半導体などの設備投資が活発なため、輸出、国内出荷ともに堅調」としたほか、白物家電も、主要製品であるルームエアコン、電気冷蔵庫、電気洗濯機の国内出荷額が前年同期比で増加したことから「晴れ」と判断した。企業モニターは、A社とB社が物価高騰や半導体不足、市況の不透明感を理由に「うす曇り」としたものの、売上高が前年同期比で増収となったC社は「晴れ」と判断している。

電線は各分野で需要好調

前期に引き続き「晴れ」と判断した業種について、その判断理由をみていくと、【電線】は、情報通信・エレクトロニクス・環境エネルギー・産業素材が需要好調で、前年同期比を上回る収益を確保。自動車事業でも、中国の景気後退による販売不振はあったものの、ワイヤーハーネス(自動車用組電線)の拡販を進めたほか、円安の影響もあり売上高は前年同期比で大幅増となった。

食品では消費者に価格転嫁を織り込んだ動きがみられる

【食品】は業界団体モニターが、日銀短観をもとに「食品製造業の景況判断は若干悪化しているものの、食料品の売り上げも回復傾向にあり、消費者も価格転嫁を織り込んだ消費行動をとり始めている」ことから「うす曇り」と判断。企業モニターは、「乳製品では原材料高の影響を一部受けたが、高付加価値型商品の売上が拡大した」ことで売上総利益が前年同期を大きく上回ったとして、「快晴」としている。

鉄道は旅行需要の回復傾向がプラスに

【鉄道】は、業界団体モニターが「エネルギーコストの高騰が続いており、各社はコスト削減や事業の構造改革に取り組んでいる」ものの、「全国旅行支援や、入国制限緩和による訪日外国人の急増などが後押しし、前年度比では回復傾向にある」として「うす曇り」と判断。企業モニターは「行動制限の解除による外出機会の増加や社会経済活動の正常化、インバウンド需要の回復等により、交通事業やホテル・リゾート事業を中心に段階的な需要回復がみられ、好調に推移した」ことから「晴れ」としている。

【自動車販売】は、販売台数は計画比85%程度にとどまったものの、整備事業が順調に推移したことに加え、車両値引きの抑制で経常利益は計画を上回ったことを指摘。【情報サービス】は引き続き堅調なIT投資により、システムインテグレーション、受注ソフトウェア、情報処理等における需要が高いことを判断理由にあげている。

自動車は半導体不足の緩和で生産台数が上振れ

「うす曇り」と判断した17業種の判断理由では、原材料価格の高騰が多く報告された。そのほか、鳥インフルの流行、自転車ヘルメット着用の努力義務化、社会保険の適用拡大なども理由にあがっている。

【自動車】は、半導体需給が若干緩和したことで、生産台数は上振れした。当期は資材価格の上昇の影響を受けたものの、為替変動の影響に加え、販売店・仕入先・工場での原価改善に取り組んだ結果、前年同期比で増益となった。

パン・菓子は需要が回復も材料・エネルギーコストの高止まりがマイナス要因

【パン・菓子】は業界団体モニターが、「コンビニエンスストアやフレッシュベーカリー部門では、人流の回復にともない、サンドイッチ、焼き立てパン等の需要が徐々に回復してきている」一方で、原材料価格の高騰やエネルギーコストの上昇、鳥インフルエンザの流行による鶏卵の需給逼迫などで、厳しい経営環境が続いていることをふまえて「うす曇り」と判断した。企業モニターは「材料やエネルギーコストが高止まりしており、コスト高を吸収できていない」として「本曇り」と判断した。

ホームセンターは売上が前年同期比で微減

【ホームセンター】は、当期売上が前年同期比で全店ベースが98.1%、既存店ベースが97.4%となった。「ペット」や「園芸・エクステリア」などで動きがみられたものの、「インテリア」や「家庭日用品」はマイナスとなった。月別の動向をみると、1月は物価高騰の影響等から消費者の節約志向がみられ、全般的に伸び悩んだ。2月は冬物商品や高価格帯商品を中心に不調となったものの、外回り関連用品や防犯用品に動きがみられた。3月は暖房用品を中心に不調となったものの、着用が努力義務となった自転車用ヘルメットや外回り関連用品で動きがみられたという。

請負は社会保険の適用拡大にともなう会社負担増が影響

【請負】は、コロナ関連業務の官公庁案件等が減少したものの、その他の案件を獲得できたことで増収となった。しかし社会保険の適用拡大にともない、社会保険料の会社負担分が増加したことから、営業利益は前年同期比で減益。【職業紹介】は、「米欧の金融不安の発生もあり、先行き不透明感から先行投資・採用に慎重な姿勢がみられる」ことを報告している。

このほかで「うす曇り」と判断した業種は、【建設】【繊維】【化繊】【化学】【石膏】【非鉄金属】【金属製品】【工作機械】【港湾運輸】【百貨店】【ガソリンスタンド】【ホテル】だった。

ゴムの景況判断指数は売上のプラス幅が大幅に減少

「本曇り」と判断した10業種は【木材】【印刷】【石油精製】【ゴム】【金型】【水産】【事業所給食】【葬祭】【シルバー産業】【中小企業団体】。

判断理由について【ゴム】は、「主力製品のタイヤがマイナスになったほか、ゴムベルトの生産もマイナスで推移している」と報告。モニターが実施した中小企業景況調査(DI指数)をみても、当期の売上は前期に引き続きプラスではあるものの、プラス幅は大幅に縮小している。また、経常利益と資金繰りは前期に続いてマイナスで推移している。

印刷は度重なるエネルギーコストの上昇、金型はHDD部品の受注減がネックに

【印刷】は、原油やナフサなどの原材料費の高騰や、電気・ガスなどのエネルギーコストの度重なる上昇に対して、価格転嫁が進んでいない。

【金型】は、ハードディスクドライブ関連部品の受注数量が前年より減少し、売上も減少している。

中小企業団体は小売販売が悪化して「厳しい状況」に

【中小企業団体】は、モニターが会員企業に実施した調査によると、当期における製造業の前年同期比生産額業況指数はマイナス4で、前期(マイナス7)から3ポイント上昇したものの、部材不足による減産の影響や、原材料・燃料の高騰に加え、荷動きの悪さを訴える声が多く、厳しい状況が続いている。一方、小売業の前年同期比販売額業況指数はマイナス39で、前期(マイナス26)から13ポイント悪化しており、「厳しい状況」となっている。

水産は全体的に主要魚種の不漁や加工原料の不足・高騰が

【水産】は、業界全体としては主要魚種の不漁や加工原料の不足、高騰、あるいは輸入の難しさから厳しさが増している。ただし大手水産企業は、魚価の上昇や商品値上げの効果で軒並み業績を伸ばしているという。

このほか、【シルバー産業】は、物価や光熱費の高騰が経営を圧迫しているほか、外国人の介護人材の入国について、先行きが不透明となっている。【葬祭】は単価の下落やネット仲介業者の参入で厳しい状況が続いている。

電力は資源価格高騰とウクライナ情勢が影響

「雨」と判断した業界は【セメント】【電力】【出版】【専修学校等】の4業種。

【電力】は資源価格高騰やウクライナ情勢の影響を指摘。【セメント】はコロナ禍での建設需要の停滞に加えて、人手不足もあり厳しい状況が続いているという。【出版】は販売額の減少を判断理由にあげた。

<次期(2023年4~6月)の業況見通し>

次期(2023年4~6月)の業況見通しについては、42業種のうち「快晴」とする業種が1業種(業種全体に占める割合は2.4%)、「晴れ」が9業種(同21.4%)、「うす曇り」が19業種(同45.2%)、「本曇り」が9業種(同21.4%)、「雨」が4業種(同9.5%)となっている。

遊戯機器と百貨店はインバウンドの回復が好材料に

今回、業況の好転を予想したのは【石油精製】【百貨店】【ガソリンスタンド】【遊戯機器】の4業種。

【遊戯機器】は、プライズゲーム(クレーンゲーム機)を中心とした売上の回復が堅調で、一部の店舗ではコロナ禍以前の売上を超えている。モニターは「インバウンドを含めた客足の回復は確実」とみて、今期の「晴れ」から「快晴」に引き上げた。

【百貨店】は、自社のクレジットカードやアプリを利用する顧客の売上拡大のほか、インバウンドの回復を好材料として、判断を今期の「うす曇り」から「晴れ」に引き上げた。

【石油精製】は今期の「本曇り」から「うす曇り」に、【ガソリンスタンド】は今期の「うす曇り」から「晴れ」にそれぞれ引き上げた。

商社と自動車販売は脱炭素への対応が今後の課題に

一方、悪化を予想したのは【造船・重機】【商社】【自動車販売】【警備】の4業種。【商社】は今期の「快晴」から来期は「晴れ」に引き下げた。他の3業種は今期の「晴れ」から来期は「うす曇り」としている。

それぞれの判断理由をみると、【商社】は「足元では大きな変化は見られない」ものの、資源高の一服やコロナ禍での一時的な需要増の反動などが要因となり、2024年3月期は総合商社7社すべてが減益を見込んでいる。そのうえで今後の課題について「脱炭素やデジタルなど、市況に頼らない事業の持続的な成長モデルの確立」をあげている。

【自動車販売】は、海外メーカーはEV自動車に重点を置いた生産体制と販売方針策であるため、在庫の偏りが顕著になり販売台数が伸びないことを懸念している。

電線は半導体不足の緩和で受注増

今期の判断を継続した業種をみていくと、【電線】(晴れ→晴れ)は半導体不足の緩和で受注量が増加しており、売上高は前年同期比で増加の見込みとしている。また情報通信分野やエネルギー分野では、データ通信量の増大や再生可能エネルギー投資の加速をうけて、今後も事業機会の拡大が見込まれるとした。

鉄道は需要回復や運賃改定で増益を見込む

【鉄道】(晴れ→晴れ)の企業モニターは「円安・物価上昇の影響により、各事業で大幅なエネルギーコストの増加が見込まれる」ものの、「社会経済活動の正常化などを背景とした需要回復や交通事業における運賃改定により、増益が見込まれる」としている。

石膏は首都圏の都市再開発が回復するも地方は低調で厳しさ続く

【石膏】(うす曇り→うす曇り)は、値上げ前の駆け込み需要の反動による需要減のほか、実質賃金の目減りやローン金利の上昇の兆しなどから住宅購入の動きが慎重になっており、低調が続くとみている。地域別では、首都圏中心の都市再開発が回復しているものの、地方は低調で総合的には厳しい状況が続くと予測している。

【出版】(雨→雨)は、「電子化することで売上を増加させている出版社がみられるが、限定的で、業界全体としては売上減少に歯止めがかからない」と報告している。

(調査部)