多くの企業が、両立・復帰支援とともに、女性の意欲喚起を促す社内イベントを開催
 ――企業・業界団体に聞く「女性就業における課題と改善に向けた取り組み」

ビジネス・レーバー・モニター特別調査

JILPTが年4回実施している企業・業界団体モニター調査では、5月に実施した特別調査で、企業・業界が抱える女性就業における課題と、課題改善に向け、どのような取り組みを行っているか尋ねた。課題では、ロールモデルの不在、配偶者の異動・転勤にともなう退職などが報告されるとともに、製造業や運輸業では業界特有の職場環境が復職を難しくしている様子もうかがえた。改善策では、社内全体や女性社員の意識改革、女性の意欲喚起を図るために、様々な社内イベントを実施する企業が多く見られ、女性の登用をすすめるために人事制度や選考制度の見直しにまで踏み込む企業もあった。

特別調査では企業モニター23社、業界団体モニター25組織から回答を得た。

<女性就業における課題>

出産後の職場復帰が難しい建設業界の施工監理職

課題についてのモニターの報告からは、業界特有の作業内容や職場環境による仕事と育児などとの両立の難しさや、復職のしづらさのほか、配偶者の異動の問題、ロールモデルの不在といった内容が目に付いた。

「業種がゼネコンでもともと男性の比率が高く、管理職層レベルで性別に関係なく活用するという意識が弱い部分がある」とする【建設A社】では、近年は女性社員も増えてきたが、まだ若年層が多いためにロールモデルの不在が課題。同性同士で頼れる先輩・上司がいない状況で先行きがみえず、悩むケースがみられるという。

同じく建設業界の【建設B社】は、ライフイベントを迎えている社員が利用できる育児休業制度、フレックス勤務制度、在宅勤務制度などを導入しているものの、女性の施工管理職が出産後に同職への復職ができていないことを課題にあげた。その背景には、「施工管理の職場が長時間労働の職場であることや、建設現場ごとに転勤となるが保育園等を含めた生活圏を簡単には変えられないこと」などがあると指摘した。

【自動車】の企業モニターは「両立期を見据えた中長期的な業務付与や育成計画が不十分」であることや、「現在の管理職と同様の働き方を求められると、特に両立期の女性はキャリアアップをイメージできない」ことのほか、「身近に同じ境遇のロールモデルがいない」ことを課題にあげる。

高温環境での作業で女性進出のハードルが高い

【木材】の業界団体モニターは、丸太や製材加工品などの長大な重量物を扱うことや、乾燥機・ボイラーなど高温環境で作業することなどから、現場作業への女性進出はハードルが高いことを指摘。その一方で、総務・会計部門などの事務職においては、女性就業の状況は一般企業と変わらないとしている。

【金属製品】の業界団体モニターは、勤務形態や職場環境・作業現場などの面で女性の就業を考慮すると、「設備投資や業務面での見直しや教育体系・就業規則・ハラスメント対策等で、いろいろな課題が浮き彫りになってきている」とした。

夜間や屋外作業がネックでフルタイム勤務に復帰できない場合も

【鉄道】の業界団体モニターは、柔軟な働き方について「一昼夜交代制シフト勤務が中心で、夜間・屋外作業もあり実現しにくい状況」だと報告。育児休業や短時間勤務などを活用し、子育てと仕事を両立する女性社員も多いものの、「短時間勤務が終了するタイミングで宿泊勤務に戻れず、退職してしまうケースが多い」のだという。こうした理由で女性社員の勤続年数は伸び悩んでおり、女性の管理職比率も上昇しない状況にあると述べた。

【港湾運輸】の業界団体モニターは労働環境について「屋外での現場作業が主体となっているため、暑さ・寒さ・悪天候などで厳しい」としたうえで、「就業場所も生活圏から離れた場所が多く、通勤に関しても他産業と比べて不利」と報告。また、不規則な勤務時間のほか、トイレや更衣室などの女性が働くための環境整備も「必ずしも進んではいない状況」と報告した。

配偶者の海外赴任や駐在が退職のきっかけに

【非鉄金属】の業界団体モニターは、会員企業から聞かれるケースとして、配偶者の海外赴任により一時的な離職を余儀なくされる場合があるとしている。

【商社】の業界団体のモニターは、育児・介護との両立の難しさのほか、家族帯同での海外駐在のハードルの高さが課題となっていると報告した。

女性が多い職場でも働く女性の意識に差が

【百貨店】の企業モニターは、社員の7割以上が女性であるものの、①育児をしていても働く意欲、働ける時間には個人ごとに差がある②配偶者の転勤などで辞めてしまう人も少なからずいる③昇格をしたいと思っていても能力向上の機会が少ない人がいる――といった課題があると指摘した。

【職業紹介】の業界団体モニターは、5月8日からの新型コロナの5類移行により、「在宅勤務から出勤要請への回帰の傾向が一部にみられ、育児等との両立がしにくくなるなど、一定の揺り戻しが懸念される」と指摘している。

<改善に向けた取り組み>

復職者だけでなくその上司も対象に研修を実施

女性就業の改善に向けた取り組みについての回答内容をみると、上司に対する研修をはじめ、パネルディスカッション、セミナー、懇親会など、社内全体や女性社員の意識改革、女性の意欲喚起を図るための取り組みや、女性登用を促進するための人事制度や選考制度の見直し、配偶者の転勤時の休職を認める制度の導入などがみられた。

【建設B社】は、社員が仕事と育児を両立して活躍するには、周りの社員、とりわけ管理職の理解が不可欠と考えていると指摘。そのため、育休からの復職者とその上司を対象に「仕事と育児の両立研修」を開催しているという。また、2024年度からは建設業でも罰則つきの時間外労働の上限規制が適用されることから、現場の長時間労働是正に向けた取り組みも推進していることを報告した。

女性登用を進めるために選考の仕組みを見直し

【電機】の企業モニターは、これまでの上位等級群への登用の選考プロセスにおいて、膨大な準備や長時間の研修・指導などが候補者の大きな負担になっており、多くの時間を割くのが難しい育児休業復帰者や短時間勤務者等にとっては、アンフェアな仕組みとなっていたことから、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンを推進する取り組みの一環として、2022年度からは登用選考のあり方を見直したと報告。

選考面談にかかる候補者の負担を軽減し、ライフステージによる影響が少ないフェアな選考機会へと改めた。具体的には、本人準備物を廃止したほか、過度な指導をなくし、選考において日常評価を重視する仕組みとしたという。

【食品】の企業モニターは、2022年4月に人事制度を改定し、いわゆる一般職(専門性を追究する職群であるプロフェッショナル群)においても管理職に登用することが可能となったことから、女性を管理職へ登用する機会が増加したと報告。また、他社で実際に活躍している女性リーダーを講師に招いてパネルディスカッションなどを行うことで、管理職候補となる女性の意欲喚起を図っているという。

【鉄道】の企業モニターも、自律的なキャリア形成の支援やダイバーシティ推進を目的として、女性管理職として活躍する社外講師を招いたキャリアセミナーを開催している。そのほか、社内で活躍する女性管理職によるトークセッションや懇親会も設けており、ネットワーク形成や積極的な交流を促しているという。

配偶者の海外赴任への帯同のための休職制度を導入

【電線】の企業モニターは、社員の配偶者が海外に1年以上赴任しそれに帯同する場合は、5年を上限に休職を認める制度を導入している。また、出産や育児などを理由にやむを得ず退職した人に対して、職場および業務のマッチングを条件に再雇用する制度も導入していることを報告した。

【百貨店】の企業モニターからも、配偶者が転勤する場合に6カ月~3年の休職制度を設けているとの報告があった。

情報開示に向けて業界団体がハンドブックを発行

【商社】の業界団体モニターは、有価証券報告書において女性の管理職比率を含む人的資本情報の開示が義務づけられたことをふまえ、開示を進めるうえでの参考資料として会員企業に活用してもらう「商社のための人的資本情報開示ハンドブック」を発行したと報告した。

海外駐在の機会が多いことから、会員企業で駐在を経験した女性や育休を取得した男性に対して、キャリア形成や働き方についてのインタビューを実施し、多様なロールモデルのあり方を会報誌やウェブサイトを通して発信しているという。

また、2022年度には、海外駐在経験のある女性によるパネルディスカッションを開催。今後、駐在を目指す社員やダイバーシティ担当者ら約200人に向けて、パネラーがライフイベントとの両立やキャリア形成に関してメッセージを送る内容で、参加者からは、「キャリアの築き方の例として良い刺激を受けた」「今後の駐在制度設計の参考になる有益な話を伺えた」などの声が寄せられたという。

機械化、IT化で女性社員の活躍の拡大を予測

【鉄道】の業界団体モニターは、会員企業の情報共有や意見交換の場を作ることで、各社にとって有益な情報を共有しているとし、そのうえで今後については、「自動運転をはじめ、各種業務の機械化、IT化が進み、これまでは人が行っていた鉄道運営業務の一部が圧縮・縮減されていく見通し」であることから、「業務の内容・質が変化し、既存の勤務形態に捉われない柔軟な働き方が可能となり、女性社員の活躍の場も広がっていく可能性が高い」との見方を示した。

このほかの報告では、【港湾運輸】の業界団体モニターが、誰もが利用しやすいような清潔な食堂・トイレ・休憩室など職場環境の整備を進め、イメージアップを含めたPR活動を展開していると回答。【職業紹介】の業界団体モニターは、啓発活動として在宅勤務の好事例の共有の場を各地区ブロック会などで設定していると報告した。

(調査部)