【公益産業の賃上げ交渉】
公益企業における2023春闘の結果

春闘取材

2023春闘は、前段の記事にあるように、製造大手を中心に満額回答を含む大幅賃上げが相次ぎ、連合集計では直近の賃上げ率は3.67%と、5月に入ってからも比較可能な2013年以降で最大の伸び率を堅持している。その一方で、妥結状況は産業や企業などでバラつきもみられる。JPやNTT、電力各社など連合のインフラ・公益共闘連絡会に属する企業労使の今春闘の結果を追う。

ベア4,800円、特別一時金7万円で決着/日本郵政グループ

日本郵政グループの春闘交渉は3月15日、正社員の労働条件改善について、定期昇給分とベースアップ分をあわせた5%の賃上げ要求に対し、会社側が定昇プラス月例賃金4,800円の引き上げと一人7万円の特別一時金の支給を回答し、決着した。ベアの一部は若年層や新卒初任賃金に配分され、新卒初任賃金は1万円以上の引き上げになる。賃金改善、特別一時金をあわせた賃上げ率は5.11%。年間一時金は、4.3カ月分とした。

賃上げ額は民営化以後最大

JP労組は今春闘の労働条件改善で、「生活を維持し安心して働き続けるための賃金要求」として、定期昇給分2%に加え、ベースアップ3%をあわせた5%の賃上げと、一時金を含めた年収水準の維持・向上を求めた。これに対し、会社側は①定期昇給の完全実施(2.04%)②基準内賃金の正社員一人あたり4,800円(1.62%)引き上げ③特別一時金7万円(1.45%)と、一時金4.3カ月の支給を回答し、決着した。賃上げ4,800円は民営化以後最大。定昇と賃金改善、特別一時金をあわせた賃上げ率は5.11%相当で、要求の「5%以上の賃上げ」をクリアした。年間一時金は4.3カ月で妥結している。

特別一時金は時給制・月給制の期間雇用社員にも

賃金改善については、4,800円のうち2,700円分を全社員一律の改善分としたうえで、一般職と地域基幹職等の若年層に一人あたり2,100円相当のベアを傾斜配分する。これにより、正社員・中高年層に一定の改善がみられるとともに、若年層の格差是正も図られる格好。この結果、新卒の初任賃金は1万円以上の引き上げが見込まれるという。

さらに、交渉の過程で会社側が示してきた特別一時金7万円は、正社員だけでなく期間雇用社員等も含め一律に支給される。ただし、所定労働時間による区分はあり、週20時間以上30時間未満は一律3万5,000円、週20時間未満は一律1万7,500円となっている。

なお、年間一時金は4.5カ月の要求に対し、前年実績の4.3カ月分を確保した形だ。

一般職から地域基幹職への転換枠を倍増

一方、事業を存続させていくために労組側が求めている持続的な労働力の確保については、日本郵便の新規採用者を昨年度から500人上積みする。「正社員登用者数」も昨年度比200人増とするほか、「一般職から地域基幹職へのコース転換」も1,800人上積みして前年度から倍増。ゆうちょ銀行とかんぽ生命の「正社員登用」および「地域基幹職へのコース転換」に関しても、合格基準を満たす社員は予定数に限らず、積極的な登用を実施することで決着した。

月例賃金3,300円の賃上げで妥結/NTTグループ

NTTグループの交渉は3月15日、月例賃金を一人平均で3,300円引き上げることなどで労使合意した。特別手当(一時金)も主要各社で昨年水準から上積みが図られたが、生活防衛のための特別一時金は見送られた形となった。

正社員の賃金改善は10年連続

NTT労組は今春闘で、月例賃金で2%の引き上げと、生活防衛への措置として年間10万円を要求することなどを柱に据え、ストライキ権の確立を含む闘争体制で臨んでいた。

交渉の結果、月例賃金については、基準内賃金の資格手当(グレード賃金)の引き上げ見合い700円相当と、基準外賃金の成果手当(新たな成果手当支払基礎額)の引き上げ分2,600円相当をあわせ、主要会社の正社員一人平均3,300円(前年比1,100円増)の改善で妥結した。社員の賃金改善は10年連続。今回は過去9年間と比較して最高水準の引き上げが図られた形になった。

なお、昨年水準を基本に業績堅調な会社は上積みをめざす方針で臨んだ特別手当についても、主要各社それぞれで上積みが図られている。

昨年に続き全雇用形態で賃金改善が

60歳超の継続雇用の月給制社員は、個人業績を反映する手当を月平均2,250円相当の改善。有期・無期雇用および60歳超雇用(時給制)についても、社員に準じた賃金改善(改定水準は社員に上積みして実施)など、昨年に続き、すべての雇用形態での賃金改善を引き出して決着している。

なお、生活防衛のために「切実な要求として、会社側に決断を求めていく」(NTT労組・鈴木克彦委員長)としていた「年間10万円」の特別一時金はゼロ回答だった。

中部電力などで3,000円の満額回答/電力各社の妥結結果

電力総連・電力部会に属する労働組合には、各社から3月16日までに回答が示された。高卒30歳勤続12年などのポイントでの3,000円の賃金改善要求に対し、中部電力と電源開発、JERAが満額回答したほか、九州電力は1,000円、北海道電力は若年層に対し一人平均1,500円の改善回答となった。

北海道電力は若年層の改善と初任給を引き上げ

今春闘で賃上げ分の有額回答を示したのは、北海道電力、中部電力、九州電力、電源開発、JERA。各社が公表した妥結内容をみると、北海道電力は「人材の流動化が活発となっている中、今後も電力の安定供給を継続していくための人材の確保・定着を図るとともに、会社が将来にわたって成長を続けていくためには、『人への投資』が重要」だとして、若年層について一人平均1,500円程度の賃金改善の実施を決定。新卒初任給についても、高校卒、短大卒、高専卒、大学卒、大学院卒の各学歴について5,500円を引き上げることとした。一方、賞与は前年比0.10カ月減の年間3.90カ月で妥結している。

中部電力は、高卒29歳勤続11年ポイントで配偶者扶養の者に3,000円の賃金改定を求めた組合要求に対し、満額で回答。年間賞与は、1人あたり平均年間総額163万円(組合要求は166万円)で決着した。初任給は、高校卒と短大卒は5,000円、高専卒は8,000円、大学卒と大学院卒は1万円をそれぞれ引き上げる。

九州電力は、組合側の高卒30歳勤続12年配偶者扶養の標準労働者の月例賃金3,000円の引き上げ要求に対し、経営側が組合員平均で月額1,000円のベアを実施することを回答し、決着。賞与は年間3.69カ月(組合要求4.22カ月)で収束した。 このほか、電源開発とJERAも満額回答で妥結している。

月例賃金改定未実施でも健康支援や家計負担に配慮

一方、モデル賃金での3,000円の賃金改善要求への回答がなかったのは、東北電力、北陸電力、関西電力、四国電力など(いずれも賃金カーブ維持分は確保)。ただし、賃金改善以外では健康支援や物価上昇分への配慮をみせた回答もある。

北陸電力は、月例賃金および初任給の3,000円の引き上げ要求に対し、「電気料金の改定によりお客さまに負担をお願いしていることを踏まえ、月例賃金引き上げおよび初任給の改定は実施を見送る」とした。賞与も前年度より約1割引き下げて「年間3.3カ月+5万円」で決着した。北陸電力によると、この水準は「東日本大震災前の2010年度から約3割引き下げた水準になる」という。その一方で、今回の労使交渉では、従業員の健康推進施策の一環として、非喫煙者・禁煙達成者を対象に健康増進支援金1万円を2023年度中に支給することも合意している。

関西電力も賃金改定を「実施しない」内容での妥結となったが、「物価上昇を受けた家計負担増加に対する手立て」として全従業員に5万円を支給することで合意した。なお、同社の賞与は業績連動で決める仕組みになっている。

東北電力は冬季分の賞与を継続協議に

東北電力は月例賃金3,000円に加えて高卒~大学院卒で2,000~2,400円の初任給の引き上げを求めていたが、どちらも「実施しない」ことで労使交渉を終えた。賞与は組合側が年間152万6,000円を求めていたが、経営側の回答は夏季分として一人平均46万1,000円。冬季分は継続協議となった。

月額3,000円の増額と年間総額155万4,000円の賞与を要求していた四国電力も、賃金改定は「実施しない」回答。賞与は年間154万7,000円で妥結した。

年収水準3%と初任給を引き上げ――東京電力

一方、年俸制を採用している東京電力では、東京電力ホールディングスと東電労組の交渉の結果、「年収水準3%引き上げ」で妥結した。初任給も高卒~大学院(博士)で6,100~9,300円引き上げる。

このほか、一時金は「2022年度の厳しい業績予想を踏まえて」不支給で決着したが、「足元の物価上昇等の影響を踏まえ、社員の心身の健康、子育てや介護等を支援するため、カフェテリアプランにおけるポイントの追加付与を実施」するとしている。

KDDIは5%の賃金改善、JTは物価上昇に対する一時金15万円で決着

上記以外では、KDDIで労組が定期昇給相当分を含め5%の賃金改善を求め、3月15日に要求どおりで決着。月給制の契約社員にも、「職種・地域に応じて9,000~1万7,000円のベア+一時金として4万円」を支給する。

ちなみに、日本専売公社のたばこ事業を引き継ぎ、1985年に設立した日本たばこ産業(JT)では、3月3日に定期昇給分を確認したうえで、物価上昇に対する一時金を15万円支給する内容で全日本たばこ産業労働組合(フード連合加盟)と妥結している。

(新井栄三)