【組合調査】
価格転嫁の協議をしやすい環境は整いつつあるが、転嫁の実行面では課題残る
 ――JAM「2022年企業状況と取引実態に関する調査結果」

春闘取材

機械、金属関連の中小労働組合を多く抱えるJAM(安河内賢弘会長)がさきごろまとめた「2022年企業状況と取引実態に関する調査結果」によると、経営上の問題点として、9割を超える企業が「原材料・部品価格の値上げ」を1位~3位までの項目としてあげた。2021年度上半期以降で、主要な製品納入先に対する価格転嫁の協議を7割の企業が実施し、協議しやすい環境が整備されつつあることが確認できたものの、発注変更での費用発生を経験した企業の3割超が、費用分を「転嫁してもらえなかった」と回答。転嫁についての協議を申し込むこと自体を行わない企業も多い実態が浮き彫りとなっている。

調査は、2022年11月~2023年1月に実施。JAMに加盟する労働組合の企業担当者および労働組合役員を対象とし、1,825社・事業所に調査票を配付。944社・事業所(51.7%)から回答を得た。なお、JAMでは加盟組合の8割以上を組合員300人未満の組織が占めている。

<最近の経営状況>

最大納入先と取引期間が長期に及ぶ企業が多い

最近の経営状況からみていくと、ここ2~3年の製品納入企業数の変化について、「ほとんど変わらない」が76.4%と8割弱を占め、「増加した」が16.4%、「減少した」が7.2%だった。

最大の製品納入先企業の変更については、「変更がなかった」が91.6%にのぼった。売上高における最大納入先企業の割合は、「20%未満」が40.4%で最も割合が高く、40%未満と回答した企業が全体の3分の2を占めた。業種別にみると、「輸送機械」で40%以上の回答割合が約55%を占め、納入先を1社に依存する傾向が特に強い状況がうかがえた。

最大納入先企業との取引期間をみると、「30年以上」が65.0%を占めた。

<経営上の問題点>

問題点のトップは「原材料・部品価格の値上げ」

直面している経営上の問題点を、1位~3位までそれぞれ1項目ずつ選んでもらったところ、1位では、「原材料・部品価格の値上げ」が49.9%で最も割合が高く、「販売数量の減少」が20.5%で続き、次いで「エネルギー価格の上昇」(11.4%)が高かった。業種別にみると、第1位の割合として「輸送機械」だけが、「販売数量の減少」(35.7%)が最も高く、他の業種ではすべて、「原材料・部品価格の値上げ」の割合が最も高かった。

2021年度上期と比較した2022年度上期の製品の販売価格の動向をみると、「一部納入先で上昇」(24.5%)と「おおむね上昇」(29.6%)を合わせ、半数超が上昇を回答し、価格転嫁が進みつつある様子も見て取れたが、「ほとんど変化なし」も35.7%にのぼった。業種別にみると、「鉄鋼業」で「一部納入先で上昇」と「おおむね上昇」を合わせた割合が約77%にのぼったが、「輸送機械」などでは「一部納入先で低下」「ほとんどの納入先で低下」を合わせた割合が10%台後半に及んだ。

<取引上の問題点>

3割が主要納入先から価格引き下げ要求を経験

2021年度上期以降での主要な製品納入先からの価格の引き下げ要求の有無について、「あった」が32.8%で、「なかった」が67.2%となっている。「あった」の割合を規模別にみると、「3,000人以上」(50.7%)や「300~499人」(39.4%)で比較的高い。

引き下げ要求があった時期をみると、「契約期間中にあった」が61.9%で、約6割の企業が契約期間中に引き下げを要求されている。業種別にみると、「契約期間中にあった」の割合は「電気機械」が75.0%で最も高かった。

価格引き下げ要求の内容をみると(複数回答)、「VA、VE活動の結果による」が26.0%で最も割合が高く、次いで「製品数量の増加に伴う単価引き下げ」(23.3%)、「算定根拠に乏しい理由による」(21.5%)、「海外からの輸入製品との価格差による」(17.8%)などの順で高かった。なお、VAは、「Value Analysis」(価値分析)の略であり、VEは「Value Engineering」(価値工学)の略。規模別にみると、「算定根拠に乏しい理由による」の割合が299人以下で比較的高く、「1~99人」では29.5%とほぼ3割に達している。

価格引き下げ要求への対応状況をみると、「ほとんど応じている」が13.0%、「一部応じている」が65.7%、「ほとんど応じていない」が21.3%で、約8割の企業が応じている状況となっている。業種別にみると、「ほとんど応じている」と「一部応じている」を合わせた、応じている企業割合は「電気機械」が約95%で最も高く、以下、「輸送機械」(約89%)、「一般機械」(約88%)、「精密機械」(約82%)などの順で高い。

価格転嫁の協議は7割以上が実施

2021年度上期以降での主要な製品納入先に対する価格転嫁の協議状況では、「協議した(応じた)」が76.2%、「協議しなかった(応じなかった)」が23.8%で、交渉しやすい環境が整いつつある様子がうかがえた。

協議の実施状況を項目別にみると、「協議した(応じた)」割合は、<労務費・固定費>では36.8%、<原材料・部品価格>では91.6%、<エネルギー価格>では66.2%などとなっており、労務費やエネルギー価格については協議しにくい状況があることが見て取れる。

コスト上昇の状況別に価格転嫁の協議割合をみると、<労務費・固定費>についてはコスト上昇率が高くなるほど「した(応じた)」割合が高くなっており、上昇率が「50%以上100%未満」の企業では約80%に及んでいる。また、<原材料・部品価格>では、上昇率が「10%以上20%未満」の企業でも約95%と大半の企業が「した(応じた)」と答えている。<エネルギー価格>では、上昇率が10%以上の各企業で、「した(応じた)」の割合が6割以上となっている。

低い労務費の価格転嫁率

価格転嫁の状況(何%転嫁したか)を項目別にみると、<労務費・固定費>では、「0%以上10%未満」が44.1%で最も割合が高く、次いで「0%未満(マイナス)」(19.8%)、「10%以上40%未満」(14.6%)などとなっている。10%未満しか転嫁できていない企業が全体の6割以上を占める。<エネルギー価格>では、「0%以上10%未満」が32.3%で、「10%以上40%未満」が25.0%などとなっており、全体の4割が10%未満となっている。<原材料・部品価格>では、「0%以上10%未満」が25.7%、「10%以上40%未満」が30.4%などとなっており、半数以上が40%未満となっている。

<納期、発注条件>

発注変更での発生費用について3割は転嫁してもらえず

発注者の都合による発注内容の変更の有無について、「あった」が75.2%にのぼり、「なかった」が24.8%となっている。また、発注変更で費用が発生したか尋ねると、「発生した」が61.2%にのぼった。

発生した費用について、「転嫁してもらえた」企業の割合は67.6%で、「転嫁してもらえなかった」が32.4%だった。価格転嫁してもらえなかった理由をみると(「その他」の回答を除いた割合)、「コストは上昇しているが、自社で吸収可能であるため、協議を申し込まなかった」が約43%で最も割合が高く、「協議を申し込み、話し合いに応じてもらえたが、合意に至らなかった」が約32%、「協議の申し込みを行ったが、協議に応じてもらえなかった」が約4%、「取引を断られる等のおそれを考慮し、協議を申し込まなかった」が約21%で、3割弱が協議を行えない状況にあった。

パートナーシップ構築宣言は半数以上が「知らない」

パートナーシップ構築宣言の認知度を尋ねると、「知らない」が55.4%、「知っている」が44.6%で、知らないが半数以上だった。パートナーシップ構築宣言への登録状況をみると、「登録した」は19.7%にとどまった。登録した際に取り組んでいる内容をみると(複数回答)、「価格決定方法」が27.7%で、「手形などの支払い条件」が21.6%、「型管理などのコスト管理」が18.7%などとなっている。

(調査部)