【茨城】仕入れ価格の上昇を価格転嫁する動きが製造業を中心に進むも、転嫁率の向上が課題

地域シンクタンク・モニター調査

茨城県の経済動向は、10~12月期は、半導体の供給制約緩和や観光支援策が好材料となっているものの、物価高の影響があるとして【横ばい】となった。1~3月期は、前年同期の急落からの反動をうけて【好転】。モニター実施の調査によれば、仕入れ価格の上昇を価格転嫁する動きが製造業を中心に進んでいるものの、転嫁率の向上が課題となっている。雇用動向については、10~12月期の実績は労働需給の改善が続き持ち直していると判断して【横ばい】、1~3月期の見通しも経営動向の調査結果から【横ばい】の見込みとなっている。モニター実施の調査によれば、最賃引き上げによるパートタイム労働者の就労調整で、企業の費用負担の増加や生産性低下を指摘する声もある。

<経済動向>

半導体の供給制約緩和などが好材料となるも、物価の高騰が収益を圧迫

茨城県のモニターが実施する「県内主要企業の経営動向調査(10~12月期)」によれば、県内企業の景況感をあらわす自社業況総合判断DIは、全産業ベースで「悪化」超18.1%と、前期調査の「悪化」超19.5%からおおむね横ばいだった。

業種別にみても、製造業は「悪化」超12.8%、非製造業は「悪化」超22.4%でともに前期から横ばいだった。

モニターは製造業について、「半導体等の供給制約の緩和、円安による輸出製品への好影響などの明るい声が聞かれた一方で、エネルギー価格を含む諸物価の高騰が利益を圧迫しているとの声も多く上がっている」としたほか、非製造業については「7月以降の行動制約の大幅緩和、『全国旅行支援』や『茨城プレデスティネーションキャンペーン』をはじめとする大型の観光需要喚起策が好材料となったものの、新型コロナの悪影響を指摘する声も依然として多い。また、製造業と同様に、記録的な物価高も大きな課題となっているとみられる」として、10~12月期の地域経済を【横ばい】と判断した。

来期は前年同期の急落からの反動で好転

1~3月期については、「自社業況総合判断DIは全産業で『悪化』超13.5%と今期から4.6ポイント改善する見通し」。これを業種別にみると、「製造業は『悪化』超7.5%で今期から5.3ポイント上昇の見通し、非製造業は『悪化』超18.0%で今期から4.4ポイント上昇する見通し」となっている。

モニターは「上昇見通しの主要因は、前年同期のDI急落の反動と推測される」とコメントしたうえで、先行きを【好転】と判断した。

価格転嫁した企業の4分の3が「取引先との継続的な交渉」を実施

モニターは県内企業に対して12月に「仕入価格の上昇に関する企業調査」を実施した。それによると、①前年比で仕入価格が「上昇した」企業は8割超②このうち販売価格へ「転嫁している」企業は6割弱、製造業を中心に価格転嫁が進展③ただし価格転嫁率は「1~20%」が4割で最多、転嫁率の向上が課題――といった状況にあるという。

「転嫁している」企業における、価格転嫁が可能だった理由については「取引先との継続的な交渉の結果」が75.5%で最も高く、2位以下に50ポイント以上の大差をつけている。一方、価格転嫁をしていない企業における、その理由については「他社との競合が激しい」が51.9%で最も高く、次いで「取引先との交渉が困難」が44.2%、「長期契約により中途変更が困難」が21.2%などとなっている。

回答した企業からは、「取引先と価格交渉しているものの、いまだに決着がつかない」(電子部品・デバイス製造業)、「同業他社が値上げを実施しないため、他社への取引の切り替えを懸念し、思い切った価格転嫁ができない」(医療用品製造業)といった声が上がっており、転嫁率の向上に課題を抱える県内企業も少なくないとみられる。

<雇用動向>

雇用保険受給者数は減少するも、事業主都合の離職者は増加

10~12月期の雇用動向については、雇用指標をみると、12月の有効求人倍率は1.52倍で前月と同じだった。新規求人倍率は2.39倍(前月比0.05ポイント低下)で2カ月ぶりに低下した。雇用保険受給者数は7,967人で前年同月比8.4%減少と、18カ月連続で前年水準を下回ったものの、事業主都合離職者数は443人で同64.1%増加と、3カ月ぶりに前年水準を上回った。

モニターが実施した「県内主要企業の経営動向調査結果(10~12月期)」をみると、雇用判断DIは「減少」超4.6%と、前期(「増加」超0.4%)から約5ポイント低下した。業種別にみると、製造業が「増加」超3.2%と前期からおおむね横ばいだったのに対して、非製造業は「減少」超10.8%で前期から約11ポイント低下した。

こうした各種指標からモニターは、10~12月期の雇用の実績を「指標によっては変化の兆しが窺えるものの、総じてみれば労働需給の改善は続いており『持ち直している』との判断を据え置いた」として【横ばい】と判断した。

雇用判断の先行きは横ばい

また1~3月期の雇用状況の見通しについても、同調査の先行き(1~3月期)の結果をもとに、「雇用判断DIは全産業で『減少』超1.9%と今期からおおむね横ばい。業種別では、製造業が『増加』超1.1%でおおむね横ばい、非製造業が『減少』超4.2%で今期から約7ポイント上昇する見通し」として、【横ばい】と判断した。

最賃引き上げにコスト削減や価格改定で対応

モニターは県内企業に対して12月に「最低賃金引上げの影響に関する企業調査」を実施した。それによると、①10月の最低賃金の改定を受けて、賃金を引き上げた企業は5割②最低賃金改定が「経営に影響する」とする企業は6割弱、コスト削減や価格改定等で対応③長引くコロナ禍や記録的な物価高などから、特に製造業で支援を必要とするケースが増加――といった状況にあるという。

回答した企業からの具体的な声では、「パートの大部分は扶養範囲内での就業を希望しており、最低賃金を引き上げると出勤日数を調整する。企業の費用負担が増え、生産性が低下する悪循環に陥る」(プラスチック製品製造業)、「賃金を引きあげても『103万円の壁』、『130万円の壁』があり、パートの所得は実質的に増えない。上限を200万円程度まで引き上げてほしい」(電子部品・デバイス製造業)など、最低賃金制度ではなく、税制や労働政策についての要望もあった。

(調査部)