【近畿】行動制限解除で消費は好調な一方、企業の価格転嫁は進まず

地域シンクタンク・モニター調査

近畿の7~9月期の経済動向は、行動制限の解除で消費は好調なものの、企業の価格転嫁が十分に進まない状況で、【横ばい】となった。10~12月期の見通しは、旅行需要が好調で景況判断も改善していることから、【やや好転】の見込み。雇用指標は、7~9月期実績については、人手不足感が強まっていることなどから、【やや好転】としているが、10~12月期見通しについては雇用の回復が一服したとみて、【横ばい】としている。

<経済動向>

高額商品は好調だが、スーパーは内食需要の後退で悪化

7~9月期について、近畿地域の家計部門の動向をみると、大型小売店販売額は9,015億円で前年同期比プラス5.2%となり、4四半期連続で前年を上回った。行動制限が課されなかったことで、特に百貨店が同プラス18.0%で大幅増となった。商品別では時計や宝飾品などの高額商品や衣料品が好調だった。スーパーマーケットは同マイナス0.8%で小幅に悪化した。モニターはスーパーの悪化理由について、「百貨店とは反対に、特段の行動制限がなかったことから内食需要が後退したと考えられる」とコメントしている。

企業部門の動向をみると、経済活動が正常化に向かっていることや、上海のロックダウンの影響が落ち着いたことから、おおむね緩やかに持ち直した。生産はやや持ち直し、設備投資計画も積極的な姿勢がうかがえる。

景況感の改善に歯止めかけるコスト上昇の速さ

景況感については、日銀短観(9月)をみると、業況判断DIは3で前期から2ポイント上昇し、4四半期連続でプラス圏を維持した。規模別にみると、大企業が11(前回調査比プラス3ポイント)、中堅企業が6(同マイナス1ポイント)、中小企業がマイナス3(同プラス2ポイント)と、いずれも小幅な動きとなっている。業種別では製造業が1(同プラス2ポイント)、非製造業が4(同プラス1ポイント)だった。

大阪商工会議所・関西経済連合会「経営・経済動向調査」(調査期間8月18日~9月1日)によると、自社業況BSIはマイナス4.1で前期比プラス3.9ポイントとなり、3四半期ぶりに改善した。業種別では製造業がマイナス9.3、非製造業がマイナス1.1で、いずれもマイナス幅が縮小している。

同調査では、原材料や資源・エネルギー価格の高騰、円安等による仕入れコストや物流コスト等の上昇分をどの程度価格転嫁できているかも尋ねている。それによると、「転嫁できていない(0%)」が16.5%、「25%未満」が18.9%、「25~50%未満」が14.5%で、転嫁率が半分以下の企業が約半数となっている。さらに、価格転嫁が難しい理由を尋ねたところ(複数回答)、「コスト上昇の速度が速く価格転嫁が追いつかない」が49.8%、「取引先との価格交渉の結果」が46.8%だった。モニターは「こうした状況が景況感の改善に歯止めをかけていると考えられる」とコメントしている。

輸出額は8四半期連続で前年比増に

輸出の動向をみると、関西の輸出額は5兆5,470億円で、前年同期比プラス18.3%となり8四半期連続で前年を上回った。地域別にみると、米国・EU向けは堅調だが、中国向けはロックダウンの影響もあり、欧米に比べると小幅な伸びにとどまった。

設備投資計画については、日銀短観(6月)によると、2022年度は前年度比プラス16.6%で3月調査時点(前年度比プラス2.3%)から上方修正されている。業種別にみると、製造業が同プラス24.2%、非製造業が同プラス11.5%といずれも2桁増の状況。

以上を勘案し、モニターは「前期に続き緩やかに持ち直した」として、7~9月期の判断を【横ばい】とした。

国内旅行の需要増でサービス関連を中心に景況感が改善

10~12月期の見通しについては、【やや好転】と判断した。

11月の大型小売店販売額は3,210億円で前年同月比プラス4.7%と14カ月連続で増加となった。11月の建設工事(出来高ベース)は6,641億円で同プラス6.5%と、11カ月連続で増加した。

12月の景気ウォッチャー調査の現状判断DIは52.0で、前月から2.6ポイント上昇した。改善は5カ月連続。モニターは「国内旅行やインバウンド需要の増加により、景況感はサービス関連を中心に改善している」とコメントしている。

<雇用動向>

飲食・宿泊を中心に強い人手不足感が

7~9月期の雇用実績について、モニターは「緩やかな改善が続いている」「人手不足感はコロナ禍前の水準に近づいている」として、【やや好転】と判断した。

具体的な理由として、「有効求人倍率は1.20倍で、前期から0.07ポイント上昇」「新規求人倍率は2.26倍で前期から0.09ポイント上昇」「完全失業率(モニターによる季節調整値)は2.7%で前期から0.3ポイント低下」と改善がみられることを指摘した。

日銀短観(9月調査)によると、雇用人員判断指数DI(「過剰」-「不足」)はマイナス26で前回調査から4ポイント低下している。業種別では製造業がマイナス19、非製造業がマイナス32で、特に飲食・宿泊をはじめとする非製造業で不足感が強い。大阪商工会議所・関西経済連合会「経営・経済動向調査」の結果をみても、雇用判断BSIはマイナス20.6で前回調査(マイナス20.1)に続き不足感が拡大している。

10~12月期の雇用の見通しについては、失業率が悪化し就業者数も減少に転じたことから、「雇用の回復は一服したとみられる」として、【横ばい】と判断している。

(調査部)