6割近い企業で、正社員との間の「不合理な待遇差の禁止」に対応して待遇を見直したか、待遇差がない状況に
 ――厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」

スペシャルトピック

厚生労働省が11月25日に発表した「パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」の結果によると、2020年4月に施行された改正パートタイム・有期雇用労働法(中小企業は2021年4月施行)が規定する正社員との間の「不合理な待遇差の禁止」に対応して、パートタイム・有期雇用労働者の待遇について見直した企業は28.5%で、待遇差がない企業の割合と合わせると6割近くを占めた。見直した待遇(複数回答)としては、「基本給」(45.1%)をあげる割合が最も高かった。

調査は、全国の事業所から約2万9,000事業所、また、このうち5人以上の常用労働者を雇用する事業所で働くパートタイム・有期雇用労働者から約2万3,000人を無作為抽出して、2021年10月1日現在の状況について尋ねた。有効回答率は事業所調査が51.9%で、個人調査が57.1%となっている。

改正パートタイム・有期雇用労働法への対応状況

不合理な差を設けてはならないことの認知度は7割超

2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)に施行された改正パートタイム・有期雇用労働法では、正社員とパートタイム・有期雇用労働者との「均衡処遇」と「均等処遇」について、「均衡処遇」については、①職務内容②職務内容・配置の変更範囲③その他の事情、を考慮して不合理な待遇差を禁止。「均等処遇」については、①職務内容②職務内容・配置の変更範囲、が同じ場合は差別的取り扱いを禁止した。また、パートタイム・有期雇用労働者から求めがあった場合に、待遇の内容・理由や待遇の決定にあたって考慮した事項の説明を行うことを義務付けた。さらに、説明を求めたことを理由とした解雇などの不利益取り扱いを禁止した。

こうしたパートタイム・有期雇用労働者に関する法令の認知度を聞いたところ、「事業主は、パートタイム・有期雇用労働者の雇入れの際、賃金や教育訓練制度、福利厚生施設の利用、正社員転換措置等について説明しなければならない」「事業主は、パートタイム・有期雇用労働者から求められた場合、正社員との間で待遇の決定基準にどのような違いがあるか、違いがある場合はその理由等を説明しなければならない」「事業主は、パートタイム・有期雇用労働者の待遇について、正社員との間で不合理な差を設けてはならない」「事業主は、パートタイム・有期雇用労働者の職務内容や人事異動等の有無や範囲が正社員と同じ場合、正社員との間で差別的な待遇としてはならない」については、「よく知っている」と「だいたい知っている」を合わせた企業の割合がそれぞれ7割を超えた。

一方、「事業主、パートタイム・有期雇用労働者のいずれも、待遇に関する紛争が起こった場合、都道府県労働局に紛争解決の援助を求めることができる」については、同割合は5割に達しなかった。

採用時の待遇の説明はほとんどの企業で実施

2020年4月以降(中小企業の場合は2021年4月以降)の採用時などにおける待遇の説明の実施状況をみると、パートタイム・有期雇用労働者の採用があった企業のうち、「説明している」企業の割合は96.8%と大半を占めた。説明の方法をみると(複数回答)、「個々のパートタイム・有期雇用労働者に対して、待遇の内容を記載した文書を交付している」企業が64.5%で最も多かった(説明している企業計を100%とすると)。

2020年4月以降(中小企業の場合は2021年4月以降)の正社員との待遇差の説明の有無をみると、「説明をしたことはないが、パートタイム・有期雇用労働者から求められれば説明をする予定である」が46.5%と最も高く、「パートタイム・有期雇用労働者から求められなかったが、説明をしている」(19.8%)が次いで高い。

「不合理な待遇差の禁止」に対応した割合は「1,000人以上」規模では7割

2020年4月以降(中小企業「の場合は2021年4月以降)の正社員との間の「不合理な待遇差の禁止」の規定に対応するための見直しの状況をみると、「見直しを行った」が28.5%、「待遇差はない」が28.2%、「見直しは特にしていない」が36.0%で、もともと待遇差がないか、見直した企業が6割近くを占めた(図表)。

図表:不合理な待遇差の禁止に対応するための見直し状況 (単位:%)
画像:図表
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(公表資料から編集部で作成)

これを企業別にみると、「1,000人以上」では「見直しを行った」が72.0%、「待遇差はない」が8.3%、「見直しは特にしていない」が16.3%と、見直したか、または待遇差がなかった企業が約8割に達しているが、「5~29人」は同じ順でそれぞれ23.9%、30.5%、37.4%となるなど、規模が大きくなるほど見直しの取り組みが進んでいる状況にある。

待遇の見直しを行った企業のうち、見直した待遇(複数回答)の内容をみると、「基本給」が45.1%と最も高く、次いで「有給の休暇制度」(35.3%)、「賞与」(26.0%)などの順となっている。規模別にみると、企業規模が大きくなるほど「扶養手当」「その他の手当」は高くなる傾向にあり、「基本給」については逆に低くなる傾向にある。「扶養手当」の割合は「1,000人以上」では16.1%で、49人以下の規模の区分では10%を切っている。「基本給」は「5~29人」では50.8%と半数に達しているが、「1,000人以上」では18.3%と2割以下。

パートタイム・有期雇用労働者の雇用の状況

パートタイム・有期雇用労働者を雇用する企業は約75%

パートタイム・有期雇用労働者の雇用状況については、75.4%の企業でパートタイム・有期雇用労働者を雇用していた。

就業形態をみると(複数回答)、「無期雇用パートタイムを雇用している」企業が51.4%、「有期雇用パートタイムを雇用している」企業が27.1%、「有期雇用フルタイムを雇用している」企業が23.2%となっている。

パートタイム・有期雇用労働者を雇用する理由(複数回答)を、就業形態ごとにみると、「無期雇用パートタイム」では、「1日の忙しい時間帯に対処するため」が30.4%で最も割合が高く、「人を集めやすいため」(26.9%)と「仕事内容が簡単なため」(26.8%)がほぼ同じ割合で続いた。「有期雇用パートタイム」では、「定年退職者の再雇用のため」が37.5%で最も高く、「1日の忙しい時間帯に対処するため」(30.6%)と「仕事内容が簡単なため」(30.2%)がほぼ同割合で続く。「有期雇用フルタイム」では「定年退職者の再雇用のため」が61.9%で最も高く、「経験・知識・技能のある人を採用したいため」(31.4%)が次いで高かった。

通勤手当の実施割合は約6割~約8割

手当や各種制度の実施、福利厚生施設の利用(複数回答)について、正社員に実施し、そのうち各就業形態にも実施している割合をみると、いずれの就業形態でも「通勤手当」の割合が最も高く、「無期雇用パートタイム」が60.7%、「有期雇用パートタイム」が73.3%、「有期雇用フルタイム」が78.1%となっている。「定期的な昇給」では、同じ順番でそれぞれ37.4%、32.3%、32.3%と、いずれの就業形態も3割台。「賞与」では、同36.6%、36.8%、53.8%。「退職金」は同10.9%、7.5%、15.5%となっている。

正社員と比べた実施格差をみるために、正社員に実施している企業を100として、その割合をみると、「給食施設(食堂)の利用」「休憩室の利用」「更衣室の利用」など福利厚生施設の利用については9割程度と、正社員との実施格差は少ない。「定期的な昇給」「人事評価・考課」「賞与」では4~6割程度となっている。

Off-JTの実施割合は有期フルでも3割止まり

正社員とパートタイム・有期雇用労働者を雇用している企業が行っている教育訓練の種類(複数回答)について、正社員に実施し、そのうち各就業形態にも実施している割合をみると、「日常的な業務を通じた、計画的な教育訓練(OJT)」についてはいずれの就業形態でも、実施割合が4割台となっており、「無期雇用パートタイム」が40.6%、「有期雇用パートタイム」が47.8%、「有期雇用フルタイム」が46.9%。「職務の遂行に必要な能力を付与する教育訓練(Off-JT」については、同じ順番でそれぞれ19.4%、25.0%、32.1%となっている。

正社員に実施している企業を100として、その割合をみると、「日常的な業務を通じた、計画的な教育訓練(OJT)」ではいずれの就業形態も7割程度と、格差は大きくはないが、「職務の遂行に必要な能力を付与する教育訓練(Off-JT」では約5割~約6割で、「将来のキャリアアップのための教育訓練(Off-JT)」になると4割以下となる。

正社員と職務が同じであるパートタイム・有期雇用労働者がいるかどうか尋ねた結果をみると、「正社員と職務が同じであるパートタイム・有期雇用労働者がいる」と回答した企業は21.5%と約2割。これらの企業に、1時間あたりの基本賃金(基本給)が正社員の基本賃金の何割にあたるかを聞いたところ、最も回答割合が高かったのは「正社員と同じ(賃金差はない)」(46.9%)だったが、「正社員より低い」も41.3%と4割台にのぼり、その内訳は「正社員の8割以上」が20.9%などとなっている。

労働者側からみた対応状況

業務の内容等が同じ正社員がいる回答は有期フルが最も高い

個人調査の結果から、「業務の内容及び責任の程度が同じ正社員の有無」について尋ねた結果をみると、「無期雇用パートタイム」では「業務の内容及び責任の程度が同じ正社員がいる」が11.9%、「業務の内容及び責任の程度が同じ正社員はいない」が54.4%、「有期雇用パートタイム」では同じ順番で19.3%、56.5%、「有期雇用フルタイム」が同39.8%、34.7%となっており、同じ正社員がいる割合は「有期雇用フルタイム」で最も高くなっている。

自身と「業務の内容及び責任の程度が同じ正社員」と比較した賃金水準を聞いたところ、「無期雇用パートタイム」では「同等もしくはそれ以上の賃金水準である」が8.8%、「賃金水準は低いが、納得している」が27.0%、「賃金水準は低く、納得していない」が39.5%。「有期雇用パートタイム」では同じ順番で11.7%、25.5%、51.4%、「有期雇用フルタイム」が同15.2%、24.8%、41.4%となっており、「賃金水準は低く、納得していない」割合は「有期雇用パートタイム」で最も高くなっている。

採用時に8割近くが待遇の説明を受け、多くが内容を理解

採用時などに待遇について説明を受けたか尋ねた結果をみると、「説明があった」が77.0%、「特に説明はなかった」が15.9%などとなっており、「説明があった」77.0%の内訳をみると、「説明内容を理解した」が74.1%、「説明内容を理解できなかった」が2.8%となっている。

改正法の施行以降、待遇についての説明を要求したかどうかをみると、「説明を求めたことがある」が15.1%、「説明を求めたことはない」が82.3%。「説明を求めたことがある」労働者を100として、その結果の各割合をみると、「説明があり納得した」が79.7%と最も高かったが、「説明はあったが納得しなかった」(12.1%)という人も約1割おり、「説明してもらえなかった」(8.2%)も1割近くいた。

(調査部)