多くの業種が物価上昇にともなう原材料費の高騰に影響受ける。来期見通しでは、商社などが先行きの不安定さから判断引き下げ

ビジネス・レーバー・モニター定例調査

JILPTが四半期ごとに実施している「ビジネス・レーバー・モニター調査」によると、2022年第3四半期(7~9月期)の業況実績は、前期から大きな変動はなかった。各モニターから寄せられた判断理由をみると、物価上昇による原材料費の高騰の影響を指摘する業種が目立つ。ただ製造業では、急激な円安の影響がプラスに働いているとの報告もあった。値上げを実施した百貨店では、売上のメインとなる上位顧客の消費にマイナスの影響はみられていないという。次期(2022年10~12月期)の見通しも今期からそれほど動きがないものの、好調が続いてきた商社や金型が、先行きの不安定さや不透明感の強まりをうけて、それぞれ判断を引き下げた。

調査の趣旨

JILPTでは、企業および業界団体のモニターに対し、四半期ごとに業況の実績と次期の見通しを「快晴」「晴れ」「うす曇り」「本曇り」「雨」の5段階で聞き、企業モニターの回答の平均と業界団体の回答をさらに平均する(端数は四捨五入)ことで各業種の最終的な判断を算出している。そのため、個々の企業、業界団体の業況評価と必ずしも一致しない。

今回は2022年第3四半期(7~9月期)の業況実績と2022年第4四半期(10~12月期)の業況見通しについて調査した。回答は企業と業界団体の計57組織、44業種から得た。

各企業・団体モニターの現在の業況

「雨」は前期と同様の結果に

第3四半期の業況をみると、回答があった44業種中、「快晴」は1(業種全体に占める割合は2.3%)、「晴れ」が8(同18.2%)、「うす曇り」が22(同50.0%)、「本曇り」が9(同20.5%)、「雨」が4(同9.1%)となっている()。

表:前期及び今期の業況実績と業況見通しの概要
画像:表
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図:調査開始以来の業況調査結果の推移
画像:図
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前回調査の2022年第2四半期と比較すると、「晴れ」が3.5ポイント減少して「本曇り」が約1ポイント上昇しているものの、大きな変動はない。「雨」は前回調査とほぼ同じ結果になった。

製造業・非製造業別の傾向をみると、「快晴」は製造業がゼロで、非製造業が1業種。「晴れ」は製造業が5業種で、非製造業が3業種。「うす曇り」は製造業が12業種で、非製造業が10業種となっている。これに対し「本曇り」と「雨」の合計は、製造業が3業種、非製造業が10業種となっている。

現在の業況の判断理由

商社は資源価格の上昇と円安の効果で好調が続く

今回、「快晴」としたのは【商社】のみ。判断理由については、「原料炭などの資源価格の上昇と為替効果に加えて、機械、鉄鋼等も好調」となったことから、「総合商社7社のうち6社が4~9月期で最高益を更新するなど、前期に続き堅調に推移している」と報告した。

造船・重機は原材料価格上昇分の価格転嫁に加え、売上収益も増加

「晴れ」と評価した業界は【食品】【電線】【金型】【電機】【造船・重機】【情報サービス】【自動車販売】【請負】の8業種。このうち判断を前期から引き上げたのは、前期は「うす曇り」としていた【造船・重機】のみとなっている。

【造船・重機】のA社は、原材料価格の上昇等の影響はあるものの、販売数量増や価格転嫁、それに円安の影響で売上収益が増加したことから「晴れ」と判断。B社は受注高が回復傾向にあることから「うす曇り」と判断した。

食品は物価上昇にともなう原価増を売上拡大で吸収

前期に引き続き「晴れ」と判断した7業種について、その判断理由をみていくと、【食品】は、業界団体モニターが「相次ぐ値上げによる食品支出の冷え込みも警戒され、スーパーなどでは売上が横ばいから低下傾向が続いている」ことから「本曇り」と判断したものの、企業モニターは「主力の乳製品で、高付加価値型商品を中心に売上が大きく伸長した」ことで売上総利益は前年同期を大きく上回ったとして「快晴」と判断している。企業モニターは物価上昇の影響について、「特に乳製品で影響が大きい」としつつも、「売上拡大により原価増を吸収した」ことや、円安で海外配当が増加していることを報告した。

電機は物価高騰に懸念示すも業況は好調

【電機】は、業界団体モニターが「一般産業向け汎用機器は、電子部品や半導体などの設備投資が活発なため、輸出、国内出荷ともに堅調」「白物家電機器の国内出荷金額は、前年同期比115.3%となった。上海ロックダウン解除後の生産・供給の正常化に加え、記録的な猛暑も後押しした」などとして、「晴れ」と判断した。企業モニターはA社が原材料高騰や半導体不足を理由に「うす曇り」と判断。B社は円安や物価高騰による顧客の投資抑制に懸念を示しつつも判断は「晴れ」とした。C社は各事業が好調だったほか、為替の好影響もあり、売上高・営業利益がともに過去最高を更新したことから「晴れ」としている。

【電線】は、新型コロナの影響で低調だった自動車関連事業が前年同期と比べて受注量が増加。エレクトロニクス・電力ケーブル・切削工具などの事業も、需要堅調で売上が増加している。円安の影響は「売上を増加させる方向に働いたため、営業利益も前年同期と比べて増加した」ことを指摘。【情報サービス】は「引き続き、社会全般におけるIT投資が活発」とした。

自動車販売は売上高の減少を経費削減でカバー

【自動車販売】は「半導体不足の影響がいまだに大きく、各メーカーともに予定台数の供給はなく、売上高は対計画でマイナス」となったほか「円安の影響により各メーカーの新車価格・部品価格は上昇が続いた」ものの、「購買意欲に減退はみられず、値引きを抑え経費削減を進めたことで、売上高は減少したものの収益は計画を上回った」と報告。【請負】は「新型コロナ関連の官公庁案件等を獲得したことにより、想定を上回る人材需要を獲得できた」としている。

自動車は資材価格の高騰が円安のプラス効果を打ち消す

「うす曇り」と判断した22業種の判断理由では、物価高騰の影響が多く報告されている。

【自動車】は円安により「プラスの効果は一定程度あった」ものの、資材高騰の影響がそれを打ち消すかたちとなった。

【建設】は国内事業について、「建設事業は手持ち工事が順調に進捗し売上高は増加しているが、資材価格上昇の影響などにより、建築事業を中心に売上総利益率は前年同期を下回っている」としている。海外事業については、「米国を中心に好調を維持しているものの、新型コロナの影響が残る東南アジアの回復が期首時点の見通しよりも遅れている」と報告した。

百貨店は物価上昇で値上げ実施も、上位顧客の消費にマイナスの影響はみられず

【百貨店】は、当期は新型コロナの第7波と重なる期間ではあったものの、ウイズコロナの行動様式が定着したことから、売上が前年同期比で20%増加した。都心の旗艦店では、外国人観光客の免税売上は戻っていないものの、4~9月期の売上が現在の体制で過去最高を記録。全社でも黒字に転換した。物価上昇の影響については、「商品の値上げとして反映されているが、売上の中心となる上位顧客の消費行動へのマイナスの影響は今のところない」としている。

【港湾運輸】では、「中国のロックダウンや海上運送の混乱等が影響しているのか、事業者によりばらつきがある状況」。昨年比では増益となっている事業者が多いものの、燃料費の高止まり等も影響している。

職業紹介はIT関連企業の求人が堅調で、コロナ禍前の実績を超える

【職業紹介】は、引き続きIT関連企業をはじめとする求人が堅調で、「業界全体の実績は新型コロナ感染拡大前を超えている」状況。ただし、円安・物価高の影響を直接受ける業界を中心に、「採用意欲は慎重となり、先行きの不透明感が増している」としている。

【玩具等販売】は「行動制限のない夏休みとなったが、電気・ガス料金や日用品・食品の値上がりが個人消費の動向に影響をおよぼしつつある」と報告した。

このほかに「うす曇り」と判断した業種は、【パン・菓子】【繊維】【木材】【印刷】【化学】【石油精製】【硝子】【石膏】【非鉄金属】【金属製品】【工作機械】【鉄道】【ホームセンター】【遊戯機器】【シルバー産業】【警備】となっている。

ゴムは「業況判断」が3期ぶりにプラスも「経常利益」「資金繰り」はマイナスで推移

「本曇り」と判断した9業種は【化繊】【ゴム】【水産】【ガソリンスタンド】【ホテル】【外食】【事業所給食】【葬祭】【中小企業団体】。

判断理由について【ゴム】は、「今期は自動車の生産・輸出及び販売がプラスとなったものの、主力製品であるタイヤはマイナスが続いている」と報告。モニターが実施した中小企業景況調査(DI指数)をみると、2022年第3四半期は「業況判断」が3期ぶりにプラスに転じたが、「経常利益」および「資金繰り」は前期に続いてマイナスで推移している。

【外食】では新型コロナの第7波により、7月後半以降は飲食店への客足が失速した。飲食店に対する営業時間等の制限はなかったものの、「消費者の自粛ムードが高まり、書き入れ時のお盆休みに帰省客や団体客の予約キャンセルが相次いだ」と報告。さらに、悪天候や台風の影響で9月の連休の売上も伸び悩んだという。

【水産】は「主要魚種の不漁が続いている。円安や物価上昇で、燃油のコスト比率の高い漁船漁業や輸入原料に頼る水産加工業者は特に厳しい状況」としている。

専修学校等では留学生が賃金の高いオーストラリアに流れる

「雨」と判断した業界は【セメント】【電力】【出版】【専修学校等】の4業種で、前期と同じ状況。

【セメント】はコロナ禍での建設需要の停滞のほか、引き続きの人手不足もあり厳しい状況が続いている。【電力】はウクライナ情勢や円安による資源価格高騰の影響を受けている。【出版】は売上が前年同期比95.7%と減少したことや、インクや用紙等の原材料高の影響を判断理由にあげた。

【専修学校等】は、留学生について、「賃金水準の高いオーストラリア等への留学先の変更が増えている」状況だとし、日本人学生も、コロナ禍で地方出身者が減少していると報告した。これらにともない、学生寮の入寮者が減り空室率が高くなっており、「固定費は変わらないため、収支の悪化が著しい」という。

次期(2022年10~12月)の業況見通し

次期(2022年10~12月)の業況見通しについては44業種のうち、「快晴」とする業種がゼロ、「晴れ」が9業種(業種全体に占める割合は20.5%)、「うす曇り」が24業種(同54.5%)、「本曇り」が7業種(同15.9%)、「雨」が4業種(同9.1%)となっている。

外食は感染者減少で需要回復の見通し

今回、業況の好転を予想したのは【ガソリンスタンド】【ホテル】【外食】【遊戯機器】の4業種。一方、業況悪化を予想したのは【商社】【金型】の2業種となっている。

好転を予想した【外食】は、「9月に入ってから新型コロナの感染者数が減少に転じ、外食を控えていた人の需要が戻ってきている」「外国人の新規入国制限の見直しが行われ、インバウンド需要も個人旅行客を中心にわずかながら戻ってきている」とコメントし、判断を今期の「本曇り」から来期は「うす曇り」に引き上げた。

【ホテル】は国内旅行で政府支援策による後押しがあることから、判断を今期の「本曇り」から来期は「うす曇り」に引き上げた。

商社は世界的インフレによる景気後退懸念などから判断を引き下げ

一方、悪化を予想した【商社】は「世界的なインフレや各国の金融引き締めの影響による景気後退懸念、地政学的リスクなど今後の見通しは不透明感が強い」としたほか、「資源価格は沈静化するとの見方もある」として、今期の「快晴」から来期は「晴れ」に引き下げた。

【金型】は「長引くウクライナ情勢等の世界情勢が不安定のため、この先のハードディスク部品関連の生産受注量が大幅に減少となった」ことから、今期の「晴れ」から来期の判断を「本曇り」に2段階引き下げた。

今期の判断を継続した業種では、「うす曇り」の【百貨店】が「10月の入国緩和で東アジアからの観光客が戻っており、売上に貢献している。都心の店舗は好調だが、地方都市の店舗の回復は鈍い状況」と報告。「本曇り」の【水産】は「サケの好漁がやや期待される」と報告している。

(調査部)