【近畿】対面型サービスへの需要増で求人増加の見込み

地域シンクタンク・モニター定例調査

近畿の4~6月期の経済動向は、輸出の増加や投資活動の拡大をうけて【やや好転】したが、7~9月期の見通しは、新型コロナウイルスの感染者数が増加して景況感の持ち直しのペースが緩やかになったことから【横ばい】の見込みとなった。雇用指標は、4~6月期実績については、名目賃金の伸びが物価上昇に追いついていないことなどから【横ばい】としているが、7~9月期見通しについては、対面型サービスへの需要増により求人も増加が見込まれることから【やや好転】としている。

<経済動向>

行動制限のないゴールデンウィークで消費が復活

4~6月期について、近畿地域の家計部門の動向をみると、大型小売店販売額は8,835億円で前年同期比プラス11.3%となり、3四半期連続で前年を上回った。特に5月は、3年ぶりに行動制限のないゴールデンウィークを迎えたことなどから大幅なプラスとなった。

企業部門の動向をみると、生産は一進一退の動きとなった。景況感は業種、規模によって見方がわかれたものの、総じて弱含みとなっている。設備投資計画は前年度からの反動もあり、積極的な姿勢がうかがえる。

人流の回復で非製造業の景況感が改善

景況感については、日本銀行大阪支店の短観調査(6月)をみると、業況判断DIは1と前期から横ばいで、3四半期連続でプラス圏を維持した。規模別にみると、大企業が8(前回調査比マイナス4ポイント)、中堅企業が7(同プラス3ポイント)、中小企業がマイナス5(同プラス1ポイント)で、いずれも小幅な動きとなっている。

業種別では、製造業がマイナス1(同マイナス6ポイント)、非製造業が3(同プラス6ポイント)だった。各業種の動きについて、モニターは製造業については「原材料価格の高騰」などを、非製造業は「人流の回復」などを理由にあげている。

また、大阪商工会議所・関西経済連合会「経営・経済動向調査」(調査期間5月12日~30日)によると、自社業況BSIはマイナス8.0で前期比マイナス1.0ポイントとなり、小幅ながら悪化している。業種別では、製造業がマイナス15.9で2四半期連続の悪化となり、4四半期ぶりにマイナスに転じた。非製造業はマイナス3.2で2四半期ぶりに改善している。

輸出額は7四半期連続で前年比増

輸出の動向をみると、関西の輸出額は5兆3,802億円で、前年同期比プラス17.2%となり7四半期連続で前年を上回った。地域別にみると、米国・EU向けは堅調な動きが続いているが、中国向けはロックダウンの影響もあり小幅な伸びにとどまった。

設備投資計画については、短観調査(6月)によると、2022年度の設備投資計画は前年度比プラス16.6%で、3月調査時点(前年度比プラス2.3%)から大幅に上方修正されている。業種別にみると、製造業が同プラス24.2%、非製造業が同プラス11.5%といずれも2桁増の状況。

こうした点を勘案し、モニターは「総じて緩やかに回復しているものの、部門、業種、規模などによって、好調な指標と停滞を示す指標が混在するまだら模様となっている」とコメントしたうえで、4~6月期の判断を【やや好転】とした。

感染者数の増加で景況感の持ち直しペースは緩やか

7~9月期の見通しについては、【横ばい】と判断した。

8月の景気ウォッチャー調査の現状判断DIは42.0で、前月から2.8ポイント上昇した。改善は3カ月ぶりだが、好不況の分かれ目である「50」を2カ月連続で下回っている。モニターは「政府による行動制限はとられなかったが、新規陽性者数が高水準で推移していることもあり、景況感の持ち直しのペースは緩やか」とコメントしている。

<雇用動向>

物価上昇のペースには追いつけない名目賃金の上昇

4~6月期の雇用実績について、モニターは「雇用環境は緩やかに回復しているが、求人倍率の回復ペースは全国に比べると低い」「物価上昇のペースに名目賃金の伸びが追いついていない」として【横ばい】と判断した。

具体的な理由としては、「有効求人倍率は1.13倍で、前期から0.04ポイント上昇」「新規求人倍率は2.17倍で前期から0.05ポイント上昇」と改善はみられるものの、全国に比べるとそのペースが遅いことを指摘。

また、完全失業率(モニターによる季節調整値)は「3.0%で前期から0.1ポイント悪化」となったほか、現金給与総額(モニター推計)の前年同月比は4月がプラス1.2%、5月がプラス1.0%とプラスで推移したものの、物価の変動を除いた実質現金給与総額は4月がマイナス1.6%、5月がマイナス1.7%で、3カ月連続でマイナスとなっており、物価の伸びに対して名目賃金の上昇が追いついていない。

有効求人倍率が改善し、失業率も小幅に低下

7~9月期の雇用の見通しについては「失業率が小幅に低下し、就業者数と労働力人口はいずれも増加。有効求人倍率も改善を続けている」としたほか、「対面型サービスへの需要が増加し企業の求人が増加すると見込まれる」ことから判断を【やや好転】としている。

経営上の1番の懸念事項は「原材料・商品等、仕入れ価格の上昇」 がトップ

労働に関連するトピックとしてモニターは、5月に実施された大阪商工会議所・関西経済連合会「経営・経済動向調査」の内容を紹介している。

経営上の懸念事項を企業に尋ねたところ、「原材料・商品等、仕入れ価格の上昇」が7割弱(67.8%)と際立って高く、次いで「国内需要の低迷」(30.3%)、「サプライチェーンの混乱による仕入れ困難・納期遅延」(24.7%)、「人材の確保・育成」(24.0%)が続く。業種別にみると、製造業は「原材料・商品等、仕入価格の上昇」が9割超(91.2%)を占めているが、「人材の確保・育成」(12.3%)は1割ほどにとどまっている。一方、非製造業では、「原材料・商品等、仕入価格の上昇」(53.7%)が最も高く、次いで「人材の確保・育成」(31.1%)となっており、非製造業では人材への懸念の大きさがみてとれる。

なお、「人件費の上昇」(5.9%)への懸念はそれほど高くなく、規模別(大企業4.8%、中小企業6.7%)や業種別(製造業3.5%、非製造業7.4%)でみても、その傾向は変わらない。

(調査部)