特別調査 人手不足・採用難への地域の取り組み

地域シンクタンク・モニター調査

人手不足に自治体職員の副業・兼業で対応。民間との連携や週休3日の柔軟な働き方を進める動きも

コロナ禍以前から、人手不足や採用難は各地で問題となっていたが、アフターコロナが近づくなかで、あらためてその問題が顕在化しつつある。今回調査では特別項目として、人手不足や採用難に対しての、自治体・業界団体・企業の取り組みを尋ねた。各モニターの報告からは、農業・漁業の季節的な労働需要に対して自治体職員の副業・兼業で対応する動きのほか、ITを活用する取り組みもみられた。また、地域への移住支援、仕事の魅力発信、週休3日の柔軟な働き方の試行なども報告された。

人手不足解消のために自治体職員が農業・漁業で副業――山形県、北海道など

農林水産業では季節的な労働需要が多い。この需要に対して、自治体職員の副業・兼業を認めることで対応する動きがモニターから報告された。

山形県の地域モニターによると、特産品のサクランボは、収穫期の慢性的な労働力不足が課題となっていたが、このたび、収穫や出荷作業における山形県庁職員のアルバイトが認められることとなった。

山形県における今回の制度の対象期間は、サクランボの収穫期である6月1日~7月31日。知事らの許可を得て、Kamakura Industries株式会社(神奈川県)が開発した農業バイトアプリ「デイワーク」などから各自で応募する形となる。労働時間は勤務時間外の週8時間以内、1カ月30時間以内といった条件がある。山形県が職員に行った調査では、回答者の半数近くが収穫のアルバイトに前向きな姿勢を示したという。なお、山形県内の市町村では寒河江市が唯一、サクランボ収穫期に限った副業を解禁している。

地方公務員の副業は法律で制限されており、任命権者の承認があれば行うことが可能となる。山形県の地域モニターによれば、農業支援のために解禁する動きは全国で広がっており、東北ではすでに青森県弘前市でも、昨年からリンゴの収穫について認められているという。

北海道の地域モニターによると、北海道庁日高振興局は、人口減や高齢化で人手不足に悩む地域産業に北海道庁職員が副業で従事することができる制度「ナナイロひだかサポーター制度」を6月から導入した。対象産業は、地域の基幹産業で夏場に繁忙期を迎える昆布の集荷や水産加工施設での作業、それにトマト・イチゴの収穫などを想定している。道内の自治体では、鹿部町や新得町が人手不足分野などでの副業をすでに認めているが、北海道庁としては初めての取り組みだという。

アプリで農家と労働者をマッチング――茨城県

農業の人手不足解消には、ITを活用する動きもみられる。

茨城県の地域モニターによると、JA全農いばらきは2021年から求人ジャーナルと契約して、求人サイトを開設している。さらに、株式会社アグリトリオ(愛知県)が開発した1日単位での求人のためのマッチングサービスのアプリ「農How」の提供を開始した。

求人サイトでのこれまでの実績は、JA全農いばらきおよび農家の募集の登録件数が延べ120件超、応募が約500件、マッチング数は約80件。応募者の多くは募集地の近隣の主婦で、新型コロナの影響で仕事がなくなった人も一部含まれる。

従来の農家の人手確保は、技能実習生を除けば、近所のお手伝いや親族・知人でまかない、一部はハローワーク、人材派遣会社を活用していたとみられる。最近はそれでも人手を集められなくなったため、JA全農いばらきとして求人サイトやアルバイト募集アプリを試行的に導入している。

民間の人材ビジネス企業と協業――秋田県

秋田県の地域モニターによると、能代市は、求人メディア「Workin」の運営や人材派遣サービスを手がける広済堂HRソリューションズ(東京都)とのあいだで、人手不足対策・雇用創出についての地域課題解決を目的とする地域活性化包括連携協定を締結した。同社がこれまで培ってきた人材ビジネス業のノウハウやツールを生かし、採用管理システム「TalentClip」を市内企業へ無償提供するなど、能代市と連携して企業の採用力強化、人材確保に取り組んでいく。

能代市が民間企業と協定を締結した背景には、有効求人倍率が県内で最も高く慢性的な人手不足が続いていることのほか、能代市・八峰町沖での洋上風力発電の計画、それに製材国内最大手の中国木材(広島県)の能代工業団地への進出で、今後も求人が見込まれることがある。

建設業で育成に時間のかかる高校生を採用へ――広島県

自治体や商工会議所が、地域の仕事の魅力発信に取り組む事例も報告された。

中国地域のモニターによると、広島市内の建設業は、業界を挙げて人材不足解消に向けた若手人材の確保に取り組んでいる。広島駅前などの再開発が活発化しているが、「地元企業が人材不足で再開発の好機を捉えられない」との危機感が業界に広がっていた。そこで、広島商工会議所の建設業部会では、仕事を紹介するホームページを充実させた。さらに建設各社も、賃金や環境を改善するだけでなく、採用方法にも工夫を凝らすようになり、大学を回って学生や教員にアピールしたり、高校生の採用にも乗り出している。

高校生は一級建設施工管理技士などの国家資格の取得に時間が要するため、企業は採用に及び腰であったが、人材育成に時間と経費をかけてでも採用するスタンスに切り替わりつつある。

若年層の地元就職と将来のU・I・Jターンの増加を目指す――岩手県

岩手県の地域モニターによると、岩手県は東京に「いわて暮らしサポートセンター」と「岩手県U・Iセンター」を、盛岡市に「いわてU・Iターンサポートデスク」を設け、移住希望者からの相談に対応している。また、移住経験のある「岩手県移住コーディネーター」による移住相談のほか、大学との連携のもと、U・Iターンを支援する「岩手U・Iターンクラブ」による情報提供やインターンシップのコーディネートなど、働き手の確保に向けて取り組んでいる。

このほか若年向けには、地元で働く人の実際の様子を掲載する情報誌「いわてダ・ヴィンチ」を県内の高校生などに無料で配布している。これにより、若年層に対して岩手での就職を選択肢として示すとともに、将来のU・I・Jターンの増加に結びつくことを目指している。

また民間では、一般社団法人KEEN ALLIANCE(岩泉町)が「地域協力活動体験」やインターンシップなどの活動を通して、社会人や学生に向けて岩泉町への移住を支援する取り組みを実施している。

半導体人材の育成に産学官が連携――九州地域

九州地域のモニターによると、九州では外資企業による半導体工場の新設の動きがあり、これを受けて半導体関連の人材不足の深刻化が懸念されている。そこで政府は、蓄電池や半導体などの産業競争力を高めるため、人材育成に取り組む産学官の共同体を全国各地につくる方針を固めた。

この一環として、半導体人材の育成と確保を目的のひとつとして、全42機関が参画する「九州半導体人材育成コンソーシアム」が全国に先行して設立された。行政機関のほか、16の企業や8の教育機関も参画している。

企業のサテライトオフィスを誘致して町に新たな賑わいが――四国地域

四国地域のモニターは5月、報告書「サテライトオフィス・ワーケーションが地域を変える~テレワーク時代における企業や人の誘致~」を公表した。この報告書では、企業のサテライトオフィスを誘致した自治体の取り組みが紹介されている。

たとえば徳島県美波街では、防災、林業再生、空き家問題といった地域課題を大都市の企業に提示するとともに、企業側の要望にも積極的に対応してきた。そうした取り組みの結果、津波防災まちづくりに取り組む独立行政法人のほか、林業再生に興味を持つ測量会社、空き家活用に関心のある建築設計事務所などがサテライトオフィスを設置した。

さらにはその波及効果として、若い移住者が増加し、飲食点や宿泊施設も開業するなど、町に新たな賑わいが生まれているという。サテライトオフィスを設置した企業の側からも、「アウトドア愛好家や地方志向の人材採用に成功した」といった声があがっている。

徳島県神山町では、名刺管理サービスを提供するSansan株式会社(東京都)が2010年にサテライトオフィスを開設しているが、2023年4月にはSansanとNPOが中心となって開校を進める全寮制の私立高等専門学校「神山まるごと高専(仮称)」が設立される予定だ。

介護分野で週休3日を試行的に導入――福井県

北陸地域のモニターによると、福井県は、介護現場に多様な働き方を取り入れ人材確保につなげるため、週休3日制を試験的に導入する事業をスタートさせる。

具体的な就労方法は、①週の所定労働時間が減ることで、それに応じて給与、仕事量が減る「給与減額型」②1日の労働時間を増やすことで、1週間の総労働時間を同じとし、給与、仕事量を変えない「総労働時間維持型」③所定労働時間は減っても、生産性を上げることで、給与・仕事量が変わらない「給与維持型」――の3ケース。モデルとなる事業所を4月から5月にかけて公募した。

(調査部)