ウクライナ情勢の影響で業況に明暗分かれる。見通しではまん防解除と円安に期待する声も。「快晴」の今期割合は過去最高になるも来期はゼロの見通し

ビジネス・レーバー・モニター定例調査

JILPTが四半期ごとに実施している「ビジネス・レーバー・モニター調査」によると、2022年第1四半期(1~3月期)の業況実績は「快晴」が6.7%(3業種)で、前期(2021年10~12月期)の2.2%(1業種)を上回るとともに、調査開始以来の過去最高となった。ウクライナ情勢をうけた資源高が商社の業績を、また、ワクチン接種による官公庁案件が請負の業績をそれぞれ絶好調に押し上げた。ただその一方で、ロシアのウクライナ侵攻による原材料の調達難などの影響を報告する業種も複数みられた。次期(2022年4~6月期)の見通しは、今期よりも「快晴」と「雨」の割合が減少し、業況によるバラツキが小さくなっている。まん延防止等重点措置の解除による経済活動の活発化や、円安による輸出拡大に期待する声も聞かれた。

調査の趣旨

JILPTでは、企業および業界団体のモニターに対し、四半期ごとに業況の実績と次期の見通しを「快晴」「晴れ」「うす曇り」「本曇り」「雨」の5段階で聞き、企業モニターの回答の平均と業界団体の回答をさらに平均する(端数は四捨五入)ことで各業種の最終的な判断を算出している。そのため、個々の企業、業界団体の業況評価と必ずしも一致しない。

今回は2022年第1四半期(1~3月期)の業況実績と2022年第2四半期(4~6月期)の業況見通しについて調査した。回答は企業と業界団体の計58組織、45業種から得た。

各企業・団体モニターの現在の業況

2割の業種が「快晴」または「晴れ」

第1四半期の業況をみると、回答があった45業種中、「快晴」は3(業種全体に占める割合は6.7%)、「晴れ」が6(同13.3%)、「うす曇り」が24(同53.3%)、「本曇り」が8(同17.8%)、「雨」が4(同8.9%)となっている()。

表:前期及び今期の業況実績と業況見通しの概要
画像:表
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図:調査開始以来の業況調査結果の推移
画像:図
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前回調査の2021年第4四半期と比較すると、「快晴」が2業種増えた。「快晴」の割合(6.7%)は調査を開始した2003年第4四半期以降、過去最高だった2013年第4四半期(6.1%)を上回っている。また、コロナ禍がはじまった2020年第1四半期以降、「雨」が1割以上という状況が続いてきたが、今期は8.9%で1割を下回った。

製造業・非製造業別の傾向をみると、「快晴」は製造業がゼロで非製造業が3業種、「晴れ」は製造業が4業種で非製造業が2業種、「うす曇り」は製造業が13業種で非製造業は11業種となっている。これに対し「本曇り」と「雨」の合計は製造業が2業種、非製造業が10業種となっている。

現在の業況の判断理由

資源高を追い風に商社は過去最高益を記録

今回、「快晴」となったのは【商社】【自動車販売】【請負】の3業種だった。

判断理由をみると、前期に引き続き「快晴」とした【自動車販売】は「新車・中古車の販売台数及び整備台数は予算の90%前後」であったものの、「値引きの大幅な改善と経費の削減により収益は計画を大きく上回った」としている。

【商社】と【請負】は、判断を前期の「晴れ」から引き上げた。【商社】は「資源・商品価格の高騰が追い風となり前期に続き好業績を見せた。2022年3月期の連結決算は、総合商社7社全ての純利益が最高となった」ことを指摘。【請負】は「コロナ禍が継続するなかでも、顧客需要の回復基調、短期人材需要の回復、ワクチン接種支援に関する官公庁案件を獲得できた」ことを要因にあげている。

消費者の健康・清潔意識の高まりが白物家電の出荷を後押し

「晴れ」と評価した業界は【建設】【食品】【硝子】【電線】【電機】【情報サービス】の6業種。このうち、判断を前期の「うす曇り」から「晴れ」に引き上げたのは【電機】の1業種のみとなっている。

【電機】の判断理由をみると、企業モニターは「前年同期比で増収増益を達成した」ことをあげた。業界団体モニターは「一般産業向け汎用機器は、電子部品や半導体などの設備投資が活発なため、輸出、国内出荷ともに堅調であった」とし、白物家電分野についても「消費者の健康清潔意識の高まりから、電気洗濯機および食器洗い乾燥機が過去最高の出荷金額となった」「白物家電機器全体では前年同期を下回ったものの、高い水準で推移している」とした。

自動車事業が売上増と生産性改善で増益

前期に引き続き「晴れ」と判断したのは、【建設】【食品】【硝子】【電線】【情報サービス】の5業種。

判断理由をみていくと、【建設】は「国内建設事業において堅調な利益を確保するとともに、欧米における流通倉庫開発事業を中心に、海外開発事業が業績に大きく貢献したため」と報告。【食品】は「主力の乳製品が高付加価値型商品の全国展開により好調に推移した」としている。

【電線】は「自動車事業は、直前の10~12月期に比べると売上数量増加や生産性改善により増益、黒字化」を達成したほか、「情報通信・エレクトロニクス・環境エネルギー・産業素材の各事業はいずれも需要好調で、いずれも社内計画を上回る収益を確保できた」とした。ただ、自動車事業では「半導体不足やウクライナ問題で客先減産が相次ぎ、社内計画に対しては未達」の状況だという。

最悪の状態は抜けつつあるパン・菓子業界

「うす曇り」と判断した24業種の主な判断理由については、コロナ禍からの回復がみられるものの、ウクライナ情勢をうけた原材料の調達難の影響も報告されている。

【パン・菓子】は「まん延防止等重点措置の解除で人流が戻ってきたこともあり、売上が戻ってきている」として、「最悪の状態は抜けつつある」とコメント。【事業所給食】は「これまでのコロナ禍の影響に加え、ロシアのウクライナ侵攻による海外情勢の影響も加わり、食材費等の高騰、原油高の影響で搬送費の上昇などによる業績の悪化が続いている」と報告した。

【木材】は「ロシアからのカラマツ単板の輸入が禁止され、代わりの原料の入手に各メーカーとも苦労している」ことを明らかにし、「急激な円安、原油価格上昇も経営コストに厳しい影響」としている。

【非鉄金属】も「円安による輸出事業の採算性向上や、資源価格の高騰による金属事業の増益等により、対前年増収増益」となったものの、「本来の事業上の実力とは言えず、また、事業計画の目標数値には達していない。機械事業については、半導体をはじめとした資材不足により生産数が伸びていない」と報告した。

シルバー産業は回復傾向も慢性的な人材不足続く

【ホームセンター】は「除雪用品で動きがみられたものの、前年同時期の販売増に伴う反動等の影響があった」とした。【シルバー産業】は「ウイズコロナが進むなか、回復傾向は見られるものの、慢性的な人材不足が続いている」状況だという。【職業紹介】は「求人意欲の大小、回復度合いの強弱が、主に取扱う業界・職種によって大きく異なる」として、業界内での業況のバラツキを指摘した。

そのほかの「うす曇り」と判断した業種は、【繊維】【化繊】【印刷】【化学】【石油精製】【石膏】【金属製品】【工作機械】【自動車】【造船・重機】【港湾運輸】【百貨店】【ガソリンスタンド】【玩具等販売】【専修学校等】【警備】【その他】となっている。

ゴムは業況判断がマイナスに転じる

「本曇り」と判断した8業種は【ゴム】【出版】【鉄道】【道路貨物】【水産】【葬祭】【遊戯機器】【中小企業団体】。

その理由について【ゴム】は、主力の自動車タイヤの生産が「1月はマイナスに転じ、2月は再びプラス」と一進一退となった一方、工業用品は「引き続きマイナスで推移し、ゴムベルトは1月に5カ月ぶりにマイナスに転じて2月もマイナスで推移している。ゴムホースは2月に4カ月ぶりにマイナスとなった」と説明する。モニターが実施した中小企業景況調査(DI指数)をみても、2022年第1四半期は業況判断がマイナスに転じ、売上はプラスで推移したもののプラス幅は縮小。経常利益と資金繰りは、前期に続いてマイナスで推移している。

【水産】は「依然、主要魚種の不漁が続き、新型コロナ対策の影響で回転ずし以外の外食業界で需要の減退が続いている」とした。【鉄道】は「まん延防止等重点措置の解除で、鉄道事業の利用者数減少やホテル事業における稼働率低下から徐々に回復し、新型コロナの影響が想定を下回った」と報告した。

セメントは内需の不振を輸出で補うも、エネルギー価格の上昇でコスト増

「雨」と判断した業界は【セメント】【電力】【ホテル】【外食】の4業種。

【セメント】は主に官需が不振としたうえで、その背景について、「公共工事の労務コスト上昇等による入札不調・不落や用地買収遅れにより、予算執行率が低下していることのほか、建設コスト上昇、人手不足等による工期の長期化や、セメント使用量の低下などがある」と指摘。一方、輸出は、「前年同期比100.8%とプラスとなった。国内需要の不振を、輸出で補いセメント製造稼働率を維持している」状況だとした。「ウクライナ情勢の緊迫により、エネルギー価格が上昇しており、セメント製造や輸送コストが上昇している」ことも判断要因にあげた。

従業員の感染・濃厚接触で働き手を確保できない外食

【外食】は「年初よりまん延防止等重点措置が多くの自治体で発令され、休業、営業時間の短縮により売上が大きく落ち込んだ」ことに加えて、「店舗で勤務する従業員の感染者・濃厚接触者も増加し、働き手が確保できず、結果として営業時間の短縮や休業を余儀なくされた飲食店も少なくなかった」ことをあげた。

次期(2022年4~6月)の業況見通し

次期(2022年4~6月)の業況見通しについては45業種のうち、「快晴」とする業種がゼロ、「晴れ」が7業種(業種全体に占める割合は15.6%)、「うす曇り」が26業種(同57.8%)、「本曇り」が9業種(同20.0%)、「雨」が3業種(同6.7%)となっている。

円安による輸出の拡大を期待する水産

今回、業況の好転を予想したのは【水産】【外食】【その他】の3業種のみ。一方、業況悪化を予想したのは【建設】【食品】【印刷】【情報サービス】【商社】【自動車販売】【請負】の7業種だった。

好転を予想した【水産】は、「新型コロナ対策の緩和による外食業界の需要の回復」のほか、「円安による輸出の拡大」にも期待を寄せ、判断を「本曇り」から「うす曇り」に引き上げた。

まん防解除で行楽地の店舗を中心に売り上げ増

【外食】は「まん延防止等重点措置が解除され、移動制限のないゴールデン・ウィークとなり、行楽地の店舗を中心に売上が伸びた」と報告し、「雨」から「本曇り」に引き上げている。

求人情報にかかる団体の【その他】は、「まん延防止等重点措置が解除されたことで、採用活動も増加傾向にある」として「うす曇り」から「晴れ」に引き上げた。

建設は資材価格の高騰がリスク要因に

一方、悪化を予想した【自動車販売】は、「依然として海外メーカーの生産台数が不安定で、予算通りに車両や備品の供給が可能かどうか不透明」として今期の「快晴」から来期は「晴れ」に引き下げた。

【建設】は「北米における流通倉庫開発事業を中心とした海外開発事業の好調は継続する見通し」ではあるものの、「国内建築事業において資材価格高騰の影響等のリスクが見込まれる」として、今期の「晴れ」から来期は「うす曇り」に引き下げた。

(調査部)