ハラスメント予防の対応が進む一方、指導との線引きに悩む声も
 ――企業・業界団体に聞く「パワーハラスメントを含む各種ハラスメントの最新の状況」

ビジネス・レーバー・モニター特別調査

パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が2020年6月から(中小企業は2022年4月から)施行され、パワーハラスメントの防止措置が事業主に義務付けられている。JILPTが年4回実施している企業・業界団体モニター調査では、今回(5月実施)の特別調査として、パワーハラスメントを含む各種ハラスメントの最新の状況を尋ねた。企業の回答内容からは、さまざまな形式で研修を行っており、ハラスメント発生の予防に努めている様子がうかがえた。実際にハラスメントが発生した際は、加害者を異動させるなどの対応も取られている。一方、パワハラと指導の線引きに悩む声も聞かれた。業界団体では、厚生労働省からの案内を会員企業に周知して啓発するなど、会員企業でのハラスメント発生を予防する取り組みが報告された。

企業モニターに対しては、管理職や一般社員からの相談・問い合わせの最新の状況のほか、会社として取り組んでいる防止策と対応の課題を尋ねた。業界団体モニターには、業界として取り組んでいる啓蒙・防止策を尋ねた。企業モニター25社、業界団体モニター25組織から回答を得た。

企業モニターの回答から

法律に基づき相談窓口を設置

パワハラ防止法は、企業に対して相談窓口の設置を義務付けている。そのためほとんどの企業モニターが、ハラスメントの防止策として相談窓口設置を報告した。

窓口の周知の方法は、「社内イントラで公開」(【建設A社】【造船・重機A社】)のほか、「職場にポスターを掲示している。社員手帳にも案内を記載している」(【鉄道】)といった記載があった。

窓口は社内だけでなく、社外窓口を設けている企業も多かった(【建設B社】【食品】【印刷】【造船・重機B社】【自動車販売】)。このうち【印刷】の企業では、社外弁護士、監査役、コンプライアンス部の3系統に相談できる体制を取っているという。

オンラインを活用した研修が進む

ハラスメント防止策として、多くの企業が研修の実施についても報告している。その内容をみると、【食品】は「各種ハラスメント防止啓発を目的としたオンライン動画および冊子を制作し、社員に配付」、【パン・菓子】は「ケーススタディと規程の説明を繰り返し行っている」などと回答している。全体的に、オンラインを活用しての研修が多く報告された。

研修の対象者については、全社員が対象との報告が多かった。それ以外では、「ハラスメント防止責任者及び相談窓口担当者」(【シルバー産業】)、「昇進時、入社時」(【鉄道】)といった回答がみられた。【造船・重機A社】は研修を「人権教育の一環として階層別に実施」しているほか、「人権週間における標語募集・公表などを通じてハラスメント防止を進めている」という。

【自動車】は全ての幹部職・基幹職を対象にしたパワーハラスメント防止教育を実施しているとした。加えて、「人間力」評価や360度アンケートの導入など、マネジメント層に対するパワーハラスメントの意識啓発にも取り組んでいる。

発生した事案への対応と再発防止を実施

実際に発生したハラスメントへの対応についても報告があった。【パン・菓子】は「長の立場にある者の性的な言動、人前で必要以上に叱責を行うといった事例」に対して、「加害者の異動を行うとともに、被害者に対する謝罪と、再発防止を約束した」という。【電線】は「相談窓口に報告があった際は、事実確認や被害者への配慮と、事実確認後の行為者への適切な指導・措置などを行っている」と報告した。

ハラスメントか否かの線引きで悩む声も

モニターの回答結果からは、ハラスメントとそれ以外の線引きで悩んでいる様子もうかがえた。【建設】は「パワハラと正当な指示指導との間で、管理監督者側に戸惑いが見られる」と報告。【非鉄金属】はカスタマーハラスメントについて、「お客様からの正当なクレームとの境目が不明瞭」としたうえで、「顧客対応によって精神疾患となるケースも散見される」ことから、「カスタマーハラスメントに関する社内ガイドラインを策定するとともに、研修を導入する検討に入っている」と現状を紹介した。

その他の課題として、【自動車販売】はハラスメント事案が「メンタル不調になってから発覚する場合が多い」と指摘したうえで、「いかに大きな問題となる前に事案を把握して退職や訴訟を防ぐか」が重要と報告。【建設B社】では「相談内容を分析すると、ハラスメントというよりは双方のコミュニケーションのすれ違いが原因の案件が多い。また、自己本位な状況改善を望むだけのケースも散見される」という。そのため、「相談を受ける際は傾聴とともに、自助努力や自己解決を促すような提案も必要と感じている」とした。

業界モニターの回答から

会員企業への法改正の周知・啓発を推進

業界団体モニターからは、厚生労働省からの依頼などに基づき、会員企業に対して法改正を周知したとする報告が多く寄せられた。それ以外の啓発活動として、【道路貨物】が「自動車運送事業者の『働きやすい職場認証制度』において、各種ハラスメント相談窓口の設置及び従業員への周知が認証項目のひとつになっていることから、同認証制度の取得促進を通じた啓発をしている」と回答。【食品】は会員企業を対象に、民間企業と共催でパワハラ防止措置にかかる実務対応のセミナーを開催したとしている。

カスハラに業界団体として対応

カスタマーハラスメントについては、業界団体として対応した実績の報告があった。【外食】の業界団体は、「業界特有の問題として、店舗の利用客から受けるカスハラが大きな問題となっている。例えば過度な謝罪要求、不当な要求、企業トップを出せという要求、女性蔑視の発言などがあげられる」と指摘。そのうえで、「UAゼンセン流通部門が作成した『小売業で働く仲間のための、職場のハラスメント対策マニュアル』なども参考にしながら会員からの問い合わせに対応している。また、会員各社の人事労務担当責任者が出席する労務委員会を開催して情報交換を行い、事例や課題等について共有し、ハラスメント防止の参考に供している」と報告した。

【鉄道】の団体は「厚生労働省が『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』等を作成する際に、ヒアリングの依頼を受け、業界として第三者暴力行為に関する現状や課題を情報共有した。当該マニュアルが完成した際には、会員企業へ周知した」と報告。さらに、労使で産業政策等業界全般に関する諸課題を話し合う場において、「カスハラを含む第三者暴力の現状や課題について議論している」とした。

(調査部)