【東海】賃上げは大手の流れが中小零細に波及するかが焦点

地域シンクタンク・モニター定例調査

2023年10~12月期の東海地域の経済は、生産は緩やかに持ち直しているものの、物価高で消費が下押しされていることから【横ばい】となった。1~3月期の見通しも、改善を示す指標はあるものの、大手自動車メーカーの認証不正問題の影響で年明けから自動車産業で受注が減少していることから【横ばい】と判断した。雇用動向は、10~12月期実績は雇用指標の動きから【横ばい】、1~3月期見通しも回復のペースが緩やかなことから【横ばい】と判断している。

中部地域の24春闘は、3月13日時点で29労組のうち22組合が満額回答を得ている(連合愛知調べ)。また、モニター実施の賃上げ動向調査によると、2024年問題が懸念される建設業や運送業がベースアップに積極的な姿勢をみせており、今後、「大企業の賃上げの流れが中小・零細企業の賃上げに波及するか」が焦点となっている。

<経済動向>

景気は持ち直しているものの、物価高が消費を下押し

東海財務局の「法人企業統計調査」によれば、10~12月期の東海4県(静岡県含む)の設備投資額は前年同期比プラス15.8%と大幅に増加した。増加は4四半期連続。業種別にみると、製造業は同プラス16.0%で、9四半期連続で前年同期を上回った。非製造業は同プラス15.6%で、こちらも4四半期連続で前年同期を上回っている。

生産は緩やかに持ち直しており、鉱工業指数は110.2で前期から2.8%上昇した。主な業種では汎用機械工業がマイナスとなったが、生産用機械工業、業務用機械工業、電子部品・デバイス工業、電気機械工業、輸送機械工業はプラスとなった。

個人消費は緩やかに持ち直したが、一部に弱い動きもみられた。中部経済産業局管内5県(愛知県、岐阜県、三重県、富山県、石川県)の当期の販売額をみると、ドラッグストア(前年同期比プラス9.8%)、百貨店(同プラス7.0%)、コンビニエンスストア(同プラス1.3%)は前年同期を上回ったが、スーパーマーケット(同マイナス0.4%)、ホームセンター(同マイナス2.6%)、家電大型専門店(同マイナス3.4%)は前年同期を下回っている。

輸出をみると、名古屋税関管内の輸出通関額は10月が前年同月比プラス15.6%、11月が同プラス7.2%、12月が同プラス16.8%とプラスで推移している。

こうしたことから東海地域のモニターは、「景気は持ち直しているものの、物価高により消費が下押しされている」として、10~12月期の地域経済を【横ばい】と判断した。

生産活動は大手自動車メーカーの認証不正問題が影を落とす

1~3月期を分野別にみると、中部経済産業局管内5県の大型小売店販売額(1月)の前年同月比は、百貨店、スーパーマーケット、ドラッグストア、ホームセンター、コンビニエンスストアがプラスとなったが、家電大型専門店はマイナスだった。

モニターが作成する「OKB景況指数(3月期)」をみると、景気水準は4.8で前期(0.8)から4ポイント上昇している。しかし分野別では、個人消費がマイナス5.1(前期マイナス5.6)で横ばいだったほか、生産活動はマイナス0.9(同9.5)、設備投資は2.6(同3.9)で前期から悪化している。

モニターはこの結果について、個人消費は「物価高の影響もあり、旺盛な消費需要には至っていない。住宅価格の高騰から、マイホームの購入について慎重になっている」としたほか、生産活動は「自動車産業は大手自動車メーカーの認証不正問題により年明けから受注減少などの影響がある。工作機械は中国向け輸出が減少しており、今後の受注も減少していく見込み」とコメントした。

生産は公的統計をみても弱含みとなっている。1月の鉱工業生産指数は98.4で前月から13.5%低下した。悪化は4カ月ぶりで、主要業種はいずれも低下している。

こうしたことを総合的にふまえてモニターは、1~3月期の見通しを【横ばい】と判断した。

<雇用動向>

人手確保は中小・零細企業で「特に厳しい状況」

雇用の実績(10~12月期)について、有効求人倍率をみると当期は1.28倍で、前期(1.29倍)から横ばい。新規求人数は、10月が前年同月比マイナス1.2%、11月が同マイナス4.9%、12月が同マイナス4.9%と減少傾向が続いた。完全失業率は2.4%で前期(2.6%)から改善した。改善は2期連続。

モニターはこれらの統計の動きをもとに判断を【横ばい】とした。

東海財務局の「法人企業景気予測調査」をみると、3月末時点の従業員数判断BSIは32.0の「不足気味」超で、12月末(30.4)から「不足気味」超の幅がやや拡大している。企業規模別でみても、いずれの規模でも「不足気味」超の幅が拡大している。

モニター作成の「OKB景況指数(3月期)」でも、雇用は66.5の大幅な「不足」超の状況で、「中小・零細企業にとって、人手の確保は特に厳しい状況。高齢化に伴う生産効率の低下や賃上げ・働き方改革等の影響も大きいとの声もある」という。

有効求人倍率は1月が1.27倍(前月比変化なし)で、横ばいでの推移が続いている。

モニターは1~3月期の見通しについて、「人手不足感が強まるなか、雇用情勢は持ち直しの動きが続いているが、回復ペースは緩やか」として【横ばい】と判断した。

楽観できない中小・零細企業の賃上げ

中部地域の主要企業の春季労使交渉では、トヨタ自動車グループなど製造業を中心に過去最高額の賃上げが相次いだ。連合愛知によると、3月13日時点で回答のあった29の労働組合のうち、22組合が満額回答だった。

こうしたなか、モニターは今後の焦点を「大企業の賃上げの流れが中小・零細企業の賃上げに波及するかどうか」とみている。

モニターがOKB大垣共立銀行の支店長および法人営業部担当者を対象に実施した「地域企業の賃上げ動向」調査によると、2024年度のベースアップ実施見込みは「少数のみが実施」が58.5%で最も高く、「ほとんど実施していない」が12.2%だった。これは2023年度の実際の実施状況(「少数のみ実施」が56.5%、「ほとんど実施していない」が12.9%)とほとんど変わりがない。なお、ベースアップに特に積極的な業種を尋ねた問いでは、「輸送用機械器具製造業」が34.1%で最も高く、2024年問題の影響が懸念される「建設業」(33.0%)と「運送(物流・倉庫)」(20.9%)が続いた。

モニターは「中小・零細企業での賃上げが進むかは楽観できず、賃上げの原資となる価格転嫁などが個別企業の努力だけでなく、官民による社会全体での取り組みとして進むかが鍵となるだろう」とコメントしている。