【宮城】価格転嫁が十分に進まないことで大幅賃上げが期待できず

地域シンクタンク・モニター定例調査

宮城県の2023年10~12月期の経済動向は、外食や宿泊が増加したものの、暖冬で冬物商品が低調となり【横ばい】となった。1~3月期の見通しも、生産活動は半導体製造装置や電子部品・デバイスなどを中心に緩やかに持ち直す見込みだが、消費は自動車の供給制約が下押し懸念となり【横ばい】の見込み。雇用については、10~12月期実績は人手不足感が強い業種でも労働需要は弱含みとなっていることから【横ばい】、1~3月期見通しも価格転嫁が十分には進まず、賃上げ率の大幅な上昇は期待できないとみて【横ばい】とした。なお雇用に関しては、台湾の大手半導体メーカーが県内に1,200人を雇用する工場を建設し、国内から広く人材を集める動きが報告されている。

<経済動向>

暖冬で個人消費は冬物が低調

モニターは10~12月期の地域経済を「経済政策の効果などから総じて持ち直しの動きとなった」ものの、「これまで県内経済を下支えしてきた雇用に弱さがみられ、個人消費も繰越需要がやや息切れしてきており、テンポは鈍化している」として【横ばい】と判断した。

判断理由を詳しくみていくと、生産では、半導体製造装置に持ち直しがみられたものの、輸送機械や電子部品などの主力業種では工場の生産停止や在庫調整などの動きがあり、全体としては低調となった。

建設需要では、公共投資に下げ止まりの動きがみられたものの、請負金額は低調な状況。住宅投資は持家の着工戸数が過去最低水準となったほか、仙台圏での貸家・分譲も反動による減少が続く。民間非居住(産業用)建設も建設コストの上昇などから投資姿勢が慎重になっている。

一方、個人消費は、秋の行楽シーズンや忘年会などで繰越需要が顕在化して、外食や交通、宿泊などが増加したものの、息切れもうかがわれる。物価の高止まりによる日用品の節約志向の高まりや暖冬による冬物の低調もあり、全体としては持ち直しの動きは鈍化している。

自動車の検査不正による供給制約が個人消費の下押し懸念に

10~12月期の経済動向をみると、生産は、輸送機械が検査不正による生産停止の影響で下振れするものの、半導体需要が徐々に回復に向かい、半導体製造装置や電子部品・デバイスなどを中心に緩やかに持ち直す見込み。

個人消費は、実質賃金の減少が長引くとみられるほか、乗用車販売などでは検査不正に起因した供給制約による下押しが懸念される。

企業の景況感は、前年に比べて改善するものの業況回復の足取りは重く、宿泊・飲食サービスでは新型コロナウイルスの5類移行で再燃した人手不足が需要の取りこぼしにつながるなど、需要サイドだけでなく供給サイドも足かせとなることが見込まれる。

1~3月期の見通しは、「物価高や人手不足などの下押しに加え、繰越需要の息切れなどから回復の足取りが重くなる」として前期同様、【横ばい】と判断した。

<雇用動向>

人手不足にもかかわらず新規求人が伸び悩む

10~12月期の雇用をみると、有効求人倍率は1.32倍で前期比0.03ポイント低下した。有効求人数は同2.7%減少し、有効求職者数は同0.5%増加しており、「労働需給は弛緩している」。

新規求人数は前年比4.6%減少している。業種別にみると、製造業(前年比11.3%減)、建設業(同9.3%減)といった需要・業況が低迷している業種で減少が目立つほか、宿泊・飲食サービス業(同22.9%減)、運輸業(同4.7%減)などの人手不足感の強い業種も労働需要が弱含みとなっている。

モニターはこうした状況について、「原材料・エネルギー価格上昇分の価格転嫁が進まないなかで10月には最低賃金が引き上げられ、人手不足にもかかわらず新規求人が伸び悩んでいる」とコメントしたうえで、10~12月期の雇用動向を【横ばい】と判断した。

十分な価格転嫁を実現する企業は23.2%にとどまる

1~3月期の見通しについては、「人手不足という構造的な要因により引き続き根強い潜在的労働需要がある」ものの、「物価上昇を上回る賃上げが難しい状況下で次第に需要減少の動きが広がり、地域・業種間の格差の拡大を伴いつつ横ばい圏内の動きになるものと見込まれる」として判断を【横ばい】とした。

モニターが県内企業に12月に実施した調査によると、2024年度に賃上げを実施する予定の企業の割合は40.2%で、前年同期(24.2%)を大きく上回っている。ただし、同調査で「十分な価格転嫁(引上げ希望額の8割以上)」が実現(予定)できているとする企業の割合は23.2%にとどまっていることから、モニターは「賃上げ率の大幅な上昇は期待できない」としたほか、「労働市場は人手不足業種にとって割高な賃金水準となって労働需要をさらに減退させる可能性があり、雇用情勢は十分な注意が必要な状況になるとみられる」という。

台湾大手半導体メーカーが工場で1,200人の雇用を計画

雇用関連のトピックとしては、台湾の半導体大手PSMCが、宮城県大衡村に建設する半導体工場で1,200人を雇用する計画があるという。その内訳は、台湾からの技術者が200~250人、半導体の高度人材が700人程度、残りの250~300人がその他業務の従事者になると発表。

これに関連して、伝統的に半導体研究に強みのある東北大学との連携を強めるほか、国内から広く人材を集める方針。しかし、県内企業はすでに人手不足の状態にあることから、好条件の大手企業の進出はさらなる人材確保難につながりかねないとして、誘致した県は「必要な対策を講じる」としている。