【茨城】価格転嫁実施企業の転嫁率は「10~20%」が最多

地域シンクタンク・モニター定例調査

茨城県の経済動向は、2023年10~12月期は半導体等の供給制約の緩和が進んだことで生産活動が回復し、製造業の景況感が大幅に改善したことから【好転】となった。1~3月期は、業況判断の動きをふまえて【やや悪化】。雇用動向は、雇用指標や経営動向調査の結果から、10~12月期の実績、1~3月期の見通しともに【横ばい】となっている。モニター実施の調査によると、県内企業では価格転嫁が進んではいるものの、価格転嫁率は仕入価格上昇分の「10~20%」が最多と、転嫁率の向上に課題を残す。また、県内企業では最低賃金の改定に関する調査結果で「適正」が約7割を占めたものの「低すぎる」との回答も2割と少なくなかった。「低い」とみる企業が「高い」を上回り、隣県に見劣りしない水準を望む声もある。

<経済動向>

半導体等の供給制約緩和が進んだことで製造業の景況感が大きく改善

モニターが実施する「県内主要企業の経営動向調査(10~12月期)」によれば、県内企業の景況感をあらわす自社業況総合判断DIは「悪化」超3.5%と、前期調査の「悪化」超11.7%から約8ポイント上昇した。業種別にみると、製造業は「好転」超が1.2%で前期から約16ポイント上昇したのに対し、非製造業は「悪化」超7.1%で前期からおおむね横ばい。

モニターは製造業について、「半導体等の供給制約の緩和が進んだことにより、生産・受注が回復したことなどが要因とみられる」としたほか、非製造業については「経済活動の正常化や茨城デスティネーションキャンペーン・体験王国いばらき割などに関する明るい声が聞かれた反面、コスト高による収益環境の悪化や、消費マインドの低下等が景況感を下押しし、小幅改善にとどまったと推測される」と説明したうえで、10~12月期の地域経済を【好転】と判断した。

景況判断が前期の「好転」から「やや悪化」に

1~3月期については、「自社業況総合判断DIは全産業で『悪化』超11.1%と今期から約8ポイント低下する見通し」。これを業種別にみると、「製造業は『悪化』超3.5%で今期から約5ポイント低下、非製造業は『悪化』超16.8%で今期から約10ポイント低下の見込み」となっている。

モニターは、「海外経済の減速、物価の上昇・高止まりによる企業収益悪化や消費マインド低下、人手不足の深刻化などが景況感を下押しする懸念がある」としたうえで、「先行きは、海外経済・為替市場等の動向、国内の物価・賃金の動向、目前に迫る『2024年問題』への対応状況などを注視する必要がある」とコメントし、判断を【やや悪化】とした。

価格転嫁が進むも転嫁率の向上が課題

モニターは12月に県内企業に対して「仕入価格の上昇に関する企業調査」を実施した。それによると、仕入価格が「上昇した」企業の割合は75.6%で、前回2023年6月調査から5.0ポイント上昇している。

こうしたなか、販売価格へ「転嫁している」企業は69.7%で、前回調査から2.5ポイント低下している。業種別にみると、製造業が5.4ポイント上昇した一方、非製造業は9.6ポイント低下している。また、「転嫁している」企業の価格転嫁率は、仕入価格上昇分の「1~20%」との回答割合が最も高く、モニターは「引き続き価格転嫁率の向上が課題」とみている。

調査に回答した企業からは、「価格転嫁をすんなり了承してくれる取引先が多い」(卸売業)など、価格転嫁がスムーズに進んだという声があった一方で、「販売価格を引き上げると、販売数量が減少してしまう」(自動車整備・販売業)、「競合が激しく、価格転嫁できない」(不動産業)といった声も少なくないという。

<雇用動向>

新規求人数の減少傾向が続くも、人員を確保できないという声も

10~12月期の雇用動向をみると、12月の有効求人倍率は1.35倍(前月比0.02ポイント低下)と、2カ月連続で低下している。新規求人数は前年同月比マイナス10.1%で、7カ月連続で前年水準を下回った。

新規求人数を業種別にみると、宿泊業・飲食サービス業(前年同月比プラス49.4%)が大幅に増加した一方で、建設業(同マイナス13.7%)、情報通信業(同マイナス9.3%)、製造業(同マイナス8.3%)、運輸・郵便業(同マイナス6.2%)などは減少した。

12月の雇用保険受給者数は7,993人で、前年同月比プラス7.6%と9カ月連続で前年水準を上回った。同月の事業主都合離職者数は394人で、2カ月ぶりに前年水準を上回っている。

モニターが実施した「県内主要企業の経営動向調査結果(10~12月期)」によると、雇用判断DIは「減少」超2.0%で前期からおおむね横ばいとなった。業種別にみると製造業が「減少」超7.0%で約8ポイント低下、非製造業が「増加」超1.8%で前期から約11ポイント上昇している。

企業からは「需要は堅調だが、人手不足と資材等の納期遅延が深刻。来期は受注の調整が必要になる見通し」(建設業)、「増員したいが適材がいない。価格転嫁難の状態にあるため、増員分の人件費の確保も困難」(自動車整備業)など、需要に対して適正な人員を確保できていないとの声も聞かれる。

こうした動きをもとにモニターは、「横ばい圏内で推移している」として10~12月期の雇用の実績を【横ばい】と判断した。

1~3月期の雇用状況の見通しについても、モニターが実施した同調査の先行き(1~3月期)の結果をもとに、「雇用判断DIは全産業で『減少』超1.5%と今期から横ばい。製造・非製造業別にみると、製造業が『減少』超1.1%で約6ポイント上昇、非製造業が『減少』超1.8%で約4ポイント低下」していることから、引き続き【横ばい】とした。

冬のボーナスは増額傾向

モニターは12月に県内企業に対して「冬季賞与に関する調査」を実施した。それによると、県内企業の冬季賞与の支給状況(総額ベース、前年比)は「増加」が40.6%、「減少」が5.7%と、前年比で増額傾向となっている。調査は毎年実施しているが、「増加」が4割を超えるのは過去10年で初となる。

「増加」と回答した企業からは、「業績が向上したので還元する」(電気機械製造業)、「上期業績が好調、下期も堅調な見通しのため増額」(卸売業)、「上期売上の増加を受け、支給額をアップ」(小売業)など、好業績を背景に支給額を引き上げたという声も聞かれた。他方で、「収益は悪化したが、物価高への対応や人材流出防止のため支給額を増やす」(宿泊・飲食業)、「売上は昨年と変わらないが、社員のモチベーション向上のために増額する(不動産賃貸業)」など、収益環境が厳しさを増すなかでも増額に踏み切ったとする声も多かった。

モニターはこの調査結果について、「一部の企業の業績が好調であったことに加え、物価高・人手不足などへの対応強化を図る企業が多かったことなどが、増額につながった」とみている。

最賃は千葉県に見劣りしない水準を望む声も

モニターは12月に県内企業に対して「最低賃金引上げの影響に関する企業調査」も実施した。茨城県の最低賃金は、2023年10月に42円引き上げられて953円となっている。調査結果によると、改定による経営への影響については、「大いに影響する」が21.2%、「多少は影響する」が38.1%で、あわせて約6割となっている。「大いに影響する」は前回2022年調査を約5ポイント上回っている。

最低賃金の改定が「大いに影響する」または「多少は影響する」とする企業に対して、実施している、あるいは実施予定の対応を尋ねたところ(複数回答)、「人件費以外のコスト削減」が37.3%で最も割合が高く、次いで「残業時間・シフトの削減・抑制」が35.5%、「対応は行わない」が27.3%、「商品・サービス価格の改定」が21.8%などとなった。

このうち「商品・サービス価格の改定」は製造業が15.1%に対して非製造業は28.1%で、モニターは「製造業では非製造業に比べ、最低賃金の改定に伴う人件費の上昇分を販売価格に転嫁する動きが弱い様子がうかがえる」とみている。

改定後の最低賃金の水準(953円)への認識を尋ねたところ、「適正だと思う」が71.9%、「低すぎると思う」が19.5%、「高すぎると思う」が8.6%となっており、「高い」と捉える企業よりも「低い」と捉える企業のほうが約11ポイント高くなっている。

「高すぎると思う」とした企業からは、「経営を圧迫する」(食料品製造業)、「人件費の増加分は、価格転嫁が受け入れてもらえない傾向にある」(金属部品製造業)といった切実な声が聞かれた。一方、「県南エリアは東京都の最低賃金(1,113円)と比較される」(運輸・倉庫業)という意見のほか、「千葉県(1,026円)との格差から人材確保が難しい」(食料品製造業)など、隣県である千葉県に見劣りしない最低賃金の設定を望む声もあったという。