「教育訓練休暇給付金」や訓練のための融資制度の創設などを予定
 ――雇用保険制度の見直しに向けた政府の動き

スペシャルトピック

厚生労働省の労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会が1月に雇用保険制度見直しに向けた部会報告をまとめたことをうけ、同報告の内容を反映するための雇用保険制度の見直し作業が政府で進められている。法改正が必要な内容については、今通常国会で審議を行うことになっている。労働者が生活費などへの不安なく、教育訓練に専念できるようにするための「教育訓練休暇給付金」(仮称)の創設や、雇用保険の被保険者ではない者を対象に教育訓練費用や生活費のために融資を行う制度の創設などが予定されている。

2023年骨太方針や国会の付帯決議を契機に見直しを検討

雇用保険制度をめぐっては、女性や高齢者など多様な人材の労働参加の進展や、労働者の主体的なキャリア形成への支援、男性の育児休業の取得推進などが求められていることを背景として、2023年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)や「こども未来戦略方針」などが、「週所定労働時間20時間未満の労働者に対する雇用保険の適用拡大」「正当な理由のない自己都合離職者への基本手当の給付制限期間の見直し」「教育訓練給付の拡充」「出生後一定期間内に両親ともに育児休業を取得することを促進するための育児給付の給付率の引き上げ」などを検討することを提起した。

また、2022年雇用保険法改正や国会での付帯決議(2022年3月の衆議院厚生労働委員会および参議院厚生労働委員会)で、2024年度までに、育児休業給付とその財源確保のあり方などについて検討することが求められていた。

こうした状況をふまえ、厚生労働省の労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会が2023年9月以降、雇用保険制度全般について議論を進め、今年1月に最終報告をまとめた。報告をふまえて、必要な雇用保険法改正などが行われることになっている。

受講後に賃金が上昇したら10%を追加支給

部会報告をもとに、見直しが予定される主な内容をみていくと、まず、教育訓練給付を拡充する。

教育訓練給付は、一定の受給要件を満たす労働者が、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講・修了した場合に、その費用の一部を支給することを通じて、労働者の学び直しを支援するもの。そのうち、中長期的キャリア形成に資する専門的・実践的な教育訓練講座を対象としている「専門実践教育訓練給付金」について、現行では、受講費用の50%を給付し、資格を取得すると20%を追加給付しているが、受講後に賃金が上昇した場合に、さらに10%を追加支給することにする(合計80%になる)。なお、「専門実践教育訓練給付金」の対象資格・講座には、看護師、介護福祉士など医療・社会福祉・保健衛生関係の専門資格や、データサイエンティスト養成コースなどデジタル関連技術の習得講座などがある。

速やかな再就職および早期のキャリア形成に資する教育訓練講座を対象とする「特定一般教育訓練給付金」についても、現行では、受講費用の40%を給付しているが、資格を取得した場合に10%を追加支給することにする(合計50%になる)。「特定一般教育訓練給付金」の対象資格・講座には、大型自動車第一種免許など運転免許関係や、介護職員初任者研修など医療・社会福祉・保健衛生関係の講座などがある。両給付金の見直しの施行日は2024年10月を予定している。

休暇給付金は基本手当と同じ額を支給

教育訓練中の生活を支える環境も整える。現状では、労働者が自発的に、教育訓練に専念するために仕事から離れる場合、その訓練期間中の生活費を支給する仕組みがない。労働者が生活費などへの不安なく、教育訓練に専念できるようにするため、まず、「教育訓練休暇給付金」(仮称)を創設する。

具体的には、雇用保険被保険者を対象とし、①教育訓練のための休暇(無給)を取得すること②被保険者期間が5年以上あること――を要件として、離職した場合に支給される基本手当と同じ額を支給し、給付日数は、被保険者期間に応じて90日、120日、150日の3パターンを用意する。

また、雇用保険の被保険者ではない者を対象に、教育訓練費用や生活費を対象とする融資制度を創設する。融資対象は、教育訓練費用と生活費。貸し付けの上限は年間240万円(最大2年間)で、利率は年2%とする。教育訓練修了後に賃金が上昇した場合は、残債務の一部を免除する。これらは2025年10月の施行をめざす。

週所定労働が10時間以上20時間未満の労働者に対象を拡大

雇用保険制度の適用を拡大する。現在は、週の所定労働時間が20時間以上の雇用労働者が適用対象となっているが、雇用労働者のなかで働き方や生計維持のあり方の多様化が進んでいることをふまえ、また、雇用のセーフティーネットを広げる観点から、週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の労働者に対象を拡大する。2028年10月までに施行することをめざす。

新たに適用拡大によって被保険者となる者は、適用要件を満たした場合、現行の被保険者と同様に、失業等給付(基本手当等、教育訓練給付等)、育児休業給付、雇用保険二事業の対象とする。

報告はマルチジョブホルダーの適用判断の考え方の明確化を求める

なお、部会報告は、この適用拡大に関連して、複数の事業所で雇用されている労働者、いわゆるマルチジョブホルダーへの雇用保険の適用を判断する際に、現場における取り扱いで混乱が生じないよう、「判断に当たっての考え方を施行までに明確化し、周知すべき」と提言している。マルチジョブホルダーへの雇用保険の適用については、現行では、複数の事業主との間で雇用保険の適用基準を満たす場合には、生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける1つの事業主との雇用関係についてのみ、被保険者とすることになっている。例えば、ある労働者が、A事業所では週の所定労働時間が15時間で、B事業所では10時間、合計が25時間でも、事業主ごとで見た場合に20時間以上でないので、適用対象外となる。ただ、見直しによって適用の範囲が週所定労働時間10時間以上に拡大されれば、被保険者要件を満たすケースが増加することが予想されるからだ。

部会報告はまた、65歳以上の労働者についても付言している。65歳以上の労働者については、2つの事業所での週所定労働時間が20時間未満であっても、合算して20時間以上となる場合、本人の申し出を起点として適用する仕組みが設けられおり(2022年1月から施行)、施行後5年をめどとして検討を加えるとされているが、報告は「給付の支給状況等この仕組みの実施状況の把握と検証を行い、マルチジョブホルダーへの雇用保険の適用の在り方等について引き続き検討すべき」と要望した。

自己都合離職者の給付制限期間を短縮

基本手当について、自己都合離職者の給付制限を見直す。現状は、正当な理由のない自己都合離職者に対しては、失業給付(基本手当)の受給にあたって、待期満了の翌日から原則2カ月間の給付制限期間がある。これについて、転職を試みる労働者が安心して再就職活動を行えるようにするため、原則の給付制限期間を2カ月から1カ月に短縮する。

また、自ら教育訓練を行って再就職を目指す労働者が円滑に求職活動を行えるよう、離職期間中や、離職日からさかのぼって1年の期間内に、自ら雇用の安定および就職の促進に資する教育訓練を行った場合には、給付制限を解除する。2025年4月の施行が予定されている。

被保険者とその配偶者の両方が14日以上取得すれば給付率80%に

育児休業給付の給付率を引き上げる。育児休業給付では現状、育児休業を取得した場合、休業開始から通算180日までは賃金の67%(手取りで8割相当)を支給し、180日経過後は50%を支給している。男性の育児休業取得を促進するため、子の出生直後の一定期間以内(男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内)に、被保険者とその配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得する場合に、最大28日間、休業開始前賃金の13%相当額を給付することにし、育児休業給付とあわせて給付率80%(手取りで10割相当)へと引き上げる。財源は、政府が2023年12月22日に決定した「こども未来戦略」で創設が盛り込まれた「子ども・子育て支援金」(仮称)を充当し、施行期日は2025年4月をめざす。

また、育児支援関連では、現状、育児のための短時間勤務制度を選択し、賃金が低下した労働者に対して給付する制度がないことから、「育児時短就業給付」(仮称)を創設する。具体的には、被保険者が2歳未満の子を養育するために時短勤務をしている場合に給付する。給付率は、休業よりも時短勤務を推進し、また、時短勤務よりも従前の所定労働時間で勤務することを推進する観点から、時短勤務中に支払われた賃金額の10%とする。財源は「子ども・子育て支援金」(仮称)を充当し、施行期日は2025年4月を予定している。

(調査部)