【近畿】大阪・関西万博の経済波及効果を2.7~3.4兆円と試算

地域シンクタンク・モニター定例調査

近畿の7~9月期の経済動向は、プロ野球チームの優勝セールで百貨店が好調だったものの、景況感がやや悪化しているほか、貿易も弱い動きが続いて【横ばい】となった。10~12月期の見通しは、生産が弱い動きで【やや悪化】の見込み。モニターは大阪・関西万博の経済波及効果を2.7~3.4兆円と試算したうえで、DXによる供給制約の緩和が重要と指摘している。雇用指標は、7~9月期実績については、対面型サービスでは労働需要が高まっているものの、製造業や建設業は物価高騰の影響で弱さが続き【横ばい】。10~12月期見通しは新規求人数が減少していることから【やや悪化】としている。

<経済動向>

百貨店はプロ野球チームの優勝セールが売上に寄与

7~9月期について、近畿地域の家計部門の動向をみると、持ち直しの動きに一服感がみられる。消費者態度指数は前期比マイナス0.8ポイントの36.6で、3四半期ぶりの悪化となった。住宅市場では、新設住宅着工戸数が前年同期比マイナス9.5%で、2四半期連続で前年同期を下回った。持家が同マイナス7.5%、貸家が同マイナス5.6%、分譲が同マイナス16.5%と、いずれも減少している。

大型小売店販売額は前年同期比プラス8.7%となり、8四半期連続で前年を上回った。内訳をみると、百貨店が同プラス17.4%と大幅に増えたほか、コンビニエンスストアが同プラス6.1%、スーパーマーケットが同プラス3.8%などとなっている。百貨店はインバウンド需要に加え、プロ野球阪神タイガースの優勝セールも売上増に貢献した。

景況感は電気機械や化学で悪化

景況感について日銀短観(9月)をみると、業況判断DIは6で前期から2ポイント低下したものの、8四半期連続でプラス圏を維持した。業種別では製造業がマイナス3(前期比マイナス2ポイント)で、特に電気機械や化学が悪化している、非製造業は14(同マイナス2ポイント)だった。

貿易は輸出入ともに弱い動きが続いている。当期の輸出額は前年同期比マイナス3.7%で、2四半期連続で前年を下回った。パソコンやスマートフォンに使用される半導体等の需要減により、アジア向けの半導体電子部品が減少した。輸入は同マイナス16.2%で、資源高の一服で原油・粗油が減少している。

以上を勘案し、モニターは「緩やかな持ち直しの動きが続いている」ものの「悪化を示す指標も散見される」として7~9月期の判断を【横ばい】とした。

スーパーは売上増も買上点数は減少傾向

10~12月期の見通しについては、モニターは「足元の局面変化により、先行きは悪化の兆しがみられる」として【やや悪化】と判断した。

11月の大型小売店販売額は前年同月比プラス7.1%と26カ月連続で増加した。百貨店が同12.9%と好調が続く。スーパーマーケットは同プラス2.9%で、価格上昇により売上高は増加しているものの、買上点数は減少傾向が続いている。

景況感をみると、12月の「景気ウォッチャー調査」の現状判断DIは50.3で、前月比0.7ポイント上昇とほぼ横ばいの動きだが、景気判断の分岐点である「50」を3カ月ぶりに上回っている。

生産動向をみると、11月の鉱工業生産指数(速報値)は89.6で前月比マイナス1.6%と、2カ月連続の減産となっている。業種別では汎用・業務用機械、食料品・たばこ、化学(除く医薬品)、輸送機械等が減産となった。

11月の新設住宅着工戸数は前年同月比マイナス8.6%で、6カ月連続で減少している。11月の新築分譲マンション契約率(売却戸数/発売戸数)は63.5%(前月比マイナス19.5%)で、2カ月連続で低下して好不況の境目とされる70%を下回った。

万博と絡めた旅行コンテンツの磨き上げを

モニターは、大阪・関西万博の経済波及効果について、複数のケースを想定した試算結果を公表している。それによると、経済波及効果は「基準ケース」で2兆7,457億円、「夢洲会場以外のイベントによる追加的な参加(泊数増加)を想定した拡張万博ケース1」で3兆2,384億円、「拡張万博ケース1に加え、リピーター増も考慮した拡張万博ケース2」で3兆3,667億円となっている。

モニターは「試算結果を実現するためには供給制約の緩和は必須である。そのためにDXの活用が重要となり、それが日本の潜在成長率を高めることになる」としたうえで、「海外の旅行者に興味を持ってもらうためには、万博と絡めた旅行コンテンツの磨き上げが重要」と指摘している。

<雇用動向>

製造業・建設業は原材料費・燃料費の高騰で弱さが続く

7~9月期の雇用実績について、モニターは「宿泊業・飲食サービス業を中心に対面型サービス業では労働需要が高まっている」ものの、「製造業や建設業では原材料費や燃料費の高騰による影響もあり弱さが続いている」として【横ばい】と判断した。

雇用統計をみると、有効求人倍率は1.19倍で前期から0.01ポイント低下、新規求人倍率は2.29倍で前期から0.01ポイント低下と、いずれも動きは小さい。完全失業率(モニターによる季節調整値)は3.1%で、前期比プラス0.4ポイントと悪化している。完全失業率の上昇は2四半期ぶり。

現金給与総額(モニター推計)は前年同期比プラス0.7%と11四半期連続で増加しているものの、物価の影響を除いた実質値は同マイナス2.8%で、6四半期連続でマイナスとなった。

最低賃金の引き上げがサービス業の求人抑制の可能性も

10~12月期の雇用の見通しについては、「製造業では原材料費や燃料費の高騰で労働需要の弱さが続く」としたほか、「10月に実施された最低賃金の引き上げは、低賃金の非正規労働者が多いサービス業の求人を抑制する要因になっている可能性がある」とみて【やや悪化】と判断している。

11月の新規求人倍率は2.16倍で前月比0.13ポイントの低下となった。新規求人数は同マイナス5.0%、新規求職者数は同プラス0.8%となっている。新規求人数を業種別にみると、運輸業・郵便業(前年同月比プラス0.5%)を除くすべての業種で減少している。特に生活関連サービス業・娯楽業(同マイナス37.2%)の減少幅が目立つほか、製造業(同マイナス9.5%)と建設業(同マイナス9.0%)は減少傾向が続いている。