技能実習制度に替わる新制度を導入、特定技能制度への円滑な移行や一定要件による転籍も可能に
 ――政府の「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が最終報告書をまとめる

政府の動向

外国人を適正に受け入れる方策を検討するため、「技能実習制度」と「特定技能制度」の見直しを検討してきた政府の「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」(座長:田中明彦・独立行政法人国際協力機構理事長)は11月30日、最終報告書をとりまとめ、法務大臣に提出した。報告書では、技能実習制度に替わる新制度として「育成就労制度」(仮称)の創設を提起。業務範囲を特定技能の業務区分と同一にし、育成期間内に段階的に対象レベルの日本語能力試験を受験させるなど、特定技能制度に円滑に移行できる仕組みを提示している。これまでは原則認められなかった転籍も、同一機関での就労が1年を超えていることなどの要件を満たせば可能とする。

人材確保・人材育成を目的とした新たな制度へ

外国人が日本で企業などと雇用関係を結び、出身国での修得が困難な技能の修得を図る「技能実習制度」(1993年創設)、特定の産業分野で専門性・技能を有する外国人を雇用する「特定技能制度」(2019年創設)は、関係法令の規定による検討時期にそれぞれ差し掛かったため、2022年12月から同有識者会議が設置され、見直しが検討されてきた。

現行の技能実習制度について制度目的と運用実態のかい離が指摘されていることなどから、2023年5月には、現行の技能実習制度を廃止し、人材確保・人材育成を目的とする新たな制度を創設するなどの方向性を中間報告にとりまとめて公表(本誌2023年6月号スペシャルトピックにて詳報)。その後、具体的な制度設計についての議論がまとまったため、最終報告書として公表した。

外国人の人権保護やキャリアアップを重点に見直す

報告書ははじめに、技能実習制度・特定技能制度の見直しにあたっての基本的な考え方として、3つの視点(ビジョン)と4つの方向性を提示している。

報告書は、技能実習制度や特定技能制度において外国人が日本の経済社会の担い手となっている実情がある一方、現行の技能実習制度では原則転籍ができないことや、監理団体による監理・支援が十分でない場合があることが、人権侵害や法違反の背景・原因になっていると指摘。両制度を見直すにあたり、国際的にも理解が得られ、日本が外国人材に選ばれる国になるよう、①外国人の人権が保護され、労働者としての権利性を高めること②外国人がキャリアアップしつつ活躍できる分かりやすい仕組みを作ること③全ての人が安全安心に暮らすことができる外国人との共生社会の実現に資するものとすること――の3つに重点を置いて検討した。

見直しにあたっての方向性としては、①技能実習制度を人材確保・人材育成を目的とする新たな制度とするなど、実態に即して見直す②技能・知識を段階的に向上させ、その結果を客観的に確認できる仕組みを設けることでキャリアパスを明確化し、新たな制度から特定技能制度へ円滑な移行を図る③外国人の人権保護の観点から一定の要件で本人の意向による転籍を認め、監理団体・登録支援機関・受け入れ機関の要件厳格化や関係機関の役割の明確化などを行う④外国人材の日本語能力が段階的に向上する仕組みを設けるなど、外国人材の受け入れ環境を整備する取り組み、外国人との共生社会の実現を目指す――の4点を掲げた。

3年間で特定技能1号の技術水準まで育成

こうした視点と方向性に基づき、10項目にわたって具体的な見直しの内容を提言した。

第1に、現行の技能実習制度について、「実態に即して発展的に解消し、我が国社会の人手不足分野における人材確保と人材育成を目的とする新たな制度を創設する」と提起。仮称は「育成就労制度」とした。特定技能制度については、「人手不足分野において即戦力となる外国人を受け入れるという現行制度の目的を維持しつつ、制度の適正化を図った上で引き続き存続させる」とした。

技能実習に関する新制度と特定技能制度との関係性についても言及。現行は第2号技能実習(入国3年後に修了)を修得している外国人は通常受けるべき特定技能試験・日本語能力試験を免除されて特定技能1号の在留資格に変更することができる一方、両制度の対象職種分野に不整合が生じているなど、課題があった。そのため、新制度は「未熟練労働者として受け入れた外国人を、基本的に3年間の就労を通じた育成期間において計画的に特定技能1号の技能水準の人材に育成することを目指す」としている。

また、現行の技能実習制度で行われている企業単独型の技能実習のうち、新制度の趣旨・目的に沿うものは、監理・支援手段などの適正化を図ったうえで引き続き実施することを提示。趣旨・目的に沿わないが引き続き実施する意義がある場合は、適正性を確保する手段を講じつつ、既存の在留資格の対象を拡大するなどして、新制度とは別の枠組みで受け入れることを検討するとした。

対象分野は特定技能制度の「特定産業分野」に設定された分野に限定

新制度の受け入れ対象分野については、現行の技能実習制度との趣旨・目的の違いを踏まえ、職種などを機械的に引き継がず、特定技能制度における「特定産業分野」の設定分野に限定するとした。国内における就労を通じた人材育成になじまない分野は対象外とする。

外国人が従事できる業務の範囲は、特定技能の業務区分と同一としつつ、「人材育成の観点から、当該業務区分のなかで修得すべき主たる技能を定めて計画的に育成・評価を行う」と明記。受け入れ機関では、技能修得状況などを評価するために育成開始から1年経過時や育成終了時までに対象のレベルの日本語能力試験などを受験させるとしている。

受け入れ見込み数の設定については、現行の技能実習制度では受け入れ見込み数は設定されていないが、新制度では「受入れ対象分野ごとに受入れ見込み数を設定し、これを受け入れの上限数として運用する」と指摘。なお、新制度および特定技能制度の受け入れ見込み数や対象分野は、経済情勢などに応じて適時・適切に変更できるものとし、特定技能評価試験のレベル・内容の評価などと合わせて、有識者などで構成する新たな会議体の意見を踏まえて政府が判断するとしている。

一定要件を満たせば本人意向による転籍も可能に

現行の技能実習制度において、人権侵害行為などやむを得ない事情がある場合を除き認めていなかった転籍については、新制度ではやむを得ない場合の転籍の範囲を拡大・明確化し、手続きを柔軟化することを強調。

また、同一機関での就労が1年を超えていることや、技能検定試験基礎級・日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5など)への合格、転籍先機関の適正性といった一定の要件をすべて満たす場合には、本人の意向による転籍も認めるとした。なお、転籍の範囲は、現に就労している業務区分と同一に限る。

そのほか、監理団体やハローワークなどによる転籍支援を行うことや、育成終了前に帰国した外国人について、それまでの新制度による滞在が2年以下の場合には前回育成時と異なる分野・業務区分での再入国を認めることなどを提起している。

監理団体や受け入れ機関の運用における要件を厳格化・適正化

監理・支援・保護については、外国人技能実習機構を改組した新たな機構で、監督指導機能・支援保護機能の強化や、労働基準監督署・地方出入国在留管理局との連携を強めるとともに、特定技能外国人への相談援助業務を追加すると指摘。

また、監理団体について、外部監視の強化などによる独立性・中立性の確保や職員の配置などによる許可要件の厳格化を示したり、受け入れ機関について、受け入れ人数枠を含む育成・支援体制の適正化や分野別協議会への加入などの要件を設けることを述べている。

なお、優良な監理団体や受け入れ機関に対してはインセンティブとなるよう、申請書類の簡素化や届け出の頻度軽減などの優遇措置を講じる。

特定技能外国人への支援業務の委託先は登録支援機関に限定

特定技能制度の適正化方策としては、新制度から特定技能1号への移行について、技能検定試験3級等または特定技能1号評価試験の合格に加え、日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4など)の合格を要件とすることを求めた。ただし、日本語能力試験の要件は当分の間、認定日本語教育機関などにおける相当の講習を受講した場合も可能とする。

また、特定技能外国人に対する支援は、支援業務の委託先を登録支援機関に限定し、支援責任者の講習受講といった要件の厳格化や、支援実績・委託費の開示などを義務付ける。本人の希望も踏まえ、特定技能2号取得に向けた特定技能外国人へのキャリア形成支援も実施する。

送出機関・受け入れ機関の情報の透明性向上や外国人が負担する手数料の軽減策も

報告書ではそのほか、送出機関・送り出しのあり方や日本語能力の向上方策についてもまとめている。

送出機関・送り出しのあり方については、送出国政府との二国間取り決め(MOC)を新たに作成して悪質な送出機関の排除の実効性を高めることや、送出機関・受け入れ機関にかかる情報の透明性を高めていくこと、外国人が送出機関に支払う手数料を受け入れ機関と外国人が適切に分担する仕組みを導入して外国人の負担を軽減することなどを提起。

日本語能力の向上方策としては、就労開始前、特定技能1号移行時、特定技能2号移行時にそれぞれの水準に合わせた日本語能力試験に合格することを要件とし、継続的な学習による段階的な日本語能力の向上を図ることなどに言及した。

(調査部)