1日あたりの勤務時間数は減少するも、平均在校時間は依然として10時間以上
 ――文部科学省の最新調査からみる教員の長時間勤務の現状と働き方改革に向けた動き

教員の勤務実態

教員の勤務時間の長さによる弊害が指摘されるなか、文部科学省が2016年以来6年ぶりに「教員勤務実態調査」を実施し、現場の実態を把握したところ、「教諭」職などの1日あたりの平均在校時間は前回調査から減少したものの、依然として、平日の在校時間は10時間以上にのぼった。文科省では、5月に中央教育審議会に諮問した「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」のなかで、「一層実効性ある働き方改革の推進」が不可欠と指摘。検討項目に「長時間労働の時間外勤務を抑制するための仕組み」を盛り込むなど、教職の魅力向上に向けた職場環境づくりを急ぐ。

小学校では「副校長・教頭」、中学校では「教諭」も11時間台

最新の「教員勤務実態調査」の集計結果(速報値)は、5月に開催された中央教育審議会のなかで明らかにされた。最新の調査は、2022年に実施。小学校1,200校、中学校1,200校、高等学校300校に勤務するフルタイムの常勤教員(校長、副校長、教頭、教諭など)が調査対象となっている。

それによると、10・11月の1日あたりの在校等時間は、平日は、小学校では「校長」が前回の2016年調査比14分減の10時間23分、「副校長・教頭」が同27分減の11時間45分、「教諭(主幹教諭・指導教諭含む。以下同)」が同30分減の10時間45分となり、これらの職種すべてで前回調査から改善がみられたが、依然として10時間台~11時間台の状況となっている(図1)。

図1:教員の1日当たりの平均在校等時間(職種別)(時間:分)
画像:図1

(文部科学省掲載図表データ)

中学校では、「校長」が同27分減の10時間10分、「副校長・教頭」が同24分減の11時間42分、「教諭」が同31分減の11時間1分となっており、中学校も前回よりは改善したものの、これらの職種ではいずれも10時間台もしくは11時間台の長時間勤務となっている。

なお、土日についてみると、小学校では「校長」が同40分減の49分、「副校長・教頭」が同50分減の59分、「教諭」が同31分減の36分。中学校では「校長」が同52分減の1時間7分、「副校長・教頭」が同50分減の1時間16分、「教諭」が同1時間4分減の2時間18分と、両学校ともにこの3つの職種はいずれも平日より改善幅が大きくなっている。

ただ、「教諭」の1日の平均持ち帰り時間をみると、平日では小学校が37分、中学校が32分となっており、いずれも前回調査(それぞれ29分、20分)よりも増加した。土日については小学校が36分、中学校が49分となっており、いずれも前回調査(同1時間8分、1時間10分)から約20~30分減少した。

小・中学校ともに、「教諭」の週あたり在校時間は50時間以上

1週間あたりの在校等時間の平均を職種別にみると、小学校では、「校長」が51時間21分(前回:55時間3分)、「副校長・教頭」が58時間33分(同63時間38分)、「教諭」が52時間47分(同57時間29分)で、これらの職種はすべて前回から減少している。中学校では、「校長」が50時間48分(前回:56時間)、「副校長・教頭」が58時間50分(同63時間40分)、「教諭」が57時間24分(同63時間20分)で、中学校でもこれらの職種は前回から減少した。ただ、小・中学校ともに、この3職種はすべて50時間以上となっている。

また、「教諭」の1週間あたりの総在校等時間をみると、小学校では、「50時間~55時間未満」が30.3%で最も割合が高く、「55時間~60時間未満」も20.0%と2割に及んだ(図2)。中学校では、「50時間~55時間未満」(20.2%)と「55時間~60時間未満」(20.3%)がほぼ同じ割合で特に高くなっている。

図2:教諭職の1週間当たりの総在校等時間(時間:分)
画像:図2

(文部科学省掲載図表データ)

中学校「教諭」の3割以上が週の総在校等時間が60時間以上

総在校等時間が週50時間を超過している割合は、小学校が64.5%、中学校が77.1%にのぼる。これは月換算すると、公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドラインで定められた時間外勤務の上限「月45時間」を超えると想定されるラインであり、深刻な長時間労働となっていることが読み取れる。また、同様に月換算でいわゆる「過労死ライン」(時間外月80時間)を超えると想定される総在校等時間が週60時間以上となる割合も、小学校では14.2%、中学校では36.6%にのぼっている。

8月の長期休業期間でも1日あたり在校時間は8時間以上

8月期の集計結果をもとにした長期休業期間の勤務日数や在校等時間などをみると、「教諭」の長期休業期間の平日20日間のうち所定の勤務時間を勤務した平均日数は、小学校が5.6日、中学校が8.4日だった。

また、長期休業期間の1日あたりの平均在校等時間を、平日(勤務日)・土日でそれぞれ職種別にみると、平日は、小学校は「校長」が8時間25分、「副校長・教頭」が9時間15分、「教諭」が8時間4分で、休業期間中にもかかわらず8時間以上となっている。中学校では、「校長」が8時間29分、「副校長・教頭」が9時間19分、「教諭」が8時間26分で、やはりいずれも8時間以上だった(図3)。

図3:長期休業期間の教員の1日当たりの平均在校等時間(職種別)(時間:分)
画像:図3

(文部科学省掲載図表データ)

年間有給休暇の平均取得日数は前回調査より増加

調査ではこのほか、有給休暇の取得状況についても尋ねている。教員の年間の有給休暇の平均取得日数をみると、小学校は13.6日、中学校は10.7日となり、いずれも前回調査(それぞれ11.6日、8.8日)から改善がみられた。

これを日数別にみると、小学校は「16~20日」が28.9%で最も割合が高く、次いで「11~15日」(26.9%)、「6~10日」(26.8%)などが高くなっている。中学校では、「6~10日」(36.2%)が3割以上にのぼり、「11~15日」(20.0%)も2割となった。

5月の審議会で働き方改革に向けた検討項目を諮問

こうした教員の勤務状況を踏まえ、文科省は5月22日の中央教育審議会に、教員の働き方改革や処遇改善に向けた検討項目を盛り込んだ「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」を諮問した。

方策は、調査結果で明らかとなったような長時間勤務の実態や、大量退職・大量採用などの状況のなかで全国的に教師不足となっている状況を憂慮。「我が国の未来を切り拓く人材を育成していくためには、我が国の学校教育の中核であり、その成否を左右する教師に質の高い人材を確保することが必須であり、抜本的に教職の魅力を向上させることが喫緊の課題となっている」と強調し、勤務制度を含めた「一層実効性のある施策を実施することにより、働き方改革を加速する必要がある」とした。

働き方では1年単位の変形労働時間制の運用のあり方も掲げる

そのうえで、働き方や処遇改善のあり方について、検討すべき事項を数点、提示した。働き方では、「更なる役割分担・適正化を推進する観点からの学校・教師が担う業務の在り方」や、「『休日のまとめ取り』のための1年単位の変形労働時間制の一層の活用が図られるようにするための導入後の状況を踏まえた運用の見直しの在り方」「公立学校の教師の健康及び福祉の確保の観点からの、長時間の時間外勤務を抑制するための仕組みの在り方」などを掲げた。

処遇改善のあり方については、「勤務時間の内外を問わず教師の職務を包括的に評価し、時間外勤務手当の支給に代えて、一律給料月額の4%を支給することとしている教職調整額及び超勤4項目の在り方」に関する検討を求めた。現行では、公立学校の教員の給与は、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)が適用されている。同法では、時間外勤務手当・休日勤務手当を支給しない代わりに、給料月額の4%に相当する「教職調整額」を支給することを定めている。なお、「超勤4項目」とは、実習や学校行事、職員会議、非常災害などに必要な業務のことを指す。

方策はこのほか、「現在の教師の職務や勤務の実態を踏まえた教師の意欲や能力の向上に資する給与制度や、各教師の職務や職務の状況に応じた給与のメリハリの在り方」などの検討を求めている。

(調査部)