4割の看護職員が職場にメンタル障がいで休む・治療を受けている職員がいると認識
 ――日本医労連・全大教・自治労連の「2022年看護職員の労働実態調査」結果と日本医労連の「看護師の入退職に関する実態調査」結果から

労働組合の取り組み

看護職員の労働と健康の実態を明らかにするため、日本医労連が、国立大学病院などを組織する全国大学高専教職員組合(全大教)と自治体病院などを組織する日本自治体労働組合総連合(自治労連)と合同で実施した「2022年看護職員の労働実態調査」結果(5月発表)によると、4割の看護職員が、職場にメンタル障がいで休む・治療を受けている職員がいると回答し、6割以上が仕事での不満やストレスを抱えていることがわかった。また、十分な看護が提供できていないと感じる割合も2割を超え、その理由として8割以上が人員不足による業務過密をあげた。

人手不足の深刻さは、日本医労連が5月に公表した「看護師の入退職に関する実態調査」結果からも読み取れ、2022年度の退職者数を2023年4月の入職者数で補充しきれていない医療機関が7割にのぼるなど、十分に人員を補えていない現状がうかがえた。日本医労連は大幅増員や人員配置の見直しなどの必要性を訴えている。

「2022年看護職員の労働実態調査」結果からみる労働と健康の実態

これまでは、日本医労連、全大教、自治労連がそれぞれ単独で看護師の労働・健康に関する実態調査を実施していたが、今回は日本の看護師が置かれている状況をより広く把握するため、初めて3単産合同で行った。

全国の日本医労連、全大教、自治労連の加盟組織内にある医療機関・介護事業所などに勤務する看護職員(保健師、助産師、看護師、准看護師)を対象に、2022年9月実績について、同年10月~12月に調査した。加盟組織を経由して加盟組合に調査票を送付し、3組織合計で3万5,933人から回答を得た。

65%が1年前と比べて仕事量の増加を実感

調査でははじめに、仕事量や労働時間、賃金、休憩時間の取得状況などを確認している。

1年前と比べて仕事量が変化しているかをみると、「大幅に増えた」が26.8%、「若干増えた」が38.2%となっている。両者を合わせた65.0%が仕事量の増加を感じており、2017年に日本医労連が単独で実施した看護職員への労働実態調査(以下、前回調査)での同設問における回答割合の57.9%(大幅に増えた:21.3%、若干増えた:36.7%)と比べて、7.1ポイント高くなった。

「大幅に増えた」割合を年齢別にみると、特に「40~49歳」(30.1%)、「50~59歳」(30.4%)で3割を超えており、40~50歳台に仕事量の負荷が高い様子がうかがえた。

また、勤続年数別にみると、「25~30年未満」が33.2%で最も割合が高く、次いで「20~25年未満」(29.9%)、「15~20年未満」(29.7%)などの順となっており、勤続年数が長い層に仕事量の負荷が高い傾向が読み取れた。

2交替夜勤の2割は終業後も約60分以上の時間外労働を実施

時間外労働の実施状況について、勤務形態別の始業前および終業後の時間外労働時間数をみると、始業前に約30分以上の時間外労働を実施する割合は、「日勤」(45.9%)、「準夜勤務」(46.7%)、「夜勤2交替」(49.1%)が4割台にのぼり、終業後に約30分以上の時間外労働を実施する割合は「日勤」(73.4%)では7割以上、「深夜勤務」(50.3%)、「夜勤2交替」(56.5%)で5割以上となった。

終業後の時間外労働が約60分以上となる割合も高く、「日勤」では約4割(40.7%)、「夜勤2交替」で約2割(20.7%)にのぼった。

また、前月の時間外労働のうち賃金不払いの時間外労働(サービス残業)の状況をみると、「なし」との回答割合は31.6%にとどまった。

賃金不払い労働の主な業務(3つまで選択)をみると、「記録」が57.9%で最も割合が高く、次いで「患者への対応」(42.3%)、「情報収集」(41.9%)などの順で高くなっている。

休憩取得が不十分と感じる割合は準夜勤務や深夜勤務、2交替夜勤で高い

各勤務形態における休憩時間の取得状況をみると、「きちんと取れている」の回答割合は、「日勤」が24.1%、「準夜勤務」が21.8%など、いずれの勤務形態も3割未満となっている。一方、「全く取れていない」と「あまり取れていない」の回答割合の合計は、「準夜勤務」で35.5%(それぞれ6.8%、28.7%)、「深夜勤務」で22.3%(同3.5%、18.8%)、「2交替夜勤」で17.2%(同1.2%、16.0%)と比較的高くなっている。

2交替夜勤に対しては仮眠時間の取得状況も尋ねたところ、「きちんと取れている」は26.6%にとどまり、「全く取れていない」(2.3%)と「あまり取れていない」(14.5%)を合わせた16.8%が仮眠時間を十分に取得できていなかった。日本医労連は「健康や安全にとって有害な長時間夜勤時に休憩や仮眠が取れていないことは重大な問題」と指摘している。

夜勤のある勤務形態では日勤に比べミス・ニアミスを起こす割合が高めに

看護師のメンタル不調やストレスの状況など健康状態について、この3年間にミスやニアミスを起こしたことがあるか尋ねた結果からみていくと、86.0%が「ある」と回答。勤務形態別にみると、夜勤のある勤務形態が8~10ポイント程度、「日勤のみ」(78.8%)よりも高い割合となっている傾向が見て取れた。

「医療・看護事故が続く大きな要因」(上位2つ選択)を尋ねた結果では、「慢性的な人手不足による医療現場の忙しさ」が86.3%と突出して高く、ほかに「看護の知識や技術の未熟さ」(37.0%)、「交替制勤務による疲労の蓄積」(22.0%)などの割合が高かった。

また、自分の職場にメンタル障がいで休む・治療を受けている職員がいるかどうか尋ねると、40.6%が「いる」と回答し、前回調査(28.5%)よりも12.1ポイント高かった。

約8割が慢性的な疲労を感じる

現在の疲れ具合を尋ねたところ、「休日でも回復せず、いつも疲れている」が27.1%、「疲れが翌日に残ることが多い」が51.3%で、両者を合わせた78.4%が慢性的な疲労を感じており、前回調査の71.7%(休日でも回復せず、いつも疲れている:20.8%、疲れが翌日に残ることが多い:50.9%)に比べ6.7ポイント高くなっている。

また、仕事での強い不満、悩み、ストレスがあるか尋ねたところ、65.4%が「ある」と回答。勤務形態別にみると、「日勤のみ」(54.8%)に対して、夜勤のある勤務形態が10ポイント以上高い傾向となっている。

強いストレスの要因(上位2つ選択)では、「仕事の量の問題」が48.7%で最も割合が高く、次いで「仕事の質の問題」(31.8%)、「職場の人間関係」(22.2%)「夜勤」(16.2%)、「仕事への適性の問題」(11.5%)などの順で高い。

仕事を辞めたいと思う割合は8割近くに

十分な看護が提供できていると思うか尋ねた結果をみると、「できていると思う」が2.2%、「大体できていると思う」が30.5%となり、両者を合わせた32.7%ができていると実感。一方、「あまりできていないと思う」(23.8%)と「ほとんどできていないと思う」(3.1%)を合わせた26.9%はできていないと感じている。

十分な看護ができていない主な理由(3つまで選択)をみると、「人数が少なく業務が過密」が85.3%で突出して高く、人手不足による業務負荷が大きな要因の1つとなっている様子がうかがえた。ほかに「看護業務以外の『その他の業務』が多すぎる」(47.5%)、「自分の能力や技量の不足」(28.3%)などでも割合が高くなっている。

また、仕事を辞めたいと思うか尋ねた結果では、「いつも思う」(24.0%)と「ときどき思う」(55.2%)を合わせた79.2%が仕事を辞めたいと思いながら働いていた。辞めたいと思う理由(3つまで選択)でも「人手不足で仕事がきつい」(58.1%)がトップにあがり、「賃金が安い」(42.6%)、「思うように休暇が取れない」(32.6%)などが上位にのぼった。

「看護師の入退職に関する実態調査」結果からみる入退職の状況

人員不足の状況については、日本医労連が5月31日に公表した「看護師の入退職に関する実態調査」結果からも読み取ることができる。なお、同調査は2023年4月10日~5月13日に実施し、38都道府県の合計175施設(公立・公的病院101施設、地場民間病院74施設)から回答を得たもの。

退職者数が増加したとする割合は調査開始以降最大に

それによると、看護職員の2022年度(2022年4月から2023年3月まで)の1年間の退職者数は、「1~9人」が25.7%で最も割合が高く、次いで「10~19人」(19.4%)、「20~29人」(15.4%)などの順で高くなっている。

また、2021年度と比較して退職者数は増加したかを尋ねたところ、「はい」と回答した割合は37.1%に及び、日本医労連が2021年の「第4次『新型コロナ感染症』に関する緊急実態調査」で離職者数の増加動向を調査して以降で、最も高い割合となった。

6割以上が募集人員に対して人手を充足できず

一方、2023年4月の看護職員の募集人員に対して充足できた医療機関の割合をみると、未回答を除き、充足できていない医療機関が63.6%にのぼっており、うち充足率が5割に満たない医療機関は9.9%となった。

また、2023年3月までの退職者数を同年4月の入職者数で補充できた医療機関の割合をみると、未回答を除き、補充しきれていない医療機関が69.9%と約7割に及んだ。うち充足率が5割未満の医療機関は26.7%にのぼっており、退職者が増加傾向となるなかで、十分に人員が補えていない現状がうかがえた。

「一刻も早く看護師の大幅増員や職場実態に見合う人員配置を」(佐々木委員長)

こうした調査結果をうけ、日本医労連の佐々木悦子中央執行委員長は「一刻も早く看護師を大幅に増やし、職場実態に見合った人員配置にして、働き方を改善しなければ看護師の離職は増えていくばかり」と指摘。大幅増員や人員配置の見直し、働き続けられる賃金にするための診療報酬の引き上げの必要性を訴えている。

(調査部)