面接指導の対象となる長時間労働の労働者がいる事業場が微増
 ――連合の第11回「労働安全衛生に関する調査」

労働組合の取り組み

連合(芳野友子会長)が加盟組合に対して3年に1度実施している「労働安全衛生に関する調査」の最新結果(第11回)によると、労働安全衛生法で医師の面接指導の対象となる時間外労働時間「月100時間以上」の労働者がいる事業場の割合は18.7%で、前回の2020年調査(17.8%)からわずかに上昇した。法で義務付けられている医師による面談指導後の事後措置の状況について、「組合では把握していない」との回答が26.5%にのぼった。また、過去3年間のメンタルヘルス不調による休業者の増減を把握していない組合が1割強に及び、2014年調査以降、増加傾向にあることが明らかとなった。

調査は、連合に加盟する組合企業の事業場の支部、分会組合を対象に実施。2023年1月に調査票を配付し、同年1月~4月に回収した。有効回収数は3,373で、紙の調査票の配付方式だけでなく、Web回答も併用した。

<労働災害の発生状況と安全衛生対策>

7割近くの事業場で労災事故が発生

過去3年間の労災事故の発生状況をみると、「増加傾向にある」が15.3%、「変化はない」が38.6%、「減少傾向にある」が14.2%、「発生しなかった」が30.4%で、7割近くの事業場で労災事故が発生していた。労災事故が発生した原因をみると(4つ以内の複数回答)、「安全管理体制・システムが不十分」(25.7%)、「業務上のコミュニケーション不足」(25.5%)、「機械設備・器具の安全対策の不足」(23.9%)、「屋外・高所などでの安全対策が不足」(20.4%)がそれぞれ2割台にのぼった。

過去3年間のパート・アルバイト、有期・無期契約労働者(期間工等)、派遣労働者、請負企業労働者、業務請負の個人事業者の労災事故の発生状況をみると、「増加傾向にある」が6.8%、「変化はない」が25.6%、「減少傾向にある」が6.1%、「発生しなかった」が38.4%で、「組合としては把握していない」(20.2%)との回答割合の高さも目立った。

業務上の疾病の過去3年間における発生状況をみると(複数回答)、「特に業務上の疾病は発生していない」(43.5%)が最も回答割合が高かったものの、「熱中症」(25.6%)が2割以上に及び、「腰痛症」(18.9%)、「精神・神経疾患」(16.1%)と「新型コロナ感染症の罹患」(12.8%)が1割以上に達した。

60歳以上労働者の労災事故が発生した事業場は約26%

過去3年間における60歳以上労働者の労災事故(通勤災害を除く)の発生状況をみると(60歳以上労働者がいる事業場での状況)、発生している事業場の割合は25.8%で、「発生しなかった」が58.6%、「組合では把握していない」が14.9%となっている。60歳以上労働者の労働災害が発生する原因(4つ以内の複数回答)を尋ねると、「経験による思い込みや慣れがある」(60.2%)が特に割合が高く、「年齢に配慮した設備などではない」(24.9%)が続いた。

60歳以上労働者を対象とした安全衛生対策をみると(5つ以内の複数回答)、「特に何も行わなかった」が29.1%で最も割合が高く、「組合では把握していない」(20.1%)も2割にのぼり、これに「危険箇所の改善」(17.4%)などが続いた。

<ストレスチェックの実施状況>

94%の事業場でストレスチェックを実施

常時50人以上の労働者を雇用する事業場では、1年に1回、ストレスチェックを行うことが義務付けられているが、ストレスチェックの実施の有無を聞くと、94.0%の事業場で実施していた。また、調査結果によれば、ストレスチェックの実施が法的に義務付けられていない50人未満の民間事業場でも、7~8割は「実施した」と回答している。

ストレスチェック制度では分析結果を踏まえた職場環境の改善などが事業者の努力義務となっているが、ストレスチェック結果の集団単位での分析と問題解決のための活用の有無をみると、「分析したが問題はなかった」が19.3%、「分析し問題解決に活用した」が29.9%と、分析を行った事業場が約5割にのぼったが、その一方で、「組合に分析結果が伝えられていない」(28.3%)との回答も3割弱あった。

結果の活用方法では面談・コミュニケーション促進など

分析結果を活用したと回答した事業場を対象に、集団単位の分析結果の活用方法を尋ねたところ(4つ以内の複数回答)、「面談やカウンセリングを実施した」(45.7%)の回答割合が最も高く、「職場コミュニケーションを促進した」(33.7%)、「業務の進め方を見直した」(22.7%)などの順で高かった。「労働組合としては何もしていない」との回答も13.8%あった。

ストレスチェックの実施と準備における問題(3つ以内の複数回答)をみると、「面談が必要な労働者を把握できない」が36.3%で最も割合が高く、「結果を職場改善につなげるのは困難」(21.7%)がこれに続いた。

<過重労働の実態と課題>

月100時間以上の労働者がいる割合は18.7%

労働安全衛生法では、時間外労働時間が月100時間以上の労働者は医師の面談指導とその結果にもとづく事後措置が義務付けられていることから、月100時間を上回る組合員数の割合をみると、「10%未満」が17.2%、「10%以上30%未満」が1.1%、「30%以上」が0.4%で、「1人もいない」が72.6%、「組合では把握していない」が7.2%だった。過去に実施した2020年、2017年、2014年の調査結果と比べると、「1人もいない」の割合は2020年(75.9%)よりは低かったものの、2017年(64.3%)、2014年(61.5%)に比べれば大幅に高い()。また、月100時間を上回る組合員数がいる割合は、今回は18.7%で、2020年(17.8%)に比べればやや高いものの、2017年(27.4%)、2014年(31.0%)を大幅に下回っている。

図:時間外労働が月100時間を上回る組合員数が「一人もいない」、「組合では把握していない」割合と、月100時間を上回る組合員数がいる事業場の割合(単位:%)
画像:図

(公表資料から編集部で作成)

過重労働の労働者には面接指導と事後措置を行わなければならないが、労働協約、協定上の面接指導と事後措置を行わなければならない時間外労働時間の状況をみると、「80時間以上」とする組合が39.8%で最も多く、「45時間以上」が29.8%、「60時間以上」が16.0%となっている。「100時間以上」に設定する組合が依然として4.3%あった。

事後措置の必要な労働者がいる事業場はほぼ全体の4分の1

過重労働を行った労働者に対する医師等による面談指導後の事後措置の状況をみると、「事後措置の必要な労働者はいない」が44.9%で、事後措置の必要な労働者がいる事業場の割合は25.9%とほぼ全体の4分の1を占めた。事後措置の必要な労働者がいる事業場を、事後措置の実施の有無別にみると、25.9%のうち「事後措置は行われている」が21.9%で、「事後措置は行われていない」が4.0%となっている。また、面接指導後の事後措置の必要な労働者の有無を「把握していない」との回答も26.5%あった。

<メンタルヘルス対策の現状>

過去3年間で休業者がいる事業場の割合は7割近く

過去3年間でのメンタルヘルス不調による休業者の状況をみると、「休業者がいる」は68.1%と7割近くに及び、「休業者はいない」が16.8%、「組合では把握していない」が13.8%となっている。休業者がいる割合(68.1%)の内訳をみると、「増加している」が27.2%、「横ばいで推移している」が34.0%、「減少している」が6.8%となっている。「休業者がいる」割合は過去の調査結果からそれほど大きくは変動していない(例えば2020年は68.8%)。

「増加している」割合を業種別にみると、「商業・流通」が34.9%で最も高く、「サービス・一般」(30.3%)も30%台となっている。

再休業した人がいる事業場の割合は6割以上

メンタルヘルス不調による休業から職場復帰したものの、再休業した人がいるかどうか尋ねたところ、「職場復帰後再び休業した人がいる」が63.9%、「職場復帰後再び休業した人はいない」が27.3%、「組合では把握していない」が7.7%で、再休業した人がいるとの回答が6割以上に及んだ。

メンタルヘルス不調のために退職した人がいるかどうか聞くと、「退職した人がいる」が57.5%、「退職した人はいない」が30.2%、「組合では把握していない」が11.6%で、6割弱の事業場で退職があったとした。2014年以降の調査結果と比べると、「退職した人がいる」割合は今回が最も高い(2020年:52.2%、2017年:52.8%、2014年:48.8%)。

メンタルヘルス対策の重要課題をみると(4つ以内の複数回答)、「コミュニケーション不足で対応困難」(38.9%)と「職場に余裕がなく対応できない」(38.6%)が特に高い割合となっており、このほか、「管理職の研修が不十分」29.6%、「業務だけが原因ではなく対応が困難」28.0%、「会社の問題意識が不十分である」16.5%、「うつに近い症状の若者が増えてきた」14.9%などとなっている。

約3割がテレワークによる労働安全衛生上の課題があると回答

テレワークによる安全衛生上の課題の有無を聞くと、「労働安全衛生上の課題がある」が29.9%とほぼ3割に達した(「特に課題はない」は17.4%)。テレワークをしている従業員がいる事業場に課題の具体的な内容を聞いたところ(4つ以内の複数回答)、「作業環境が確認できない」が34.3%で最も割合が高く、「特に課題はない」は27.6%となっている。

<安全衛生管理体制の現状>

安全衛生委員会を開催・設置している割合は9割以上

安全衛生委員会の設置状況をみると、「設置され定期的に開催されている」が83.4%で、「設置され不定期だが開催されている」(6.8%)、「設置されているが開催されていない」(1.7%)を合わせ、開催・設置している割合が9割以上に及んだ。

組合がこの3年間に提起した安全衛生の課題をみると(4つ以内の複数回答)、「長時間労働・過重労働の是正」(60.7%)の割合が最も高く、次いで「メンタルヘルス対策」(47.1%)、「新型コロナウイルス感染症対策」(45.7%)、「危険箇所や粉塵・高温等の改善」(40.8%)、「パワハラ対策」(26.7%)などの順で高くなっている。

この1年間でほぼ4割がオンラインで委員会を開催

この1年間での安全衛生委員会のオンラインでの開催状況をみると、「ほぼすべてをオンラインで開催した」(17.6%)、「約半数をオンラインで開催した」(4.2%)、「オンラインで開催する場合もあった」(17.8%)を合わせ、オンラインで開催した割合は39.6%とほぼ4割だった。オンラインで開催した回答者に、オンライン開催での問題点を聞くと(3つ以内の複数回答)、「活発な議論や意見交換が難しい」を半数近く(48.3%)があげ、「特に問題は感じない」は36.7%だった。

(調査部)