化学物質管理や高年齢労働者の災害対策などを補強
 ――連合が「第6次労働安全衛生取り組み指針」を策定

労働組合の取り組み

連合(芳野友子会長)は、国が「第14次労働災害防止計画」をスタートさせたことに対応し、今年3月に「第6次連合労働安全衛生取り組み指針」を策定した。化学物質管理の強化や、高年齢労働者に多い転倒・腰痛の予防など、作業行動に起因する災害の防止対策などを盛り込んだ。多様化する雇用形態に対応した対策を講じるため、フリーランスなどを含む個人事業者のための対策も個別に取り上げた。

国の労働災害防止計画に対応して指針を策定

連合は、従来から国の労働災害防止計画に対応して指針を策定しており、指針を基本方針として、本部、構成組織、地方連合会、単組それぞれが労働災害防止に向けた取り組みを展開している。政府が今年、2023年4月~2028年3月までの5年間を計画期間とする「第14次労働災害防止計画」(14次防)を策定したことをうけ、14次防の内容に合わせて内容を刷新した。

国が策定した14次防では、休業4日以上の死傷者数が増加していることや、転倒・腰痛などの作業行動に起因する労災も増加していること、また、高齢化による影響などがみられるとともに、個人事業者の保護のあり方などが課題として浮上してきたことなどを背景として、①転倒防止・腰痛予防など作業行動に起因する労災防止対策②産業保健機能の強化③個人事業者などに対する安全衛生対策の推進④化学物質等による健康障害防止対策の強化⑤過重労働防止対策――などを補強したのが特徴。

これをうけて第6次指針も、職場における安全の取り組みのなかで、化学物質管理の強化や、作業行動・作業環境に起因する労働災害の防止に焦点を当てた。また、事業場の長時間・過重労働やメンタルヘルス不調防止の取り組みを強化するとともに、多様化する雇用形態に対応した対策の促進に向けて、高年齢労働者や、一人親方・フリーランスを含む個人事業者などのための対策を取り上げた。 なお、安全衛生対策の内容は、産業や事業場ごとに異なることから、取り組むべき課題のうち、共通して重要と考えられるものを軸に策定している。

<基本的な考え方と本部、構成組織などの取り組み>

労働災害防止に向けてすべての当事者が役割発揮を

内容を詳しくみると、まず、基本的な考え方として、「労働災害防止のためには、政府、事業者、労働組合、労働者が連携し、それぞれの役割を果たすことが重要である」と強調。労働組合は「雇用・就業形態や年齢に関わりなく、すべての労働者が健康に働き続けられるため、事業場の安全衛生水準の向上とともに、地域社会全体における『安全文化』の向上に努めていく」と記した。

本部、構成組織、地方連合会、単組の取り組み内容をみていくと、本部については、好事例や課題などを共有化するための集会・セミナー・学習会の開催や、法律・制度の改正に向けた政府の審議会・検討会への参画、政策や提言の策定などを盛り込んだ。

構成組織が取り組む内容としては、業界団体との意見交換の実施や、発生頻度の高い労働災害・業種特有の労働災害の把握などを実施していくとした。地方連合会については、地域での発生状況を把握したうえでのセミナーの開催や、都道府県労働局安全衛生労使専門家会議への積極的な参画などを掲げた。単組については、事業者による取り組みの問題点の把握とその解消に向けた働きかけや、連合指針などの事業場での労働安全衛生への反映、安全を最優先とする企業文化の醸成のほか、労災認定に向けた情報や証拠の収集に努めるなどの被災者と家族の支援などを列記した。

<事業者に求めていく取り組み>

職場での取り組みでは化学物質管理の強化などを盛り込む

事業者に求めていく具体的な取り組みの内容としては、基本的事項のほか、①職場における安全の取り組み②事業場の長時間・過重労働やメンタルヘルス不調防止の取り組み③労働者の健康確保に向けた取り組み④安全衛生委員会の運営と産業医との連携⑤多様化する雇用形態等に対応した対策の促進――を柱に掲げて、それぞれ詳述した。基本的事項では、「すべての労働者が安全かつ衛生的に作業するために必要な費用の確保」と、「ウェアラブル端末などのIT技術活用におけるプライバシーへの配慮、および保険者へのデータ提供時における個人情報管理の徹底」を前回指針から補強した。

職場における安全の取り組みからみると、①化学物質管理の強化②石綿(アスベスト)と粉じんへの対応③作業行動や作業環境に起因する労働災害の防止④14次防で課題となった個別業種の対応など⑤リスクアセスメントと安全衛生マネジメントシステムの普及――に分けて記述し、特に、14次防に対応する形で、化学物質管理の強化と作業行動や作業環境に起因する労働災害の防止を重要視している。

化学物質管理の強化では、化学物質や製品などの危険有害性情報の把握、開示・伝達の徹底などに加え、「化学物質管理者、保護具着用管理責任者等の選任や外部専門人材の活用などによる、労働者のばく露を低減する施策の実施」を補強。「化学物質の製造および取り扱いにおけるリスクアセスメントとそれにもとづく安全対策の実施、および譲渡提供時のラベル表示、SDS交付の徹底」も盛り込み、14次防にもとづく取り組みの実施を求めた。

なお、SDSとは、安全データシート(Safety Data Sheet)の略語で、化学物質と、化学物質を含む混合物を譲渡または提供する際に、その化学物質の物理化学的性質や危険性・有害性、取り扱いに関する情報を、譲渡・提供先に提供するための文書。

解体・改修工事での事前調査の実施と報告を

石綿(アスベスト)と粉じんへの対応では、建築物などの解体・改修工事における石綿含有状況に関する事前調査の確実な実施と報告も盛り込んでいる。

作業行動や作業環境に起因する労働災害の防止に関する取り組みでは、エルゴノミクス(人間工学)設計の製品の活用などの『作業を労働者に合わせる』対策の実施のほか、転倒予防対策と、国の「職場における腰痛予防対策指針」をふまえた腰痛予防対策の徹底などを列記した。また、テレワークが普及していることをふまえ、「『テレワークの適切な導入及び実施のためのガイドライン』をふまえ、チェックリスト等を活用した自宅等の作業環境などを確認」することも追加した。

熱中症による災害が増加していることをふまえ、「熱中症予防対策への理解促進、『職場における熱中症予防基本対策要綱』を踏まえた、暑さ指数(WBGT値)の測定徹底および低減、作業時間の短縮、健康管理の徹底、労働者等向けの教育、熱中症防止のための器具等の導入の推進」も盛り込んだ。

このほか、国の「騒音障害防止のためのガイドライン」をふまえた作業環境測定や、特殊健康診断などの徹底、騒音性障害防止のための器具などの導入の推進を補強。職場における労働衛生基準の見直しを踏まえた照度の確保、トイレ・休養室の設置状況などの点検と整備なども掲げた。

労使協議などを通じた全労働者の時間把握で長時間を防止

事業場における長時間・過重労働やメンタルヘルス不調防止の取り組みでは、まず、長時間・過重労働防止に向けた対応として、労使協議や安全衛生委員会などを通じた、裁量労働制適用者や管理監督者などを含む職場で働くすべての労働者の労働時間の把握と、労働時間の的確な管理、長時間・過重労働の未然防止を明示している。

裁量労働制や時間外みなしなど労働時間制度に関する運用実態の把握と、適正運用に向けた取り組み(労使協定・労使委員会、健康・福祉確保措置の実施状況、労働時間の点検)の徹底も行う。

また、テレワークや副業などの多様な働き方について、労働時間管理を徹底し、副業・兼業について労働時間通算の確認を行うとしたほか、自動車運転者の拘束時間の縮減や休息時間の確保などの着実な実施などを盛り込んだ。

テレワークを行う労働者へのコミュニケーションを強化

メンタルヘルス不調防止に向けた対応では、テレワークが普及していることをかんがみ、「自宅等でテレワークを行う労働者に対するコミュニケーションの強化・充実、健康相談体制の整備」や、すべての事業場での雇用形態にかかわらないすべての労働者を対象としたストレスチェックの実施、ストレスチェックにおける集団分析の実施とその活用による職場環境改善などを補強した。ハラスメントをなくすための労使による予防なども盛り込んでいる。

50人未満の事業場でも産業医の選任を推進

安全衛生委員会の運営と産業医との連携に関することでは、今回は特に、小規模事業場における取り組みの強化を意識したのが特徴。

50人未満の事業場でも産業医の選任を推進していくことや、教育研修などを通じた安全管理者・衛生管理者など安全衛生担当者の質の維持・向上、小規模事業場を中心とした地域産業保健センターとの連携強化などを補強した。

高年齢者の転倒・腰痛災害に配慮

多様化する雇用形態等に対応した対策の促進については、①障がいを抱える労働者②高年齢労働者③パート・有期・派遣等で働く労働者④外国人労働者(技能実習生を含む)⑤個人事業者等(一人親方、フリーランス含む)――に分けて、取り組む内容を記述した。

このうち高年齢労働者についての対策の内容をみると、転倒や腰痛災害に対する配慮と職場環境の改善や、厚生労働省が作成した「エイジフレンドリーガイドライン」(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)をふまえた安全と健康確保のための適切な配慮、勤務条件の改善、健康管理などの充実をあげた。また、「労働者の身体機能向上に向けた健康づくりなどの実施」も盛り込んだ。

個人事業者については、労働災害防止のための労働安全衛生に関する情報の共有化や、意識啓発、職場内での声かけの徹底に取り組む。危険有害作業を行う個人事業者などについては、保護具使用など労働者と同等の保護措置を徹底。労災保険特別加入制度の対象業種の場合に労災保険への特別加入を促すことなども盛り込んだ。

(調査部)