介護従事者の負担軽減やサービスの質の維持・向上をテクノロジー導入目的の第一義とすることなどを明示
 ――NCCUが介護事業者46法人と「介護現場におけるテクノロジーの導入・活用に関する集団協定」を締結

スペシャルトピック

介護現場で働く労働者らを組織する日本介護クラフトユニオン(NCCU、染川朗会長、約8万6,000人)は6月30日、介護事業者46法人と「介護現場におけるテクノロジーの導入・活用に関する集団協定」を締結したことを、同日の記者報告会で公表した。協定は、介護ロボットやICT(情報通信技術)といったテクノロジーを介護現場に導入する目的の第一義が、人員削減ではなく、介護従事者の負担軽減やサービスの質の維持・向上であることを強調する内容。また、法人は機器の利用に関する研修の実施に努めることなど、介護従事者が安心・安全に機器を活用することができる環境づくりに努めることなども示している。

NCCUでは2015年から、労使関係のある法人との間で「介護業界の労働環境向上を進める労使の会」(以下、労使の会)を発足。介護業界の労働環境向上に向けた課題について労使で共同責任を負い、取り組み内容を集団協定化することを目的に運営を進めてきた。「ハラスメント防止に関する集団協定」(2016年)をはじめ、これまで3本の集団協定を締結しており、今回が4本目の締結となった。

<協定締結までの経緯>

4割以上の組合員が人員削減を不安視してテクノロジーの導入を懸念

報告会では、労使の会の副代表幹事でもある村上久美子・NCCU副会長が、同協定を締結するに至った経緯を報告した。

近年、厚生労働省では介護現場におけるテクノロジーの活用を推進している。2021年度介護報酬改定では、特別養護老人ホーム等において、見守り機器100%の導入やインカム等のICTの使用、安全体制の確保や職員の負担軽減等を要件に、夜間の人員配置基準を緩和した新たな区分を設けるなど、介護ロボットやICT等の導入支援を加速させている。

こうした状況を受けて、NCCUでは、組合員4,880人を対象に行った「2022年就業意識実態調査」において、ICT等の活用による人員配置基準変更について懸念される課題や問題(複数回答)を聞いた。すると、「人員削減で安全性が確保できなくなる」(42.4%)や「人員削減でサービスの質が低下する」(41.3%)、「夜間等突発的な事故や救急搬送の時の対応が心配」(37.9%)などの回答割合の高さが目立った。この結果について村上副会長は、実際にICT等が導入されている現場がまだ少ないことも要因にあげたが、同時に、多くの組合員がテクノロジーの導入が人員削減につながるのではないかと思って「導入への懸念や抵抗感を持っている」可能性を指摘した。

テクノロジーの導入は介護業界のイメージ向上・人材確保につながる手段

一方、同調査の自由記述欄からは、「介護現場の人材は今後さらに不足するので、早急に介護ロボットを取り入れてほしい」といった前向きな意見も集約できた。

また、NCCUが昨年1月と9月に実施した「NCCUフォーラム」における意見交換でも、「見守りセンサーを導入したことで入居者の睡眠状態が把握でき、夜間巡回等の参考になる」「ICT化で業務の効率はかなり良くなり、残業も減った」などの声が得られ、すでに利用している現場では、業務の効率化や職員の負担軽減に一定の効果があったことが明らかとなった。

これらの点を踏まえ、村上副会長は「テクノロジーの導入は人員を削減するものではなく、介護従事者の負担軽減や処遇改善、業務の効率化、サービスの質の向上につながる。また、介護業界のイメージ向上や人材確保を目指すための手段でもあることを労使共通の価値観として共有を図ることを推進していきたいと考えた」と説明。2023年1月に開催された労使の会(本会議)で、協定案の提示と労使での意見交換を実施し、参加法人の賛同を得たことで、今回の締結に至ったと話した。

<集団協定な主な内容>

協定は全13条で構成している。テクノロジー導入・活用の目的や、導入時の対策、導入後の課題対策などを定めている。

テクノロジー導入への理解促進や従事者の不安の把握・解消に努めることに言及

協定でははじめに、テクノロジーの定義として、「介護ロボット、センサー、ICT、AI等の介護業務全般を補助する機器の総称とする」ことを明示している。

また、法人とNCCUが共通認識として持つテクノロジー導入・活用の目的について、「従事者の負担軽減やサービスの質の維持・向上を第一義とし、テクノロジーの導入・活用による生産性向上の取組を通じて従事者の処遇改善、もって社会的地位向上に資すること」と明確化。テクノロジー導入に関する理解促進にも言及し、「あらかじめテクノロジー活用によるメリット等の導入の目的について十分に周知し、理解促進を行うとともに従事者の不安の把握と解消に努める」としている。

導入機器の選定時には実際に利用する介護従事者の意見を求めるよう提示

協定では続いて、テクノロジー導入時に法人が努めるべきサービスの質の担保や機器の選定などの対策をまとめている。

サービスの質の担保については、導入機器の利用効果や従事者の機器使用に関する習熟度等について十分に検証し、「従事者の処遇やサービスの質が低下することがないよう努めること」を明示。

また、導入機器の選定において、「実証等により得られたテクノロジーの安全性や使用効果の評価・検証結果などを積極的に活用する」とともに、現場の声をもとにその事業所に必要な機器を導入できるよう、「あらかじめ機器を利用する従事者に意見を求める」ことを盛り込んでいる。

そのほか、従事者が安心・安全に機器を活用するための導入研修・習熟訓練の実施や、緊急時の入所者・利用者や従事者の安全確保のための具体的対応方法についてBCP(事業継続計画)に定めることなどを示している。

導入後の課題対策の解消に向けて労使が協力して取り組むことも盛り込む

導入後の課題対策については、法人とNCCUが「テクノロジーの導入を起因とする、従事者が抱える不安・不満および現場での課題の把握に努めるとともに、これらの解消に向けて労使が協力して取り組む」ことに言及。導入・活用に関する相談や苦情に対応するための相談窓口の設置なども盛り込んだ。

なお、同協定の有効期間は2023年6月1日~2024年5月31日まで。有効期間満了に際して法人またはNCCUのいずれからも異議の申し出がないときは、さらに1カ年有効とみなし、2年目以降繰り返すこととしている。

今後も労使でタッグを組んで取り組む姿勢を強調

労使の会の代表幹事を務めるNCCUの染川会長は、同協定の締結にあたり、「労使が揃って実際の機器を見に行き、組合員の不安の声にも配慮して、課題を1つずつ解決してきた」とこれまでの取り組みを紹介。「労働環境を良くしたいという思いは労使共通」として、実効性を持たせるために今後も労使でタッグを組んで取り組むことを強調した。

また、報告会には経営側の立場から、労使の会の代表幹事を務める依田平・株式会社ケア21代表取締役会長と、副代表幹事を務める柳倫明・麻生介護サービス株式会社代表取締役社長も出席。依田氏は「経営側と労働組合側が一体となってさまざまな問題の解決にあたることが介護業界を良くするという認識。今回の協定は、働く方々の待遇改善や負担軽減、質の高いサービスの提供を通じて、ご利用者に満足していただくという、経営側の決意の表れ」と述べた。

柳氏も「介護業界は人材がなかなか確保できず、職員の労働環境が良くなっていかなければ仕事にならない状況にきており、最終的には利用者が困る事態につながる。集団協定はテクノロジーの導入によって業務を効率化し、安全性を高めていくことで、労働環境を変えていくことを目的としている。全国の法人にも広がっていくよう望んでいる」とあいさつした。

(田中瑞穂)