9割の労組が労使関係は「安定的」と認識
 ――厚生労働省の2022年「労使間の交渉等に関する実態調査」

国内トピックス

厚生労働省がこのほど公表した2022年の「労使間の交渉等に関する実態調査」結果によると、労使関係が「安定的に維持されている」と認識する労働組合は51.9%にのぼり、「おおむね安定的に維持されている」の37.6%とあわせ、約9割(89.5%)が『安定的』と認識していることがわかった。過去3年間に労使間の交渉があった内容は(複数回答)、「賃金額」が64.6%、「賃金制度」が57.6%など。過去3年間に「労働争議がなかった」とする組合は95.5%で、その理由は「対立した案件がなかったため」とする回答が最も多かった。

調査は、労働組合と使用者の間で行われる団体交渉や労働争議、労働協約の締結などの実態を把握するのが目的。対象は民営事業所における組合員数が30人以上の労働組合。5,159組合に調査票を配布し、3,137組合から有効回答を得た(有効回答率60.8%)。

企業規模が大きいほど「安定的」と認識している傾向に

使用者側との労使関係の維持についての認識をみると、「安定的に維持されている」が51.9%(2021年調査:59.0%)で最も高く、「おおむね安定的に維持されている」とする37.6%(同33.8%)とあわせると89.5%(同92.9%)の労働組合が『安定的』と認識している。そのほか、「どちらともいえない」が7.1%(同5.0%)、「やや不安定である」が1.5%(同1.4%)、「不安定である」が1.0%(同0.6%)となっている。

『安定的』と認識している割合を企業規模別にみると、「5,000人以上」が93.1%、「1,000~4,999人」が93.8%、「500~999人」が89.2%、「300~499人」が88.6%、「100~299人」が84.8%、「30~99人」が82.4%となっており、おおむね企業規模が大きいほど『安定的』とする割合が高い。

賃金・退職給付に関する交渉が7割強

過去3年間において、「何らかの労使間の交渉があった」事項をみると(複数回答)、「賃金・退職給付に関する事項」が72.6%(2020年調査74.9%)で最も高く、以下「労働時間・休日・休暇に関する事項」が70.0%(同74.1%)、「雇用・人事に関する事項」が60.4%(同61.0%)などとなっている。

さらに細かくみると、「賃金・退職給付に関する事項」については「賃金額」が64.6%、「賃金制度」が57.6%、「配偶者手当」が21.0%となっている。また「雇用・人事に関する事項」については、「昇進・昇格・懲戒処分」が35.8%、「人事考課制度(慣行的制度を含む)」が34.5%、「要員計画・採用計画」「定年制・再雇用・勤務延長」が34.3%、「配置転換・出向」が30.6%、「雇用の維持・解雇」が25.1%となっている(図1)。

図1:過去3年間における何らかの労使間の交渉があった事項
画像:図1

注1:過去3年間とは、2019年7月1日から2022年6月30日までをいう。

注2:「休日・休暇」は育児休業・介護休業・看護休暇・介護休暇制度を除く。

注3:「同一労働同一賃金に関する事項」は教育訓練、福利厚生等を含む。

(公表資料から編集部で作成)

「何らかの労使間交渉があった」組合のうち、「使用者側と話合いが持たれた」割合をみると(複数回答)、「賃金額」が89.8%で最も高く、「賃金制度」が88.0%、「職場環境に関する事項」が86.1%などとなっている。

また、「何らかの労使間の交渉があった」結果として、「労働協約の改定がなされた又は新たに労働協約の規定が設けられた」とする割合を事項別にみると(複数回答)、「育児休業制度、介護休業制度、看護休暇制度、介護休暇制度」が42.2%(同37.5%)で最も高く、次いで「休日・休暇(育児休業制度、介護休業制度、看護休暇制度、介護休暇制度を除く)」が34.9%(同32.7%)、「賃金額」が32.6%(同37.1%)、「退職給付(一時金・年金)」が32.6%(同30.5%)などとなっている。

団体交渉を行った労組は7割弱

過去3年間において、使用者側との間で行われた団体交渉の状況をみると、「団体交渉を行った」が68.2%(2020年調査70.5%)、「団体交渉を行わなかった」が30.7%(同29.4%)となっている。「団体交渉を行った」労働組合について、その交渉形態をみると(複数回答)、「当該労働組合のみで交渉」が85.4%(同85.3%)で最も高く、次いで「企業内上部組織又は企業内下部組織と一緒に交渉」が11.8%(同12.4%)、「企業外上部組織(産業別組織)と一緒に交渉」が3.2%(同4.4%)などとなっている。

過去3年間に団体交渉を行った労働組合について、団体交渉の交渉回数(1年平均)をみると、「1~2回」が36.7%(同30.9%)で最も高く、次いで「3~4回」が31.5%(同34.5%)、「5~9回」が21.8%(同23.9%)などとなっている。

過去3年間に団体交渉を行わなかった労働組合について、その理由をみると、「上部組織又は下部組織が団体交渉を行うことになっているから」が50.7%(同57.5%)で最も高く、次いで「団体交渉を行う案件がなかったから」が20.2%(同17.7%)、「労使協議機関で話合いができたから」が17.7%(同18.8%)となっている。

パート労働者の加入を認める労組の割合は前年から約5ポイント増加

事業所に正社員以外の労働者がいる労働組合における、正社員以外の加入資格および加入の状況をみると、「組合加入資格がある」と回答した割合は「パートタイム労働者」が42.0%(2021年調査:37.3%)で最も高く、前回調査から約5ポイント上昇している。パートタイム労働者以外では、フルタイムの有期契約社員などが該当する「有期契約労働者」も40.9%(同41.5%)と4割台にのぼり、「嘱託労働者」が38.2%(同39.6%)、「派遣労働者」が5.0%(同6.6%)となっている。

「組合員がいる」とする割合は、「パートタイム労働者」が34.5%(同30.0%)で最も高く、前回調査から約5ポイント上昇している。「有期契約労働者」は32.4%(同32.9%)、「嘱託労働者」は30.4%(同29.9%)、「派遣労働者」は0.9%(同2.2%)となっている(図2)。

図2 正社員以外の労働者の組合加入資格および加入の状況

(1)組合加入資格がある割合類
画像:図2(1)

(2)組合員がいる割合
画像:図2(2)

(公表資料から編集部で作成)

正社員以外の労働者のことで労使が話し合った内容は「労働条件」が最多

過去1年間に、正社員以外の労働者に関して使用者側と「話合いが持たれた」と回答した割合は49.4%だった。

その具体的内容をみると(複数回答)、「正社員以外の労働者(派遣労働者を除く)の労働条件」が66.2%(2021年調査71.2%)で最も高く、次いで「同一労働同一賃金に関する事項」が55.2%(同61.3%)、「正社員以外の労働者(派遣労働者を含む)の正社員への登用制度」が38.7%(同36.7%)などとなっている。

「正社員以外の労働者(派遣労働者を除く)の労働条件」を事項別にみると、「賃金に関する事項」が52.9%(同57.5%)で最も割合が高く、次いで「福利厚生に関する事項」が44.8%(同39.8%)、「契約の締結・更新・雇止めに関する事項」が34.4%(同32.0%)などとなっている。

96%は「労働争議がなかった」と回答

過去3年間における、労働組合と使用者との間での労働争議の状況をみると、「労働争議があった」は3.5%(2020年調査2.7%)で、「労働争議がなかった」が95.5%(同97.2%)と圧倒的に多くなっている。

「労働争議がなかった」労働組合について、その理由をみると(複数回答、主なもの3つまで)、「対立した案件がなかったため」が54.3%(同55.8%)で最も高く、次いで「対立した案件があったが話合いで解決したため」が38.1%(同34.7%)、「対立した案件があったが労働争議に持ち込むほど重要性がなかったため」が11.7%(同12.5%)となっている。

半数が問題解決に「団体交渉」を重視

労使間の諸問題を解決するために今後最も重視する手段を尋ねたところ、「団体交渉」が49.8%(2020年調査50.7%)で最も高く、次いで「労使協議機関」が43.3%(同44.9%)、「苦情処理機関」が1.7%(同0.9%)、「争議行為」が0.7%(同0.9%)となっている。

「団体交渉」を最も重視とする割合を企業規模別にみると、「5,000人以上」が39.4%、「1,000~4,999人」が46.5%、「500~999人」が45.8%、「300~499人」が45.1%、「100~299人」が63.5%、「30~99人」が64.8%となっており、おおむね企業規模が小さいほど高い割合となっている。

9割超が労働協約を締結

労働組合と使用者(または使用者団体)の間での労働協約の締結状況をみると、「締結している」が94.5%(2020年調査93.1%)、「締結していない」が4.7%(同6.8%)となっている。

「労働協約を締結している」労働組合について、その締結主体をみると、「当該労働組合において締結」が61.0%で最も高く、次いで「上部組織において締結」が26.6%、「当該労働組合及び上部組織双方において締結」が8.1%となっている。

(調査部)

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