職業人生の展望を描いて就業継続し、能力伸長できる環境整備を強調
 ――厚生労働省「第4次男女雇用機会均等対策基本方針案」

政府の方針・提言、研究報告

労働政策審議会雇用環境・均等分科会は5月26日、男女の均等な雇用機会や待遇確保のための施策の基本事項を示す「第4次男女雇用機会均等対策基本方針案」を了承し、これをうけ労働政策審議会は同日、加藤勝信・厚生労働大臣に答申した。方針案は、均等の動向について、法制度や整備などによって「女性の就業継続支援、男性の育児等への意識は改善してきている」としつつも、男女ともに、希望する働き方の実現とキャリア形成、仕事と家庭の両立ができていない者が一定程度存在していると指摘。男女ともに職業人生における明確な展望を描きつつ働き続け、能力を伸長・発揮できる環境整備の必要性を強調している。

第4次方針では運営期間を定めないことに

男女雇用機会均等対策基本方針は、男女雇用機会均等法第4条の規定に基づき策定するもの。男女労働者のそれぞれの職業生活の動向を明らかにするとともに、雇用の分野における男女の均等な機会・待遇の確保について、講じようとする施策の基本となるべき内容を示す。5年ごとに策定しており、現行の第3次基本方針では、2017年度からおおむね5年間が運営期間となっている。なお、第4次基本方針からは、運営期間の終期を定めないことにした。

第4次基本方針案は、男女労働者の職業生活の動向について、均等法が施行されてから35年余りが経過したが、「数次の改正により法制度上の男女の均等な機会及び待遇の確保は進展した」とするとともに、女性活躍法の成立など「女性活躍に向けた法制度の整備も進展している」と評価した。また、多くの取り組みによって、「女性の就業継続支援、男性の育児等への意識は改善してきている」と現状を捉えた。

その一方で、「依然として、男性と比べて女性の勤続年数は短く、管理職に占める女性割合も国際的に見ると低水準となっている」と指摘。さらに、男性の育児休業取得が女性に比べ低い水準にとどまっていることや、取得期間も短いと言及し、「男女ともに、希望する働き方の実現とキャリア形成、仕事と家庭の両立ができていない者が一定程度存在している」とも指摘した。

男女格差が解消されない背景に長時間労働などを指摘

こうした動向に基づき、基本方針案は、雇用の分野における男女の均等な機会・待遇の確保について講じようとする施策の基本的な考え方を明示。特に、均等法施行後35年余りを経てもなお、実態面での男女格差が解消されない背景には「男女ともに、長時間労働を前提とした働き方など、多様な事情を抱える労働者が十分に能力を発揮して働く環境が整っていない場合が見られること、仕事と家庭の両立に対する不寛容な職場風土が両立支援制度を利用する際の障壁となっていること、固定的な性別役割分担意識が存在していること」などがあげられるとし、その結果、「就業継続を希望しながらも、仕事と育児の両立の難しさ等から、妊娠、出産等により離職する女性が依然として一定程度存在していると考えられる」とした。

また、女性が、出産、育児期を通じて就業継続するためには、仕事のやりがいを感じられているかどうかということも重要な要素だとし、「キャリア形成のために必要なロールモデルが不在であること等が女性のキャリア形成における課題として存在するなど、労働者が職業人生における明確な展望を描きつつ働き続け、その能力を伸長・発揮することについて、具体的な見通しを持ちにくい」ことも背景にあると指摘した。

明確な展望を描いて能力を伸長できる環境整備が必要

こうした点をふまえ、「均等法に定められた性差別の禁止を始めとする規定の確実な履行確保を前提とした上で、男女ともに様々なライフイベントがある中で、職業人生における明確な展望を描きつつ働き続け、その能力を伸長・発揮できる環境を整備することが必要」と整理。同時に、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を図るための環境整備を一層進めることも重要だとした。

また、これらを実現させていくために、法の履行確保だけでなく、各企業における雇用管理制度とその運用の見直しが不可欠だとし、各企業の主体的なポジティブ・アクションの取り組みや、長時間労働を前提とした働き方の是正、男性が積極的に育児・家事を行うことができるようにする社会全体での促しなどが求められるとした。

そのうえで具体的施策として、①就業を継続し、その能力を伸長・発揮できるための環境整備②仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現に向けた取組③多様な就業形態に対する支援――の3つの柱を掲げ、それぞれ具体的な取り組みを明示した。

<就業を継続し、その能力を伸長・発揮できるための環境整備>

就職活動中の差別が阻害要因となっていることにも言及

第1の「就業を継続し、その能力を伸長・発揮できるための環境整備」では、公正な処遇の確保をはじめとして、職業人生における明確な展望を描くことを可能にするため、労働者が就業を継続し、その能力を伸長・発揮できるための環境の整備を進めるとともに、特に、公正な処遇の確保は就業意欲を支える基本となるものであることから、「均等法の着実な履行を中心とする均等確保対策に積極的に取り組む」と強調。

公正な処遇の確保に向けた均等法などの履行確保のための施策として、「あらゆる雇用管理の段階における性別を理由とする差別の禁止のほか、間接差別の禁止、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等の違反に対し厳正かつ的確な行政指導を行う」とし、特に事業主による就職活動中の学生の求職者に対する募集・採用の段階における性別を理由とする差別や、妊娠、出産、育児休業などを理由とする不利益取扱い、上司、同僚による職場における妊娠、出産、育児休業などに関するハラスメントについては、女性の就業機会の確保・就業継続の大きな阻害要因となる場合が多いと述べ、迅速な行政指導を行うなどとした。

コース等別雇用管理について、導入している事業主で均等法に違反する運用や、特に均等法施行規則に規定する間接差別にあたる運用がなされないようあらためて啓発するとしている。また、事業運営の基幹となる事項に関する企画立案、営業、研究開発等を行う業務に従事するコース(いわゆる「総合職」)に女性の採用や配置が少ない事業主や、女性の役職者が少ない事業主において、コース等別雇用管理が女性の職域拡大や管理職登用等を阻害する原因となっていないか、自社の状況の把握と分析をふまえて、コース等別雇用管理を行う必要性について検討を行うことも含めて助言等を行うとした。

パワハラに対しては行政指導で確実な措置を講じる

ハラスメント防止対策では、まず、依然としてセクシュアルハラスメントに関する相談が多く、規模の小さい企業ほど防止対策に取り組む割合が低いことなどをかんがみ、改正均等法で新設された事業主等の責務規定や相談を受けた場合の不利益取扱い禁止規定などの周知を徹底するとしている。さらに、就職活動中の学生への悪質なセクハラ事案が発生していることから、相談があった場合に事業主が適切に対応すべきことについても周知啓発していくとしている。

職場のパワーハラスメントについては、防止措置が義務付けられ、中小事業主にも2022年4月に義務付けられたこともあり、防止措置の内容の周知徹底のほか、企業名の公表も含め、行政指導で確実な措置の実施を求めていくとしている。このほか、総合的なハラスメント対策として近年問題となっている、いわゆるカスタマーハラスメントについても、マニュアルを活用して事業主に周知啓発を行うなど、効果的な対策の普及に言及。性的志向・性自認に関するハラスメント対策の推進や、フリーランスに対する相談支援の実施も新たに盛り込んだ。

女性活躍の状況を把握できる「しょくばらぼ」の活用を促進

女性活躍推進法の着実な施行に向けての施策では、労働者101人以上企業に義務付けられている、自社の女性活躍に関する状況分析と数値目標などを盛り込んだ一般事業主行動計画の策定を促進。また、女性活躍に関する情報の公表の促進のため、パンフレットなどを通じて情報公表の方法を周知するとともに、女性活躍推進企業データベースや企業の職場情報を提供する総合サイト「しょくばらぼ」の活用促進を図る。

男女間賃金格差の縮小については、依然として欧米諸国に比べ格差が大きいが、その要因として男女間で勤続年数や管理職比率の差異が大きいことがあげられるとして、2022年7月からの規模301人以上の企業に対する賃金格差の把握と公表の義務付けを契機として、「各企業における男女の賃金の差異の要因分析や、課題解決に向けた取組を支援していく」ことで、男女間賃金格差の解消に努めるとした。

<仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現に向けた取組>

長時間労働是正に向けて企業の意識改革を促す

第2の施策方針の柱である社会全体で仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を実現するための取り組みでは、特に、仕事との両立が難しい育児・介護期における両立支援対策を推し進めるとしている。

仕事と育児の両立を図るための制度を着実に実施し、特に2023年4月から全面施行となった改正育児・介護休業法について、周知・指導を行い、改正内容が確実に履行されるよう図る。仕事と介護の両立についても、同様に改正法を周知し定着・履行確保を行うとしている。

また、長時間労働は育児など家庭生活との両立を困難にしており、少子化やキャリア形成阻害の原因と指摘し、是正に向けた取り組み強化を図るとともに、企業風土の改善に向けて、企業意識の改革を促進するとしている。特に中小企業については、発注者からの短い期限設定や発注内容の頻繁な変更などによって長時間労働になる傾向があることから、「事業者の取引上必要な配慮が商慣行に浸透するよう、関係省庁が連携して必要な取組を推進する」とした。

不妊治療と仕事との両立支援についても取り上げ、不妊治療と仕事の両立ができる職場環境の整備は喫緊の課題だと主張。企業や労働者向けのマニュアルによる周知啓発や助成措置、くるみんプラス認定の取得促進などを推し進めるとしている。

<多様な就業形態に対する支援>

テレワークは両立の1つの選択肢になり得る

第3の施策方針の柱である多様な就業形態に対する支援では、妊娠・出産を期にいったん就業を中断しても、それまでの就業経験を活かし再就職・再就業できるようにすることや、多様な働き方を可能にするための支援を行うことが重要だと強調。2021年4月から全面施行となったパートタイム・有期雇用労働法の周知や、個別相談による企業支援、職務分析・職務評価の導入促進などを行うとしている。

テレワークについて言及し、「特に、妊娠期・育児期・介護期の労働者にとって、仕事と出産・育児・介護を両立するための1つの選択肢となりうる」としたうえで、雇用型テレワーク、自営型テレワーク、それぞれについて政府のガイドラインを周知し啓発を行うことを盛り込んだ。

(調査部)