プライム市場上場企業の女性役員比率目標を30%以上に設定
 ――「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023(女性版骨太の方針2023)」

政府の方針・提言、研究報告

政府は6月13日、第13回すべての女性が輝く社会づくり本部・第23回男女共同参画推進本部の合同会議を開催し、「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023(女性版骨太の方針2023)」を決定した。女性活躍に向け、プライム市場上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上とすることを目標に掲げた。女性の所得向上と経済的自立に向けては、長時間労働の是正や「男性育休は当たり前」になる社会の実現に向けた制度対応などを盛り込んだ。方針に盛り込まれた内容は、各府省の概算要求に反映される。

「従来よりも踏み込んだ施策を講じることが不可欠」と強調

方針は「基本的な考え方」のなかで、日本の男女共同参画の現状について「いわゆる『M字カーブ』の問題は解消に向かい、女性役員数なども増加しているものの、国際的に見て立ち遅れていると言わざるを得ない」と指摘。「特に、出産を契機に、女性が非正規雇用化する、いわゆる『L字カーブ』の存在に象徴されるように、様々なライフイベントに当たりキャリア形成との二者択一を迫られるのは多くが女性であり、その背景には、長時間労働を中心とした労働慣行や女性への家事・育児等の無償労働時間の偏り、それらの根底にある固定的な性別役割分担意識など、構造的な課題が存在する」と訴えた。

そのため、こうした構造的な課題の解決に向けて、「従来よりも踏み込んだ施策を講じることが不可欠」だとし、取り組みの柱として、①女性の活躍と経済成長の好循環の実現に向けた取り組みの推進②女性の所得向上・経済的自立に向けた取り組みの強化③女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会の実現④女性の登用目標達成(第5次男女共同参画計画の着実な実行)――の4つを掲げ、それぞれにおいて具体策を提起した。

<女性の活躍と経済成長の好循環の実現に向けた取り組みの推進>

社会全体で女性活躍の機運を醸成することが能力発揮社会の実現に不可欠

第1の柱である「女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けた取り組み」では、「社会全体で女性活躍の機運を醸成し、多様性を確保していくことは、男女ともに自らの個性と能力を最大限に発揮できる社会の実現のために不可欠」とするとともに、「イノベーションの創出と事業変革の促進を通じて企業の持続的な成長、ひいては日本経済の発展に資する」と主張。

企業における女性登用の加速化や女性起業家の育成・支援、地方・中小企業における女性活躍などの施策を通じて、女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けて官民一体で取り組んでいくとした。

2025年を目途に女性役員を1人以上選任

具体的な施策としては、企業における女性登用を加速させるため、プライム市場上場企業を対象とした女性役員比率の数値目標の設定を掲げた。2023年中に、①2025年を目途に女性役員を1人以上選任するよう努める②2030年までに女性役員の比率を30%以上とすることを目指す③これらの目標を達成するための行動計画の策定を推奨する――との規定を、取引所の規則に設けるための取り組みを進める。なお、現在は、プライム市場上場企業で女性役員がいない企業の割合は2割弱となっている。

また、企業経営を担う女性リーダー人材を育成することを目的として、企業横断的なネットワーク構築と勉強機会の提供として実施されている女性リーダー研修「Women’s Initiative for Leadership(WIL)」について、企業横断メンタリングプログラムの活用を含めた拡充を行い、企業におけるパイプラインの構築を支援する。

リスキリングによる能力向上を支援するため、教育訓練給付について、高い賃金が獲得できる分野や、高いエンプロイアビリティの向上が期待される分野での拡充を検討する。

女性起業家の割合を20%以上とすることを目指す

女性起業家の育成・支援も盛り込んだ。ロールモデルとなる女性起業家を創出し、育成支援するため、外部有識者からの推薦に基づいて選出された企業を、政府機関と民間が集中支援を行うプログラム(J-Startup)において、女性起業家の割合を20%以上とすることを目指す。

女性起業家のネットワークを拡充するため、女性起業家支援機関の全国的なネットワーク「わたしの起業応援団」について、支援機関のスキルの見える化や、地域金融機関との連携を含めた地域ごとの支援拡充を行う。「女性、若者/シニア起業家支援金」による女性起業家への資金調達支援なども行う。

中小企業における女性活躍の促進も打ち出し、子育て支援や女性活躍に積極的に取り組む中小企業を、事業再構築補助金やIT導入補助金、ものづくり補助金などの各種補助金の採択審査で優遇する。中小企業経営者の無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)の解消に向けた研修用コンテンツの開発・普及にも取り組むとしている。

<女性の所得向上・経済的自立に向けた取り組みの強化>

ライフイベントとキャリア形成を両立するうえでの課題解消を進める

2つ目の柱である「女性の所得向上・経済的自立に向けた取り組みの強化」に向けては、方針は「男女がともにライフイベントやキャリア形成を両立できる環境づくりに向けて、また、女性に多い非正規雇用労働者や経済的に厳しいひとり親世帯の現状等を踏まえ、女性の所得向上・経済的自立に向けた取組をあらゆる観点から進めていく必要がある」と強調。特に、企業の労働慣行の見直しや、家事・育児などの無償労働の負担の軽減の解消など、「男女がともにライフイベントとキャリア形成を両立する上での諸課題の解消を進めていく」と打ち出すとともに、「仕事と健康の両立を図り、女性の就業支援を支援することが重要」と訴えた。

具体的な施策としては、企業の労働慣行の見直し、平時からの多様で柔軟な働き方を進めるため、まず、「長時間労働慣行の是正」を提起。的確に監督指導を行うとともに、2024年度からの時間外労働の上限規制の全面施行に向け、法制度の周知を徹底し、必要な支援を実施する。

投資家の評価を利用して両立支援の取り組みを加速させるため、女性活躍に優れた企業を中長期の価値を重視する投資家に魅力ある銘柄として紹介する「なでしこ銘柄」の調査項目に、1カ月あたりの平均法定外労働時間などとあわせ、両立支援に資すると考えられる設問を追加する。

「多様な正社員」制度の普及促進に向けては、短時間勤務や勤務地、職種・職務を限定した多様な正社員制度を創設したうえで、非正規雇用労働者の正規化を進める事業主に対する支援を強化する。さらに、選択的週休3日制について、好事例を収集・提供することで導入を促していく。

子が3歳以降小学校就学前までの柔軟な働き方を導入する制度を検討

「男性育休は当たり前」になる社会の実現に向けて、制度面と給付面の両面からの対応を抜本的に強化する。育児・介護休業法では、こどもが3歳以降小学校就学前までの場合において、短時間勤務、テレワーク、出社・退社時刻の調整、休暇など柔軟な働き方を職場に導入するための制度を検討。柔軟な働き方として、こどもが2歳未満の期間に、時短勤務の活用を促すための給付を創設し、その際は、女性のみが時短勤務を選択することで男女間のキャリア形成に差が生じることにならないように留意しながら、給付水準などの具体的な検討を進めるとした。

社会保障制度・税制面では、女性のキャリア形成やライフスタイルの選択に及ぼす影響が中立的な制度・慣行の構築が不可欠とした。短時間労働者へ被用者保険の適用拡大、最低賃金の引き上げなどにも取り組む。

女性のキャリア意識をめぐっては、固定的な性別役割分担意識や無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)の解消が必要だとして、企業の人事・業務管理・経営層への意識改革と理解促進を図るとしている。教育現場においても、教員研修プログラムの活用など、学校の取り組みや環境整備を進めるとしている。

非正規雇用労働者の正規化・処遇改善に関連する取り組みとしては、正規雇用化を進める事業主に対する助成を拡充する。また、企業が雇用形態を問わず教育訓練を実施することを支援するとともに、リスキリングを行う労働者個人への支援を拡充するとしている。

成長分野への労働移動に向け女性デジタル人材育成を盛り込む

成長産業であるデジタル分野への女性の労働移動を促すため、女性デジタル人材の育成支援を盛り込んでいるのも今回の方針の特徴。デジタルスキル標準やITパスポート試験の活用促進を引き続き図るとともに、デジタル分野のジェンダーギャップ解消のため、「女性デジタル人材育成プラン」に基づき、就労に直結するデジタルスキルの習得支援とデジタル分野への就労支援を、2022年度から3年間集中的に推進する。

母子家庭など、ひとり親家庭の支援も掲げている。養育費の受領率を2031年に全体の40%とし、養育費の取り決めをしている場合には70%とすることを目指し、周知・広報に努め、離婚の際に養育費を支払うことは当然のことであるという意識改革をさらに強力に推し進めるとしている。

<女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会の実現>

ハラスメント対策や仕事と女性の健康の両立対策を強化

第3の柱である「女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会の実現」では、配偶者等からの暴力や性犯罪・性暴力などの根絶に向け、具体策を盛り込んだ。

このうち職場におけるハラスメント対策では、職場のハラスメント防止のため、パンフレットの作成・配布で周知を行うほか、研修動画の配信や、12月の「ハラスメント撲滅月間」での集中的な広報啓発などを行う。就職活動中の学生に対するハラスメント、教職員によるハラスメント防止のため、大学の取り組みや好事例を発信し、相談窓口の周知を強化する。

女性の就業率が上昇するなか、月経や妊娠・出産関連、更年期症状など、女性の健康の課題と仕事の両立が課題となっていることから、女性特有のライフイベントによる望まない離職を防ぐため、事業主検診や産業保健体制のさらなる充実を図る。女性が必要な休暇を取得できるよう環境整備にも取り組む。

(調査部)