短時間以外の勤務時間の選択や残業免除申請の3歳以降の延長を提言
 ――厚生労働省「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」最終報告

政府の方針・提言、研究報告

前回の育児・介護休業法の改正法施行から5年が経過したことなどから、必要な育児・介護休業制度の見直しについて検討してきた厚生労働省の「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」(座長:武石恵美子法政大学教授)は報告をとりまとめ、6月19日に公表した。現行法は、3歳までの子を養育する労働者に対する短時間勤務の措置を義務付けているが、柔軟な勤務時間設定に対するニーズもあることから、他の勤務時間もあわせて設定できるようにしていくことを提案。また、子が3歳のときまで請求できる残業免除を3歳以降になっても請求できるようにすることや、看護休暇取得の子の対象年齢を、現行の「小学校就学前」から「小学校3年生修了時まで」に引き上げることなどを提言した。

女性に育児負担の偏りやキャリア形成上の課題が生じている

報告は、仕事と育児の両立の現在の状況について、育児・介護休業法の累次の改正によって育児休業制度は拡充してきたものの、「女性労働者に育児休業の利用や育児負担が偏っており、キャリア形成上の課題が生じている」として、「男性の育児休業取得促進に向けてさらに取り組むことが必要」だと強調した。

また、残業をしない働き方や、テレワークなど柔軟な働き方に関するニーズは「男女ともに3歳以降から小学校就学前の間も見られる」にもかかわらず、所定外労働の制限(残業免除)は3歳までに限られ、テレワークの導入については育児・介護休業法上規定されていないと指摘。

さらに、子の看護休暇制度について、現行制度が小学校以降の子を対象としていないことや、取得事由が限定されていることなどが、「子を養育する労働者のニーズに必ずしも十分に対応できているとは言いがたい」と言及した。

一方、介護との両立に関しては、介護休業、介護休暇など両立支援制度の仕組みが理解されていなかったり、勤務先で利用できなかったりする状況があるため、「介護離職を防止するための仕事と介護の両立支援制度の効果的な利用促進」を課題にあげた。

今後は女性のキャリア形成、男性の育児参加の希望に応えるべき

これらの現状をふまえ、報告は、今後の両立支援のあり方を検討するにあたって、ライフステージにかかわらず全ての労働者が「残業のない働き方」となっていることをあるべき方向性として目指しつつ、継続して取り組む基本事項を、4点掲げた。

1つ目は、固定的な性別役割分担意識を見直し、男女がともに望むキャリア形成を実現していくことが重要であること。また、女性のキャリア形成に対する希望、男性の育児に積極的に関わりたいという希望に応えていくことが必要だとした。

2つ目として、企業での働き方改革を一層促進し、職場全体で長時間労働を是正していくことが不可欠であることや、職務の範囲を明確にしていくこと、さらに柔軟な働き方を選ぶことや、帰宅時間のコントロールができるようになることが重要であることをあげた。

3つ目には、特に育児・介護負担の大きい時期に、労働参加を一時的に減らす特別な両立支援制度も、性別にかかわらず気兼ねなく使えることが重要であることをあげた。また、そうした時期を越えたあとは、柔軟な働き方を活用すればフルタイムで両立させていくことができることから、「そのような働き方を促進するための両立支援制度やキャリア形成支援の在り方が求められる」と言及した。

4つ目としては、テレワークの活用について、コロナ禍で柔軟な働き方の1つとして広く認識されるようになったことから、「育児・介護が必要な状況においても、有用な働き方となると考えられ、積極的に活用を促進していくことが望ましい」とした。

子の年齢に応じた両立支援策を提示

これらの考え方にもとづき、制度見直し・拡充に向けた具体的な方針を提起した。子の年齢に応じた両立支援に対するニーズに対応しながら、見直しに向けたスタンスを明確にしているのが今回の報告の特徴で、「3歳になるまで」については、特に女性が円滑にキャリアを形成できるように配慮し、テレワークや短時間勤務制度の柔軟化によって、フルタイム勤務に近い形態で能力発揮していくことが可能になるよう、柔軟な制度利用を促す内容としている。

「3歳から小学校就学前まで」については、保育サービスを利用しながら仕事で能力発揮できるという点を重視しつつ、柔軟な働き方の選択肢を増やすことや、残業をしない働き方を可能とすることを基本とした。「小学校就学以降」は、男女ともに働き方をフルタイム社員と同じにしながら、必要に応じてスポット的に家庭のことに対応できる休暇制度を設けることを基本的な方向としている。

子が3歳になるまでの両立支援>

テレワークも努力義務として位置づける

子が3歳になるまでの見直し・拡充策の詳細をみていくと、テレワークの活用の促進を提言。コロナ禍を機に広まったテレワークは、通勤時間の削減など、育児との両立にあたっても有効であるとし、「現在、努力義務となっている出社・退社時間の調整などに加えて、テレワークを企業の努力義務として位置づけることが必要である」と強調するとともに、テレワークをするにあたって、就業に集中できる環境を整備するため、テレワーク勤務でも保育所等への入所を制限することがないよう、保育行政で徹底すべきだと指摘している。

短時間勤務制度の見直しについても言及した。現行では、3歳に達するまでの子を養育する労働者について、1日原則6時間の短時間勤務の措置を義務付けているが、この現行の内容は引き続き維持することが必要だとしたうえで、「柔軟な勤務時間の設定に対するニーズもあり、勤務時間を柔軟化することは労働者のキャリア形成や職場管理面でメリットも大きい」ことを理由に、「他の勤務時間も併せて設定することを一層促していくことが必要」だと提言した。

<子が3歳以降小学校就学前までの両立支援>

選択制なら柔軟なフルタイムも選ぶことができる

次に、子が3歳以降小学校就学前までの見直し・拡充策をみていくと、まず、企業に対する柔軟な働き方を実現するための措置を求めた。

報告は、業種・職種などによって職場で導入できる制度も様々であることに配慮し、短時間勤務制度、所定労働時間を短縮しないテレワーク、始業時刻の変更等の措置(所定労働時間を短縮しないもの。フレックスタイム制を含む)、新たな休暇の付与(子の看護休暇や年次有給休暇など法定の休暇とは別に一定の期間ごとに付与され、時間単位で取得できるもの)のなかから、「事業主が各職場の事情に応じて、2以上の制度を選択して措置を講じる義務を設けることが必要」と提言。2以上の制度を選択肢とすることで、短時間勤務のみではなく、柔軟にフルタイムで働く制度を選ぶことができるようにすることなどを趣旨として説明した。

報告は、そのうえで、2つ以上の制度を複数選べるようにする、法を上回る措置として推奨することも求められるとした。事業主が2つ以上の制度を設定するにあたっては、過半数労働組合や過半数代表者、既存の労使委員会の仕組みを参考とした意見聴取などで、労働者のニーズを把握することが必要だとした。また、制度としてテレワークを選択する場合は、育児と両立できる環境を十分に構築するため、テレワークの頻度などに関する基準を設けることが必要などと述べた。

残業免除を請求できる期間は小学校就学前までとする

残業免除についても取り上げている。現行では、3歳に達するまでの子を養育する労働者が請求すれば、所定外労働が制限されることになっているが、3歳以降も残業のない働き方を可能とするため、この残業免除を3歳以降も請求できるようにすることが必要だと提言した。

残業免除を請求できる期間については、他の労働者とのバランスや移行期間という観点から、「小学校就学前までとすることが適当」としている。

子の看護休暇制度を子の行事や学級閉鎖でも使えるように

子どもの看護休暇制度の見直しも盛り込んだ。現行では、小学校就学前の子を養育する場合に、年5日(2人以上であれば年10日)を限度として取得できることになっているが、子育てに関するニーズに幅広く活用できるよう、取得目的の見直しを提言。

入園式や卒園式などの子の行事への参加や、感染症による学級閉鎖など、特別のニーズに活用できるよう、より柔軟な休暇にするとともに、「看護休暇」という名称についても、そのあり方について検討すべきとしている。

取得できる日数については、現行の日数は維持するが、取得可能な子の年齢は、小学校3年生修了まで引き上げることが必要だと指摘。また、看護や学校行事参加のニーズは勤続年数にかかわらず発生することから、雇用期間6カ月未満の労働者を労使協定によって除外する仕組みは廃止することが必要とも述べている。

中小が代替要員を雇うことなどへの助成措置を強化

制度の活用促進を進めるための措置としては、まず、企業や周囲の労働者に対する支援で具体的に提言した。

大企業に比較して経営体力の弱い中小企業にとっては、育児休業中の業務の代替や、男女にかかわらず育児休業を取得しやすい雰囲気をつくることが課題となっている。このため、育児休業取得者や短時間勤務利用者の業務を、外部から代替要員を雇ったり、周りの労働者でカバーする中小企業に対する助成措置を強化することを提言。また、企業規模にかかわらず、制度を利用する労働者がいる職場の業務量や達成目標を見直したり、体制を整備することのノウハウを共有することが必要だと強調した。

300人超の事業主も育児休業取得状況の公表を

育児休業取得状況の公表や取得率の目標設定についても言及している。育児休業の取得状況を男女別にみると、依然として取得率・取得日数ともに著しい格差があり、男性の取得促進に向けた取り組みを一層促進することが必要となっている。このため、現在は常時雇用する労働者1,000人超の事業主に男性の育児休業取得状況の公表が義務付けられているが、「300人超の事業主についても、公表の義務付けが必要と考えられる」と提案。ただし、公表時期を2年に1度にするなど、規模の小さい企業への配慮についても言及している。

また、政府が掲げる男性の育児休業取得率の目標に関しては、取得率だけでなく、男性の育児休業取得日数や育児・家事時間なども含めた目標の検討が必要だとした。

育児との両立に関する提言ではこのほか、次世代育成支援に向けた職場環境の整備などを盛り込んでいる。常時雇用する労働者101人以上の企業に義務付けられている一般事業主行動計画で、数値目標の設定などを促している手法を「指針ではなく法律上の仕組みとして、行動計画策定・変更時に、男性の育児休業取得率等の状況を分析すること、行動計画の目標として定量的な目標を立てることを規定することが必要」だと提言。また、計画の策定にあたっての基本的な考え方として、男性の育児休業の促進、子育て期を含めたすべての労働者の時間外労働の縮減、柔軟な働き方の促進等の事項を盛り込むことを具体的に示す必要があるとした。

<介護との両立支援>

介護との両立支援制度の情報を企業は個別周知すべき

報告は、仕事と介護の両立支援に関しては、介護離職防止策や制度の周知強化などを提言。制度を利用しないまま離職するケースを防止するため、「制度の周知や雇用環境の整備が必要」などとして、労働者が介護に直面した際、企業が両立支援制度などの情報を個別に周知し、本来の目的を十分に説明することや、両立に必要な制度を選択できるよう労働者に働きかけることの必要性を強調している。

現行の介護休業制度については、すでに何度も見直しを重ねてきており、取得日数(対象家族1日につき93日)や分割回数(3回に分けて取得可能)については「さらに見直しが必要な状況は確認できないと考えられる」と、重要なのは、現行制度の目的の理解促進と指摘した。

子に障がいがある場合の両立支援に関しては、「子に障害がある場合や医療的ケアを必要とする場合にも、子が要介護状態の要件を満たせば、介護休暇等の制度も利用可能である」ことなどの周知の強化を求めた。

(調査部)