リモート勤務など柔軟な働き方の制度の実践で、離職率の向上や応募数が増加する企業も
 ――内閣府男女共同参画局「仕事と生活の調和推進のための調査研究」報告書

政府の方針・提言、研究報告

内閣府の男女共同参画局は5月22日、「仕事と生活の調和推進のための調査研究~多様で柔軟な働き方推進に向けた企業の取組に関する調査」報告書を公表した。多様な働き方が定着すれば、仕事と生活の両立が進みやすくなることから、先進的な取り組みを行っている企業10社を調査し、その内容を紹介している。リモートワークをはじめとする柔軟な勤務制度、副業制度などによって、離職率の向上や採用応募者数の増加、社員の成長などにつなげている企業がある。

<調査および結果の概要>

調査は、多様で柔軟な働き方の推進に向けた取り組みの好事例を収集することが目的。①転勤制度の廃止・縮小等②配偶者の転勤等による退職者の就業継続支援③フルリモートやワーケーション等場所にとらわれない働き方の実施④社内外の副業・兼業⑤週休3日制の導入等休日・休暇制度の柔軟化――の5項目について、顕著な取り組みを行っている企業を選定し、ヒアリング調査した。

報告書が取り上げている企業は、アイシン、伊藤忠テクノソリューションズ、OKUTA、カゴメ、スープストックトーキョー、住友生命保険、ソニックガーデン、ディー・エヌ・エー、パナソニック ホールディングス、ロート製薬の10社。

取り組みのきっかけを全体的にみると、社員の要望や提案がきっかけになった事例が多かった。リモートワークでは、優秀人材を取り込むために積極的に採用する事例があった。長時間労働になりやすい職種で、残業や休暇取得の状況改善への取り組みをきっかけに改革を進めている事例もみられた。企業経営者が会社に与える効果を理解して全社的に推進したケースもあった。

取り組みの効果としては、多くの企業が、離職率の減少・従業員満足度の向上や業務効率化をあげ、採用応募者数の増加につながったとの指摘もあった。

<各社の取り組み内容>

報告書から、各社の取り組み内容を要約して紹介する。

短時間勤務は15分単位で利用可能

(1)アイシン(自動車部品等、3万7,844人)

2019年度から一連の取り組みを「働きがい改革」と名付け、フレキシブルに働くことができる制度を充実させている。

本業以外の付帯業務を減らす活動のほか、「テレワーク」や「サテライトオフィス」を順次導入。短時間勤務制度では、年間の利用可能時間内で、15分単位で利用可能とし、育児目的の場合、11歳までの子どもを持つ従業員まで対象を拡大している。

また、上司との面談を行ってキャリア形成を促す「キャリア申告制度」、上司の承認を得なくても希望の異動先に応募できる「オープンエントリー」、副業制度なども導入している。各部門の女性代表が役員に提言するプロジェクト「きらり」を創設した。

導入に際して苦労・考慮した点は、技能系の職場での制度活用をあげる。短時間勤務でキャリアが停滞しないよう、工場では「ウサギ追い」という生産方式を始めている。多工程を複数のメンバーで作業することで、時短者を受け入れやすくしている。2020年4月に「男性育休100%」を掲げ、出産時もしくは育児休業から復帰後1年以内に、有給休暇とは別に独自に計5日間追加で休める制度を導入。2020年度、21年度には対象となる男性従業員全員が同制度・育児休業を利用した。

2030年度までに新卒における女性比率を事務系40%、技能職20%に引き上げる目標を掲げていたが、22年度にいずれもクリア。総労働時間は2年連続で2,000時間を切っている。

テレワークは国内のどこでも可能

(2)伊藤忠テクノソリューションズ(コンピュータシステムの販売等、4,597人)

2022年度から、①テレワークを利用した「働く場所」の選択肢の拡大②社外での副業――を開始。テレワークの場所は、所属するオフィスの通勤範囲内(100キロ)で自由に選択できるようにし、23年度からは、通勤範囲外でも連続滞在日数10日間の範囲内で、国内どこでも可能とした。

働き方改革は2013年度から始めた。長時間労働が常態化していたため、残業削減が当初の目的だった。

単身赴任を解消するために元の居住地に戻ってテレワークすることや、居住地を移さないで転勤先の部署で業務を行うことのできる「転勤なし異動」も2022年度に制度化。また、理由不問で原則1年以内の長期休業が可能な「サバティカル休暇」を22年度から導入した。社外副業も条件付きで認めている。

2022年度に開始した施策のうち、通勤範囲外のテレワークは51人、サバティカル休暇は8人が利用(23年3月現在)。転勤なし異動者数は45人、社外副業の実施者数は56人となっている(22年度上半期)。

取り組みの効果で学生からの人気が向上し、新卒採用の書類選考応募者数が2020年卒以降、年平均で約4割増加した。

「スーパーフレックス制度」は土日祝日も対象

(3)OKUTA(新築・増改築の企画・設計・施工等、304人)

コアタイムがなく、平日の出社・退社時間を自由に設定できる「スーパーフレックス制度」を2017年11月に始め、2018年11月からは土日祝日も対象としている。2022年から、商圏である神奈川、千葉、埼玉以外への移住を認める「ふるさとテレワーク」制度を始めた。2012年から、午後の勤務時間帯に15分~20分程度の仮眠を推奨する「パワーナップ制度」も運用している。

制度の導入にあたっては、社員からの提案で始まった制度も少なくなく、「スーパーフレックス制度」については、女性営業社員の要望をうけて検討を開始した。

「スーパーフレックス制度」は、全社員の半数以上が恒常的に利用。導入翌年は、前年度に比べ残業時間が8%減少し、1人あたり売上高は6%増えた。テレワークは、全体の8割程度が利用しており、交通費の削減(コロナ前に比べ3~4割削減)に貢献している。

勤務地を固定する「動かない選択」と、希望地に転勤できる「動く選択」を用意

(4)カゴメ(調味・保存食品等、2,061人)

「テレワーク」「フレックスタイム」を整備。終日のテレワークを2020年に週4回までに拡大。フレックスタイムと在宅勤務をうまく組み合わせたハイブリッド型の勤務体系を推進している。2019年4月に副業を解禁。嘱託や契約社員も含め、入社2年目以降の社員が対象で、月の平均残業時間が15時間以下などを条件としている。

2018年に「地域カード」制度を創設。一定期間、勤務地を固定する「動かない選択」と、希望地に転勤できる「動く選択」の2つを用意し、育児や配偶者との同居、不妊治療の際に申請できる。計2回行使できる(1回あたり3年間有効)。

取り組みのきっかけについて、副業については、総実労働時間の削減で生まれた可処分所得時間を有効活用することを狙ったとしている。

テレワークは工場以外の事務系職場で定着し、出社率は40%~50%で目安どおりに推移している。副業の4年間の累計の許可件数は60件超で、対象者の5%程度。年間総労働時間はここ数年、1,800時間で推移している。

副業制度では、「グループ内複業」や他部署で業務体験する「仕事旅行」も

(5)スープストックトーキョー(飲食サービス業、1,771人)

「ピボットワーク制度」という副業制度があり、「社外での副業」のほか、グループ企業が運営する店舗やブランドでアルバイトする「グループ内複業」、社内の他部署で業務体験する「仕事旅行」の3パターンがある。

休暇制度では、生活価値拡充休暇として2018年、公休・有給休暇とは別に、従来の季節休暇(特別休暇)の2倍にあたる12日間の休暇を取得できる制度を導入。公休も増やし、合計で年120日の休日・休暇を確保している。

子の年齢を問わず、育児のために時短勤務を選択できる「セレクト勤務制度」がある。自己研鑽を目的としても利用できる。

社員が実際に休みを取れるよう、「拡充隊」を本社につくり、店舗の社員がまとまった休暇を取るときに、店舗に入ってマネジメント業務を代行する工夫を施した。

生活価値拡充休暇の2022年度の取得率は対象者の76%、セレクト勤務制度の利用者は同10%に及ぶ。離職率が制度導入前の2017年時点では、年間23%だったが、22年度は13.8%まで低下した。

介護などで希望の勤務地への変更を認める

(6)住友生命保険(生命保険業、4万2,954人)

2021年4月に総合職と業務職を「総合キャリア職」として統合したうえで、①全国転勤の可能性のある「Gコース」②エリア内転居がある「Aコース」③転居を伴う異動がない「Rコース」--の3コースを用意した。仕事を続けたいが、配偶者の転勤や親の介護などで転居を希望する職員に勤務地の変更を認める「ファミリーサポート制度」がある。休日制度では、年次有給休暇とは別に3カ月に1日取得でき、健康増進活動を促す「Vitality休暇」が特徴。

勤務コースでは、毎年、100人近くが希望に沿ったコース変更を選択。「ファミリーサポート制度」は年数十人に適用されている。「Vitality休暇」の取得率はほぼ100%。

2021年度の総実労働時間が2016年度に比べて11.2%減少した。

完全にリモートで仕事

(7)ソニックガーデン(IT企業、52人)

社員は基本的に完全リモートで働いている。朝、仮想オフィスに出社し、チャットで「おはようございます」の挨拶をする。誰が席にいるか画面上ですぐわかり、話しかけていいかどうかも判断できる。自分からなるべく発信することで、コミュニケーションがとりやすくなり、多くの社員が実践している。フルフレックス制だが、短時間の朝会を行うチームが多く、チームでする仕事は同じ時間帯に働くほうが、生産性が上がるとしている。通勤がないため、地方の技術力の高い社員を集められるのが強み。

うまく回っているのは、採用に時間をかけているから。正式な採用まで、1~2年かけて一緒に働きながら仕事への向き合い方を見極める。ルールで縛らなくても、チームワークで目標を共有することができる。

業績は伸びており、社員1人あたりの売上も増えている。一方、残業はほとんどない。離職者はほとんどいない。大きな方向性を議論するような場合にはリアルの会議が向いているため、実際に集まる合宿なども実施している。

リモート勤務が前提の遠隔地採用も開始

(8)ディー・エヌ・エー(ゲーム事業等、1,264人)

2020年のコロナ発生を機に、ほぼ全社員がリモートを活用。最近は、週1回出社するかしないかという社員が多い。2022年にはリモート勤務が前提の遠隔地採用を開始。同時に、通勤手当の日額上限を撤廃し、月15万円まで実費支給することにした。

2017年に社外での副業を解禁。また、他部署の仕事に手を挙げられる社内副業「クロスジョブ」を運用するとともに、行きたい部署の部門長の承認を得れば、上長や人事の承認なく異動できる仕組みもある。

リモート勤務は社員の間で要望が出た。副業も社員からの相談が続いていた。

リモート勤務はほぼ全員が活用。本社の出社率は2023年3月で1割強程度。今では22年度の中途採用者のエンジニアの15%以上が、首都圏外の居住者となっている。社外副業も毎月、一定数の申請がある。

働き方の選択肢が増え、地方の優秀な人材を獲得できている。リモート勤務はプラス効果のほうが大きく、全国のシェアオフィスを活用する一方で、2021年に本社を移転し、余分な固定スペースをなくすことができた。

社内副業によって、社内にどんな仕事があり、自身のキャリアにどうつなげるかがわかるようになった。社外副業ができるから入社する人も結構いる。

給与水準を維持して週休3日の選択が可能に

(9)パナソニック ホールディングス(家電、住宅などで技術・ソリューションを提供、2,943人)

「働く時間と場所」の選択肢を増やす制度を2023年2月から本格導入した。「働く時間」では、1日の最低労働時間を撤廃して平日を休めるようにしたため、給与水準を維持して週休3日が選択できるようになった。月間の所定労働時間を短縮した場合は週休4日も可能になる。増えた休日で、社外副業にも取り組むことができる。「働く場所」については、リモートワークを活用して通勤圏外でも働くことが可能になった。

2023年3月末時点で、ホールディングスと一部事業会社では所定労働時間を維持した週休3日の利用者数(1日でも利用した者)は20人で、通勤圏外のリモートワークについては81人が活用している。社外副業には56人が従事している。

週休3日などについて、入社希望者から好意的な意見が寄せられている。社員の意欲向上や離職率の低さに効果が表れており、グループ離職率は8.5%に抑えられている。

副業、「社内ダブルジョブ」のほか、社内起業を支援

(10)ロート製薬(OTC医薬品等、1,599人)

2016年に副業を解禁(「社外チャレンジワーク」)。実践者は、会社の経営や、行政アドバイザーなど様々な職種に就いている。同時に、「社内ダブルジョブ」を始め、自ら手を挙げて他部署も兼務できるようにした。2020年からは、社内起業家を支援するプロジェクトを開始。Well-beingにつながる事業領域であればどんな事業内容でも構わない。起業には、社内通貨によるクラウドファンディングで社員を応援している。

社外チャレンジワークの利用者は現在52人。延べ人数では123人。社内ダブルジョブは2016年の最初の公募では約100人の応募があり、30人程度でスタート。今は123人が兼務で仕事をしている。社内起業は9人がチャレンジして、4人が合同会社設立にこぎつけている。

社外チャレンジをしている人は社内でも活躍。副業は、採用応募者に好感を持たれている印象がある。社内ダブルジョブでは、仕事の段取りが良くなり、個人の成長に寄与。他メンバーの成長につながる面もある。

(調査部)