給与や生活環境など身近な話題と組合活動の関わりを意識させ、「知る・気づく」活動を若手の主体的な参加につなげたい
 ――自治労長野県本部青年部で動き出した青年活動改革

労働組合取材

地方自治体の職員などを主に組織する自治労の長野県本部(西澤忠司・中央執行委員長)では、青年部の取り組みとして、若年層組合員に意欲的に組合活動に参加してもらうために、「知る・気づく」にこだわった情報発信や学習会を実施している。自分の給与がどう決まっているのか、生活環境はどうなっているのかなど、組合員にとって身近な内容と組合活動との関わりを伝えることで、組合活動の意義や仕組みを理解してもらいながら、連帯・共感意識の醸成と若年層組合員の主体的な参加に向けて活動をブラッシュアップさせている。

なぜ「知る・気づく」の取り組みにこだわるのか

役員内でも労働組合活動の意義や仕組みへの理解が進んでいなかった

自治労の長野県本部は、長野県内77市町村の各単組の連合組織として構成。県庁や市役所などの自治体職員以外にも、公社・事業団、福祉や医療などに従事する労働者が加盟している。組合員数は約2万人にのぼる。

同本部の青年部は、およそ35歳以下の組合員で活動しており、基本体制として、四役(部長、副部長、事務局長、事務局次長)と、各地区から1人ずつ選出された青年常任委員10人を合わせた14人が主体となり、学習会や交流会の企画・運営を行っている。

しかし、前長野県本部青年部長の兒玉聖史氏(千曲市職労出身、今年9月より自治労本部の青年部長に就任)によると、兒玉氏が市職労の青年女性部役員を経て同部長に就任した2016年当時は、「四役が4人中2人しか任命されていなかった」という。活動について話し合いを行う常任委員会には、10人いる委員のうち1人しか参加がなかったこともあった。

「地域ごとの文化の違いもあり、地区どうしの仲間意識が希薄化していた。常任委員会も長野市内の本部で実施しているが、地区によっては常任委員交代時の引き継ぎが十分でなく、新しく就任した役員が役割や活動内容をよく理解していないこともあった」

また、本部の書記長と連携しつつ、前任者からの引き継ぎを頼りに活動を進めていたが、そもそも若い組合員に、組合活動や自治労の仕組み自体の理解が進んでいなかったり、活動の意義・目的が共有されていない状況で、「ただやらされているだけの状態になってしまっていた」そうだ。

若年層は知識・理解不足で組合活動に積極的になれない傾向に

兒玉氏はこの状況を改善するために「労働組合がどのような組織で、何のために活動するのか、自分自身にどういった効果をもたらすのかということを若年層組合員に理解してもらう必要がある」と考えた。知識を深めて活動の重要性に気づいてもらうことで、通常業務が忙しくても組合活動に取り組もう、行動しようという意欲が芽生えるからだ。

しかし、これまでの経験から、単純に労働組合や自治労共済に誘っても、どんな取り組みか分かっていない若年層はガードが固くなってしまうと感じていた。

また、労働組合の活動が身近でないからこそ、働くなかで感じる不満やおかしさを自分自身で何とかしようとしてしまう人が多く、目の前の問題が「社会」や「組織」の問題であったとしても、「個人の能力」の問題として捉えてしまう傾向もあったという。

「組合活動に積極的な人に対して劣等感や温度差を感じてしまい、先輩組合員や常任委員が『もっと不満を言っていったらどうか』と声を掛けても、『それはわがままではないか』『知識不足の自分が言えるような立場でない』と思って、言い出せない状況があった」

連帯活動への意識も希薄化

加えて、若年層には組合活動で重要な「連帯」や「共感」の意識が希薄になっている面もあった。兒玉氏によると、かつては、先輩組合員と集会への動員などでともに活動する機会も多く、交流を通じて連帯・共感の大切さや労働組合の役割・意義への理解が促され、世代交代や技能継承も円滑に行われていた。

しかし現在は、職場でも業務が個人化する傾向にあり、また、コロナ禍の影響もあり、誰かのために連帯して行動するという意識は弱くなっているため、「組合活動で『一緒に何かをすることは楽しい』『困っている人に手を貸すのは当たり前だ』と伝えても、なぜ人のために自分がやらないといけないのかと思ってしまう人が多い」という。

自身の体験を通じて生活の身近な部分から組合活動に視点を広げる取り組みを

活動自体への納得性を高め、意欲を持って組合活動に取り組んでもらうには、どうすればよいか――。兒玉氏が考えたのは、若年層の利己性を刺激することで、組合活動を「自分ごと」として捉えてもらうことだった。

実は兒玉氏自身も、かつて利己性を刺激された体験があった。入庁直後から長時間労働が続き、体力・精神両面で辛かった時に、当時の長野県本部の青年部長が「それはおかしい」と指摘してくれたことで、自分自身の働き方が正しい状況ではないことに気がつくことができた。その時、「自分では、おかしいことをおかしいと気がつくことができなかったが、そういった視点を持っておかなければいけないのだと感じた」という。

また、労働組合を通して労働条件の知識を学ぶことが自身の成長につながったり、中央交流集会などを通して様々な自治体の職員と話をすることで新たな気づきを得ることも多かった。「活動を通じて人のために何かすることは、自分のために何かするのと一緒なのだ」と思えるようになり、「組合の課題も自分ごととして捉えることができるようになった」と語る。

こうした自身の体験を通して、「知る・気づく」ことの重要性を感じていたことから、若年層にも、まずは自分の生活の身近なところから組合活動に視点を広げる体験をしてもらい、意義を感じてもらうことで、利他性の獲得が促され、主体的な組合活動につながっていくのではないかと考えた。

「知る・気づく」取り組みを促す方法とは

身近な給与の流れや生活環境の把握から組合活動に視点を広げる

若年層に労働組合を身近に感じてもらう取り組みの1つとして効果的だったのは、給与明細の見方や控除の種類など、賃金についての知識を提供し、お金との向き合い方を考えてもらうことだった。長野県内の若年層組合員400人を対象にアンケートを実施して、その結果から、金銭的な不安を抱える若年層が9割を超え、ほかの項目よりも多いことがわかっていた(図1)。

図1:アンケート結果
画像:図1
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(自治労長野県本部青年部提供)

「これまでの活動では、法律上の仕組みや賃金論などを伝えることはあっても、そもそも賃金がどのような流れで手元に入っているのか、どのように給与関係の書類を見ればよいのかということは教えてこなかった。職場でも習うことではないので、まずは一般的な賃金への基礎知識を身につけてもらい、自分の賃金はどうなっているのか考えるきっかけやセルフチェックにつなげてもらった」

また、自分の1日の生活における収入・支出の状況などを書き込むシートも作成し、現在の生活状況を知ってもらうツールとして提供(図2)。こうした取り組みを通じて、自分自身の賃金や生活状況を把握してもらい、次の段階として労働組合や自治労共済が賃金や生活にどのようにコミットできるかを説明することで、組合活動が自身の生活や組織社会を守っていくうえで必要なものとの理解を促した。

図2①、②:セルフチェックシート
画像:図2①
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画像:図2②
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(自治労長野県本部青年部提供)

学習会や動画配信、教宣紙の活用も

ほかにも、各単組の青年部役員に向けた、組合活動の年間の動きや取り組み方法を教えるスキルアップセミナーなど、組合活動の基礎を学ぶことができる学習会を積極的に実施。組合の公式YouTubeや公式LINEでは、基礎知識を説明した動画を配信するなど、組合員個人が時間・場所に限定されず好きな時に学習できるコンテンツも提供している。

学習会に参加した単組の青年部役員からは、「自身の単組でも所属する組合員向けに学習会を作っていきたいので、使用したデータを提供してもらえないか」という要望が多く寄せられたという。兒玉氏は、「自分たちが知ること、気づくことを体験して価値観が変わることで、次は自分たちでほかの組合員に広げていこう、積み上げていこうという決意を持ってくれたことが成果」と感じている。

また、組合活動の状況などを紹介する教宣紙についても、「各単組の取り組みを紹介したり、活動するうえでの有益な情報を提供することで、自分ごととして捉えてもらう機会につながる」と指摘。各単組で組合活動を主体的に行うための力を身につけてもらうと同時に、教宣紙などから得られる他組合の情報で視点を広げてもらいたいと考えており、青年部ではそういった機会を積極的に提供し続けたいと考えている。

青年部長専従となったことでより単組に向き合う機会を増やす

兒玉氏は県本部で約5年半務めた青年部長のうち、最初の4年は非専従として活動していたが、残り1年半は専従として活動した。

スキルアップセミナーや学習会の質は次第に向上していったものの、学んだ経験を次の活動に活かせていない単組も一部あったため、どうすれば熱意を途切れさせず各単組に伝えていけるのか、課題を感じていた。

常任委員会での協議や、他自治体で専従の青年部長を務める組合員の話を聞くなかで、「青年部専従となり、各単組に出向く機会を増やして、直接活動の意義や重要性を伝えていくことが必要」との結論にいたったという。

コロナ禍での気づきと今後の展望

コロナ禍を通して対面でのコミュニケーションの重要性を再認識

これまで、同本部の青年部では、学習会や交流機会を通して単組の取り組みの活性化を進めてきていたが、コロナ禍では、対面での活動機会が減少。コロナ禍前は学習会も、懇親会をセットにして、宿泊を伴う形で実施しており、「他組合の人と交流・情報交換をすることで学びや気づきを得られたり、仲間作りにもつながっていた」(兒玉氏)が、コロナ禍で中止やオンライン開催を余儀なくされたことで、「労働組合としてとても大事な人と人とのつながりや団結が失われた」という。

現在は、コロナ禍前の活動に戻りつつあるが、単組によって状況が違うことから、見通しは見えていない。なかには、オンラインで活動できるのであれば、そのままオンラインで済ませればよいのではないかと考える単組も出てきている。

しかし、兒玉氏はコロナ禍を通して「対面でのコミュニケーションはオンラインで行うより明らかに質が高く、連帯している意識・感覚がより強くなる」と、若い世代ではありながらも、対面で行うことの重要性を再認識していた。

そのうえで、「何のために労働組合があり、集会を行うのか、交流会を行うのかという意義を分かっていなければ、積極的な組合活動は実施できない。今までに戻すというより、何のために行うのかを理解するところから再構築していければよいのではないか」との考えを示した。

後任役員にはブラッシュアップした活動を期待

また、後任の役員の活躍にも期待を寄せている。長野県本部や各単組の活動は以前より活発化している。労働組合の活動の意義・目的は四役や常任委員には浸透してきたことから、現在も常任委員会では「この活動は何のためにあるのかという0から1を徹底的に話し合う」(兒玉氏)ことが続けられている。

現在の取り組みのブラッシュアップや、新たな取り組みも進めてほしいと考えており、「意欲は備わってきているので、そのうえで自分たちは何をするのか考えていってほしい。単組の組合員の思いや状況とも擦り合わせをしながら、楽しみつつ活動してほしい」と語った。

(田中瑞穂、荒川創太)

組織プロフィール

自治労長野県本部

本部:
長野県長野市県町532-3
中央執行委員長:
西澤忠司
組合員数:
約2万人
上部団体:
日本労働組合総連合会(連合)