企業では従業員の自発的なリスキリングを促す動き、コロナ第7波への対応では検査キットを配付する企業も
 ――企業・業界団体に聞く「リスキリング・リカレント教育の最新状況」「新型コロナ第7波への対応」

ビジネス・レーバー・モニター特別調査

DXの進展などにより、新たな知識や技能へのニーズが高まるなか、リスキリングやリカレント教育への関心が高まっている。JILPTが年4回実施している企業・業界団体モニター調査では、今回(8月実施)の特別調査として、リスキリングとリカレント教育の最新の状況を尋ねた。企業からは、資格取得にかかる費用補助などの取り組みが報告されたほか、DX推進のために全社的に取り組むところもあった。全体的な傾向として、研修を従業員に義務づけるのではなく、環境を整えることで自発的なリスキリングを促す企業の動きが目立った。業界団体からは、オンラインでの学習を支援する取り組みなどが報告された。

今回の特別調査ではまた、新型コロナ第7波への対応についても尋ねた。テレワークや時差出勤の推奨など、従来の対応を継続しているとの回答が大半を占めたものの、新たな取り組みとして検査キットの従業員への配付などが報告された。また、感染対策と熱中症対策の両立については、熱中症対策を基本としつつも、マスクを外す場合は距離の確保に努めている企業もあった。特別調査は企業モニター24社、業界団体モニター22組織から回答を得た。

【テーマ1:リスキリング・リカレント教育の最新状況】

リスキリングの費用補助や奨励金を支給

企業での取り組みとして、企業モニターからは、リスキリングにかかる費用補助が多く報告された。

【硝子】では、業務に関係する書籍購入やセミナー参加の費用を半額補助する制度があるとの回答があった。【食品】では、指定のeラーニング・通信教育・語学学習講座の受講費用を助成しているほか、所定の公的資格を取得した従業員に奨励金を支給している。さらに、カフェテリアプランのメニューに「自己啓発補助」を設定しており、語学、資格取得、ビジネス等の各種講座の受講料を補助している。

【石膏】では、資格手当を支給しているが、資格の内容やその取得方法により、手当額や支給開始時期に差をつけているとの報告があった。資格の種類に応じて「業務上必要なもの」「取得しておくと業務上参考となり有利な条件となるもの」「自己啓発」の3つに区分しており、それぞれ給与規程が定める月額免許手当の100%、80%、60%を支給している。また、会社の費用で免許を取得した場合は、取得から1年間は手当を支給しない扱いとしているという。

最適な学習コンテンツをAIが推奨

【電機A社】では、従業員へのアイデア募集でよせられた意見もふまえ、リスキリング強化の取り組みとして、年間4億円をかけて学習プラットフォーム(Learning Experience Platform)を10月から導入する。現在の仕事、やりたい仕事、強化したいスキル等を登録すると、AIが個々の学習ニーズを分析して最適なコンテンツを推奨する仕組みとなっている。リスキリングを進めるうえでの課題については、「具体的な行動変容に繋げること」だとしており、そのため、「非管理職へのジョブディスクリプション導入によるポジションの見える化、上司による部下のキャリア形成支援及びそのためのマネージャー支援の強化等を実施しており、これらを通じて自律的なキャリア構築・リスキリングに向けた行動変容の具体化に繋げたい」としている。

【電機B社】では、社員に最低限求める知識体系として「グローバル共通コアナレッジ体系」を2016年に構築した。これに基づき、学び直しの推進等を目的に2020年度より、グループ企業の全従業員がeラーニングでいつでも学び直しが可能なシステムを開始した。主なコンテンツは、グローバル・オンボーディング・プログラム(新規入社者対象のオリエンテーション動画)、リベラルアーツ(東京大学教授を中心とした教授陣による40講座及び電子書籍)、将来への備え(福利厚生コンテンツ)、より良い働き方(人事部門監修のコンテンツ)等となっている。

OFF-JTとして全社的にITスキルを身につける施策を進める

【自動車】では階層別の一律教育に加え、「学びたい時に学びたい人が学べる機会作り」を促進して、ソフトウエア開発のスキルやデジタルスキルを身につける施策に取り組んでいる。具体的には、①OFF-JTとして、全社でプログラミング教育やITスキルを身につける講座を整備②教えられる人材がいる職場に公募や異動調整で人材をシフトし、OJTで育成を促進③より高度なスキル習得や実践経験を積むため、グループ会社や異業種企業に出向派遣――に取り組んでいる。ただし、これらの取り組みには課題も生じており、①急激な環境変化(世界各国や競合の情勢)のため、先々のニーズを見通して確度の高い育成実行計画を立案することが難しい②既存領域も実行しながら、新領域に社内の人員をシフトさせることが難しく、既存領域での大胆な業務改廃が必要③OFF-JT、OJTともに教える人材等の不足を解消し、育成のスピードを上げる必要がある――といった点をあわせて報告した。

【電線】では、社員が身につけるべき知識・スキルを体系的に定義したうえで、社内システム上で社員が自由に研修を受講できる仕組みをつくっている。またDX推進のために、全社員向けのリテラシー教育や、一部社員へのデータ分析の実践教育も実施している。リスキリング推進の課題については「従業員のモチベーション」をあげており、その対策として「業務上で必要に迫られてからではなく、自分から学びなおそうという意欲を引き出す社内文化を醸成するべく、コーチング研修や1 on 1ミーティングの促進」に取り組んでいるという。

DX部門を新設してデジタル専門人材の採用を開始

【鉄道A社】では、選択型の通信教育講座を用意して受講費用を補助することで、デジタルテクノロジー分野やグローバル分野をはじめとする様々な分野での従業員の自己啓発や能力開発の環境を整えている。また、昨年からDXに特化した部門を新設し、デジタル専門人材の採用を開始した。同部門から社内掲示板やチャット等のツールを通じて、デジタルスキルやデジタル時代における働き方・考え方等を積極的に発信することでのDX推進にも取り組んでいる。

【鉄道B社】は、希望者に対してオンライン英会話を会社負担で受講できる制度を実施している。

グループ外出向を専門スキル習得の機会に

【百貨店】では高度専門スキルの習得のために、グループ外出向の制度を設けている。約2年間、他企業で専門性を学ぶ機会を提供しており、累計80人以上が利用している。その他、基礎的なビジネススキルの習得機会として、グループ従業員全員がいつでも利用できるeラーニングのプラットフォームを運用しているほか、会社支援による外部のサブスクリプションサービスの提供も行っている。

【ガソリンスタンド】は、地域の大学と連携して、従業員にリカレント教育の機会を提供しているという。「業務上の直接のスキルアップとはならない」としつつも、「新しい知見など教養の豊かさに繋がることを期待している」とコメントしている。

【ホテル】では英語スピーチや電話対応のコンテストを実施して、スタッフとして必要な共通スキルを伸ばしている。【パン・菓子】は、リスキリングの取り組みを「ここ最近はできていない」としつつも、「労働組合や従業員の一部からも要望があり、検討段階にある」ことを報告した。

業界団体がオンライン学習を支援

業界団体モニターからは、オンラインを活用しての学習の機会提供などが報告された。

【パン・菓子】は9月から、製パン技術者が日常業務をこなしつつオンライン上で製パン技術の伝統と最新状況を学べる「リテールベーカリー製パン技術WEB教育コース」(日本パン技術研究所が実施)を開設した。会社によっては、受講費用の一部を助成する予定だという。

【鉄道】は会員企業の特徴的な取り組みとして、社内外副業、リスキリングのための休職制度の導入事例を報告した。

【テーマ2:新型コロナ第7波への対応】

新型コロナ第7波への対応を尋ねたところ、従来のコロナ禍での対応を継続しているとの回答が大半を占める一方、新たな取り組みも報告された。

「黙食」の再徹底と、検査キットの配付を実施

【食品】では第7波の感染力が高いことから、社内でマスクを外す昼食時の「黙食」の再徹底を図っているほか、PCR検査キット・抗原検査キットを配付して、従業員の状況把握や出社判定に活用している。【自動車販売】は社内での昼食を黙食としているほか、外食は昼夜問わず禁止している。【専修学校等】は学生の登校する割合を減らしているほか、職員もグループ化することで交代勤務としている。

熱中症対策とのバランスが難しい感染対策としてのマスク着用について、【造船・重機】は「製造現場では熱中症対策を基本」としつつも、「マスクを外している場合は距離を保ち、会話は控える」ことを注意喚起している。

濃厚接触者の対応や雇調金の特別措置について厚労省に緊急要望

【シルバー産業】の業界団体は7月22日付で厚生労働省に「介護分野における物価高騰等に伴う緊急要望について」と題する要望書を提出した。物価高騰対策の支援を求めたほか、あわせて第7波を受けての支援も要望。具体的には、感染の急激な拡大に伴い「サービス利用控えや職員が『濃厚接触者』となった場合に自宅待機を余儀なくされるなど、利用者の減少に加え、職員の確保が困難となることにより、事業所の一時閉鎖など事業継続が困難となるケースも出始めている」と現状を指摘。そのうえで政府への要望として、「従前の支援策の継続」に加えて、職員が濃厚接触者となった場合の扱いについて、「医療機関や介護施設と同様に、一定の条件を満たせば早期の職場復帰が可能となるよう、弾力的な運用」を図ることを要望した。

【外食】の業界団体も8月3日付で厚生労働省に対して、新型コロナウイルスの影響を強く受ける外食産業で働く従業員の雇用と生活を守るため、9月末以降についても雇用調整助成金の特例措置の延長を要請した。

【事業所給食】の業界団体は、会員企業の動向として、「まん延防止等重点措置などの法的適応期間については、時差出勤などを実施していたが、第7波では従業員と相談のうえ、期間限定で自主的に一部従業員について時差出勤等を実施した」「休業者が増えたことから、部署間での応援対応が増加した」「本社勤務者に対しては、テレワークが出来る体制を既に整えており、8月には社員全員にノートパソコンを支給した」といった事例を報告した。

(調査部)