35.0%の自治体職員が過去3年間でカスハラを受けた経験
 ――総務省が「地方公共団体における各種ハラスメントに関する職員アンケート調査報告書」を公表

国内トピックス

総務省が4月25日に公表した「地方公共団体における各種ハラスメントに関する職員アンケート調査報告書」によると、過去3年間に、カスタマーハラスメントを受けた経験(受けたと感じた経験も含む)があると回答した自治体職員は35.0%と3割以上にのぼった。また、カスタマーハラスメントのきっかけとなった理由(複数回答)を尋ねると、「行政サービスの利用者・取引先の不満のはけ口・嫌がらせ」が72.5%と最も回答割合が高かった。

<調査方法と回答者の属性>

調査は全国の地方公共団体の職員を対象に、2024年11月26日~12月16日に実施。無作為に抽出した388の都道府県・市区町村から、一般行政部門(首長部局)に属する一般職の職員2万人(うち常勤職員1万4,191人、非常勤職員5,809人)を対象とし、母集団構成比に近似するように無作為抽出した。有効回収数は1万1,507件で、有効回収率は57.5%。

回答者の属性は、常勤職員が7,953人で、非常勤職員が3,519人、任用形態無回答が35人。常勤職員とは、フルタイムの再任用職員、任期付採用職員・臨時的任用職員を指し、非常勤職員とは、会計年度任用職員(フルタイム・短時間勤務)、再任用短時間勤務職員、任期付短時間勤務職員を指す。

<調査結果>

他のハラスメントよりも高いカスハラの経験率

過去3年間にカスタマーハラスメント(カスハラ)を受けた経験(受けたと感じた経験も含む)についてみると、「受けたことがある」が35.0%で、「受けたことがない」が64.5%(残りの0.5%は無回答)。「受けたことがある」とする回答者の割合は、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントそれぞれの割合(後で詳述)よりも高くなっている(図表1)。

図表1:カスタマーハラスメントとその他ハラスメントとの比較表
画像:図表1

(公表資料から編集部で作成)

受けたことがあると回答した割合を団体区分別にみると、「都道府県」が29.2%、「指定都市」が36.2%、「中核市、東京都特別区」が41.7%、「市(人口10万人以上(中核市を除く))」が36.7%、「市(人口10万人未満)」が37.7%、「町村」が32.1%で、「中核市、東京都特別区」が最も高くなっている。

30代や20代以下の世代で被害を受けた割合が高い

受けたことがあると回答した割合を年代別にみると、「20代以下」が40.0%、「30代」が44.6%、「40代」が37.4%、「50代」が31.5%、「60代以上」が16.9%。

任用形態別では、「任期の定めのない常勤職員(管理職)」が36.5%、「任期の定めのない常勤職員(非管理職・不明)」が42.8%、「再任用職員」が17.8%、「会計年度任用職員」が19.1%、「その他」が19.0%で、「任期の定めのない常勤職員(非管理職・不明)」が最も高かった。

部門別では「広報広聴」がトップ

受けたことがあると回答した割合を部門別にみると、「広報広聴」が66.3%と6割を超えて最も高く、次いで「各種年金保険関係」が61.5%、「福祉事務所」が61.5%、「戸籍等窓口」が59.9%、「税務」が55.5%、「公害・環境保全」が46.6%、「児童相談所等」が42.1%などとなっている。

きっかけは利用者の不満のはけ口・嫌がらせが約7割

受けたことがあると回答した職員にカスハラのきっかけ(複数回答)を尋ねると、「行政サービスの利用者・取引先の不満のはけ口・嫌がらせ」が72.5%と7割を超えて最も高く、次いで「行政サービスの利用者・取引先の誤認等が一因」(「行政サービスの利用者・取引先の制度に対する理解不足」または「行政サービスの利用者・取引先の勘違い」)が57.1%、「職員の対応が一因」(「窓口対応や電話対応等における職務上のミス」または「システムの不備」)が17.5%などの順(図表2)。職員の対応が一因とする回答割合は2割以下となっている。

図表2:カスタマーハラスメントのきっかけ
画像:図表2
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(公表資料から編集部で作成)

42.6%の職員が「年に数回」経験

受けたことがあると回答した職員に、当時の職場でカスハラを受けた頻度を聞いたところ、「年に数回」(42.6%)が最も割合が高く、次いで、「過去3年間に数回」(23.9%)、「月に数回」(23.2%)、「週に数回」(7.1%)、「ほとんど毎日」(2.3%)などの順で高い。

また、カスハラを受けた場所(複数回答)については、「電話やメール等での応対時」(72.5%)と「通常就業している場所での行政サービスの利用者・取引先への対応時」(64.7%)が突出して高く、このほかでは「行政サービスの利用者・取引先の住宅や事業所等」が11.2%などとなっている。

カスハラの内容のトップは継続的な執拗な言動

カスハラの内容(複数回答)をみると、「継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動(頻繁なクレーム、同じ質問を繰り返す等)」が72.3%と最も高く、次いで「威圧的な言動(大声で責める、反社会的な者とのつながりをほのめかす等)」が66.4%、「精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の要求等)」が52.0%などとなっている。

どのように対応したか(複数回答)については、「同時に複数人の職員で対応した」が43.9%と最も割合が高く、次いで「行政サービスの利用者・取引先からの要求等を断った」が39.6%、「上司に引き継いだ」が35.2%などとなっている。

カスハラを受けた職員の約8割が怒りや不満などを感じている

受けたことがあると回答した職員に、心身への影響(複数回答)を聞いたところ、「怒りや不満、不安などを感じた」が80.4%と突出して高く、「仕事に対する意欲や生産性が低下した」との回答割合も57.6%と5割を超えている。

カスハラを受けた後どのような行動を取ったか(複数回答)については、「上司に相談した」が73.3%と最も割合が高く、次いで「同僚に相談した」(55.0%)が高かった。一方、「何もしなかった」職員が約1割いた(13.8%)。

職場は相談や報告等によって被害を受けていることを認識していたかどうか尋ねたところ、「認識していた」が69.8%、「認識していなかった」が28.7%で、認識していない割合が3割弱にのぼった。

過去3年間でパワハラを受けたことがある割合は15.7%

調査では、カスハラだけでなく、パワーハラスメント(パワハラ)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、育児休業等に関するハラスメントについても被害経験などを尋ねている。

これらについても結果をみていくと、過去3年間にパワハラを受けた経験(受けたと感じた経験も含む)について、「受けたことがある」と回答した職員は15.7%で、「受けたことがない」が83.9%だった。

「受けたことがある」と回答した割合を年代別にみると、「20代以下」が11.7%、「30代」が16.9%、「40代」が19.3%、「50代」が16.0%、「60代以上」が11.5%で、「40代」が最も高くなっている。

過去3年間でセクハラを受けたことがある割合は1割未満

同様に、過去3年間にセクハラを受けた経験(受けたと感じた経験も含む)をみると、「受けたことがある」が3.9%で、「受けたことがない」が95.8%などとなっている。

過去5年間に育児休業等に関するハラスメントまたは不利益な取扱いを受けた経験(受けたと感じた経験も含む)については、「受けたことがある」が7.8%、「受けたことがない」が91.9%などとなっている。

パワハラの行為者は「上司(幹部以外)」が6割超

セクハラ、パワハラ等を受けたことがある(受けたと感じた経験があるも含む)と回答した職員に、ハラスメント行為者を尋ねた結果をみると(複数回答)、パワハラでは、「上司(幹部以外)」(64.2%)が6割を超えて最も割合が高く、次いで、「幹部」(23.3%)、「同僚」(20.9%)、「部下」(7.0%)などの順となった。

セクハラでは、「上司(幹部以外)」(56.2%)が最も高く、次いで、「同僚」(26.6%)、「幹部」(18.3%)、「部下」(3.8%)などの順で高い。

育児休業等ハラスメントについて、男性の回答結果をみると、「上司(幹部以外)」(69.6%)が7割近くにのぼり最も高く、次いで、「幹部」(44.9%)、「同僚」(15.9%)、「部下」(2.9%)などの順。女性では、「上司(幹部以外)」が64.2%、「幹部」が31.3%、「同僚」が13.4%、「部下」が3.0%などとなっている。

ハラスメントを受けたことがない職員の職場の特徴は「休暇を取得しやすい」 など

ハラスメント(カスタマーハラスメントを除く)を受けたことがないと回答した職員に職場の特徴(複数回答)を尋ねたところ、「休暇を取得しやすい」が62.4%と最も割合が高く、次いで「同僚同士のコミュニケーションが多い/活発である」が56.9%、「上司・部下のコミュニケーションが多い/活発である」が52.9%、「育児中の職員が多い/いる」と「時間外勤務が少ない/ない」が38.7%などとなっている。

<課題と対応策>

職員1人でカスハラ対応をさせない

これらの結果から、調査報告は、みえてきた対応策について言及している。カスハラについては、各部門における共通的な対応策として、1人で対応させず組織的に対応を行い、そのうえで、部門によっては部門の特性に応じた対応も必要だと指摘。具体的な取り組みの例として、「職員アンケートによる実態把握」や「職種や現場等の違いに応じた対応マニュアル等の整備」などをあげた。

その一方で、調査報告は、「クレームの全てがカスタマーハラスメントに該当するわけではなく、客観的に見て社会通念上相当な範囲で行われたものは、言わば正当なクレームであり、カスタマーハラスメントに該当しないことに留意する必要」とした。また、「民間企業では顧客を選別した対応が可能である一方、公務職場では全ての行政サービスの利用者に対して、公平・公正に行政サービスを提供することが必要」とも言及し、留意点もあわせて指摘した。

コミュニケーション不足の解消がハラスメント対策に有効

ハラスメントが起こりにくい職場に向けた対応策としては、「コミュニケーション不足の解消に向けた取組の実施」や「コミュニケーションの活性化や円滑化のために研修等の必要な取組の実施」が重要であるとした。

具体的に、「職員個人のコミュニケーション能力の向上を図ることは、ハラスメントの行為者・被害者の双方になることを防止する上で重要」「日常的なコミュニケーションを取るよう努めることや定期的に面談やミーティングを行うことにより、風通しの良い職場環境や互いに助け合える職員同士の信頼関係を築き、コミュニケーションの活性化を図る」ことなどをあげた。

(調査部)