賃上げや一時金の満額回答が目立ち、初任給や企業内最低賃金の増額獲得も
――【単組】2025春闘の賃金・一時金の要求・回答状況など
ビジネス・レーバー・モニター定例調査
2025春闘の賃金・一時金の要求・回答状況などに関する単組モニターから寄せられた報告では、賃上げや一時金で要求満額を獲得したとの報告が多くみられた。また、初任給の大幅な引き上げや、企業内最低賃金についても増額を獲得する組合があった。回答については、おおむね、高く評価できるとの報告となっている。
賃金も一時金も満額を獲得し、一時金は7カ月以上の水準
春闘の牽引役である金属関連の単組から、報告の内容をみていくと、【自動車】では2つの単組から報告があった。A社労組は賃金・一時金について、要求どおりで妥結しており、一時金は基準内賃金で7.6カ月を獲得した。
また、「総合的な人への投資」として、①各本部長・カンパニーでの年間を通じた全員参加の話し合い②個人の成果や職場への貢献に向けて「行動する人」を後押しする仕組み・制度――について会社から回答を得た。具体的には、①では本部長等が職場課題や困りごとを現地現物で判断し解決するアクションを各職場で行う。②では、「全職種・資格での役割に応じたメリハリのつく評価」「技能職の人事制度見直し」「配置前の研修新設と職場実践で改善に繋げるサイクルの導入」などについて、労使専門委員会で制度詳細や必要な取り組みを議論していくとしている。
従業員が大切にすべきことや働きがいなどに関する労使の話し合いも求める
賃金などの労働条件項目以外で交渉・協議した項目として、特徴的なものをあげてもらったところ、A社労組は、日本と自動車産業の「未来」と「笑顔」を創り、働く一人ひとりが果たすべき役割と責任について、「多様性・成長・貢献」の観点から労使で話し合うことを要望したと報告。
具体的には、①自動車産業が大きなうねりを迎える中で、働く一人ひとりが取り巻く環境や置かれている立場を正しく理解し、何を大切にしていくべきか、共通の目線に立つ②「働きがい(やりがい+働きやすさ)」をこれまで以上に高め、働いていて幸せを感じられるようにやるべきこと、できること③日本と自動車産業の発展に力を尽くせる会社・職場・人材であるために、今後さらに取り組みを進めること、変えるべきこと、挑戦すべきこと――の3点を話し合いのテーマとして求めた。
賃上げは1万6,500円で妥結し、一時金は5.2カ月の満額回答
B社労組は、賃金について1万8,000円の引き上げ、年間一時金について5.2カ月分を要求し、賃金については1万6,500円の引き上げ、一時金については要求どおりで妥結した。モニターは要求作成の考え方について、「『組合員とその家族の幸せ』と『会社の今後の発展』の双方を長期的な視点で両立させること、取り巻く環境や企業業績、今後のモチベーションなどを総合的に勘案した」としている。
賃金、一時金以外では、「ワーキングコンディションの改善」「総労働時間短縮」「年次有給休暇カットゼロ」「年間休日増に向けた取り組み」を要求に掲げた。
初任給で大卒、高卒ともに前年比5%増の回答を引き出す
【電機】の単組は、電機連合方針にもとづく要求ポイントで、基本昇給を行ったうえでの5%(産別統一闘争の統一要求基準である1万7,000円相当)の賃金水準改善を要求し、満額を獲得した。ただし、業績評価による配分はあるという。
また、初任給について、大卒で29万4,000円、高卒で22万6,300円を要求したところ、会社からは、大卒は要求どおり、高卒は22万3,000円の回答があり、大卒、高卒ともに前年比5%増の回答額となった。
一時金は業績連動方式での支給を確認した。このほか、雇用延長社員の賃金に関して一般社員と同じく前年比5%増で要求したところ、会社からはゼロ回答だったものの、「2025年6月一時金にて一律20万円を支給」する回答を得られた。
テレワーク勤務に関する協議も
賃金、一時金以外で特徴となった交渉・協議項目については、総実労働時間削減や、テレワーク中の勤務実績を適正に登録するためのサポートツール(PC稼働時間、無作動時間の表示)の展開、出社時の会議スペース拡充などについて協議したと報告した。
また、シニア世代が一般社員と同じように年間の業績評価を昇給に反映することができる制度や、障がいのある社員の法定雇用率の引き上げを見据えた採用、いきいきと働ける環境整備などについても議論したと報告した。
造船・重機の単組は「時間単位年休の日数拡大」などでも前進回答
【造船・重機】では2単組から報告があった。A社労組では賃金改善として、基幹労連方針にもとづき1万5,000円を要求し、要求どおりで妥結。年間一時金は6.5カ月(約255.4万円)を要求し、こちらも要求どおり(賃金改善反映後で約265.1万円)で妥結した。
また、「時間単位年休の日数拡大」「転任時支度料の増額(家賃補助受給者のみ)」「別居滞在料の引き上げ」「一時復帰回数の増加および一時復帰先の拡充」「長期現地出張者(国内)の処遇改善」などで、要求どおりの回答か前進回答を得た。
モニターは要求作成に至る背景について、賃金改善については「物価上昇分、人への投資、相場賃金確保、人材不足への対応など総合的に勘案した」と説明。一時金については「会社施策への協力・努力や中期目標進捗度への成果配分といった観点から策定した」と報告した。
会社の持続的成長なども話題にあがる
その他の労働条件については、「ワーク・ライフ・バランスの実現を取り組みの柱とし、諸制度の課題解決や利便性の向上を図る観点と、多様な働き方の実現、人材の確保・定着に資する制度に主眼を置いた」としている。
労働条件以外でも、「受注環境が好調な中、持続的に成長していくためにはどうあるべきかといった観点や、旺盛な工事を遂行・消化していくことが重要であるといった話題があがり、会社の考える『人への投資』や組合として果たすべき責務について、今次交渉のなかで、意見を交わした」という。
カフェテリアメニューに「奨学金補助」を新規追加
B社労組も賃金改善では1万5,000円の引き上げを求め、企業内最低賃金では満18歳ポイント賃金を19万3,000円から20万8,000円へ改定することを要求。年間一時金については労使で合意した業績連動算式による金額および月数を要求した。交渉の結果、いずれも要求どおりで妥結している。
賃金改善では、「世間相場と比較した際に若年層で見劣りする傾向を把握したため、配分においてはその点を手厚く対応した」とも報告があった。
労働条件の改善として要求した「外国出張・国内出張の休日移動手当の適用条件の拡大として、出張時に休日勤務を行う場合に休日移動手当を支給すること」「カフェテリアメニューの項目に『奨学金補助』を新規追加すること」「国内出張旅費の日帰り出張日当、宿泊出張日当の増額」――の3点も、要求どおりで妥結した。
賃金改善の満額に加え、災害休暇の取得要件緩和も獲得
【非鉄金属】の単組は、組合員平均1万5,000円の賃金改善を要求し、要求どおりで妥結。年間一時金は組合員平均185万円を要求し、組合員平均170万円での妥結となった。
福利厚生に関する要求では、災害休暇の取得要件を、①社員、配偶者、1親等の親族もしくは2親等の血族の現住居、または単身赴任者の留守宅が滅失または損壊し、社員が当該家屋の復旧作業に従事するため出勤できない場合②社員が災害対策基本法に基づく避難指示(警戒レベル4)を受け、現住居から避難する場合③介護休業規程に定める要介護家族(同居・非同居を問わない)や、高齢者等に該当する同居家族(留守宅家族を含む)が、災害対策基本法に基づく高齢者等避難(警戒レベル3)を受け、現住居から避難するために社員が同行する場合――の3点に緩和することで妥結。
また、介護休業期間中の給与支給率等を見直し、「介護休業給付金の受給を期間満了した介護休業取得者に対して、介護支援金30万円を支給する」とした。
モニターは結果について「要求どおりの回答となり素晴らしい結果」と高く評価している。
臨時昇給のみで3%以上の改善が必要との認識で要求を設定
【事務・精密機械】の単組は、定期昇給平均6,500円と、一律の臨時昇給1万5,000円を要求。臨時昇給の要求額の考え方は、「物価上昇に負けない賃金の獲得には、臨時昇給のみで、少なくとも3%以上の賃金改善が必要」との認識のもと、上部団体であるJAMの2024年賃金全数調査の平均額の約5%(1万5,000円)などを参考に設定した。
会社からの回答は、定期昇給は要求どおりで、臨時昇給は1万3,000円となり、合わせて1万9,500円(賃上げ率5.51%程度)での妥結となった。
また、初任給について1万3,000円の引き上げ、企業内最低賃金では時給換算1,190円から1,240円への増加、契約社員等の賃金引き上げでは月額4,500円~5,500円相当額とすることについて妥結している。
このほか、ジョブリターン制度改定(登録要件の緩和)やリフレッシュ休暇制度の改定(利用条件の緩和)を交渉・協議した。
陶業の単組は2万4,000円(6.50%)の賃上げを要求して満額獲得
金属産業以外の製造業をみていくと、【陶業】の単組は賃上げについて、賃金カーブ維持およびベースアップとして、正規組合員1人あたり2万4,000円(賃上げ率6.50%)を要求し、満額回答となった。一時金については205万円の要求に対し、202万円での回答となり、企業内最低賃金では、時間単価で1,150円の要求に対し満額での回答となった。
モニターは要求の考え方について、「物価高を含めた社会情勢や主要先進国との賃金差、上部団体の方針、他労組の状況、当社の業績や賃金水準、組合員の期待を込めた要求とした」と報告。
交渉の経過について「一律配分として全組合員の実質賃金を引き上げるために物価上昇以上の3%以上を要求し、重点配分先としては新卒やキャリア採用の競争力強化に加えて、事業・現場を支える中核となる層にも配分を要求した結果、一律・重点ともに組合要求を満足する回答を引き出すことができた」と評価している。
化繊の単組はベア分だけで4%を要求し、満額で妥結
【化繊】の単組は、ベースアップ分として組合員1人あたり1万4,521円(要求時交渉基礎給の4%)を要求し、1万4,515円(妥結時交渉基礎給の4%)で妥結した。
モニターは要求設定の考え方について、上部団体であるUAゼンセンの製造産業部門の方針に基づき、「物価上昇、目減りしてきた実質賃金や、採用競争力、在籍者への資本投資による労働力維持・確保」を目指して設定したと説明。
回答結果に対しては、「会社として世間相場をしっかりと真正面から捉え決断してくれた。単なる満額ではなく、現役社員へのさらなる頑張りを期待した内容と受け止めている」とコメントした。
60歳以降の賃金について60歳到達時点の70%から100%へ引き上げ
それ以外では、①60歳台の賃金引き上げ(60歳到達時点の70%から100%に引き上げ)②60歳台の退職金ポイント付与③勤続40周年の創設④育児短時間勤務の対象期間の延長(養育する子どもの対象年齢を小学校3年生から小学校6年生までに引き上げ)――の4点を特徴的項目としてあげた。
①、②については継続協議となり、③については既存の20、30周年に加え、10、40周年を新設することになり、④については要求どおりで妥結したという。
化学の単組は4%ベアの満額獲得にこだわる姿勢で会社に回答を求める
【化学】の単組は、ベースアップ分として1万4,805円(4%)、定昇込みで2万2,468円(6.07%)を要求し、ベア1万4,802円(4%)、定昇込みで2万2,526円(6.09%)で妥結した。要求と妥結の金額差は月ごとの交渉基礎給の差によるため、満額妥結となっている。
交渉の経緯についてモニターは、「物価上昇局面における実質賃金の維持向上の必要性」や「組合員の日々の事業活動における貢献」に加え、「他社の要求や妥結も高い水準にあり組合員の期待が高まっていること」を念頭に、要求の4%満額のベースアップ獲得にこだわる姿勢で回答を求めたことを説明。
結果について、「満額回答は、昨今の経営環境や過去の交渉経緯を踏まえても、これまでにない踏み込んだ内容であり、今後の事業展開に向けた期待が込められたものと認識している」と評価した。
道路貨物の単組は1万1,000円の賃上げで、全体に行き渡る賃金配分獲得と評価
【道路貨物】の単組は、生活の維持・向上、働きがいの観点から、平均賃上げ方式として1万5,500円、一時金については年間5カ月を要求した結果、賃金は1万1,000円(妥結率4.04%)、一時金は年間3.1カ月での妥結となった。
モニターは要求の組み立てに際し、連合や上部団体である運輸労連の方針をふまえ、①賃金は、定期昇給相当分に加え物価上昇への対応も含め、引き上げに取り組む②一時金は、生活費の補てんと成果配分との位置付けをもって、要求の実現に取り組む③会社経営諸施策に対しては、働きがいや希望の持てる職場づくりに向け、会社対応にあたる――の3点を組合のスタンスにしたとしている。
妥結結果については、「2023年、2024年に続き継続した賃上げが実現できた。また、賃金の配分においては組合主張をふまえ、全体に行き渡る賃金配分を確認することができた」と評価している。