高水準の賃上げ要求を掲げ、規模間格差是正分を上乗せする産別も
 ――【産別労組】2025春闘の賃金・一時金の要求・回答状況など

ビジネス・レーバー・モニター定例調査

JILPTはこのほど、「ビジネス・レーバー・モニター」を委嘱している産別労組・単組に対し、2025春闘での賃金・一時金の要求・回答状況などについて尋ねた。産別労組モニターでは、多くの組合が、物価上昇に伴う影響や「人への投資」の観点から高水準の賃上げ要求方針を掲げ、規模間格差是正分を上乗せする産別も多くみられた。妥結結果では、加盟組合が要求額を上回る回答や要求水準に近い回答を獲得した産別がある一方で、JEC連合やゴム連合からは規模間格差がさらに拡大しているとの報告があった。

今回の調査では、産別労組モニターには、①2025年の春季労使交渉での要求の柱と妥結・合意した賃上げ結果・労働条件改定の内容②中小組合の賃上げに関する回答結果とそれに対する評価③賃金・その他の労働条件改定以外で交渉・協議した特徴的なテーマ――の3点について尋ね、単組モニターには上記の①と③について尋ねた。

本稿では産別労組の回答結果を紹介し、単組の回答結果については本号の別記事で紹介する。

調査期間は2025年3月24日~4月25日。調査票を産別労組には24組織、単組には27組織に配布し、産別では10組織、単組では11組織から回答を得た(産別の「電機連合」のみ5月に回答を取得)。なお、単組はほとんどを大手組合で占めている。

■電機連合

賃金の水準改善平均額は1万3,508円、集約組合の約9割が1万円以上の回答に

産別の回答結果をみると、電機メーカーなどの労組で構成する電機連合(組合員56万3,000人)は、今次交渉での要求内容として、賃金については「開発・設計職基幹労働者」の個別賃金での1万7,000円以上の改善、産業別最低賃金(18歳見合い)では20万円以上(プラス1万5,500円)への引き上げ、初任給では高卒20万円以上、大卒26万3,000円以上(ともにプラス1万3,000円)への引き上げ、一時金では平均で年間5カ月分を中心とし、「産別ミニマム基準」として年間4カ月分を確保すること、を掲げた。

5月12日時点の回答状況をみると、539組合のうち集約・集約方向にあるのは402組合(約75%)。そのうち水準改善を実施したのは365組合(集約組合中90.8%)で、ベア方式をとる242組合における水準改善の平均額は1万3,508円となっている。モニターはこうした回答結果について、「集約組合の約9割で1万円以上の回答を得ており、波及が広がっている」と評価している。

昨年を上回る賃上げを獲得した中小組合が増加

中小組合の回答については、「先行する中闘組合・拡大中闘組合の闘争結果が中堅・中小組合にも波及しており、昨年を上回る賃上げを獲得した組合が増加している。現状、規模間での大きな格差はみられないが、経営・業績状況などによる業種・業態間での差は一部みられた」とコメントしている。

そのほかの労働条件改定では、①36協定特別条項の限度時間の年間640時間以下への引き下げに向けた労使協議の実施②仕事と育児・介護との両立支援に関して、法改正を契機とした制度のさらなる充実化(特に子の看護等休暇の取得事由について法を上回る対応を求める)③誰もが活躍できる職場環境の実現に向けて「リスキリングを含むキャリア形成支援の取り組み」「ジェンダー平等の実現」「60歳以降の雇用安定・処遇改善に向けた取り組み」などを実施――に取り組んだ。

賃金やその他の労働条件改定以外で交渉・協議した特徴的なテーマを尋ねると、「昨年に引き続き、付加価値の適正循環の取り組みを推進した」と報告。具体的には、加盟組合に対する価格転嫁の状況などに関するフォローアップ調査を実施し、その結果もふまえて産別労使交渉で経営側と論議を行ったとした。

■JEC連合

「4%以上」のベア、賃金全体では「6%以上」を要求に掲げる

化学・エネルギー関連の労組で構成するJEC連合(同12万5,000人)は、要求内容として、社会全体の賃金の底上げを行う観点から定期昇給相当分(JEC連合では約2%)の確保を大前提とし、平均所定内賃金の「4%以上」のベースアップを掲げた。賃金全体では「6%以上」となる。

加えてJEC連合全体の底上げの取り組みとして、「ミニマム水準(第1四分位)」に到達していない組合について、その水準の到達に必要な額を加えた総額(賃金全体6%+格差是正分)で要求。賃金実態がわからない組合については、格差是正分として目安からさらに1%を上乗せ(賃金全体7%以上)して要求するとした。

定期昇給制度を持たない組合については、JEC連合の2024年賃金労働条件実態調査結果をふまえて、定期昇給相当分5,500円と、賃上げ要求分1万3,000円を合わせた「1万8,500円以上」で要求することとした。

300人未満の組合の賃上げ率が300人以上の組合を約1ポイント下回る

中小組合の賃上げ回答結果とそれに対する評価については、300人未満組合の賃上げ率は加重平均で3.75%であるのに対し、300人以上組合の賃上げ率は加重平均で4.67%と、300人未満組合のほうが約1ポイント下回っていると報告。モニターは「大手と中小で大きな格差がある」と指摘し、中小組合の交渉の進行具合次第で「全体では4%をやや下回る率で着地するのではないか」としている。

労働条件改定以外の特徴的な交渉・協議項目としては、価格転嫁の取り組みをあげた。

■ゴム連合

継続的な賃金の改善によって生活への不安感を払拭する必要がある

タイヤ、履き物、工業用品などの業種の労組が加盟するゴム連合(同4万4,000人)は、2025年交渉にあたっての基本的なスタンスとして、「2025春季生活改善の取り組みでは不確実性が与える自社への影響を注視し、置かれた環境を正しく認識した上で、ゴム産業で働くすべての労働者の労働条件改善を力強く推し進める」と掲げた。

各社で状況は違うものの、全組合員が物価上昇の影響を受けていることから、「安心した生活を送るためには、継続的な月例賃金の改善によって、今後の生活に対する不安感を払しょくする必要がある」として、賃上げの流れを継続していく考えを明確にした。

また、産業の魅力向上のために会社の将来像や組合員の目指すべき賃金水準・望ましい労働環境などを労使で共有し、人への投資によって企業の収益と分配の好循環が持続的・安定的に実現するための取り組みを進めることなどを方針として整理している。

賃金の底上げ・改善に向けて「目指すべき賃金水準」を設定

賃金については「定期昇給・賃金カーブ維持分の確保を前提」とし、賃金の底上げや改善に向けて「『目指すべき賃金水準』を設定し、自社の賃金課題を明確にした上で目標への到達と課題の改善に取り組む」と明示。特に「物価上昇による組合員の生活に対する影響を鑑み、実質賃金低下に対する生活防衛の観点から、ゴム連合全体の底上げを目指す」とした。

要求方式は「自社の賃金水準の位置づけを把握し、名目賃金の絶対額を意識した取り組みとするため」に個別賃金方式を採用しつつ、全体像を捉える目的で平均賃上げ額も表示するとした。

こうした観点をふまえ、具体的な要求項目としては、①定期昇給・カーブ維持分確保に加えて1万円以上の賃金改善と、一部単組(35歳標準者モデルの所定内賃金額が28万円以下の単組)では格差是正を意識した1万2,000円以上の賃金改善②目指すべき賃金水準の設定③賃金課題の明確化と底上げ・賃金改善の計画的な実施――の3点を設定。

一時金については、「安定した生活を送る上で欠かすことのできない重要な位置付けであること、まとまった収入が消費に繋がり経済の回復に寄与することを認識し、自社の業績や今後の動向も踏まえ水準の維持・向上に向けて取り組む」との考え方のもと、具体的な項目では①昨年実績を基に水準の維持・向上②業績低迷や企業存続への取り組みを継続している場合には生活防衛を勘案すること③春年間方式を基本とすること――の3点を掲げた。

4月1日時点での妥結額の加重平均は1万6,122円(5.14%)

4月1日時点の妥結結果をみると、賃金については加盟する51組合のうち、要求書提出済みが48組合(確認中が3組合)。そのうち妥結および妥結方向となっているのは36組合(75%)。金額が明確な34組合についての要求額は加重平均で1万6,088円(5.13%)で、それに対し、妥結額は1万6,122円(5.14%)となっており、要求額をやや上回る水準となっている。

格差是正分を要求した中小労組はなく「規模間格差はさらに拡大」との見方

中小組合の賃上げ回答結果とそれに対する評価については、300人未満組合における妥結額(平均賃金方式、25単組の加重平均)は1万130円(3.69%)、うち底上げ改善分は6,649円(2.42%)となっている。ゴム労連は「ここ数年のとりくみによって産業間、産業内における格差が拡大している」との認識から、「さらなる拡大防止とゴム産業で働くことへの魅力を上げる観点」で上記の要求を組んだが、3月末までに「方針で示した1万2,000円の要求を行った単組はなく」、「ゴム連合内における規模間格差はさらに拡大している」との見方を示している。

一時金については32組合(73%)で妥結しており、金額が明確な29組合(春年間妥結)における要求額は加重平均で169万1,334円(5.27カ月)だったのに対し、妥結額は169万1,354円(5.27カ月)となっている。

働き方に関しても、①ワーク・ライフ・バランスの推進②ジェンダー平等・多様性③非正規雇用労働者の労働条件改善④法改正への対応――の4項目について取り組み、「時差出勤制度の導入」「交替勤務手当増額」「契約・シニア社員の一律時給額の50円増」「個人計画年休の4日から6日への拡大」などを獲得した加盟組合があったと報告した。

労働条件改定以外では、「価格転嫁への流れを促進すべく、受注・発注企業との取引状況に関して、可能な限り労使で確認ができるよう、情報提供などを行う」ことも掲げ、価格転嫁の推進状況を把握するためのアンケート調査を春の取り組み期間中に2回実施したことを報告した。

■紙パ連合

産業間格差是正分として4,000円以上を要求に加える

紙パルプ・紙加工産業の労組で構成する紙パ連合(同2万5,000人)は、賃上げについて「底上げ」「底支え」「格差是正」の実現に取り組むことが重要などの考えのもと、2025春闘での具体的要求についてまず、「すべての組合は賃金カーブ維持分を確保した上で、実質賃金の維持・向上に向けて賃上げに取り組むこととし、賃上げの範囲は月例賃金の改善を念頭に置き所定内賃金とする」と掲げた。

そのうえで、賃上げ分として1万3,000円以上(賃上げ9,000円以上+産業間格差是正分4,000円以上)およびSグループ組合(300人未満規模の組合)は加えて産業内格差是正分1,500円以上に取り組むこととした。なお、賃上げ9,000円以上は、連合加盟組合平均賃金水準(約30万円)における、連合方針での賃上げ分3%に相当する額を参考とした。産業間格差是正分については、連合と紙パ連合における2024年賃上げ額の差(3,942円)、Sグループ組合の産業内格差是正分は、紙パ連合全体とSグループ組合の2024年賃上げ額の差(1,560円)を参考にしている。

一時金については、生活給の一部として月例賃金を補完することを基本に月数要求とするなどの考えのもと、年間集約要求の場合は基準とする賃金の5.0カ月を中心、期毎要求の場合は基準とする賃金の2.5カ月を中心とすることを掲げている。

3月末時点で賃金要求済み組合の約3割が賃上げを獲得

3月31日時点の回答状況では、62組合(72.1%)が賃金要求を行い、うち26組合(30.2%)が賃上げ回答を獲得。労務構成、平均所定内賃金、定期昇給額が明らかな25組合・1万8,436人における要求額は加重平均で1万7,163円(5.53%)となっているのに対し、回答額は1万5,038円(4.84%)となっている。

中小組合の賃上げ回答結果とそれに対する評価については、3月31日時点の回答状況をみると、300人未満組合の平均回答額は加重平均で1万1,892円(4.89%)となっており、300人以上組合の平均回答額である1万5,232円(4.84%)と比べて、回答額は3,340円下回ったものの、賃上げ率は0.05ポイント上回った。

300人未満組合と300人以上組合それぞれの同時期における対前年比をみると、300人未満組合は2,812円増(1.18ポイント増)、300人以上組合は3,642円増(1.05ポイント増)となっており、依然として金額差はあるものの、賃上げ率の上昇幅は300人未満組合のほうが高くなっている。

一時金は49組合のうち25組合(年間集約要求22組合、期毎要求3組合)が妥結しており、労務構成、平均所定内賃金が明確な年間集約22組合・1万8,231人における要求月数は5.02カ月で、回答月数は4.71カ月となっている。

そのほか、紙パ連合では「定年延長、70歳までの雇用機会確保の取り組みの推進」「豊かな生活時間の確保とあるべき労働時間の実現の取り組み」「すべての労働者の雇用安定に向けた取り組み」「ジェンダー平等・多様性推進の取り組み」の4項目を要求基準として設定。3月31日時点で「定年延長」や「年間休日増」などを獲得した組合が一定数あったと報告した。

■印刷労連

賃上げ分3%以上を基準に賃金カーブ維持分含め5%以上を掲げる

印刷・情報・メディア産業の労組で構成する印刷労連(同2万1,000人)は、「印刷産業全体の『底上げ』『底支え』『格差是正』に寄与する『賃金水準追求』の取り組みを強化しつつ、すべての働く人の生活を持続的に維持・向上させる転換点とする」観点から、賃上げ分は3%以上を基準、賃金カーブ維持分を含め5%以上とする要求目標を掲げた。

賃金実態が把握できないなどの事情がある場合は、格差是正分1%以上を加え、6%以上とし、金額としては1万8,000円以上(賃金カーブ維持分4,500円+格差是正含む賃上げ分1万3,500円以上)を目安としている。

■セラミックス連合

「昨年同等もしくは昨年以上の賃金引き上げが行われている」と評価

セラミックス産業の労組で構成するセラミックス連合(同1万9,000人)は、交渉の状況と評価について、「高騰する物価への対応・人材確保の観点から、昨年同等もしくは昨年以上の賃金引き上げが行われている。労使ともに取り巻く情勢・課題を共有し、解決に向けて粘り強く交渉した結果と捉えている」と回答した。

4月25日時点の要求・回答状況をみると、賃金要求を行った41組合の要求額は単純平均で1万4,786円(5.61%)と、対前年比1,885円増(0.5ポイント増)、そのうち賃金改善分要求を行った34組合の要求額は1万1,436円(4.17%)で、対前年比1,745円増(0.45ポイント増)となっている。

回答があった34組合の回答額は単純平均で1万4,315円(5.17%)で、対前年比2,443円増(0.53ポイント増)、そのうち賃金改善分回答があった29組合の回答額は1万1,544円(4.10%)で、対前年比2,694円増(0.7ポイント増)となった。

300人未満が「賃上げ率でみると規模計を上回る結果」に

中小組合の賃上げについては、2024春闘で開いた格差を是正するため、産別方針としてプラス1%の賃金改善を掲げており、モニターは「特に地方では人材流出が喫緊の課題であり、初任給を引き上げる企業が増加している」と説明する。

4月25日時点の回答状況をみると、300人未満組合(21組合)の単純平均での回答額は1万4,004円(5.33%)で対前年比3,008円増(0.81ポイント増)、賃金改善分の回答があった16組合でみると1万2,332円(4.60%)で対前年比3,816円増(1.15ポイント増)となっており、「賃上げ率でみると規模計を上回る結果」となっている。

そのほかでは、「改正育児・介護休業法への対応」や「価格転嫁・適正取引の推進」について交渉・協議項目とした。

■運輸労連

他産業より低い賃金水準が「人財」流出に拍車との危機意識

トラック運輸などの輸送分野の労組を組織する運輸労連(同15万8,000人)は、産業を取り巻く状況として、燃油費や物価の上昇が企業収益を圧迫しているほか、総労働時間の短縮が図られているものの依然として他産業より低い賃金水準が「人財」流出に拍車をかけていると整理。組合員の生活を守り、若者や女性から選ばれる産業へと持続的に発展していくために「『人への投資』を重視した労働条件へと改善することが必要」として、月例賃金の引き上げにこだわるなどの考えを示している。

そのうえで、ヤマ場の交渉にあたって、①賃金の引き上げについては、物価上昇に負けない賃上げを実現するために定期昇給(相当)を含めた前年実績を上回る水準を確保するとともに、可能な組合はさらなる上積みを求める②一時金については、前年実績の確保を目指すとともに、可能な組合はさらなる引き上げを求める③労働時間管理への対応をはじめ人財確保に向けた総合生活改善闘争として、「その他要求」の実現をめざす――の3点を申し合わせた。

具体的な要求内容は、賃上げについては1万5,500円中心(6%)とし、一時金については年間一括で130万円以上(5カ月以上)、夏季のみでは65万円以上(2.5カ月以上)と設定した。

一部の組合で物価上昇に負けない賃金の引き上げを勝ち取る

中小組合については、中小組合における回答のヤマ場前の回答であると断りながら、大手・先行組合のヤマ場交渉を終えた評価として、「国民の暮らしと経済・社会を支えようと日々奮闘する組合員の生活維持・向上を図り、『他産業との格差是正』『人財確保』につなげるため、『月例賃金の引き上げ』に向けて全力を尽くし交渉を行った結果、一部の組合では物価上昇に負けない賃金の引き上げなど、多くの組合で前年を上回る賃金の引き上げ、一時金、その他要求において成果を勝ち取ることができた」と説明。中小組合においても「底上げ・底支え」「格差是正」に向けて取り組む姿勢を示した。

企業への適切な価格転嫁・適正取引を促すことなどを加盟組合に訴える

賃金・その他の労働条件改定以外で交渉・協議した特徴的なテーマについては、業界で適正運賃の収受と価格転嫁ができていないことを課題視し、加盟組合に対して①「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の周知強化と浸透に取り組む。自社の取り組み状況を点検して適切な価格転嫁・適正取引を促す。発注側の立場からも指針に沿って適切な企業行動を促す②労働組合の立場から「パートナーシップ構築宣言」のさらなる拡大と実効性強化に取り組み、指針などの対応状況についても把握して社内・取引先企業への周知を企業に求める③構成組織は、加盟組合の取り組み状況や課題を把握し、組織内外の情報・意見交換などに活用したり、自主行動計画・業種ガイドラインの改訂・新設などを働きかける――の3点の取り組みを徹底することを訴えた。

■生保労連

「営業支援策の充実」「賃金改善」などを統一取り組み課題に設定

生命保険会社の労組を束ねる生保労連(同22万7,000人)は、全組合が統一して取り組む「統一取組み課題」を設定し、統一闘争を進めている。

2025春闘の統一取り組み課題として、水準・施策面では「営業支援策の充実」「賃金改善」を掲げ、制度・運用面では「営業職員体制の発展・強化の取り組み」「人事・賃金制度に関する取り組み」を提げた。そのうえで、賃金改善の機運を産業全体でさらに高めていく必要があるとの認識の下、統一要求基準を決定した。

営業職員関係(比例給職種)では、営業職員が募集活動を中心とした活動量を確保して生産性を高められる環境を整備することで、営業活動に専心して取り組むことができるよう、「『営業支援策の充実』と『賃金改善』により『実質的な収入の向上』を図る」とした。特に「営業支援策の充実」は最重要課題と位置付け、これまでに導入された営業支援策の実効性・利便性向上に向けて取り組むとした。

内勤職員関係(固定給職種)では、組合員が安心して暮らし働き続けられることや、モチベーション・働きがいのさらなる向上を図るため、「月例給与で取り組む場合は5%以上、年間総収入ベースでは3%程度」を引き上げ率の目安として示し、28年ぶりに水準を明示したうえで、「年間総収入の向上」を統一要求基準として掲げた。

営業職員では「営業支援策」や固定的手当の増額を引き出す

4月9日時点での回答に対する評価としては、「労使で産業を取り巻く課題認識を共有したうえで、賃金、営業活動支援等、広く『人への投資』や組合員の生活の安定・向上につながる前向きな対応を引き出している」としている。

営業職員関係では、「商品ラインアップの拡充等の施策・支援を中心とした『営業支援策』や、固定的手当の増額等の『賃金改善』に関する回答を引き出し、営業職員の実質的な収入の向上という点で前進が図られている」と評価。内勤職員関係については、「月例給与のベースアップや初任給の引き上げ、臨時給与の会社業績係数の引き上げや特別一時金の支給等、『年間総収入の向上』につながる回答を引き出している」とコメントしている。

「経営の健全性向上」などの主体的取り組み課題を設定

このほかでは、各組合の課題認識に基づき取り組む「主体的取組み課題」として、①経営の健全性向上の取り組み②誰もが安心と働きがい・生きがいをもてる職場の実現に向けた取り組み③ダイバーシティ&インクルージョンに関する取り組み――を設定。

また、総労働時間の短縮と生活時間の充実に向けて、「業務削減・効率化に向けた取り組みの強化やシニア職員の活躍促進に向けた特別休暇の新設」や、両立支援制度の拡充・活用促進に向けて、「育児・介護等による休職者へのサポートに対する手当の新設や短時間勤務制度の利用対象者の拡大、子の看護等休暇に関する取得事由・利用対象者の拡大」などを引き出した組合があったと報告した。

■日建協

あるべき賃金水準の実現に向け、加盟組合間で連帯

建設産業の労組で組織する日建協(同3万9,000人)は要求基準で、全加盟組合が「建設産業が『魅力ある産業』になるために、あるべき賃金水準の実現にむけ、加盟組合間で連帯して賃金水準の維持・向上に取り組む」と掲げた。

そのうえで、月例賃金については、組合員の堅実な生活基盤の確保や生活の将来性と充実感の向上を目指し、組合員が生産性の向上などの働き方改革の成果を享受するために、引き続き向上に取り組むとした。

一時金については、組合員の勤労意欲向上や豊かな生活水準の確保のために、「昨年実績以上の水準を目指す」とし、一時金水準の継続的な向上に向けて計画的に取り組むこともあわせて掲げた。

初任給も要求基準の項目に盛り込む

初任給も要求基準の項目に盛り込んでおり、「初任給の高さが魅力ある産業であることを示す指標のひとつとなり、優秀な人材確保へつながる」「初任給の引き上げによって他の階層のベースアップへ波及することも期待できる」として、継続的な人材確保のために、各組合が目指すべき個別賃金水準のラインを定め、その実現に向けて計画的に賃金水準の維持・向上に取り組むこととした。

このほかでは、加盟組合のなかで「育児・介護休業法の改正に伴う対応」や「単身赴任者の帰宅旅費や独身者の帰省旅費の回数増額」を要求する組合が多くみられているとしている。

■全建総連

建設キャリアアップシステムに基づくレベル別年収の実現を目指す

大工・左官などの建設業に従事する労働者・職人、一人親方などが加入する全建総連(同57万1,000人)は、国土交通省が公表した公共工事設計労務単価や、建設キャリアアップシステム(CCUS、技能者の保有資格・社会保険の加入状況や現場の就業履歴などを業界横断的に登録・蓄積して活用する仕組み)に基づくレベル別年収等の水準を実現することを目指すとともに、各地域の組合で要求賃金などを設定し、地域業界団体、企業、行政などへ申し入れなどを実施するとしている。

中小組合の賃上げ回答結果とそれに対する評価については、「建設業の下請業者、小規模事業者は、価格交渉・転嫁が思うように進まず、非常に厳しい状況が続いている」としている。

「担い手3法」の改正を受けて賃上げにつなげるための施策を実施

このほかの特徴的な交渉・協議テーマとしては、これまでも建設工事の適正な施工および品質の確保と、その担い手の確保のため、一体として改正されてきた担い手3法(「建設業法」「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」「公共工事の品質確保の促進に関する法律」)が新たに「第三次・担い手3法」として2024年6月19日から2025年4月1日までにそれぞれ改正されたことから、「現場従事者の賃上げにつなげていくための具体的施策の実施」に取り組んでいると報告した。