【東海】(OKB総研)
賃上げへの関心は昨年より高まる一方、中小・零細企業への波及は厳しいとの見方も
地域シンクタンク・モニター定例調査
2024年10~12月期の東海地域の経済は、生産活動が幅広い業種で前期を上回ったほか、設備投資計画は製造業・非製造業ともに増加の見込みで、個人消費も緩やかに持ち直しており、モニターであるOKB総研は【やや好転】と判断した。1~3月期の見通しは、個人消費は緩やかな持ち直しが続いているものの、景況判断の動きなどをもとに【横ばい】とした。雇用動向の10~12月期実績は、有効求人倍率と新規求人数の動きをもとに【横ばい】。1~3月期見通しも人手不足感にほとんど動きがないことから【横ばい】と判断している。モニターが実施した調査によると、企業の賃上げへの関心は2024年よりも高まっているが、中小・零細企業への波及は厳しいとの見方もある。
<経済動向>
輸出と生産が持ち直し、設備投資も増加
10~12月期の経済動向からみると、生産は緩やかに持ち直し、当期の鉱工業生産指数は前期比プラス3.4%で、2期ぶりに前期を上回った。電子部品・デバイス工業は前期を下回ったが、生産用機械工業、汎用機械工業、輸送機械工業、業務用機械工業、電気機械工業は前期を上回った。
東海財務局の法人企業統計調査によれば、東海4県(静岡県含む)の当期の設備投資額は8四半期連続で前年同期を上回った。業種別にみても、製造業、非製造業ともに前年同期を上回っている。日銀短観(12月調査)での2024年度の設備投資額(計画)をみると、製造業・非製造業ともに増加の見込みとなっている。
個人消費は緩やかに持ち直した。中部経済産業局管内5県(愛知県、岐阜県、三重県、富山県、石川県)の当期の販売額をみると、百貨店(前年同期比マイナス1.7%)が落ち込んだものの、ドラッグストア(同プラス6.7%)、ホームセンター(同プラス2.3%)、コンビニエンスストア(同プラス2.2%)、スーパーマーケット(同プラス1.5%)、家電大型専門店(同プラス0.3%)は前年同期を上回った。
輸出をみると、名古屋税関管内の輸出通関額は10月が前年同月比マイナス3.6%、11月が同マイナス1.7%、12月が同プラス4.0%と推移した。
モニターは「物価高や円安に伴う資材価格の高騰、人手不足などの影響がみられたものの、輸出および生産は持ち直し、設備投資も増加が続いており、景気は総じて緩やかに持ち直した」として、10~12月期の地域経済を【やや好転】と判断した。
景況指数では中小企業を中心に悪化の兆し
1~3月期について、個人消費をみると、中部経済産業局管内5県の大型小売店販売額(1月)の前年同月比は、ホームセンターがマイナスとなったものの、百貨店、スーパーマーケット、ドラッグストア、コンビニエンスストア、家電大型専門店はいずれもプラスとなった。
モニターが作成する「OKB景況指数(3月期)」をみると、景気水準はマイナス8.7で前期(12月)から4.3ポイント悪化している。悪化は4期連続。
東海財務局「法人企業景気予測調査」では、景況判断BSIはマイナス5.1で、5期連続の「下降」超となっている。企業規模別では大企業が4期連続の「上昇」超、中堅企業が2期連続の「下降」超、中小企業が5期連続の「下降」超となっている。業種別では製造業・非製造業ともに「下降」超となった。
OKB景況指数の生産活動はマイナス2.1で、前期から3.0ポイント低下している。低下は2期ぶり。
1月の鉱工業生産指数は110.6で前月比3.7%上昇した。上昇は2カ月連続。輸送機械工業が同6.8%上昇、生産用機械工業が同4.5%上昇となった一方、電子部品・デバイス工業は同15.4%低下となっている。
輸出をみると、名古屋税関管内の輸出通関額は1月が前年同月比プラス2.6%となっている。
モニターは、景況指数では中小企業を中心に景気悪化の兆しがうかがえるとしつつも、個別指標では個人消費は緩やかに持ち直し、設備投資と輸出はともに増加傾向が続いていることから、「総じて、景気の持ち直しの動きは緩やかながら続いている」として、1~3月期の見通しを【横ばい】と判断した。
<雇用動向>
雇用情勢の改善ペースは緩やか
雇用の実績(10~12月期)について、有効求人倍率をみると当期は1.25倍で、前期(1.24倍)から横ばい。新規求人数は、10月が前年同月比マイナス0.8%、11月が同マイナス2.3%、12月が同マイナス9.2%と、12月に大きく減少した。
モニターはこれらの動きをふまえ、「企業の人手不足感が続くなか、雇用情勢は改善の動きが続いているが、そのペースは緩やか」として、判断を【横ばい】とした。
従業員の「不足気味」超の幅は横ばい
東海財務局「法人企業景気予測調査」によると、3月末時点の従業員数判断BSIは35.5の「不足気味」超で、12月末(34.5)から横ばいの状況。規模別、業種別のいずれも「不足気味」超となっている。
モニター作成の「OKB景況指数(3月期)」をみても、雇用は70.5の大幅な「不足」超の状況で、前期(71.6)から横ばいとなっている。
有効求人倍率は1月が1.26倍(前月比プラス0.01ポイント)で、横ばいでの推移が続いている。
モニターはこうした動きをふまえて、1~3月期の見通しについても【横ばい】と判断した。
ベースアップは建設業、輸送用機械、運送業が積極的
モニターがOKB大垣共立銀行の支店長および法人営業部担当者に対して2月に実施した調査によると、賃上げへの関心は昨年同時期に比べ「高まっている」または「やや高まっている」が81.9%で、2025年春のベースアップの実施見込みは、「少数のみ実施」が43.5%となった。
また、ベースアップに特に積極的な業種(複数回答)を尋ねたところ、「建設業」(48.2%)が最も割合が高く、次いで「輸送用機械器具製造業」(36.5%)、「運送業(物流・倉庫)」(34.1%)となった。
前回2024年調査と比較すると、企業の賃上げへの関心が一層高まっており、特に愛知県では「高まっている」との回答が前回の26.7%から45.0%へと大きく上昇している。
2024年度のベースアップ実施状況については、「多くが実施」との回答が29.0%で前回(8.2%)から上昇したほか、「半分くらいが実施」との回答も29.7%で前回(19.0%)から上昇しており、企業の賃上げ実施の広がりがみられた。
モニターは「賃上げの流れが定着しつつあるとの見方もあるが、中小・零細企業への波及については厳しい見方もある」とコメントしている。