【宮城】(七十七リサーチ&コンサルティング)
半導体関連の生産活動が好調の反面、トランプ政権の通商政策への懸念も
地域シンクタンク・モニター定例調査
宮城県の2024年10~12月期の経済動向は、生産活動で持ち直しの動きがあるものの、住宅投資が弱めの動きとなっているほか、小売も年末商戦が伸び悩んだことから、モニターである七十七リサーチ&コンサルティングは【横ばい】と判断した。1~3月期の見通しも、生産活動は半導体が牽引しているものの、米国トランプ政権の通商政策の影響に懸念があるほか、個人消費はコメの価格高騰や暖房・防寒需要の影響で購買力が低下し、弱含みと見込まれることから【横ばい】とした。雇用については、10~12月期実績は人手不足感が根強いが、新規求人数の減少をふまえて【横ばい】とし、1~3月期見通しも人手不足感の状況をもとに【横ばい】とした。モニターが実施した調査によると、2025年度に賃上げ実施予定の企業割合は、前年同時期の調査から約6ポイント低下している。
<経済動向>
物価高や慢性的な人手不足で足踏み
モニターは10~12月期の地域経済について、「物価高や慢性的な人手不足に加え、下支えしてきた雇用や個人消費に弱さがみられ、全体として足踏みしている」として【横ばい】と判断した。
判断理由を詳しくみていくと、生産は、基調としては持ち直しがうかがえる動きとなっている。半導体関連で汎用・業務用・生産用機械が前年同期比プラス66.8%で大幅増となり、窯業・土石では、不振の生コンのマイナスをファインセラミックスが相殺して同プラス5.8%と、堅調に推移している。
輸送機械は認証不正問題の挽回生産で前期比プラス15.4%となっており、前年同期ではマイナスとなったものの、着実な増産が続いている。なお、製造業の求人は低調な状況だが、所定外労働時間は増加している。
建設需要は、公共投資が大型工事の減少などで前年同期比マイナス16.6%となったほか、請負金額は10~12月期としては過去最低水準となった。
住宅投資は、新設住宅着工戸数が前年同期比プラス7.8%となったものの、これは12月に集中した着工のタイミングによるもので、基調としては弱めの動きとなっている。民間非居住建築物は大型物件が一服して低水準にとどまった。
個人消費をみると、小売6業態の販売額は、単価上昇にもかかわらずコンビニエンスストアとドラッグストアを除く4業態が前年同期を下回り、年末商戦も期待されたほどではなかった。
延べ宿泊者数は、インバウンドが前年同期比プラス23.4%で大幅増、県外客が同マイナス0.1%の横ばいだったが、県内客は同マイナス14.8%と大幅に落ち込むなど、県内の個人消費は弱めの動きが目立っている。
半導体関連が生産活動を牽引
1~3月期の経済動向をみると、生産は、引き続き半導体関連の需要回復が生産用機械や電子部品・デバイス、窯業・土石の一部など関連業種を牽引していくものと見込まれる。
建設需要は、公共投資で老朽化建築物の建て替えなどの潜在的需要があるものの、資材高や人手不足など供給サイドのブレーキにより、低調に推移すると見込まれる。
住宅投資も、建築コスト上昇による販売価格の高騰が需要を冷え込ませ、総じて弱い動きが続くとみられる。民間非居住建築物は、大型の物流施設整備が一服し、商業施設・店舗の新設も頭打ちとなっており、追加の再開発プロジェクトまでは低調に推移する見通し。
個人消費は、賃上げや賞与の増加などが勢いを欠くなか、コメの価格高騰や度重なる寒波による暖房・防寒需要が家計の購買力を低下させ、弱含みで推移すると見込まれる。
モニターが実施した「県内企業動向調査」によると、1~3月期の県内景気のDI見通しは前期比5ポイント低下のマイナス14、自社業界景気のDIは同6ポイント低下のマイナス19となっており、企業の景況感も慎重さが一層増している。
トランプ政権の政策不確実性による自動車や半導体への影響を懸念
米国のトランプ政権による関税引き上げについてモニターは、「政策不確実性が高く、県内からの米国向け輸出は大手メーカーが過半であり、県内経済全体への影響は限定的であるが、自動車や半導体は製造業全体の4分の1を占めるため、波及経路次第では影響が生じる可能性がある」とみている。
そのうえでモニターは1~3月期の見通しについて、「国内外の需要回復を受けて生産などには持ち直しの動きが見通せるものの、物価高と人手不足、海外情勢や先行きの経済支援策に関する不確実性などから、足踏みが続く」とみて、前期同様に【横ばい】と判断した。
<雇用動向>
新規求人数は7四半期連続のマイナス
10~12月期の雇用をみると、有効求人倍率は1.22倍で前期から変化がなかった。
当期の新規求人数は前年同期比マイナス5.8%となっている。産業別にみると、製造業(前年同期比マイナス0.2%)がマイナス幅を縮めたものの、生活関連サービス業・娯楽業(同マイナス20.6%)、卸売・小売業(同マイナス13.2%)、サービス業(同マイナス7.7%)などで大きく減少したほか、残業時間を規制するいわゆる「2024年問題」の対象業種である建設業(同マイナス4.5%)や運輸業(同マイナス6.4%)も前年を下回った。
しかし、「県内企業動向調査」をみると、当期の雇用DIはマイナス41の「不足」超。業種別にみても、製造業がマイナス27、建設業がマイナス49、サービス業がマイナス51でいずれも「不足」超で、「企業の人手不足感は依然として根強い」。
また同調査によると、2024年10月施行の最低賃金の50円引き上げについて、求人姿勢に「影響しない」と回答した企業は59.5%にのぼっているが、モニターは「採用難とあわせて企業の採用意欲に影響している可能性があり、労働市場は厳しさを増している」とみている。
モニターは「新規求人が7四半期連続のマイナスとなるなど、労働需要が弱めの動きとなっており、労働需給はやや弛緩した状況となっている」とコメントしたうえで、10~12月期の雇用動向を【横ばい】と判断した。
人手不足感はやや縮小する見込みだが依然として強い
1~3月期の見通しについては、「半導体関連の需要回復を受けて製造業で新規求人に底打ちがみられる」ものの、「賃金水準が上昇するもとで労働需要は勢いを欠き、引き続き雇用情勢は改善の足取りが重い」とコメントしたうえで、判断を【横ばい】とした。
「県内企業動向調査」によると、1~3月期の雇用DIの見通しはマイナス39の「不足」超で、前期から不足超幅がやや縮小する見込み。ただし、建設業(マイナス54)では不足超幅は拡大しているほか、サービス業(マイナス48)をはじめ非製造業(マイナス41)では不足感が依然として強い見込み。
同調査による「経営上の課題」(複数回答)をみると、非製造業では「人手不足」(59.9%)が最も割合が高いが、「人件費の上昇」(56.9%)も半数を超えているほか、「労働時間の短縮」(33.2%)など労務管理に関する課題が上位を占めている。
価格転嫁を希望額の8割以上実施できた企業は4分の1にとどまる
また、同調査で「2025年度の賃金動向(賃上げ予定)」を尋ねたところ、「昨年以上の賃上げ」「昨年以下の賃上げ」を合わせた「賃上げ実施予定」は34.3%と、前年同期から5.9ポイント低下している。この結果についてモニターは、「賃上げ原資である価格転嫁についても徐々に進められているものの、希望額の8割以上の価格転嫁が実施できた企業は全体の4分の1にとどまっており、物価と賃金の好循環は画餅となりつつある」としている。