【茨城】(常陽産業研究所)
仕入価格上昇の価格転嫁ほど進まない人件費上昇の転嫁

地域シンクタンク・モニター定例調査

茨城県の経済動向は、2024年10~12月期は業況判断に動きがないことから、モニターである常陽産業研究所は【横ばい】とした。1~3月期は、業況判断が製造業・非製造業ともに悪化しているため、【やや悪化】。雇用動向は、新規求人数は減少傾向にあるものの、民間職業紹介での求人は持ち直していることから、10~12月期の実績は【やや好転】とした。1~3月期の見通しも、雇用判断DIの動きをもとに【やや好転】としている。モニターが実施した調査によると、仕入価格上昇の価格転嫁に比べ、人件費上昇の転嫁は進んでいない。また、2024年の最低賃金を「高すぎる」とみる企業が「低すぎる」を上回り、2023年から結果が逆転した。

<経済動向>

非製造業の売上判断DIが7四半期ぶりにプラス水準に

モニターが実施した「県内主要企業の経営動向調査(10~12月期)」によれば、県内企業の景況感をあらわす自社業況総合判断DIは「悪化」超15.0%と、前期からおおむね横ばいだった。業種別にみると、製造業は「悪化」超20.3%で、前期から横ばい。非製造業は「悪化」超11.2%で、約4ポイント低下となっている。

モニターは製造業について「生産・受注が持ち直すなかで、経常利益の改善がみられたものの、海外経済減速の影響やコスト高といった課題が指摘され、総じてみた景況感は、前期から横ばいとなった」とコメント。非製造業については「価格転嫁などを背景に売上判断DIが7期ぶりに『増加』超となったものの、コスト高、消費マインドの低迷などによって経常利益が圧迫され、景況感は低下した」と説明し、10~12月期の地域経済を【横ばい】と判断した。

先行きの業況判断は製造業・非製造業ともに悪化

1~3月期については、自社業況総合判断DIは全産業で「悪化」超18.6%と、10~12月期から約4ポイント低下する見通し。これを業種別にみると、製造業は「悪化」超24.1%で今期から約4ポイント低下。非製造業は「悪化」超14.6%で、約3ポイント低下の見込みとなっている。

モニターは「先行きは、米国トランプ政権の政策を含む海外経済の動向、日本政府による税制や経済政策の行方、金融・為替市場等の動向、国内の物価・賃金の動向、県内企業の価格転嫁の動向などを注視する必要があるだろう」とコメントし、判断を【やや悪化】とした。

仕入価格の上昇を転嫁している企業は7割弱

モニターは昨年12月に県内企業に対して「仕入価格等の上昇に関する企業調査」を実施している。毎年6月と12月に実施しており、今回が7回目。

前年の同時期と比べて仕入価格が「上昇した」企業の割合は71.4%で、前回(2024年6月)調査から2.4ポイント低下した。「上昇した」企業の割合を業種別にみると、製造業では77.2%と同0.7ポイント上昇し、⾮製造業は67.0%で同4.6ポイント低下した。⾮製造業からは「仕⼊価格の上昇は2023年で⼀服した」(家電量販店)など、前年と比較すると仕⼊価格が落ち着いているとの声もあがっている。

こうしたなか、販売価格へ「転嫁している」企業は68.3%で、前回調査から横ばい(0.2ポイント低下)となっている。仕入価格上昇分の価格転嫁率は、「81~100%」が34.7%で最も割合が高いが、「1~20%」との回答も33.3%みられた。

人件費の価格転嫁は4割強にとどまる

また、今回が初調査となる、前年と⽐べた⼈件費の動向は、「上昇した」が76.3%と最も割合が高く、次いで「変わらない」が18.1%、「わからない」が5.6%だった。「低下した」との回答は無かった。

⼈件費が「上昇した」企業における価格転嫁状況・⽅針は、「転嫁している」が42.9%と最も割合が高く、次いで「未転嫁だが、今後は転嫁予定」が30.3%、「わからない」が16.0%、「未転嫁であり、今後も転嫁しない」が10.9%となっている。

⼈件費の販売価格への転嫁企業割合(42.9%)は、仕⼊価格の転嫁企業割合(68.3%)より約25ポイント低くなっており、モニターは「⼈件費は製品・サービスとの関係が⾒えづらいため、仕⼊価格等と⽐較して、価格転嫁が受け⼊れられにくいとされている」と指摘した。

<雇用動向>

新規求人数は減少傾向だが、民間職業紹介での求人は持ち直す

10月の雇用動向をみると、有効求人倍率は1.34倍(前月比変化なし)だったのに対して、新規求人倍率は2.01倍(同0.13ポイント低下)と2カ月連続で低下した。

10月の新規求人数は前年同月比マイナス7.8%と、6カ月連続で前年水準を下回った。新規求人数(パートを除く)の内訳を産業別にみると、「学術研究・専門技術サービス業」(前年同月比プラス9.6%)が増加した一方で、「建設業」(同マイナス18.5%)、「製造業」(同マイナス5.9%)、「卸売業・小売業」(同マイナス5.7%)、「医療・福祉」(同マイナス3.5%)、「宿泊業・飲食サービス業」(同マイナス1.9%)、「運輸業・郵便業」(同マイナス0.1%)などが減少した。

ただし、人手不足を背景に県内の広告求人件数は前年水準を上回って推移するなど、民間職業紹介における県内の求人動向は、総じてみれば持ち直している。

雇用保険受給者数は、10月が前年同月比マイナス0.8%で、2カ月ぶりに前年を下回った。

「県内主要企業の経営動向調査結果(10~12月期)」によると、雇用判断DIは「減少」超13.2%と前期からおおむね横ばいだった。業種別にみても、製造業が「減少」超15.5%、非製造業が「減少」超11.5%で、いずれも前期からおおむね横ばいとなっている。

調査に回答した企業からは、「人手の確保に苦労する時期となるため、前倒しで施工を行っている」(建設業)、「働き方改革により残業時間が減少したことに伴い、生産高が減少。人の技術に頼る業務のため、労働生産性を上げるのが困難」(その他非製造業)といった労働力不足感を指摘する声が聞かれた。また、「従業員の資格取得など質の向上を図っている」(建設業)など、従業員のスキルアップを推進している企業もみられた。

こうした動きをもとにモニターは、10~12月期の雇用の実績を【やや好転】と判断した。

先行きは製造業・非製造業ともに改善の見通し

同調査の先行き(1~3月期)をみると、「減少」超8.8%と今期から約4ポイント上昇している。業種別では、製造業が「減少」超11.1%と今期から約4ポイント上昇し、非製造業が「減少」超7.2%で今期から約4ポイント上昇する見通しとなっており、モニターはこの結果をもとに1~3月期の雇用動向を【やや好転】と判断した。

最賃改定を受けて約6割の企業が賃金を引き上げ

モニターは昨年12月に県内企業に対して「最低賃金引き上げの影響に関する企業調査」を実施している。2021年から実施しており、今回が4回目。

それによると、最低賃金の改定を受けて賃金を引き上げた企業は59.1%で、2023年調査から約5ポイント上昇し、過去4回の調査で最も高い割合となった。

改定後の最低賃⾦(1,005円)の捉え方については、「適正だと思う」が77.8%、「高すぎると思う」が12.7%、「低すぎると思う」が9.5%となった。2023年調査と比較すると、「高すぎると思う」が約4ポイント上昇した一方で、「低すぎると思う」は約10ポイント低下した。業種別にみると、「高すぎると思う」は非製造業では7.3%にとどまるが、製造業では20.3%にのぼる。

モニターはこの調査結果について、「近年、物価高や人手不足を背景として、高水準の賃上げ機運が続いている。県内企業には、賃上げの原資を確保する意味でも、収益向上の取り組み、適正な価格転嫁を進めることが⼀層求められるだろう。また、国などによる『年収の壁』対応を含む労働政策・産業政策などの見直しの進展や、価格転嫁などの支援の充実にも期待したい」とコメントしている。