【宮城】(七十七リサーチ&コンサルティング)
住宅ローンの金利上昇による駆け込み需要に期待も、建設費の上昇が足かせ

地域シンクタンク・モニター定例調査

宮城県の7~9月期の経済動向は、生産活動で半導体関連に持ち直しの動きがあるものの、住宅投資が弱めの動きとなっているほか、小売の販売も鈍化していることなどから、モニターである七十七リサーチ&コンサルティングは【横ばい】と判断した。10~12月期の見通しも、住宅ローンの金利上昇による駆け込み需要に期待はあるものの、建設費の上昇が足かせになるとみて【横ばい】の見込み。雇用については、7~9月期実績は人手不足感が強いものの新規求人数の減少をふまえて【横ばい】とし、10~12月期見通しも持ち直しのテンポは緩慢になるとみて【横ばい】とした。モニターが実施した調査によると、昨年の最低賃金50円引き上げの影響は業種で異なる。

<経済動向>

長引く物価高や慢性的な人手不足で足踏み

モニターは7~9月期の地域経済を「長引く物価高や慢性的な人手不足などから、全体として足踏みしている」として【横ばい】と判断した。

判断理由を詳しくみていくと、生産に関しては、輸送機械では自動車の認証不正問題による生産・出荷の停止や自然災害に起因した稼働停止、窯業・土石では建設需要の低迷にともなう生コンの低下がみられた。一方、半導体関連の一部に持ち直しの動きがみられるなど、強弱入り乱れて振れのある動きとなり、全体の基調としては持ち直しがうかがえる動きとなった。

建設需要は、公共投資の回復の足取りが重い。住宅投資は大型マンションなど貸家の一部で動きがあったが、持家や分譲など戸建てが振るわず全体としては弱めの動きとなり、新設住宅着工戸数は前年同期比マイナス1.4%となった。民間非居住建築物では大型物流施設が着工したものの、それを除けば床面積の水準は低調となった。建設投資全般は、コロナ前から3割程度上昇した工事原価や、有効求人倍率が6倍前後の建設技術者などの不足という供給サイドの要因もあり、投資意欲の減退や計画の見直し・先送りがみられる。

個人消費は、落ち着きつつあった物価の上昇幅が、円安や物流コスト・人件費の価格転嫁などで再拡大し、実質賃金が伸び悩んだことなどから家計心理が落ち込み、小売業の販売も鈍化した。

半導体の需要回復が見込まれるが、全体の回復テンポは緩やか

10~12月期の経済動向をみると、生産は、半導体関連の需要回復が見込まれ、半導体製造装置のほか、部品や素材である電子部品・デバイスや窯業・土石の一部で持ち直しが見込まれるが、振れをともなってテンポの緩やかなものになると考えられる。

建設需要は、公共投資で老朽化施設の建て替え需要が見込まれるが、震災復興事業により需要が先食いされた影響などもあり、緩慢なペースになるものとみられる。住宅投資も仙台圏での大型マンションに一服感がみられる。住宅ローンの金利上昇が持家の駆け込み需要につながることも考えられるが、建設費の上昇が足かせとなり、総じて弱い動きが続くとみられる。民間非居住建築物は、いわゆる2024年問題対応の物流施設整備が一服しつつあり、商業施設・店舗の新設も頭打ちとなっており、追加の再開発プロジェクトまでは低調に推移する見通し。

物価上昇を上回る賃上げは難しく、個人消費は当面勢いを欠く見通し

個人消費は、10月に過去最大の最低賃金引き上げ(50円)が実施され、賃上げ機運はあるものの、地元の中小企業で足元の物価上昇を上回る賃上げの実現は難しく、当面は勢いを欠くものと考えられる。

一方、円安基調に戻りつつあるなか、インバウンドは引き続き増勢を維持しており、宿泊や飲食、小売などへの効果は拡大していくとみられる。

こうしたこともふまえて10~12月期の見通しは、「外需の一部に持ち直しがみられるものの、物価高と人手不足が重石となり足踏みが続く」とみて、前期同様に【横ばい】と判断した。

<雇用動向>

新規求人数は前年同期を下回り、第3次産業の主要業種でも減少

7~9月期の雇用をみると、有効求人倍率は1.22倍で前期から0.03ポイント低下した。

当期の新規求人数は前年同期比マイナス9.3%となっている。産業別にみると、製造業(前年同期比マイナス13.4%)、建設業(同マイナス12.5%)など第2次産業で減少したほか、宿泊・飲食サービス業(同マイナス20.0%)、サービス業(同マイナス15.0%)、卸売・小売業(同マイナス10.6%)など第3次産業の主要業種でも減少している。全体では2023年10月以降は前年比マイナスの状況が続いており、「労働需要に減退感がうかがわれる」。

人手不足でも求人数が減るのは賃金上昇が要因か

しかし、企業の人手不足感は依然として根強い。モニター実施の「県内企業動向調査」によると、当期の雇用DIはマイナス38の「不足」超。業種別にみても、製造業がマイナス21、建設業がマイナス40、サービス業がマイナス53でいずれも「不足」超となっている。

こうした人手不足の状況にもかかわらず、新規求人が減少を続けている要因の一つとして、モニターは賃金の上昇をあげている。2024年9月時点の平均求人賃金(宮城労働局調べ)は前年同月比プラス2.5%、前々年同月比プラス5.1%の高い伸びとなっており、「中途採用を諦めて既存雇用に負担がしわ寄せされている状況もうかがわれる」という。

モニターは「労働需要の改善に足踏みがみられる一方、需給のミスマッチなどに起因した人手不足なども企業の活動に影響を与えている」とコメントしたうえで、7~9月期の雇用動向を【横ばい】と判断した。

労働需要改善に向けた動きがあるが、持ち直しテンポは緩やか

10~12月期の見通しについては「外需の持ち直しに基づく生産工場の稼働率向上や、年末にかけての小売や飲食などの季節需要など、労働需要改善に向けた動きがある」としつつも、「新たな求人を躊躇する姿勢もうかがわれ、引き続き雇用情勢は持ち直しのテンポが緩慢なものになる」とコメントしたうえで、判断を【横ばい】とした。

モニター実施の「県内企業動向調査」によると、10~12月期の雇用DIの見通しはマイナス42の「不足」超で、前期から不足超幅が拡大する見込み。製造業(マイナス30)、建設業(マイナス51)、サービス業(マイナス57)のいずれも不足感が一層強まる見込みとなっている。

同調査による「経営上の課題」(複数回答)をみると、非製造業では「人手不足」(54.9%)が最も割合が高いが、「人件費の上昇」(52.9%)も拮抗しており、人手不足のため需要はあるものの、上昇した賃金が求人を抑制している状況がうかがえる。

最賃50円引き上げの影響は業種で異なる

また、同調査で「2024年度の最低賃金の引き上げが求人に与える影響」について尋ねたところ、約6割(59.5%)の企業が「求人には影響しない」と回答している。特に建設業では70.2%を占めるなど、賃金水準にかかわらず人員確保への意欲はあるとしている。一方、卸売業や小売業などでは半数近くが「影響する」と回答している。