【茨城】(常陽産業研究所)
経済は非製造業での人流活発化で改善。慢性的な人手不足は続く

地域シンクタンク・モニター定例調査

茨城県の経済動向は、7~9月期は非製造業が人流の活発化で景況感が改善しており、モニターである常陽産業研究所は【やや好転】とした。10~12月期は、業況判断の動きをもとに【横ばい】。雇用動向は、タイトな労働需給が続いていることから7~9月期の実績は【横ばい】とした。10~12月期の見通しは動向調査の結果をもとに【やや好転】としている。モニターが実施した調査によると、人手不足感は2023年比では若干緩和しているが、それでも慢性的な不足の状況が続いている。

<経済動向>

製造業は仕入価格の上昇が鈍化する一方、海外経済の減速などが下押し要因に

モニターが実施した「県内主要企業の経営動向調査(7~9月期)」によれば、県内企業の景況感をあらわす自社業況総合判断DIは「悪化」超13.3%と、前期から約6ポイント上昇した。業種別にみると、製造業は「悪化」超21.2%で前期から横ばい、非製造業は「悪化」超6.9%で約11ポイント上昇となっている。

モニターは製造業について「仕入価格の上昇率の鈍化などが収益環境の改善につながったとみられるものの、海外経済の減速、人件費を含むコスト高などが下押し要因となり、総じてみると、景況感は前期から横ばいとなった」とコメントし、非製造業については「人流の活発化などを受け景況感が改善した。もっとも、人手不足・人件費の増加が深刻との声や、天候不順・自然災害による需要の減退を指摘する声もあり、先行きについて必ずしも楽観視できる状況にはない」と説明したうえで、7~9月期の地域経済を【やや好転】と判断した。

10~12月期はモノ・サービスの供給制約などが下押しの懸念材料

10~12月期については、自社業況総合判断DIは全産業で「悪化」超11.5%と、7~9月期からおおむね横ばいの見通し。これを業種別にみると、製造業は「悪化」超12.9%で今期から約8ポイント上昇、非製造業は「悪化」超10.4%で約4ポイント低下の見込みとなっている。

モニターは「最低賃金の引き上げなどを背景とした消費マインドの改善が期待される一方で、海外経済の減速、人件費を含むコスト高・価格転嫁難による企業収益の悪化、人手不足によるモノ・サービスの供給制約などが景況感を下押しする懸念がある」とコメントしたうえで、判断を【横ばい】とした。

<雇用動向>

新規求人数は3カ月連続で前年水準を下回る

7月の雇用動向をみると、有効求人倍率は1.31倍(前月比0.03ポイント低下)で、3カ月連続で低下。一方、新規求人倍率は2.11倍(同0.02ポイント上昇)で、2カ月連続で上昇した。

7月の新規求人数は前年同月比マイナス3.1%と、3カ月連続で前年水準を下回った。新規求人数(パートを除く)の内訳を産業別にみると、「宿泊業・飲食サービス業」(前年同月比プラス133.3%)では大幅増となり、「サービス業(他に分類されないもの)」(同プラス6.5%)も増加した一方で、「製造業」(同マイナス11.6%)、「情報通信業」(同マイナス8.2%)、「建設業」(同マイナス6.8%)、「運輸業・郵便業」(同マイナス7.6%)などでは減少した。

雇用保険受給者数は7月が前年同月比プラス4.6%で、2カ月ぶりに前年を上回った。一方、民間職業紹介における県内の求人動向をみると、正社員は増加傾向、アルバイト・パートは緩やかな減少傾向にあり、「総じてみれば持ち直している」。

人手不足は生産に影響するほど深刻との声も

「県内主要企業の経営動向調査結果(7~9月期)」によると、雇用判断DIは「減少」超11.5%と前期から約9ポイント低下。業種別にみると、製造業は「減少」超13.8%で前期から約14ポイント低下した。非製造業も「減少」超9.6%で前期から約5ポイント低下している。

調査に回答した企業からは、「受注が増加しているが、人材難のため対応できない」(建築業)など、人手不足が生産に影響するほど深刻という声や、「新卒者の離職率が高い」(運輸・倉庫業)、「Z世代はちょっとしたことで退職してしまう」(建設業)など、若者の雇用の流動化が顕著という声が聞かれた。

こうした動きをもとにモニターは、「ハローワーク経由の求人倍率が弱い動きながら、民間職業紹介の状況などから、労働需給は引き続きタイトな状況とみられる」として7~9月期の雇用の実績を【横ばい】と判断した。

雇用判断は10~12月期では「増加」超が10ポイント以上の上昇に

先の調査で先行き(10~12月期)をみると、雇用判断DIは「増加」超0.5%と今期から約12ポイント上昇している。業種別では、製造業が「増加」超1.1%と今期から約15ポイント上昇、非製造業が0.0%で今期から約10ポイント上昇する見通しとなっており、モニターはこの結果をもとに10~12月期の雇用動向を【やや好転】と判断した。

モニターは昨年9月に県内企業に対して「人手不足に関する企業調査」を実施している。毎年9月に実施しており、今回が6回目。その調査結果によると、県内企業に正社員の充足度について尋ねたところ、「不足」が47.6%で最も多く、「適正」が43.3%、「過剰」が4.8%、「わからない」が3.4%、「その他」が1.0%だった。コロナ禍以前や、経済活動の正常化が進んだ2023年と比べると若干緩和しているものの、依然として5割弱の企業が「不足」としており、慢性的な人手不足が続いている。

また、人手不足による悪い影響を尋ねたところ(複数回答)、「技術・ノウハウの伝承、人材育成が困難」が53.1%で最も割合が高く、次いで「時間外労働の増加、人件費の増加」が50.0%、「受注増加への対応が困難」が47.9%となっている。

モニターは調査結果について、「正社員の不足感は、コロナ禍からの経済回復の落ち着きなどから若干緩和されているが、依然として高い水準にある。少子高齢化や若者の県外流出などを背景とした慢性的な人手不足は、県内企業にとって引き続き大きな課題」とコメントしている。

冬のボーナスを支給する企業割合が5ポイント上昇

モニターは昨年12月に県内企業に対して「冬季賞与に関する企業調査」を実施した。その調査結果によると、冬季賞与の支給状況(総額ベース、前年比)は「横ばい」が42.2%で最も割合が高く、次いで「増加」が32.8%、「減少」が10.4%、「支給しない」が9.9%となっている。「冬季賞与を支給する」企業は85.4%で、2013年以降で過去最高となり、前年(80.2%)からは約5ポイント上昇した。

⽀給する理由を尋ねたところ(複数回答)、「従業員の意欲の維持・向上」(71.2%)が最も割合が高く、次いで「従業員の⽣活の質の維持・向上」(64.4%)、「従業員の貢献・能⼒の評価」(58.9%)などとなっている。

調査に回答した企業からは、「業績が好調なため社員に還元する」(電気機械製造業)、「過去最⾼益に貢献してくれた従業員に報いたい」(輸送⽤機械)といった前向きな声の⼀⽅で、「業績は低調だが、従業員のモチベーション維持、物価⾼からの⽣活防衛のため⽀給する」(化学製造業)、「賞与を⽀給しないとモチベーションの低下や離職に繋がりかねない」(運輸・倉庫)など、業績は厳しいものの、企業努⼒によって⽀給を継続するとの声も寄せられている。

モニターは「物価⾼、また、深刻な⼈⼿不⾜・⼈材難が続くなか、前年までと同様に、既存社員のモチベーションの維持・向上、離職防⽌などを企図して、賞与を⽀給する企業が多くなっている様⼦がうかがえる」とコメントしている。