<企業・業界団体調査 2024年7~9月期の業況実績/2024年10~12月期の業況見通し>
「本曇り」「雨」の割合が前期から3ポイント上昇。原材料やエネルギー価格の上昇によるコスト増が依然として響く。来期は温暖な天候が秋冬物商品販売での足かせに

ビジネス・レーバー・モニター定例調査

JILPTが四半期ごとに実施している「ビジネス・レーバー・モニター調査」によると、2024年第3四半期(7~9月期)の業況実績は前期からやや悪化して、「本曇り」と「雨」を合わせた割合が約3ポイント上昇した。各モニターから寄せられた判断理由をみると、「快晴」「晴れ」の業種ではインバウンド需要が追い風となっている。「うす曇り」「本曇り」の業種からは、原材料やエネルギー価格の上昇によるコスト増が判断要因にあがった。猛暑の影響がコンビニや電機にはプラスとなったが、ホームセンターは伸び悩むなど、明暗が分かれた。次期(2024年10~12月期)の業況見通しは「うす曇り」が6割を超えて、業種による判断のバラツキが小さくなっている。引き続きインバウンド需要が見込まれる一方で、暖かい天候が続いたことで秋冬物商品の販売が鈍くなっている。

調査の趣旨

JILPTでは、企業および業界団体のモニターに対し、四半期ごとに業況の実績と次期の見通しを「快晴」「晴れ」「うす曇り」「本曇り」「雨」の5段階で聞き、企業モニターの回答の平均と業界団体の回答をさらに平均する(端数は四捨五入)ことで各業種の最終的な判断を算出している。そのため、個々の企業、業界団体の業況評価と必ずしも一致しない。

今回は2024年第3四半期(7~9月期)の業況実績と2024年第4四半期(10~12月期)の業況見通しについて調査した。回答は企業と業界団体の計52組織、42業種から得た。

各企業・業界団体モニターの現在の業況

「本曇り」「雨」があわせて26%に

2024年第3四半期の業況実績は、回答があった42業種中、「快晴」が1(業種全体に占める割合は2.4%)、「晴れ」が9(同21.4%)、「うす曇り」が21(同50.0%)、「本曇り」が9(同21.4%)、「雨」が2(同4.8%)()。前回調査の第2四半期と比べると、「晴れ」は約1ポイント低下し、「本曇り」と「雨」を合わせた割合(26.2%)は約3ポイント上昇した。

製造業・非製造業別にみると、「快晴」は製造業ではゼロで、非製造業が1業種。「晴れ」は、製造業で4業種で、非製造業が5業種、「うす曇り」は、製造業で10業種で、非製造業が11業種となっている。これに対し「本曇り」と「雨」の業種は、製造業で合わせて4業種、非製造業で合わせて7業種となっている。

表:前期及び今期の業況実績と業況見通しの概要
画像:表
画像クリックで拡大表示

図:調査開始以来の業況調査結果の推移
画像:図
画像クリックで拡大表示

現在の業況の判断理由

鉄道は大手を中心に運輸収入が増加傾向

今回、「快晴」と判断したのは【鉄道】の1業種のみ。【鉄道】の企業モニターは、交通事業やホテル・リゾート事業を中心に利用者数が回復したことに加え、不動産事業におけるマンション販売の増加や生活サービス事業での需要回復などにより、営業収益・営業利益ともに前年同期比で増収・増益となったことを理由にあげて、「快晴」と判断した。

一方、業界団体モニターは、通勤需要や外出機会の増加、インバウンド需要の拡大を背景に「運輸収入は大手の鉄道会社を中心に引き続き増加傾向」として、「晴れ」を選択。そのため、【鉄道】の総合的な判断は「快晴」となった。

コンビニは猛暑とインバウンド需要が追い風に

「晴れ」と評価した業界は【コンビニ】【百貨店】【自動車販売】【情報サービス】【造船・重機】【食品】【自動車】【金型】【遊戯機器】の9業種。

【コンビニ】は、行楽需要や記録的猛暑の影響もあり、ドリンク類やカウンター商材が好調。一部地域では台風の影響により豪雨が続いたことで来店客数が減少したものの、災害用の備蓄需要としてカップ麺や水の売り上げが増加した。訪日外国人の増加によるインバウンド需要も売り上げに寄与している。

【百貨店】はインバウンドに加えて国内顧客も伸びたことで大幅な増収となり、営業利益が過去最高を記録した。

【自動車販売】は、固定費が増加しているものの、高額車両の販売増による平均販売価格の上昇や生産性の向上が経常利益を押し上げた。

【情報サービス】は、経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」において、売上高がプラスで推移していることを判断理由にあげた。

造船・重機は航空宇宙システム、精密機械・ロボットなどで増収

【造船・重機】は、航空宇宙システム事業や精密機械・ロボット事業などで前年同期比で増収となり、全体でも増収となった。抜本的な防衛力強化という防衛省の方針のもと、航空宇宙システム事業で引き続き需要増が期待される。民間航空機はアメリカのボーイング社でのストライキの影響が懸念されるが、航空旅客需要は2023年度から増加しており、大幅に回復している。

【食品】の業界団体モニターは、「日銀短観」(9月調査)での食品製造業の景況判断DIが、大企業が15(前回調査比マイナス6)、中堅企業が17(同プラス2)、中小企業が10(同マイナス5)と、いずれもプラスを維持していることから「晴れ」とした。企業モニターは、高付加価値型商品の売上増が一巡し、売上高・売上総利益・営業利益は前年同期を下回ったものの、営業利益は高い水準を維持していることから「うす曇り」と判断した。

【自動車】は、認証不正問題への対応による生産停止の影響や一時費用が発生しているものの、前年並みの利益を確保した。

【金型】は、ハードディスク関連の受注が大幅に回復した。

非鉄金属は自動車の生産低調の余波を受ける

「うす曇り」とした21業種では、資源価格の動向や猛暑などが判断要因にあがった。

【非鉄金属】の業界団体モニターによると、金属価格は銅、亜鉛などのベースメタルが前期から下落したものの、高水準で推移。エネルギーコストはやや下がり、収益の圧迫要因が軽減されたため、上流・中流部門は一定の収益を確保している。一方、下流分野では、自動車の生産が低調となったことから、自動車向け関連製品の売り上げが減少した。その他の材料関連では、電気自動車やハイブリッド車向けの需要が底堅く、関連素材の販売は安定しているが「下流分野の本格的な回復にはしばらく時間がかかる見込み」としている。

【商社】は、大手7社のうち4社が前年同期比で減益となった。資源・エネルギーや鋼材価格の下落が影響したという。

【ホームセンター】は、猛暑の影響で園芸用品が伸び悩んだ。ただし、8月以降は地震や台風の発生を受けて、防災用品の売り上げが増加した。

電機は猛暑でエアコンの出荷が好調

【電機】の業界団体モニターは、重電機器について「一般産業向け汎用機器は、電子部品や半導体などの設備投資減少の影響が現れて、輸出、国内出荷ともに前年同期を下回った」と報告。一方、白物家電機器は、猛暑でルームエアコンの出荷が好調だったほか、電気シェーバー、ヘアドライヤーなどの理美容機器も好調に推移したことから、全体では「うす曇り」と判断した。

企業モニターの回答をみると、A社はデジタルシステムやグリーンエネルギーを含めた各事業分野が増収増益で「晴れ」。B社も売上増を理由に「晴れ」と判断した。C社は生成AI関連の商材が好調だったものの、車載電池の国内生産品の需要減がマイナス要因となったことから「うす曇り」とした。

紙パルプは新聞の夕刊廃止が影響

【紙パルプ】は、グラフィック用紙の需要低迷が続くなかで、特に新聞用紙については夕刊の廃止等の影響もあり、マイナス基調が続いている。パッケージング用紙はトレーディングカード向けが好調なほか、医薬品向けも堅調に推移している。衛生用紙はインバウンドの増加などの人流増を背景に、宿泊施設や商業施設向けの業務用を中心に需要が堅調に推移している。

【請負】は、主力サービスである紹介は伸びたものの、コロナ禍やマイナンバー関連の特需終了が想定通りとなったことから、営業利益は前年同期比で減益となった。

求人情報を扱う【その他】は、「大手はおおむね好調だが、中堅紹介事業者では一部に頭打ち感がみられる」と報告。いずれの企業規模でも、求職者確保のコスト上昇が経営を圧迫しているという。

【ホテル】は宿泊が好調で、宴会・レストランの売り上げをカバーしている状況。

これらのほかに「うす曇り」と判断した業種は、【建設】【繊維】【印刷】【石油精製】【硝子】【石膏】【金属製品】【工作機械】【港湾運輸】【水産】【事業所給食】【シルバー産業】【職業紹介】だった。

ゴムは価格転嫁が困難な状況が継続

「本曇り」と判断した9業種は【ゴム】【パン・菓子】【道路貨物】【木材】【専修学校等】【電力】【ガソリンスタンド】【葬祭】【中小企業団体】。

判断理由についてみていくと、【ゴム】では、業界団体モニターが中小企業会員に実施した景況調査において、業況判断・売り上げは前期より若干改善したものの、依然として大幅なマイナスとなっており、経常利益もマイナス幅が拡大している。中小企業からは、「円安分の価格転嫁が引き続き困難」との声が聞かれるとしている。

【パン・菓子】の業界団体モニターは、物価上昇で消費者の生活防衛意識が高まり、節約・低価格志向が強まる一方で、糖類や油脂、包装資材の価格の高止まりに加え、人件費や物流費などの上昇もあり、厳しい経営環境になっていると報告して「うす曇り」と判断。企業モニターは、材料価格、エネルギー価格、人件費が上昇しているほか、売り上げが低調に推移していることから「雨」と判断した。

【道路貨物】は、運賃・料金の水準は改善基調だが、原価上昇の十分な転嫁には至っていないとしている。

【木材】は新設住宅着工戸数の低迷を理由にあげた。

【専修学校等】は、次年度入学者に向けた広報活動に取り組んでいるが、反応が良くないという。

セメントは梅雨や台風の影響で出荷が減少

「雨」と判断した業界は【セメント】【出版】の2業種。

【セメント】は、当期のセメント国内需要が前年同期比マイナス7.3%となった。モニターはその背景について、公共工事が梅雨や台風の影響で出荷が滞ったことに加え、人手不足などによる工期の長期化や、労務単価、建設資材費の上昇により、金額あたりのセメント使用量が低下したことをあげた。民間工事も、梅雨や台風の影響を受けたことに加え、人手不足、建設コスト上昇による設計変更や建設計画の見直しで工事の遅れが生じ、需要が伸び悩んだという。

【出版】は売り上げの減少を理由にあげた。

次期(2024年10~12月)の業況見通し

次期(2024年10~12月)の業況見通しについては、42業種のうち、「快晴」とする業種はゼロとなり、「晴れ」が7業種(業種全体に占める割合は16.7%)、「うす曇り」が26業種(同61.9%)、「本曇り」が7業種(同16.7%)、「雨」が2業種(同4.8%)となっている。

パン・菓子は売り上げの持ち直しを予想

7~9月期から業況の好転を予想したのは、「本曇り」から「うす曇り」に引き上げた【パン・菓子】と【ガソリンスタンド】の2業種。

【パン・菓子】の企業モニターは、10月以降は売り上げがいくらか持ち直すとみている。業界団体モニターによれば、コスト増は今後も中長期的な継続が予想されており、企業努力による吸収の範囲を超えている。そのため、多くのメーカーが2025年1月から一部製品で価格改定を実施することを発表している。

鉄道はインバウンド需要が続くも物価上昇が懸念材料に

一方、悪化を予想したのは、7~9月期の「快晴」から「晴れ」に引き下げた【鉄道】と、「晴れ」から「うす曇り」に引き下げた【自動車販売】【百貨店】【造船・重機】の4業種。

【鉄道】の企業モニターは、移動需要の回復やインバウンド需要の増加により、交通事業、ホテル・リゾート事業、生活サービス事業を中心に良好な事業環境の継続を見込むものの、「工事費の高騰や金利動向等の外部環境の変化は引き続き注視が必要」としている。業界団体モニターは、インバウンド需要の拡大や、秋の行楽シーズンを迎えて外出機会が引き続き増加傾向にあることから、「輸送人員の安定的な推移が予想される」としつつ、物価上昇などを懸念材料にあげた。

【自動車販売】は、販売環境に大きな変化はないものの、在庫の偏在により長期在庫車両が増加しており、それによる借入金の増加傾向を懸念している。

【百貨店】は、10月に暖かい天候が続いたことで、秋冬物の動きが鈍くなっているとした。

【造船・重機】は、海外景気の下振れリスクや日銀の追加利上げに注視が必要としている。

ホームセンターは強盗事件報道の影響で防犯用品が伸びる

今期の判断を継続した業種をみると、【ホームセンター】(うす曇り→うす曇り)は10月の高温で園芸用品や秋冬物商品を中心に不調となった。11月は底冷えする秋らしい天候となったこともあり、暖房用品などの季節商品に動きがあると期待している。また、強盗事件の報道の影響から、全国的に防犯用品で動きがみられた。

【シルバー産業】(うす曇り→うす曇り)では、人材確保が依然として深刻な問題になっている。他産業の賃金が上昇したことによる労働者の流出も発生しており、人員が確保できず需要に対応できない事業者もある。

【事業所給食】(うす曇り→うす曇り)は最低賃金の大幅な引き上げのほか、コメの価格高騰も経営に影を落としている。