組合員からの相談のトップは「賃金などの処遇の水準」「出産・育児と仕事の両立」。会社との重要な協議事項では「正社員の賃金」「初任給」の回答割合が増加
――【単組モニターに聞く】過去3年間での組合員からの主な相談内容と会社との重要な労使協議事項の状況
ビジネス・レーバー・モニター特別調査
JILPTでは、「ビジネス・レーバー・モニター」を産別労組・単組に委嘱し、年2回、さまざまな活動の内容を尋ねている。2024年10月~11月に実施した調査では、単組モニターに対する特別アンケートも盛り込み、この3年間で目立った組合員からの相談内容と、会社との労使協議において重要課題となっている事項について尋ねた(毎年尋ねている今期の運動方針の特徴と活動の重点についての結果は2024年12月号で紹介)。相談内容(複数回答)では、「賃金などの処遇の水準」と「出産・育児と仕事の両立」がそれぞれ55%でトップにあがった。会社との協議で重要課題となった事項(複数回答)では、「正社員の賃金」「初任給」(それぞれ55%)など賃金に関連した項目の回答割合が、2016年に行った同種の調査から増加したのが特徴的となっている。
本アンケートについては、調査票を配付したモニター単組27組織のうち、11組織から回答を得た。調査期間は2024年10月7日~11月1日。相談内容と労使協議事項については、同じような設問を2016年10月28日~11月7日に実施した調査でも設けており、このときの調査では35組織に調査票を配付し、15組織から回答を得た。結果は2017年1月号で紹介している。
<この3年間で目立った組合員からの相談内容>
「出産・育児と仕事の両立」の回答の多さは最近の法改正を反映か
この3年間で目立った職場の組合員からの相談内容を、「その他」も含めた(「ほとんど相談がない」除く)30項目の中から、複数回答方式であげてもらった。
結果は図表1のようになっており、「賃金などの処遇の水準」と「出産・育児と仕事の両立」(それぞれ55%、6組合)の回答割合が最も高かった。「賃金などの処遇の水準」の割合の高さは、近年の積極的な賃上げの流れが反映されており、「出産・育児と仕事の両立」の割合の高さは、育児・介護休業法など最近の法改正の内容が反映されているものと推測できる。
図表1:この3年間で目立った職場の組合員からの相談内容(複数回答)(単位:%)
<2024年n=11、2016年n=15>
「在宅・リモートワークに関すること」「パワーハラスメント」も高い割合
次いで回答割合が高いのは、「労働時間の長さ、残業」「職場の業務改善(効率化、設備・機器の導入等)」「在宅・リモートワークに関すること」「パワーハラスメント」「職場での人間関係(上司、同僚、部下、非正規社員等との関係など)」「定年後の仕事や労働条件、定年後の生活等」だった(45%、5組合)。
このうち、「職場の業務改善(効率化、設備・機器の導入等)」と「在宅・リモートワークに関すること」の割合の高さは、新型コロナ以降のテレワークなどの広がりが反映されているものと思われる。「パワーハラスメント」の高さは、世間での注目度の高まりと、防止措置の義務化に伴う対策の必要性が叫ばれている現在の状況を反映しているものととらえることができる。
3番手グループには、「人事考課や業績評価」「年次有給休暇や休日の取得」「介護と仕事の両立」「自分の健康や病気等に関すること(メンタルヘルスを除く)」「副業・兼業」「会社の経営・事業に関すること」(それぞれ36%、4組合)が入った。
2016年調査では「労働時間の長さ、残業」がトップだった
今回の調査結果を、2016年に行った調査の結果と比べてみることにする。なお、2016年調査では、相談内容については、「この1~2年」での状況を尋ねた点が今回の調査と異なっており、労使協議事項については「過去1年間」について尋ねた点が異なっている点については留意されたい。
比べてみると、まず、2016年調査では、政府における働き方改革に向けた議論の最中であったことを反映して、「労働時間の長さ、残業」(73%)が最も回答割合が高かったが、今回はやや落ち着いた格好。
一方、「賃金などの処遇の水準」(2016年調査33%→今回55%)、「職場での人間関係(上司、同僚、部下、非正規社員等との関係など)」(2016年調査20%→今回45%)、「定年後の仕事や労働条件、定年後の生活等」(2016年調査33%→今回45%)は回答割合が上昇している。
「出産・育児と仕事の両立」「パワーハラスメント」「年次有給休暇や休日の取得」「人事考課や業績評価」は、今回の調査も変わらず比較的高い割合となっている。
自由記述ではコロナ禍以降の働き方についてのコメントが目立った
今回の調査では、最近の相談内容における特徴的な事象などについても、自由記述してもらっている。それらをみると、「コロナ禍を経て、会社が出社率の向上を目指していることにより、テレワーク継続を望む声や出社指示があった時のファシリティ面でも課題についての意見が目立つ」「コロナ明けから本社を中心にテレワーク・在宅勤務に関する相談が増加した」など、コロナ禍以降の働き方についてのコメントが目立った。
このほかには、「高止まりする物価などの影響を受け、可処分所得向上に向けて、組合要求への関心が高まっている」「定年が60歳のため、60歳近傍の組合員からは、自身のライフプランに影響があるために65歳定年制度への問い合わせが増えている」「配偶者の海外赴任に伴う同行休職期間の延長相談」「ジョブ型人材マネジメント導入を受け、割り当てられているジョブと自身の業務に対する認識のギャップについての意見」などの記述がみられた。
<過去3年間で会社との協議等で重要な課題となった項目>
賃金関連の項目の割合の高さは、積極的な賃上げの流れを反映か
過去3年間での会社との協議等において重要な課題となった項目については、全部で62項目の中から、複数回答方式で該当するものを選んでもらった。
結果は図表2のとおりとなっており、「正社員の賃金」「各種手当」「初任給」の回答割合が最も高かった(それぞれ55%、6組合)。協議事項でも、近年の積極的な賃上げの流れや、人手不足と人材獲得競争の激化を背景とした初任給の大幅引き上げの動向が反映される結果となっている。
図表2:過去3年において会社との協議において重要な課題となった項目(複数回答)
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注1:今回調査にしかない項目に網掛け。
注2:健康課題については、2016年調査では「メンタルヘルス」の項目だけだったが、今回調査では「メンタルヘルス」と「メンタルヘルス以外」にした。
注3:「東日本大震災からの復旧や影響」は今回調査では設けていない。
注4:「LGBT」は今回調査では「LGBTQ+」に、「在宅ワーク」は「在宅・リモートワーク」に表記を変更。なお、これ以外でも図表作成にあたって表記を統一しているものもある。
次いで回答割合が高いのは、「新事業への進出や事業撤退など事業の改編」「正社員の採用」「人事処遇制度全体の見直し」「一時金」「企業内最低賃金」「定年制や再雇用制度」(それぞれ45%、5組合)。
3番手は、「実労働時間(長時間労働等)」「60歳以降(または定年以降)の仕事・処遇」(それぞれ36%、4組合)で、4番手グループに「人事評価・業績評価」「非正規社員の賃金・一時金」「在宅・リモートワーク」「副業・兼業」などの10項目(それぞれ27%、3組合)が入った。
2016年調査から「実労働時間(長時間労働等)」の回答割合が低下
相談内容と同様に、協議事項の結果についても2016年調査と比べると、2016年調査でトップにあがった「実労働時間(長時間労働等)」の回答割合は半減(73%→36%)。その一方で、「正社員の賃金」(2016年調査47%→今回55%)、「初任給」(2016年調査20%→今回55%)、各種手当」(2016年調査の27%→55%)は上昇した。
そのほかで2016年調査から変わらず割合が高かった項目は「60歳以降(または定年以降)の仕事・処遇」「新事業への進出や事業撤退など事業の改編」「定年制や再雇用制度」「育児休業」「人事評価・業績評価」などだった。
最も多かったのは人事処遇制度見直しに関する記述
今回の調査では協議事項についても、選択した項目の中から3つを選び、具体的な内容を自由記述してもらった。
最も記述があったのは人事処遇制度の見直しに関してで、「総合職の人事制度を職務等級制度に改正した」「一般職と総合職の間に大きな溝があったが、一般職から総合職への転換を容易にすべく改定を行った」「ジョブ型人材マネジメント導入に先立って行った評価育成制度の実情の確認と処遇制度の見直し」「社員が働きがいややりがいをもてるよう、人事評価を運用していくことが重要であることから、適正な運用にむけた協議を行っている」などの回答があった。
賃金に関する記述では、「基幹職若年層の賃金水準を是正」「会社の重要視する経営指標の変更に伴う賞与・一時金算定式の見直し」「春闘において、昨年、今年でベースアップ(合計2万2,000円UP)+定昇が実現できた」といった回答がみられた。
柔軟な勤務制度を協議する労使も
勤務制度に関しては、「より自由度の高い働き方の実現に向けて、フレックスタイム制勤務の1日あたりの最低労働時間の制限を廃止。ゼロ時間勤務も可能とした」「同業他社に比べ、就業時間が長く、組合員からも要望が大きかったことから、1日15分の所定内労働時間短縮をした」「育児のための短時間勤務の適用範囲(小学校卒業まで)を拡大するよう、会社と協議を行った結果、ハンディキャップがある子や医療ケアの必要な子に対しては18歳まで拡大した」「同業他社と一体となり会社と話し合いの場を設け、組合は所定労働時間を下げたいと主張したが、会社側は総実労働を下げる取り組みをしたいとのことで、折り合いがつかず要求につながらなかった」など、柔軟な働き方の実現に向けての記述内容が目立った。
休暇や休職制度では、「年次有給休暇に対し、育児・介護に関わる従業員が時間単位で取得できるよう、会社と協議を行った結果、2025年4月から時間単位で取得できるようになった」「有給休暇の付与日数増加を申し入れ、入社1年目から全員年間20日付与となった」「男性育休の促進施策と制度改定」などの記述がみられた。
高齢者雇用では定年延長や処遇見直しを協議する単組も
高齢者雇用については、「60歳から65歳に定年延長を行った。同時に定昇が50歳からほぼ横ばいとなっていたのを55歳に引き上げた」「定年後再雇用者の処遇を改定するとともに、現状再雇用の上限である65歳を超えても、本人・職場のニーズに基づき再雇用を延長できる制度改定を実施」「2021年春闘で、組合から、60歳以前者の処遇を変えずに、60歳以降者の水準を引き上げる形での65歳定年を要求したが、企業業績や、定年延長するには人事処遇制度全般を見直す必要があることを理由に実現しなかった」「60歳以降65歳定年までの賃金を改正した(59歳時における年収の80%→60歳以降も継続して100%に)」など、定年の延長と処遇の改善を求めた単組も少なくなかった。
経営や事業に関することでは、「事業の譲渡や新会社の設立などの施策が多く実施されている状況にあり、都度、組合員の職域の確保がなされるよう会社対応を行っている。また、組合員に対し、不利益変更が生じないよう、会社対応にあたっている」との回答が寄せられた。