好天やインバウンド需要で小売が好調だが、コスト増や人手確保に悩む業種も。次期もコスト増が続く見通し

ビジネス・レーバー・モニター定例調査

JILPTが四半期ごとに実施している「ビジネス・レーバー・モニター調査」によると、2023年第4四半期(10~12月期)の業況実績は前期から改善し、「晴れ」の割合が増加した。各モニターから寄せられた判断理由をみると、「晴れ」の業種は好天による客足の増加やインバウンド需要が要因となっている。「うす曇り」「本曇り」の業種からは、コスト増や人手の確保に苦慮する声が寄せられたほか、製造業では中国市場の低迷の影響も受けている。次期(2024年1~3月期)の業況見通しは、今期からそれほど変化がみられない。製造業・非製造業ともにコスト増に悩む声が多いが、小売では暖冬が客足の増加につながっている。

調査の趣旨

JILPTでは、企業および業界団体のモニターに対し、四半期ごとに業況の実績と次期の見通しを「快晴」「晴れ」「うす曇り」「本曇り」「雨」の5段階で聞き、企業モニターの回答の平均と業界団体の回答をさらに平均する(端数は四捨五入)ことで各業種の最終的な判断を算出している。そのため、個々の企業、業界団体の業況評価と必ずしも一致しない。

今回は2023年第4四半期(10~12月期)の業況実績と2024年第1四半期(1~3月期)の業況見通しについて調査した。回答は企業と業界団体の計53組織、43業種から得た。

各企業・団体モニターの現在の業況

「晴れ」の回答が増加

第4四半期の業況は、回答があった43業種中、「快晴」がゼロ、「晴れ」が11(業種全体に占める割合は25.6%)、「うす曇り」が18(同41.9%)、「本曇り」が11(同25.6%)、「雨」が3(同7.0%)()。前回調査の2023年第3四半期と比較すると、「晴れ」が2業種増え、「本曇り」が2業種減るなど、全体としては改善している。

製造業・非製造業別の傾向をみると、「晴れ」は製造業が5業種で非製造業が6業種、「うす曇り」は製造業が9業種で非製造業は9業種となっている。これに対し「本曇り」と「雨」の合計は製造業が5業種、非製造業が9業種となっている。

表:前期及び今期の業況実績と業況見通しの概要
画像:図表1
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図:調査開始以来の業況調査結果の推移
画像:図1
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現在の業況の判断理由

パン・菓子は価格改定幅の抑制が売上にプラス

今回、「晴れ」と評価した業界は【コンビニ】【パン・菓子】【百貨店】【食品】【自動車】【紙パルプ】【金型】【情報サービス】【鉄道】【商社】【警備】の11業種。

【コンビニ】は、今期は好天に恵まれたことから、秋の行楽、年末のイベントや帰省等での人流活性化により、弁当、調理パン、カウンター食材やドリンク、アイスクリーム等が好調で、売上は前年を上回った。

【パン・菓子】では業界団体モニターが、「価格改定が取引先や消費者の理解の下で総じて受け入れられた」ことや、「輸入小麦の政府売渡価格の一連の緩和措置により、多くの製品で価格改定幅を抑えることができた」ことを理由に「晴れ」と判断。企業モニターも、「多くの食品価格が値上げになるなか、当社および当社業界が取り扱う商品は小幅な値上げにとどまったため、当社に限らず全体的に売上が好調」なことから「晴れ」とした。

百貨店はインバウンド需要もあり売上増に

【百貨店】はインバウンド需要もあり、営業利益・経常利益は第3四半期としては過去最高を記録した。首都圏の旗艦店舗だけでなく、札幌や名古屋など主要都市の店舗でも売上が伸びている。

【食品】の業界団体モニターは、11月のチェーンストア・百貨店・コンビニエンスストアの食料品販売金額(既存店ベース)がいずれも前年比プラスであることから、「売上の伸びは継続している」とみて「晴れ」とした。「日銀短観」(12月調査)での食品製造業の景況判断DIも、大企業が17(前回調査比プラス1)、中堅企業が6(同変化なし)、中小企業が6(同プラス3)と改善傾向が続いている。企業モニターも、原材料高の影響を一部受けたものの「高付加価値型商品の売上拡大効果により、売上総利益は前年同期を上回った」ことから「晴れ」と判断した。

【自動車】は営業面の努力のほか、原価改善で収益構造が改善している。

電機は半導体の設備投資減少や原材料・人件費の高騰に苦しむ

「うす曇り」と判断した18業種については、価格転嫁が進んでいるものの、中国市場の低迷がマイナス要因とする声が製造業から寄せられた。

【電機】の業界団体モニターは、重電機器について「一般産業向け汎用機器は、電子部品や半導体などの設備投資減少の影響が現れ、輸出、国内出荷ともに下回った」としたほか、「受注生産品は、電力・産業向け電気設備の変圧器、開閉制御装置等は前年同期を上回ったが、発電用原動機のガスタービンが前年同期を大幅に下回った」としている。また、白物家電機器は「物価高騰による消費者の節約志向が強まり、大型家電を中心とした耐久消費財の出荷にも影響した」ものの、「製品単価の上昇により、出荷金額は前年同期と同水準となった」とする。こうしたことから、全体では「うす曇り」とした。

企業モニターは、A社が大口のシステム事業の更新案件の対応等により前年比で増収増益となり「晴れ」と判断。B社も売上増を理由に「晴れ」とした。一方、C社は価格改定や自動車・航空機の市場回復がプラス要因となったものの、原料費や人件費の高騰のほか、中国市場の低迷がマイナス要因となったことから「うす曇り」とした。

【建設】の企業モニターA社は、国内建設事業については、施工中工事が順調に進捗したことから売上・利益ともに堅調に推移。一方で海外事業は、米国や欧州を中心とした金利上昇やインフレの影響により、開発事業の利益率が前年同期比で低下しており、判断は「うす曇り」とした。B社も「堅調ではあったが、上積みするまでには至らない状況」であることから「うす曇り」とした。

【繊維】の業界団体モニターによると、会員企業では価格転嫁が行われていることもあって「各社の売上はおおむね回復傾向にある」ものの、「依然としてエネルギー、原材料費、輸入品のコスト上昇などが収益の圧迫要因」となっており、業績は厳しい状況にある。

非鉄金属は円安がプラスに作用するもエネルギーコストは依然として高水準

【非鉄金属】の業界団体モニターは、当期の市況について「円安のメリットを享受したものの、特に中国経済の先行き不透明感を背景に、銅、鉛、亜鉛等の金属価格は比較的弱含みの水準で推移した」と報告。エネルギーコストは依然として高水準で推移しており、上流・中流分野の事業環境は総体として厳しい環境が継続した。下流分野においても、一部素材では需要が依然旺盛なものもあるが、電子材料向けは関連市場の回復が想定よりも遅れていることから、在庫調整の影響を受けて販売量は低調な状況にあることを報告。企業モニターも「グループ全体では増益だが、市場回復の遅れなどにより依然として減益となっている部門がある」として、ともに判断を「うす曇り」とした。

【その他】では、求人情報の業界団体が「コロナ禍の影響は収束しつつあり、求人自体は戻りつつある」ものの、事業者側の採用疲れ、応募数減少などの影響が出ている。また、通常の求人メディアへの掲載のみでなく、人材紹介やスポットワークでの募集などに切り替えている事業者も出てきているという。

【ホテル】は宿泊・宴会共に予算比110%超えとなったが、レストランは予算比100%を辛うじて上回る状況で客足がまだ戻り切っていない。

このほかに「うす曇り」と判断した業種は、【化繊】【印刷】【石油精製】【石膏】【金属製品】【工作機械】【港湾運輸】【水産】【自動車販売】【ガソリンスタンド】【ホームセンター】【職業紹介】だった。

事業所給食は最賃の引き上げが打撃に

「本曇り」と判断した11業種は【事業所給食】【ゴム】【木材】【硝子】【造船・重機】【電力】【道路貨物】【葬祭】【シルバー産業】【請負】【中小企業団体】。

判断理由についてみていくと、【事業所給食】の業界団体モニターは、会員企業の具体的な声として「パートタイマーの労働者比率が約60%で、最低賃金の上昇に伴う事業全体の人件費・諸経費の上昇があまりにも大きい」「人材不足に加え、最低賃金上昇の影響が大きい」などがあるという。

【ゴム】の業界団体モニターが中小企業会員に実施した景況調査では、当期の業況判断は若干プラスで、経常利益も前期から改善しているものの、会員企業からの具体的な声では、「円安分の価格転嫁が困難」「新卒・中途採用とも希望に合った社員の確保が厳しくなっている」「離職者が増加している」といった意見があるという。

【木材】は木造住宅の新築住宅着工戸数が伸び悩んでいることから、合板の受注が停滞している。

セメントは製造コストの高止まりが続く

「雨」と判断した業界は【セメント】【出版】【専修学校等】の3業種。

【セメント】は当期のセメント国内需要が前年同期比93.2%で、17四半期連続でマイナスとなった。輸出は同91.7%で7四半期連続のマイナス。ロシアによるウクライナ侵攻を契機に輸入石炭の価格が高騰し、製造コストの高止まりが続いている。生産も同92.6%で7四半期連続のマイナスとなった。

【出版】は売上の減少を、【専修学校等】は学生数の停滞を理由にあげている。

次期(2024年1~3月)の業況見通し

次期(2024年1~3月)の業況見通しについては、43業種のうち「快晴」とする業種はゼロ、「晴れ」が10業種(業種全体に占める割合は23.3%)、「うす曇り」が20業種(同46.5%)、「本曇り」が10業種(同23.3%)、「雨」が3業種(同7.0%)となっている。

造船・重機は海外・国内ともに堅調

今回、業況の好転を予想したのは【造船・重機】【請負】【硝子】【シルバー産業】の4業種で、いずれも今期の「本曇り」から「うす曇り」に引き上げた。

【造船・重機】は理由として、海外では、米国が良好な雇用情勢や所得環境により個人消費を中心に堅調さを維持していることを指摘。国内でも個人消費やインバウンド需要に加え、好調な企業収益、それに伴う設備投資などにより景気回復が続いているとしている。【請負】は主力の紹介事業、BPO事業が伸びる見込み。

パン・菓子は物流の2024年問題による配送コスト上昇を指摘

一方、悪化を予想したのは【パン・菓子】【自動車販売】【印刷】【水産】の4業種。【パン・菓子】は今期の「晴れ」から「うす曇り」に引き下げ、【印刷】【水産】【自動車販売】は今期の「うす曇り」から「本曇り」に引き下げた。

【パン・菓子】では、業界団体モニターが「輸入小麦の相場は落ち着いている」としつつも、「円安等による諸原料・エネルギーコストの上昇、物流2024年問題に対応した配送コストの上昇、人手不足等に対応した人件費の上昇が継続し、今後の経営環境や販売動向は不透明な状況が続いている」とする。企業モニターは、材料価格が高止まっているとしたうえで、「売上が少しずつ減少傾向にある」と報告した。

【自動車販売】は、仕入価格の高騰や固定費の上昇が今期よりもさらに顕著になっているほか、販売台数は計画の70~80%で推移する見込み。販売単価の上昇である程度の収益確保は見込めるものの、経常利益は「計画から大きく乖離する」と予想している。

【印刷】は「中小企業が多い印刷業界においては、労務費の値上がりが価格転嫁になかなか結びついていない」という。

コンビニは暖冬による人流活発化が売上につながる

今期の判断を継続した業種をみると、【コンビニ】(晴れ→晴れ)は、1月は比較的に天候が良かったことから、人流が活発となり売上につながった。2月以降も温暖な傾向にあることから、「外出の機会が増えれば消費につながる」とみている。

【ホームセンター】(うす曇り→うす曇り)は、能登半島地震の影響から震災関連用品や防災関連用品の売上が伸びるとみている。また、1月は暖かい日が続いたことから、暖房用品をはじめとする冬物商品を中心に伸び悩んだものの、ペット用品が好調となっている。

【港湾運輸】(うす曇り→うす曇り)は、パナマ運河での渇水の問題が3月頃まで続くと予想している。また、紅海周辺での商船への攻撃リスクを回避するため、スエズ運河・紅海を迂回して喜望峰経由となることによる燃料費・船舶利用料の上昇から「輸送効率の低下は継続する」とみている。