インターンシップの工夫で新卒確保に取り組む企業も。業界は産業の魅力発信やイメージ向上に努力
 ――【特別調査】企業・業界団体に聞く近年の採用活動の状況と人材確保に向けた取り組み

ビジネス・レーバー・モニター特別調査

コロナ禍の収束で経済活動が活発化するなかで、人手の確保に苦しむ企業が増えている。JILPTが年4回実施している企業・業界団体モニター調査では、2月調査での特別調査項目として、近年の採用活動の実績、課題、人材確保に向けた取り組みを尋ねた。回答内容をみると、新卒者の採用では初期配属の確約やコース別の採用のほか、インターンシップの充実などの工夫をしている。一方、新卒者を十分に確保できないなかで、リファラル(社員紹介)採用やアルムナイネットワークの活用による中途人材の採用に取り組む動きもみられた。業界団体は、就職が間近に迫った大学生だけでなく、小中学生を対象にしたイベントも開催することで業界の魅力発信やイメージ向上に努めている。調査は企業モニター16社、業界団体モニター16組織から回答を得た。

新卒者の確保の状況は業種・職種によってバラツキが――企業の動向

はじめに新卒者の採用状況をみると、苦戦を強いられている企業がある一方で、計画通りの人員を確保している企業もあり、状況にはバラツキがみられる。

パン・菓子や石膏は製造現場の人材確保に苦戦

【パン・菓子】は、大卒は採用目標数をクリアしているものの、生産職である高卒は「目標の40%」にとどまるなど、高卒人材の確保に苦慮している。

【石膏】のモニターによると、「メーカーの製造現場は体力的にも大変で、また夜勤もあるため、日本人の若年者の雇用は極めて困難」という。そのため、近年の採用実績は低調な状況。結果として社員の高齢化が進んでいる。

【ガソリンスタンド】は2024年入社の新卒採用を例年と同様のスキームで実施したが、明らかに実績が下がったため、「今後の活動に変化を持たせないといけない」と認識している。【非鉄金属】は、ここ数年は計画未達が続いている。

建設は同業他社との競争が激化

同業でも新卒者の採用については、企業によって状況が異なる。

【建設】のA社の新卒採用は技術系が中心だが、学校での専攻が限定されるため、「同業他社との人材獲得競争が激化」しており、計画未達の状況が続いている。そのため、以前はイレギュラーだった中途採用が常態化してきているものの、「必要人材の確保が十分とは言えない状況」にあるという。

【建設】のB社も、施工管理を志す建築系の学生の減少が目立っており、「同業他社との獲得競争が激化している」との認識は同じ。また、機械・電気系を専攻する学生は他の業界からも引き合いが多く、その点からも人材確保に苦戦している。ただし採用計画数は「おおむね達成する見込み」で、この点はA社と状況が異なる。

造船・重機はインターンシップの充実や社員との交流で理系人材を確保

新卒者を計画通りに確保できている企業からは、そのための取り組みもあわせて報告された。

【造船・重機】は優秀な理系人材を獲得するために、インターンシップの内容充実や、リクルーター社員との交流の拡充につとめている。こうした取り組みもあり、近年は計画通りの人員を確保している。

【ホテル】は計画通りの人員を確保できているものの、春夏の採用だけでは十分ではないため秋にも追加募集をかけている。結果として新卒採用が通年化してきており、「採用チーム人数の増員や採用スケジュールの見直しなどを図っていく必要性を感じている」。

【百貨店】と【食品】も採用計画通りの人員を確保できていることを報告した。

電機では初期配属の確約やインターンシップ時の工夫も

新卒採用のための特徴的な取り組みとしては、製造業において、入社前から配属先を決める動きなどがみられた。

【電機】のA社は、新卒全ポストの初期配属を確約している。【電機】のB社はインターンシップにおいてジョブ・ディスクリプションをあらかじめ明示することで、長期間かつ実務経験型の内容としている。

【自動車】は採用時点から配属コースを決めることで、情報系の人材など、職場の特色にマッチした多様な人材の採用を促進している。

OB・OGに「再入社」のキャリアを提示

新卒者の確保が難しいなかで、OB・OGとのつながりであるアルムナイネットワークや、リファラル採用といった手段で中途人材の確保に取り組む動きもある。

【電機】のB社は、アルムナイネットワークを2023年に導入した。即戦力人材の採用チャネルの拡充や、幅広い経験や高い専門性を持つ人材とのネットワークづくりを進めるとともに、退職者に「再入社」というキャリアの選択肢を提示することも目的としている。

【自動車】もアルムナイネットワークやリファラル採用を推進。「異業種も含めた採用競争の激化、生産年齢人口・高卒就職者数の減少といった採用環境の厳しさは増しており、引き続き多様な人材の採用を積極的に進める」という。

新卒採用に苦しむ【非鉄金属】は、スカウティングを中心とした経験者採用や、リファラル採用を強化。一方、既存社員への配慮から、中途は契約社員としての採用にとどめている【ホテル】は、そのことが「中途採用者の人数が伸びない要因の一つになっている」とみている。

奨学金を支給、寄付講座の開講も――業界団体の動向

業界団体における、就職先として選択されるための業界の魅力発信の取り組みをみると、就職が間近に迫っている大学生へのアプローチなどが報告された。

【非鉄金属】は、関係団体である一般財団法人から貸与型の奨学金を支給している。あわせて、金属鉱業に対する調査・研究への助成金支給も行っている。

【コンビニ】は大学との産学連携により、日本初の「フランチャイズビジネス論」を寄付講座として開講。【セメント】も大学生向けの出前授業を実施している。

実験教室や工場見学で子どもにもアプローチ

業界団体による魅力発信は、将来を見据えた小中学生も対象としている。

業界の認知度の低さに問題意識をもつ【非鉄金属】は、若年層の関心を高めることを目的に、科学技術館(東京都)に小中学生を対象とした展示ブースを開設しているほか、大学や地方自治体での科学イベントで実験教室や鉱石の展示を行っている。

【セメント】は親子向けの工場見学会や、科学技術館でのセメントやコンクリートの実験教室を開催している。

鉄道はSNSで業界のファンを開拓

【鉄道】は将来の就職につなげるべく、広報誌やSNSを活用して業界や各鉄道会社のイベントなどを紹介することで、鉄道業界のファン作りを進めている。また、働きやすい業界となるよう、他業界の先進的な人事制度事例を加盟企業に紹介する講演を開催している。

さらに、現職者の就業継続にも取り組んでいる。配偶者の転勤を含むライフイベントにより、勤務場所の都合で就労継続が困難になる社員を鉄道各社が相互に受け入れるスキーム「民鉄キャリアトレイン」を2018年から導入。従来は、スキームに参加する各社の間で調整を行っていたが、2024年からは業界団体が各社をつないで調整するかたちにしている。これにより、従来はスキームに参加できなかった会社も参加が可能となり、今後は様々な地域への転勤でスキームの利用が見込まれる。

そのほか、【電力】【道路貨物】【港湾運輸】は業界をPRする動画を配信している。